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後編

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 彼は自分の母がしていたことを知らなかったようだった。

「知らなかったんだ! 何も! 知っていたら助けようとしたよ! 間違いなく! だから許して! 僕は悪くないんだ!」

 彼は必死に引き留めようとした。
 けれど無駄な努力だ。
 私の心はとうに決まっている。

「さようなら、アロン」

 こうして婚約は破棄となった。

 その後、私が治安維持組織に提出した虐めの証拠によって、アロンの母が築いてきたものはすべて崩壊した。

 彼女は犯罪者となった。

 それまで彼女を素晴らしい女性だと讃えていた『女性協会』はそれを撤回、関係も解消。また、騙されていたということで、彼女へ償いの金の支払いを求める事態にまで発展する。

 それからもアロンの母は関わりのあった複数の組織から関係解消を告げられる。

 さらに、行いの詳しい内容が世に出るにつれ、彼女を強く批判する者が出現。中には過激な人もいて。家に大量の卵が投げ込まれたり、門に落書きされたり、ごみを庭に山盛りにされたりすることもあったようだ。

 また、時には、当人であるアロンの母のみならずアロンをはじめとする周辺にまで批判の矛先が向くこともあったそうだ。

 一方私はというと。

 婚約破棄後しばらくはいくつかの手続きを同時に行わなくてはならず忙しかったが、その後数年して別の男性と結ばれることができた。

 今は二人の子にも恵まれ穏やかに生活している。

 最近は夫の影響で山菜採りを始めた。
 これが案外楽しくて。
 楽しいこと、趣味があるだけで、日々がより一層煌めくように感じる。


◆終わり◆
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