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32.遭遇
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文房具屋での買い物は終わった。
店主の女性が素早く進めてくれたので、苦労することなく買い物ができた。
しかし、今回のおつかいはこれで終わりではない。否、それどころか、ここからが本番という感じだ。これから行く店の中には行ったことのない店も含まれている。本当に緊張するのはこれからだ。
「一本分南に渡って、右手側に……」
次の目的地は下着店。三階建てのビルの一階に入っている店らしい。そこで数種類の下着を購入するのが、ミリアムの次の仕事だ。
曖昧な天気の街を、ミリアムは歩く。
歩くこと数分。目的の店に到着することができた。そこは健全な下着店であり、女物だけでなく男物も売っているような店。そのため、ミリアムは迷いなく入店することができた。
店内には、店員三人ほどと客と思われる人物数名がいた。
各々好きなところを好きなように歩いている。
敷地の一番奥の辺りがおしゃれな女物下着のコーナーになっているようで、そこ以外には素朴な肌着しか売られていない。
メモに書かれている購入するべき商品は、シャツやパンツ、靴下など。
ミリアムはそういった物を買うことに慣れていないので、メモに書かれている品をどうやって見つければ良いのか分からず戸惑う。
そんな時、一人の女性店員が躊躇わず声をかけてくれた。
「何かお探しですか?」
声をかけてくれた店員が、今のミリアムには救世主に見えた。
「えぇ。こういう商品を頼まれて買いに来たのだけど……」
「指定の物があるのですね! ふむふむ、こちらですか」
「そうなの。置いているみたいなのだけど、本当にあるのかしら」
「もし良ければ案内致しますよ!」
「本当に? 助かるわ。困っていたの、ありがとう……!」
こつこつ探せば良い。任せるなんて怠惰なだけ。そう言われても良い、それでも店員に頼みたい。それが今のミリアムの気持ちだ。
「これで全部集まったわ。ありがとう」
「いえいえ」
店内には色々な商品があり、目当ての物を見つけ出すのは簡単なことではなかった。が、店員にも協力してもらって、無事指定されていた物を見つけることができた。
「じゃあ会計を頼むわね。お願いします」
「はい!」
レジ打ちを頼んでいる間、ミリアムは特に何も考えずに周囲の様子を見つめた。
ここにいるのは、店員も客も、ほとんどが非能力者なのだろう。けれど、彼ら彼女らは、それなりに穏やかな暮らしをしているようだ。警戒心を抱いている様子でもないし、普通に過ごしている。
それを見て、改めて「この平穏を守ろう」と心を固める。
「代金はこちらになります」
店員がレジに値段を映し出しつつ述べた。
打ち込みは終了したようだ。
「素早いわね。ありがとう」
ミリアムはパンから預かってきていたおつかい用の財布を取り出し、その口を開く。それから、提示された金額に近い分の貨幣を取り出し、店員に渡す。
「いえ。このくらいは普通ですよ」
「私から見れば凄いわ。なんというか……器用だなって、思って」
「慣れれば大丈夫ですよー」
「そうなの。やはり、何事も慣れが大事なのかしら」
ミリアムは下着の買い物を終えた。
扉を開け、外へ出ようとして——何者かにぶつかられる。
「っ……!?」
一瞬身構えたミリアムだったが、すぐに警戒するほどのことが起きたわけではないのだと気づく。というのも、ぶつかった相手がまだ小さい子どもであることに気がついたのだ。六歳か七歳くらいと思われる女の子だった。
「すみませんっ」
道の向こうから駆けてくる女性。彼女はどうやら、ミリアムとぶつかった女の子の母親らしい。
「あ……い、いえ」
女の子とぶつかって戸惑っている時に母親と思われる人物が声をかけてきたものだから、ミリアムはそんな曖昧な言葉しか返せない。
「ごめんなさい。お怪我は?」
「平気です」
「本当ですか? 良かった……。うちの子が当たってしまってすみません」
