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1話「今日、生まれ育った地を離れる」
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私、ローレニア・ハーモニアは、アポレ王国の王子であるぺパス・アポレの婚約者だった。
けれども……。
「ローレニア・ハーモニア! 君は可愛い彼女を、ネネを、裏で虐めていたそうだな!」
そんなよく分からない心当たりのないことを言われてしまったうえ。
「ネネと俺が兄妹のような関係だから嫉妬したのだな?」
「心当たりがありません」
「ふざけるな! ネネが虐められたと言っているのだ、それが嘘なわけがないだろう!」
意味不明な理論だな、と思っていると、ぺパスは急に隣にいる栗色の髪の女性を抱き寄せた。それから「嘘ではないよな?」と本人に確認。女性が頷いて「もちろんですわ」と答えると、ぺパスはそれを信じ込んでこちらを向き「ほら! ネネがそう言っているんだ! 君も聞いただろう!」と言ってくる。私は「そのようなことはしていません」と真実を述べたけれど、彼はそれを聞き入れようとは一切せず。
「嘘に嘘を重ねるとは、何と愚かな。君のような悪女を王子の妻とすることなどできない……よって! 君との婚約は破棄とする!!」
ぺパスはそう宣言した。
隣にいるネネが騙されてやがんのと言わんばかりに笑みを浮かべていることに気づきもせずに。
しかし残念だ、こんなことになってしまうなんて。しかも、どうしようもない事情ではなく、彼が自らこのような道を選択するなんて。彼と私、そこまで相性は悪くなさそうだと何となくそう思っていたのだが。
「ローレニア、実は、ネネを虐めた悪女な君にぴったりな相手を用意している」
「え……」
「魔王だよ! 魔族の王、さ。性悪な君にもってこいの相手だろう?」
これには驚いた。
「な、何ですその話! 聞いていませんよ!」
思わず声をあげてしまった。
「はは。嬉しそうだな。妻候補として魔王に差し出す、いわば生け贄、それに君を推薦しておいた」
「…………」
「もうじき魔王の家臣が来るだろう。君はこの国のためにその身を魔族に差し出すんだ。ま、胸の内真っ黒な君だから上手くやっていけるだろうな。国のために生きられて良かった、そう思うことだね。……じゃ、僕はこれで! 行くよネネ」
「はぁーい」
私はぽつんとその場に残された。
なぜ私がこんな目に……。
ネネというあの女性が嘘をついているだけなのに……。
胸の内に渦巻くのは、どうしても明るくなりきれない、いくつもの色が入り雑じった複雑な感情。何もしていないのに悪女扱いされる悲しさもあり、また、それに対して何もできなかった悔しさのようなものもある。一言では言い表せない、そんな感情だ。
それからしばらくして、迎えがやって来た。
魔王の家臣……なのかどうか定かではないが。派遣されてきた者は、人のような二足歩行ながらどこかうさぎを想わせるような顔をした小柄な男性であった。この国でもそれなりに良い家柄の人がまとっているような衣服をまとっていて、人とは異なる容姿ながら品は感じられる。
「お待たせしました。では、こちらの馬車にお乗りください」
「……はい」
きぃ、と静かながら高い音が鳴り、馬車の扉が開く。
私は身にまとっている紺色のドレスを軽く持ち上げ裾を踏まないようにしながら馬車に乗り込む。
本当は乗りたくなかった。
でも拒否はできなかった。
今日、私は、生まれ育った地を離れる。
けれども……。
「ローレニア・ハーモニア! 君は可愛い彼女を、ネネを、裏で虐めていたそうだな!」
そんなよく分からない心当たりのないことを言われてしまったうえ。
「ネネと俺が兄妹のような関係だから嫉妬したのだな?」
「心当たりがありません」
「ふざけるな! ネネが虐められたと言っているのだ、それが嘘なわけがないだろう!」
意味不明な理論だな、と思っていると、ぺパスは急に隣にいる栗色の髪の女性を抱き寄せた。それから「嘘ではないよな?」と本人に確認。女性が頷いて「もちろんですわ」と答えると、ぺパスはそれを信じ込んでこちらを向き「ほら! ネネがそう言っているんだ! 君も聞いただろう!」と言ってくる。私は「そのようなことはしていません」と真実を述べたけれど、彼はそれを聞き入れようとは一切せず。
「嘘に嘘を重ねるとは、何と愚かな。君のような悪女を王子の妻とすることなどできない……よって! 君との婚約は破棄とする!!」
ぺパスはそう宣言した。
隣にいるネネが騙されてやがんのと言わんばかりに笑みを浮かべていることに気づきもせずに。
しかし残念だ、こんなことになってしまうなんて。しかも、どうしようもない事情ではなく、彼が自らこのような道を選択するなんて。彼と私、そこまで相性は悪くなさそうだと何となくそう思っていたのだが。
「ローレニア、実は、ネネを虐めた悪女な君にぴったりな相手を用意している」
「え……」
「魔王だよ! 魔族の王、さ。性悪な君にもってこいの相手だろう?」
これには驚いた。
「な、何ですその話! 聞いていませんよ!」
思わず声をあげてしまった。
「はは。嬉しそうだな。妻候補として魔王に差し出す、いわば生け贄、それに君を推薦しておいた」
「…………」
「もうじき魔王の家臣が来るだろう。君はこの国のためにその身を魔族に差し出すんだ。ま、胸の内真っ黒な君だから上手くやっていけるだろうな。国のために生きられて良かった、そう思うことだね。……じゃ、僕はこれで! 行くよネネ」
「はぁーい」
私はぽつんとその場に残された。
なぜ私がこんな目に……。
ネネというあの女性が嘘をついているだけなのに……。
胸の内に渦巻くのは、どうしても明るくなりきれない、いくつもの色が入り雑じった複雑な感情。何もしていないのに悪女扱いされる悲しさもあり、また、それに対して何もできなかった悔しさのようなものもある。一言では言い表せない、そんな感情だ。
それからしばらくして、迎えがやって来た。
魔王の家臣……なのかどうか定かではないが。派遣されてきた者は、人のような二足歩行ながらどこかうさぎを想わせるような顔をした小柄な男性であった。この国でもそれなりに良い家柄の人がまとっているような衣服をまとっていて、人とは異なる容姿ながら品は感じられる。
「お待たせしました。では、こちらの馬車にお乗りください」
「……はい」
きぃ、と静かながら高い音が鳴り、馬車の扉が開く。
私は身にまとっている紺色のドレスを軽く持ち上げ裾を踏まないようにしながら馬車に乗り込む。
本当は乗りたくなかった。
でも拒否はできなかった。
今日、私は、生まれ育った地を離れる。
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