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31.文房具屋
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ミリアムはパンからおつかいを頼まれた。
その内容は、エトランジェの街を歩いて色々な物を買ってくるというもの。
これまであまりこういった依頼をされることはなかった。そのためミリアムは驚いた。が、断りはしない。私にできることがあるなら、と、ミリアムはその依頼を受けた。
ロゼットと出会ってからというもの、色々ありすぎてまともに活躍できなかった。むしろロゼットの方が活躍していたくらいだ。
ミリアムは「だからこそ役に立ちたい」と思いつつ、おつかいに行く。
購入する物が書かれたメモを受け取って、まずは施設から出る。幸い、今朝のように嫌な会話を聞いてしまうことはなかった。おかげでスムーズに外へ出ることができた。
中途半端な天気だ。快晴でも雨降りでもない。
一度深呼吸をして外の空気を味わってから、ミリアムは歩き出す。
パンから受け取った買い物メモには、店名とその大まかな場所も記入されていた。それを見てミリアムは「もしかしたら私のために用意してくれていたのでは?」と考える。
誰に頼むでも良いのなら、もっとエトランジェに詳しい人に頼めば良かったはず。そうすれば、わざわざ店と場所を書かずとも、スムーズに進んだはずだ。効率重視ならミリアムに頼む必要なんて欠片もない。
「……気を遣ってくれたのかしら」
ミリアムはつい独り言を漏らしてしまった。
それから数秒して、ミリアムは歩き出す。施設から一番近い店を目指して。
◆
ミリアムが最初に入店することにしたのは、施設から徒歩数分で到着できるところにある文房具屋。
ガラス戸をスライドさせるとすぐに店内に入ることができる。
昔ながらの、という表現が似合う、個人営業の店。広くはないが、敷地を有効活用するように様々な種類の文房具が置かれている。筆記具、ノート、事務用品、と、文房具なら何でも用意されている。また、ジャンルの幅も広く、シンプルなものから可愛らしいものまで用意されている。
「えっ」
ミリアムが店内に入った瞬間、ビービーと棘のある警告音が響いた。
鼓膜を貫くような音。
驚いたミリアムは、耳を押さえつつ周囲を見回す。何が起こったのか理解できなくて。
「あぁ、ミリアムさーん! ごめんなさーい!」
一歩踏み込んだところで警告音に見舞われ動揺していたところに、一人の女性が現れた。
五十代くらいに見える黒髪の女の人。
「何か問題が……?」
「それねぇ、能力者が入ったら鳴るようになっているのよー」
ミリアムは、ふと横を見て、扉のすぐ横に謎の機械が置かれていることに気づいた。
一メートルと少しくらいの高さのタワーのような物体。色は灰色で、無機質な雰囲気の置物だ。
「私が何かやらかしたわけではないということですか?」
「そうなのよー。だから気にしないで。ミリアムさんは悪くないのー」
「よ、良かった……」
その頃になって、ミリアムはようやく安堵することができた。
私は一体何をやらかしてしまったの!?という動揺から、逃れられたようだ。
「はいはい、これをこうしてー、はい! いらっしゃいませー」
女性はこの店の店主だ。そのネズミに似た顔を、ミリアムは以前も目にしたことがある。それは、この街に来てまだ日が浅い頃の記憶。その時も、今と同じように温かく迎え入れてくれた。ただし、その時はパンも一緒だったのだが。
「ありがとう」
「ミリアムさん、珍しいわねぇ」
「おつかいで来たんです」
「えっ!? おつかい!?」
女性は驚いた顔をする。
おつかいくらいでそんなに驚かなくても、と思うミリアム。
「そうなんです。パンさんに頼まれて。えっと、確か……赤ペン二本、パステルカラーマーカーのブルーを一本、それと……そう、ノートだわ。ノートは手のひらサイズのものを二冊」