「いえ。私も注意不足でした」
ミリアムにぶつかった女の子は、ミリアムのスカートの裾を片手で掴んだ。何事かと思い、ミリアムは彼女に視線を下ろす。すると女の子は、目をぱちぱちさせながら「当たってごめんね」と言ってきた。そのたまらなく甘い声に、ミリアムは心を揺らされる。
「いいの。いいのよ、気にしないで」
その場にしゃがみ込み、女の子に顔を近づけてミリアムは言葉を放つ。
「怒ってなぁい?」
「えぇ、怒ってなんてないわ。お互い様よ」
「ありがとう!」
女の子の無邪気さにミリアムはほっこりする。
こんな温かい気持ちになれるのはいつ以来だろう、なんて思ってしまうくらいだ。
「すみませんでした」
「いえ」
改めて謝罪してきた母親と思われる女性に頭を下げ返し、ミリアムは母娘と別れる。
さりげなく心が温まる出来事だった。
母娘と別れ、ミリアムは次の目的地へと向かう。
おつかいはまだ終わらない。
「パン屋パンパンのクリームパン、パン屋ロロールパンパンのアンパン、パン屋カルークノバースのロールパン……はぁ、どうしてこんなにパンが多いのかしら」
施設には、家を持たず建物の中で暮らしている者もいる。それゆえ、施設でそこそこな量の食料が必要であることは、ミリアムにだって分からないことではない。
疑問なのは、購入する食料がなぜこうもパンに偏っているのかである。
パン以外の食べ物は別の経路で入手しているのか、それともなにか別の理由があるのか——無論、それはそこまで重大なことではないが。
「でも、行かなくっちゃ」
ミリアムは改めて気合いを入れ、前を向く。
頼みを受けたのは自分。今さら逃げ出すことはできないし、自分がそれを許さない。そんな中途半端な行動を許せる自分ではない。
そんな風に考え、ミリアムはすべての任務を達成できるように進める。
空にはいくつも小さな雲が浮かんでいた。雨を降らせるような重苦しい色の雲ではなく、軽やかな雰囲気を漂わせる白色の雲。おもちゃを散らかしたみたいな空模様。
そんな空の下を、ミリアムは歩く。
次なる目的地へ到着することを目指して。
店主の女性が素早く進めてくれたので、苦労することなく買い物ができた。
しかし、今回のおつかいはこれで終わりではない。否、それどころか、ここからが本番という感じだ。これから行く店の中には行ったことのない店も含まれている。本当に緊張するのはこれからだ。
「一本分南に渡って、右手側に……」
次の目的地は下着店。三階建てのビルの一階に入っている店らしい。そこで数種類の下着を購入するのが、ミリアムの次の仕事だ。
曖昧な天気の街を、ミリアムは歩く。
歩くこと数分。目的の店に到着することができた。そこは健全な下着店であり、女物だけでなく男物も売っているような店。そのため、ミリアムは迷いなく入店することができた。
店内には、店員三人ほどと客と思われる人物数名がいた。
各々好きなところを好きなように歩いている。
敷地の一番奥の辺りがおしゃれな女物下着のコーナーになっているようで、そこ以外には素朴な肌着しか売られていない。
メモに書かれている購入するべき商品は、シャツやパンツ、靴下など。
ミリアムはそういった物を買うことに慣れていないので、メモに書かれている品をどうやって見つければ良いのか分からず戸惑う。
そんな時、一人の女性店員が躊躇わず声をかけてくれた。
「何かお探しですか?」
声をかけてくれた店員が、今のミリアムには救世主に見えた。
「えぇ。こういう商品を頼まれて買いに来たのだけど……」
「指定の物があるのですね! ふむふむ、こちらですか」
「そうなの。置いているみたいなのだけど、本当にあるのかしら」
「もし良ければ案内致しますよ!」
「本当に? 助かるわ。困っていたの、ありがとう……!」
こつこつ探せば良い。任せるなんて怠惰なだけ。そう言われても良い、それでも店員に頼みたい。それが今のミリアムの気持ちだ。
「これで全部集まったわ。ありがとう」
「いえいえ」
