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前編

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「お姉様には良い人なんて見つからないでしょうね。だって……ふふ、お姉様って地味なんだもの」

 エルフィンという裕福な家の出の青年との婚約が決まった妹が見下しつつ煽ってきた。

 いや、こちらは何も言っていないのだが……。

 そんな思いしかない。

「ま、精々、幸せになるわたくしを見て嫉妬でもしていると良いですわ」
「幸せになってね」
「はぁ? あーあ、馬鹿みたいですわね。我慢しちゃって。そんな余裕を見せるようなことを言って、本当は今すぐにでも奪いたいくらいなのでしょう?」

 あり得ない。
 妹の婚約者を奪うなんて。

 私はそんなことはしない。

「まさか。しないわよ、そんなこと。私は貴女の幸福を願っているわ」
「ふ、ふん。まぁいいですわ。そんなことを言えるのも今だけですわ! お姉様が悔しがるくらい幸せになってやりますわ!」

 だがその数週間後、妹は婚約破棄された。

 何でも「可愛げがまったくないし、あまりにわがまま過ぎる」とのことだったそうだ。

 その理由は分からないではない。
 なんせ彼女は勝手な人だから。
 そういうところがあるせいで、私も、ずっと迷惑をかけられてきた。
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