異世界恋愛短編集 ~婚約破棄を乗り越えて~

四季

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『婚約者が浮気していました。しかもその浮気相手というのが……。』

 婚約者ロレーヌが浮気していた。

 しかも浮気相手は私の友人であるリネ。
 彼女はことあるごとに私の悪口を彼に吹き込んでおり、ゆえに、ロレーヌの中の私のイメージはいつの間にか最低最悪なものになっていた。

 そして。

「悪いが君とはもうやっていけない。よって、婚約は破棄とする」

 しまいにロレーヌからそんな宣言をされてしまった。

「君はリネをずっと虐めていたそうじゃないか。最悪だな。悪女だな。その話を聞き、がっかりしたよ」
「間違いです!」
「間違い? リネが嘘をついていると? 呆れた。やはり悪女だ」

 こうして私は理不尽に婚約破棄されてしまったのだった。

 なんてことのない、平凡な春の日の出来事である。


 ◆


 あの後、ロレーヌはリネと婚約したのだが、婚約期間中にリネが他の男とも親しくしていることが判明したためにその婚約も破棄となったようだ。

 ロレーヌはリネに対して激怒していたらしい。

 また、そこからロレーヌは段々心を病んでいったようで、いつしか彼は家から出られないようになってしまったようである。

 ロレーヌに幸せな未来はなかった。

 また、リネもその後、怪しい男と関わりを持ったがために身を滅ぼすこととなっていったようである。

 一方私はというとおっとりした男性と結婚。
 穏やかな家庭を築くことができた。


◆終わり◆


『 「君ってさぁ、可愛くないよねほんと」そんな発言がいきなり飛び出して、驚くと共に戸惑いましたが……。 』

「君ってさぁ、可愛くないよねほんと」

 婚約者ルフレッドはある日突然見知らぬ女性を連れて私の前に現れた。

「見て? 彼女。とっても可愛いよね? 謙虚だし、可憐だし、花のように美しくて魅力的だよね」
「え……っと、あの、何のお話でしょうか」
「彼女はさ、ミリーっていうんだけど、僕がこの世界で唯一愛している深く想っている女性なんだ」

 ルフレッドに腕を回された女性――ミリーという名らしいが――その人は、恥ずかしそうな照れ笑いをしている。

 だが、こちらとしては、いきなりそんなことを言われても困ってしまう。というのも理解が追いつかないのだ。ルフレッドがミリーを愛している、ということは分かったけれど。婚約者に対してそんなことを言って、一体何がしたいのか。

「君の魅力はミリーの百万分の一以下だよ。君本当に女性? って聞きたいくらい」

 ルフレッドは平然とそんなことを言い放ってくる。

 なんと心ない人なのだろう……。
 しかも失礼だし……。

 ミリーへの想いが彼をそんな風にしてしまったのだろうか。

「だって君は、謙虚じゃないし、可憐さもなくどちらかというと逞しいくらいだし、花のような美しさもない。君はどんな時も力強いけど、それって女性としては終わってるってことだよね」

 ルフレッドの失礼な発言はまだまだ止まらない。

「女性なら雨の日も風の日もどんな日も可憐であるべきだよね? それができないってことは、努力が足りないんだよ君は。君は基本的にすべてにおいて努力不足なんだ。しかも余計なところだけ頑張っているからなおさらイタいよ。女性として終わってるのにさ、勉強とか頑張るとか、ますます終わるだけだよ? 勉強が好きな女なんて、男からしたらただのごみだよ?」

 彼は散々私を悪く言って、そして。

「てことで、君との婚約は破棄するから」

 その果てに。
 ついにそこまで言いきった。

 彼はすべてを終わらせることを宣言したのだ。

「永遠にさよなら」

 彼が私にかけた終焉の言葉はそれだった。

「ミリー、これで僕たち、一生一緒にいられるよね」
「うん」
「嬉しいよね? ミリーも嬉しいよね?」
「うん~」
「僕、君のことが好きで好きで、だからずっとこの時この瞬間がやって来るのを楽しみにしていたんだ。あんな変な女さっさと捨てたかった。……ここまで、少し時間がかかってごめんね? 待たせてしまって」
「うんうん」
「でもこれでもうあの女とはバイバイできたから」
「うん」
「これからは僕たち、正式に、ずっと一緒だよ」
「うん~」
「嬉しいよね? ミリーも。ミリーも喜んでる?」
「うん」


 ◆


 あの後、ルフレッドとミリーは婚約したが、それから少しして二人は離れることとなった。

 というのも、ミリーはなぜか「うん」以外のことを絶対に言わない女で、ルフレッドが段々それに怒りを抱くようになったそうなのだ。
 返事しかされないと、特定の単語しか返ってこないとなると、会話が最低限しか成り立たない。それにルフレッドは苛立ったようで。次第に二人の関係にひびが入り始めたのだそう――もっとも、ルフレッドのミリーへの想いが冷めた、という表現の方が正しいのだろうが。