店内には色々な商品があり、目当ての物を見つけ出すのは簡単なことではなかった。が、店員にも協力してもらって、無事指定されていた物を見つけることができた。
「じゃあ会計を頼むわね。お願いします」
「はい!」
レジ打ちを頼んでいる間、ミリアムは特に何も考えずに周囲の様子を見つめた。
ここにいるのは、店員も客も、ほとんどが非能力者なのだろう。けれど、彼ら彼女らは、それなりに穏やかな暮らしをしているようだ。警戒心を抱いている様子でもないし、普通に過ごしている。
それを見て、改めて「この平穏を守ろう」と心を固める。
「代金はこちらになります」
店員がレジに値段を映し出しつつ述べた。
打ち込みは終了したようだ。
「素早いわね。ありがとう」
ミリアムはパンから預かってきていたおつかい用の財布を取り出し、その口を開く。それから、提示された金額に近い分の貨幣を取り出し、店員に渡す。
「いえ。このくらいは普通ですよ」
「私から見れば凄いわ。なんというか……器用だなって、思って」
「慣れれば大丈夫ですよー」
「そうなの。やはり、何事も慣れが大事なのかしら」
ミリアムは下着の買い物を終えた。
扉を開け、外へ出ようとして——何者かにぶつかられる。
「っ……!?」
一瞬身構えたミリアムだったが、すぐに警戒するほどのことが起きたわけではないのだと気づく。というのも、ぶつかった相手がまだ小さい子どもであることに気がついたのだ。六歳か七歳くらいと思われる女の子だった。
「すみませんっ」
道の向こうから駆けてくる女性。彼女はどうやら、ミリアムとぶつかった女の子の母親らしい。
「あ……い、いえ」
女の子とぶつかって戸惑っている時に母親と思われる人物が声をかけてきたものだから、ミリアムはそんな曖昧な言葉しか返せない。
「ごめんなさい。お怪我は?」
「平気です」
「本当ですか? 良かった……。うちの子が当たってしまってすみません」
「いえ。私も注意不足でした」
ミリアムにぶつかった女の子は、ミリアムのスカートの裾を片手で掴んだ。何事かと思い、ミリアムは彼女に視線を下ろす。すると女の子は、目をぱちぱちさせながら「当たってごめんね」と言ってきた。そのたまらなく甘い声に、ミリアムは心を揺らされる。
「いいの。いいのよ、気にしないで」
その場にしゃがみ込み、女の子に顔を近づけてミリアムは言葉を放つ。
「怒ってなぁい?」
「えぇ、怒ってなんてないわ。お互い様よ」
「ありがとう!」
女の子の無邪気さにミリアムはほっこりする。
こんな温かい気持ちになれるのはいつ以来だろう、なんて思ってしまうくらいだ。
「すみませんでした」
「いえ」
改めて謝罪してきた母親と思われる女性に頭を下げ返し、ミリアムは母娘と別れる。
さりげなく心が温まる出来事だった。
母娘と別れ、ミリアムは次の目的地へと向かう。
おつかいはまだ終わらない。
「パン屋パンパンのクリームパン、パン屋ロロールパンパンのアンパン、パン屋カルークノバースのロールパン……はぁ、どうしてこんなにパンが多いのかしら」
施設には、家を持たず建物の中で暮らしている者もいる。それゆえ、施設でそこそこな量の食料が必要であることは、ミリアムにだって分からないことではない。
疑問なのは、購入する食料がなぜこうもパンに偏っているのかである。
パン以外の食べ物は別の経路で入手しているのか、それともなにか別の理由があるのか——無論、それはそこまで重大なことではないが。
「でも、行かなくっちゃ」
ミリアムは改めて気合いを入れ、前を向く。
頼みを受けたのは自分。今さら逃げ出すことはできないし、自分がそれを許さない。そんな中途半端な行動を許せる自分ではない。
そんな風に考え、ミリアムはすべての任務を達成できるように進める。
空にはいくつも小さな雲が浮かんでいた。雨を降らせるような重苦しい色の雲ではなく、軽やかな雰囲気を漂わせる白色の雲。おもちゃを散らかしたみたいな空模様。
そんな空の下を、ミリアムは歩く。
次なる目的地へ到着することを目指して。
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