ミリアムは、ポケットに入れていた買い物メモを取り出し、それを淡々と読み上げる。
「それは、パンさんがいっつも買ってくれる顔触れねぇ」
「……そうなんですか?」
「そうそう! もう五年くらい定期的に買いに来てくれているのー」
「へぇ。それは凄いですね」
店主の女性はミリアムのことを可愛がってくれている。それは、ミリアムがこの街に来てまもない頃からずっとだ。ただ、彼女がミリアムを可愛がる理由にさえ能力者との確執があるということを、ミリアムは知っている。それゆえ、親切にしてもらえばしてもらうほどに複雑な心境になってしまう。
「待っててくれる? いつもの出してくるから」
「あ、はい」
女性にはかつて二つ年上の夫がいた。そして二人の娘も。非能力者だけで構成された家族だったが、幸せな家庭だったという。しかし、ある時、外で遊んでいた次女が能力者の調査員を怒らせてしまった。その際に次女を庇って長女が落命してしまい、その出来事が、家族の運命を百八十度反転させることとなってしまったそうだ。
突如として姉を失った次女は幼いながらにショックを受けたようで、天真爛漫さを喪失。心に傷を負い、自傷行為を繰り返すようになってしまう。それはみるみるうちにエスカレートし、ついに命を失うこととなってしまった。
それによって、今度は夫が精神にダメージを負うこととなる。
可愛い娘たちの命を守れなかったこと悔い、彼は体調を崩す。それまでは熱心だった文房具屋の仕事にも手をつけられなくなり、そのうちに命に関わる病を発症してしまい、数年の療養生活の末に亡くなった。
それはパンが教えてくれた話である。
結局、彼女は一人ぼっちになっており、この店の営業も彼女だけで行っているそうだ。それゆえ、彼女がもし高齢になり仕事を辞めることを決めたなら、この文房具屋はなくなってしまう。それが定めだ。
ミリアムとしては、閉店してほしくないのだが。
「お待たせー! これで良いかな?」
「大丈夫です」
「良かったぁ。じゃ、会計してくるわねぇ」
「よろしくお願いします」
その内容は、エトランジェの街を歩いて色々な物を買ってくるというもの。
これまであまりこういった依頼をされることはなかった。そのためミリアムは驚いた。が、断りはしない。私にできることがあるなら、と、ミリアムはその依頼を受けた。
ロゼットと出会ってからというもの、色々ありすぎてまともに活躍できなかった。むしろロゼットの方が活躍していたくらいだ。
ミリアムは「だからこそ役に立ちたい」と思いつつ、おつかいに行く。
購入する物が書かれたメモを受け取って、まずは施設から出る。幸い、今朝のように嫌な会話を聞いてしまうことはなかった。おかげでスムーズに外へ出ることができた。
中途半端な天気だ。快晴でも雨降りでもない。
一度深呼吸をして外の空気を味わってから、ミリアムは歩き出す。
パンから受け取った買い物メモには、店名とその大まかな場所も記入されていた。それを見てミリアムは「もしかしたら私のために用意してくれていたのでは?」と考える。
誰に頼むでも良いのなら、もっとエトランジェに詳しい人に頼めば良かったはず。そうすれば、わざわざ店と場所を書かずとも、スムーズに進んだはずだ。効率重視ならミリアムに頼む必要なんて欠片もない。
「……気を遣ってくれたのかしら」
ミリアムはつい独り言を漏らしてしまった。
それから数秒して、ミリアムは歩き出す。施設から一番近い店を目指して。
◆
ミリアムが最初に入店することにしたのは、施設から徒歩数分で到着できるところにある文房具屋。
ガラス戸をスライドさせるとすぐに店内に入ることができる。
昔ながらの、という表現が似合う、個人営業の店。広くはないが、敷地を有効活用するように様々な種類の文房具が置かれている。筆記具、ノート、事務用品、と、文房具なら何でも用意されている。また、ジャンルの幅も広く、シンプルなものから可愛らしいものまで用意されている。