 あんなに色々言っていたけれど、ルフレッドはミリーを選んでも幸せにはなれなかった。

 彼に幸せな未来はなかった。

 また、その年の冬、ルフレッドは流行り病に倒れる。

 酷く熱を出し。
 三日三晩悪夢にうなされ。

 その果てに、衰弱して、彼は落命してしまった。

 ちなみにミリーは実家へ戻って親と暮らしているそうだが今も「うん」しか言わないままだそうだ。

 一方私はというと。
 勉強でこれまでに身につけた知識を活かし、今は仕事に打ち込んでいる。

 なんだかんだでこの道が私には合っていると思う。


◆終わり◆


『幼い頃から歌が好きでした。~婚約破棄されても幸せな未来は手に入れられるものなのです~』

 幼い頃から歌が好きだった。

 なぜかは分からない。
 けれども物心ついた頃には既に好きになっていたのだ。

 だが婚約者ローレンスはそんな私の趣味を良く思っていなくて。

「君は本当に歌が好きだな」
「え? あ、はい」
「いつまでも歌い続けていくつもりなのか」
「はい、できれば。歌は本当に好きですので。続けていくつもりです」

 その日は突然やって来てしまう。

「ならば、君との婚約は破棄とする」

 ――そう、関係の終わりを告げられる日。

「歌うことが好きな女なんざ品格ある女ではない。上品な女はそんなことを趣味とはしていないのだ。ゆえに、君は私の女には相応しくない」

 ローレンスは平然とそんな心ない言葉を発する。

「ではな。……さようなら、永遠に」

 こうして私たちの関係は壊れてしまったのだった。


 ◆


 あれから三年。

 婚約破棄後歌の仕事に打ち込むようになった私は、ヒット曲を連発することに成功し、国内で五本の指に入るほどの有名歌手となった。

 歌うことを捨てなくて良かった――今は心の底からそう思う。

 やりたいことで活躍できるなら、好きなことを職として生きてゆけるなら、そんなに嬉しいことはない。

 一方ローレンスはというと、あの後良家の娘さんである女性と結婚したそうだが女性の父親からいじめを受けそれを苦に自ら死を選んでしまったそうだ。

 自ら死を選ぶなんて可哀想に。
 そう思わないことはないけれど。

 ただ人が人なので、心の底から純粋に気の毒に思ってあげることは私には難しい。
 なんせ彼は私の好きなことを否定し続けていた男だ。心ない男に対して可哀想という感情を抱くというのはなかなか難しいことである。人間の心というのはそこまで広くはない。


◆終わり◆


『私たちならきっと幸せな未来を掴める、そう信じていたのですが……?』

「やぁミリーナ、久しぶりだね」
「そうですね」
「元気にしていたかい?」
「はい。アルフレットさんこそ、お元気でしたか」
「僕は元気だよ」
「それは良かったです」

 私ミリーナと二つ年上の彼アルフレットは婚約者同士。

 出会いこそ家と家の関わりだったのだけれど、そこから徐々に親しくなって、やがて婚約するに至った。

「今日も良い天気だね」
「そうですね」
「ミリーナは晴れの日好き?」
「はい、好きです。アルフレットさんはどうですか?」
「僕も好きだよ」
「そうなんですね!」
「一緒だね」
「はい。同じで嬉しいです。共通点が見つかった時って何だか嬉しくなるものですよね」
「確かにね」

 私たちならきっと幸せな未来を掴める。
 迷いなくそう信じていた。

「あ、そうだ。話なんだけど。ちょっといいかな」
「何でしょうか」

 ――その、瞬間まで。

「君との婚約だけど、破棄することにしたから」

 アルフレットは柔らかな笑顔のままさらりと述べる。

「え……」

 思わずこぼれてしまう情けない声。

「ミリーナはさ、僕のことそんなに好きじゃないでしょ」
「どうしてですか!? 好きですよ!!」
「でも、好きじゃないよね?」
「好きです!」
「……だとしても、ごめん。僕は君のこと、そこまで好きじゃないんだ。嫌いでもないけど。だから……関係はここまでとさせてもらうよ」

 愕然としているうちに、彼は去っていってしまった。

 あまりにも突然の終わり。
 言葉を失うことしかできない。


 ◆


 あれから数日。
 アルフレットの訃報が届いた。

 彼は女性と二人でお出掛けしていたそうなのだが、お出掛け先で急に体調を崩し、病院へ運ばれるもそのまま落命することとなってしまったそうだ。

 結局原因は不明のままらしい。

 なんということだ……。
 こんな急に亡くなるなんて……。

 ただ、今の私はもう彼の何でもないので、悲しむ必要はない。

 婚約者の急死であれば悲しむのが普通だろう。だが元婚約者の死となればまた別の話で。かつて婚約していた、というだけの私だから、彼の死に涙する必要などありはしないのだ。


 ◆


「それでね、クッキーを焼いたんだけど、爆発しそうになって~」
「ええ!?」
「でも何とかなったよ」

 あれから一年。
 私は近く結婚する予定だ。

「完成したの?」
「美味しくできたよ~。ミリーナにも食べてほしいな」
「いつかいただくわ」
「って言ってもらえるかなって思って、持ってきたんだ~」

 結婚する予定の相手、彼は三つ年上なのだが、少々抜けたところのあるような人物である。

 おっちょこちょいだし。
 おっとりしているし。

 けれどもそんなところも含めて愛らしいと思えるような人だ。

「ほら~」
「わぁ! とっても綺麗ね! 上手じゃない」
「えへへ~」
「食べてみて良いのかしら」
「もちろんだよ」
「じゃあ……早速、いただくわね」
「わぁ~い。ミリーナに食べてもらえるなんて嬉しいな。嫌がられるかもってちょっと不安だったんだよ~」

 どんな時でもにこにこしている彼となら、きっと、のんびりとした穏やかな幸福を堪能できるだろうと思う。

「……美味しい!」
「ほんと~?」
「ええ、とっても! 爆発しかけたのにこの美味しさって、凄い!」
「嬉しいな」
「貴方ってほんとお菓子作るの得意ね」
「えへへ、照れるな~」

 過去は捨てて。
 未来へと手を伸ばす。

 それが私の人生、生き方だ。


◆終わり◆
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