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前編
しおりを挟む子どもの頃に好んで読んでいた本には大抵魔法使いが出てきていた。
なぜなら、私がそういう本が好きだったから。
魔法使いが出てくるような物語、それを読むのはとても楽しくて――空想であってもそういう世界に浸っている時がどんな時よりも幸せだったのだ。
けれども現実は厳しく、憧れなど無視で、私は一人の青年と婚約することになった。
婚約相手はリュージュアという青年。
良家の子息だそうだがわがままかつ自分中心なところが目立つ人だ。
「僕に相応しい女性となれるよう、日々己を磨きたまえよ!」
初対面でそんなことを言われた時にはかなり驚いた。
恥ずかしくないのか、と。
彼はその時私のことをまだ何も知らない状態だった。初めて顔を合わせた日だったから。それこそ、知っているのは顔と名前だけに近い状態で。だというのに彼はそんなことを言ったのだ、まるで私の中身を深く知っているかのような言葉を。
そして、呆れもした。
こんな人と夫婦になるの?
こんな人と生きてゆくの?
リュージュア、彼と行く未来に幸福があるとはどうしても思えなかった。
――それから数ヶ月が過ぎて。
「悪いね、急に呼び出して」
「いえ……」
「何だ? その顔は。僕を見下しているのかい?」
「まさか。そんなこと絶対にありませんよ」
「ふん、ならいいが」
少し間を空けて。
「君との婚約を破棄する、そう決めたのだよ」
はっきりとした調子で言ってきた。
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