婚約破棄され魔王のもとへ送られることとなりました。妻候補だそうです。

四季

文字の大きさ
2 / 12

2話「私はどこへ行くのか」

しおりを挟む
 馬車に乗り込むと、向かいには姿見が貼り付けられていたので自分の姿が見えた。

 銀の長い髪に青みを帯びたグレーの瞳、そして、紺のドレスをまとっている……そんな女性が目に入る。

 確かに私だ。
 これまでにずっと見てきた私の姿そのもの。

 不思議なもので、今、私が私でなくなったような感覚に見舞われている。なぜだろうか、分からないけれど。想定外の出来事に巻き込まれてしまっているからだろうか。いや、理由は考えてみても思いつかない。が、私が私でなくなったような感覚があるがゆえに、鏡に映るこれまでと同じ姿を目にすると少しだけ落ち着けるような気がする。

 それから、長い時間、私は揺られ続けた。

 ここには私一人しかいない。家族も、友人も、国に置いてきた形だ。だから私は一人。味方と思える者はどこにもおらず。そのため、誰かと共にあって安心する、というようなことは不可能だ。

 窓を割って脱走する?

 一度はそれも考えたが、普通の女でしかない私には無理そうなのでやめた。

 ぺパスとネネは今頃仲良く楽しく暮らしているのだろう……そう思うともやもやしたが、瞼を閉じて振り払う。

 考えるのはやめよう。
 己にそう言い聞かせた。



 長い時間が経ち、やがて、馬車の扉が開いた。
 扉を丁寧に開けてくれたのはあのうさぎを想わせるような者だ。

「どうぞ」
「……ありがとうございます」

 辺りを見回してみたが、人が暮らす地域と特に大きな違いはなかった。空の色、気温、湿度など、生まれ育ったあの国に似ている。

 目の前には大きな城のような建物があるが、もしかして、魔王の城だろうか?

 とはいえ、見た感じ、魔王と呼ばれるような者がいそうな禍々しさなんてものは特には感じられない。

 人間が建てたありふれた城のような感じがするのだが、どうなのだろう?

「ではこちらへどうぞ」
「はい」

 うさぎを想わせる容姿の者に案内され、城のような建物の内部へと進んでゆく。



 やはりそこは魔王の城だった。魔王の姿はまだ見ていない。が、そう説明を受けたので、そうなのだろう。この状況で敢えて嘘の説明をすることはないと思われるので、多分ではあるけれど、説明内容に関しては信じて良さそうだ。
 怪しい持ち物がないかを確認された後、私は、牛柄のメイド服を着用した侍女によって魔王のもとへと導かれることとなる。

「失礼いたします」

 人の背の二倍はありそうな高さの大きな扉をノックする侍女。

「先日の件、ローレニア様をお連れしました」

 侍女が述べると、扉が勝手に開く。
 思わず「扉が勝手に……!?」とこぼしてしまい、侍女にふふと軽く笑われてしまった。

「こちらへ。ついてお入りください」
「は、はい」

 牛柄のメイド服の侍女について室内へと足を進める。
 するとそこには長髪の男が佇んでいた。
 いかにも豪華そうな椅子に腰を下ろす黒い長髪の男、彼は冷ややかな目つきのままこちらをじっと見つめている。

 き、気まずい……。
 何を話せば良いものか……。

「ヴッファリーナ、そちらの女性がローレニアか?」

 やがて、男は口を開いた。

「はい」

 ヴッファリーナと呼ばれたのは私をここまで案内した侍女である。

「そうか」

 短く言って、男は立ち上がる。

 彼は思いの外軽い足取りですたすたとこちらへ迫ってきた。身長は私より遥かに高いので自然と圧倒されてしまう。が、心でだけは負けてはならないと思い、彼の顔へ視線を向けてやった。

 彼はこちらをじっと見つめている。

 悪意は特には感じないが……ここまで長く見つめられるというのは一体何なのだろう?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

婚約者を奪われるのは運命ですか?

ぽんぽこ狸
恋愛
 転生者であるエリアナは、婚約者のカイルと聖女ベルティーナが仲睦まじげに横並びで座っている様子に表情を硬くしていた。  そしてカイルは、エリアナが今までカイルに指一本触れさせなかったことを引き合いに婚約破棄を申し出てきた。  終始イチャイチャしている彼らを腹立たしく思いながらも、了承できないと伝えると「ヤれない女には意味がない」ときっぱり言われ、エリアナは産まれて十五年寄り添ってきた婚約者を失うことになった。  自身の屋敷に帰ると、転生者であるエリアナをよく思っていない兄に絡まれ、感情のままに荷物を纏めて従者たちと屋敷を出た。  頭の中には「こうなる運命だったのよ」というベルティーナの言葉が反芻される。  そう言われてしまうと、エリアナには”やはり”そうなのかと思ってしまう理由があったのだった。  こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。

処理中です...