エトランジェの女神

四季

文字の大きさ
33 / 57

32.遭遇

しおりを挟む
 文房具屋での買い物は終わった。
 店主の女性が素早く進めてくれたので、苦労することなく買い物ができた。

 しかし、今回のおつかいはこれで終わりではない。否、それどころか、ここからが本番という感じだ。これから行く店の中には行ったことのない店も含まれている。本当に緊張するのはこれからだ。

「一本分南に渡って、右手側に……」

 次の目的地は下着店。三階建てのビルの一階に入っている店らしい。そこで数種類の下着を購入するのが、ミリアムの次の仕事だ。

 曖昧な天気の街を、ミリアムは歩く。


 歩くこと数分。目的の店に到着することができた。そこは健全な下着店であり、女物だけでなく男物も売っているような店。そのため、ミリアムは迷いなく入店することができた。

 店内には、店員三人ほどと客と思われる人物数名がいた。
 各々好きなところを好きなように歩いている。

 敷地の一番奥の辺りがおしゃれな女物下着のコーナーになっているようで、そこ以外には素朴な肌着しか売られていない。

 メモに書かれている購入するべき商品は、シャツやパンツ、靴下など。
 ミリアムはそういった物を買うことに慣れていないので、メモに書かれている品をどうやって見つければ良いのか分からず戸惑う。

 そんな時、一人の女性店員が躊躇わず声をかけてくれた。

「何かお探しですか?」

 声をかけてくれた店員が、今のミリアムには救世主に見えた。

「えぇ。こういう商品を頼まれて買いに来たのだけど……」
「指定の物があるのですね! ふむふむ、こちらですか」
「そうなの。置いているみたいなのだけど、本当にあるのかしら」
「もし良ければ案内致しますよ!」
「本当に? 助かるわ。困っていたの、ありがとう……!」

 こつこつ探せば良い。任せるなんて怠惰なだけ。そう言われても良い、それでも店員に頼みたい。それが今のミリアムの気持ちだ。


「これで全部集まったわ。ありがとう」
「いえいえ」

 店内には色々な商品があり、目当ての物を見つけ出すのは簡単なことではなかった。が、店員にも協力してもらって、無事指定されていた物を見つけることができた。

「じゃあ会計を頼むわね。お願いします」
「はい!」

 レジ打ちを頼んでいる間、ミリアムは特に何も考えずに周囲の様子を見つめた。

 ここにいるのは、店員も客も、ほとんどが非能力者なのだろう。けれど、彼ら彼女らは、それなりに穏やかな暮らしをしているようだ。警戒心を抱いている様子でもないし、普通に過ごしている。

 それを見て、改めて「この平穏を守ろう」と心を固める。

「代金はこちらになります」

 店員がレジに値段を映し出しつつ述べた。
 打ち込みは終了したようだ。

「素早いわね。ありがとう」

 ミリアムはパンから預かってきていたおつかい用の財布を取り出し、その口を開く。それから、提示された金額に近い分の貨幣を取り出し、店員に渡す。

「いえ。このくらいは普通ですよ」
「私から見れば凄いわ。なんというか……器用だなって、思って」
「慣れれば大丈夫ですよー」
「そうなの。やはり、何事も慣れが大事なのかしら」


 ミリアムは下着の買い物を終えた。
 扉を開け、外へ出ようとして——何者かにぶつかられる。

「っ……!?」

 一瞬身構えたミリアムだったが、すぐに警戒するほどのことが起きたわけではないのだと気づく。というのも、ぶつかった相手がまだ小さい子どもであることに気がついたのだ。六歳か七歳くらいと思われる女の子だった。

「すみませんっ」

 道の向こうから駆けてくる女性。彼女はどうやら、ミリアムとぶつかった女の子の母親らしい。

「あ……い、いえ」

 女の子とぶつかって戸惑っている時に母親と思われる人物が声をかけてきたものだから、ミリアムはそんな曖昧な言葉しか返せない。

「ごめんなさい。お怪我は?」
「平気です」
「本当ですか? 良かった……。うちの子が当たってしまってすみません」
「いえ。私も注意不足でした」

 ミリアムにぶつかった女の子は、ミリアムのスカートの裾を片手で掴んだ。何事かと思い、ミリアムは彼女に視線を下ろす。すると女の子は、目をぱちぱちさせながら「当たってごめんね」と言ってきた。そのたまらなく甘い声に、ミリアムは心を揺らされる。

「いいの。いいのよ、気にしないで」

 その場にしゃがみ込み、女の子に顔を近づけてミリアムは言葉を放つ。

「怒ってなぁい?」
「えぇ、怒ってなんてないわ。お互い様よ」
「ありがとう!」

 女の子の無邪気さにミリアムはほっこりする。
 こんな温かい気持ちになれるのはいつ以来だろう、なんて思ってしまうくらいだ。

「すみませんでした」
「いえ」

 改めて謝罪してきた母親と思われる女性に頭を下げ返し、ミリアムは母娘と別れる。
 さりげなく心が温まる出来事だった。


 母娘と別れ、ミリアムは次の目的地へと向かう。
 おつかいはまだ終わらない。

「パン屋パンパンのクリームパン、パン屋ロロールパンパンのアンパン、パン屋カルークノバースのロールパン……はぁ、どうしてこんなにパンが多いのかしら」

 施設には、家を持たず建物の中で暮らしている者もいる。それゆえ、施設でそこそこな量の食料が必要であることは、ミリアムにだって分からないことではない。
 疑問なのは、購入する食料がなぜこうもパンに偏っているのかである。
 パン以外の食べ物は別の経路で入手しているのか、それともなにか別の理由があるのか——無論、それはそこまで重大なことではないが。

「でも、行かなくっちゃ」

 ミリアムは改めて気合いを入れ、前を向く。

 頼みを受けたのは自分。今さら逃げ出すことはできないし、自分がそれを許さない。そんな中途半端な行動を許せる自分ではない。

 そんな風に考え、ミリアムはすべての任務を達成できるように進める。

 空にはいくつも小さな雲が浮かんでいた。雨を降らせるような重苦しい色の雲ではなく、軽やかな雰囲気を漂わせる白色の雲。おもちゃを散らかしたみたいな空模様。

 そんな空の下を、ミリアムは歩く。

 次なる目的地へ到着することを目指して。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

処理中です...