「えっ」
ミリアムが店内に入った瞬間、ビービーと棘のある警告音が響いた。
鼓膜を貫くような音。
驚いたミリアムは、耳を押さえつつ周囲を見回す。何が起こったのか理解できなくて。
「あぁ、ミリアムさーん! ごめんなさーい!」
一歩踏み込んだところで警告音に見舞われ動揺していたところに、一人の女性が現れた。
五十代くらいに見える黒髪の女の人。
「何か問題が……?」
「それねぇ、能力者が入ったら鳴るようになっているのよー」
ミリアムは、ふと横を見て、扉のすぐ横に謎の機械が置かれていることに気づいた。
一メートルと少しくらいの高さのタワーのような物体。色は灰色で、無機質な雰囲気の置物だ。
「私が何かやらかしたわけではないということですか?」
「そうなのよー。だから気にしないで。ミリアムさんは悪くないのー」
「よ、良かった……」
その頃になって、ミリアムはようやく安堵することができた。
私は一体何をやらかしてしまったの!?という動揺から、逃れられたようだ。
「はいはい、これをこうしてー、はい! いらっしゃいませー」
女性はこの店の店主だ。そのネズミに似た顔を、ミリアムは以前も目にしたことがある。それは、この街に来てまだ日が浅い頃の記憶。その時も、今と同じように温かく迎え入れてくれた。ただし、その時はパンも一緒だったのだが。
「ありがとう」
「ミリアムさん、珍しいわねぇ」
「おつかいで来たんです」
「えっ!? おつかい!?」
女性は驚いた顔をする。
おつかいくらいでそんなに驚かなくても、と思うミリアム。
「そうなんです。パンさんに頼まれて。えっと、確か……赤ペン二本、パステルカラーマーカーのブルーを一本、それと……そう、ノートだわ。ノートは手のひらサイズのものを二冊」
ミリアムは、ポケットに入れていた買い物メモを取り出し、それを淡々と読み上げる。
「それは、パンさんがいっつも買ってくれる顔触れねぇ」
「……そうなんですか?」
「そうそう! もう五年くらい定期的に買いに来てくれているのー」
「へぇ。それは凄いですね」
店主の女性はミリアムのことを可愛がってくれている。それは、ミリアムがこの街に来てまもない頃からずっとだ。ただ、彼女がミリアムを可愛がる理由にさえ能力者との確執があるということを、ミリアムは知っている。それゆえ、親切にしてもらえばしてもらうほどに複雑な心境になってしまう。
「待っててくれる? いつもの出してくるから」
「あ、はい」
女性にはかつて二つ年上の夫がいた。そして二人の娘も。非能力者だけで構成された家族だったが、幸せな家庭だったという。しかし、ある時、外で遊んでいた次女が能力者の調査員を怒らせてしまった。その際に次女を庇って長女が落命してしまい、その出来事が、家族の運命を百八十度反転させることとなってしまったそうだ。
突如として姉を失った次女は幼いながらにショックを受けたようで、天真爛漫さを喪失。心に傷を負い、自傷行為を繰り返すようになってしまう。それはみるみるうちにエスカレートし、ついに命を失うこととなってしまった。
それによって、今度は夫が精神にダメージを負うこととなる。
可愛い娘たちの命を守れなかったこと悔い、彼は体調を崩す。それまでは熱心だった文房具屋の仕事にも手をつけられなくなり、そのうちに命に関わる病を発症してしまい、数年の療養生活の末に亡くなった。
それはパンが教えてくれた話である。
結局、彼女は一人ぼっちになっており、この店の営業も彼女だけで行っているそうだ。それゆえ、彼女がもし高齢になり仕事を辞めることを決めたなら、この文房具屋はなくなってしまう。それが定めだ。
ミリアムとしては、閉店してほしくないのだが。
「お待たせー! これで良いかな?」
「大丈夫です」
「良かったぁ。じゃ、会計してくるわねぇ」
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