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前編

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 昨日まで、いや、つい先ほどまで、私は普通の学生だった。

 なのに。

「貴様のような悪女を妻にはできん! 婚約は破棄だ!」

 今、私はなぜか、婚約破棄を告げられるなどという理解不能な状況におかれている。

 これは一体何なのか?
 謎でしかない。

 私が私でなくなった……?

「こんなにも可愛らしい彼女を虐めるなど! 許せない! 絶交だ!!」

 目の前の男性はぶりっこ感丸出しの女性を片腕で抱き寄せつつそんなことを言ってくる。

 いやいや、いきなりそんなことを言われても。
 虐めたとか何とか言われても心当たりがない。

 私は先ほどまでただの女子学生だったのだ。

 ……結局私は何も言い返せないまま彼の家から追い出された。

 何か言うべきだっただろうか? 言い返すべきだったのだろうか? いや、しかし、状況を把握しきれていない以上下手なことは言えない。今のこの身体の女性が誰なのか? それすら分からないから、何とも言えない。

 もやもやしているうちに、私は、実家へ戻ることになった。

 いや、厳密には、今のこの身体の女性の実家なのだが。
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