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6話「嬉しくないこと」
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「マオン様は魔王なのにそれほど恐ろしくはありませんね」
「え、そ、そうですかね? あ、あり、ありがとうございます」
美味しいお茶とお菓子を楽しむ時間というのは偉大だ。どんな状況であっても私を楽しませてくれる。お茶の良い香りだけでも心が癒えてゆくかのよう。たとえ慣れない地にあっても、それでも、こうして美味しいものを口にする時間だけは心が安らぐ。
その時、中庭へ一人の男性が走ってきた。
鹿のような角が額から生えている男性だ。
「魔王様! ご報告があります!」
「何だ」
「城内へ敵襲です!」
「そうか。……すぐに仕留めよ」
「承知しました!」
鹿のような男性は一礼し去っていく。
マオンは改めてこちらへ視線を向けた。
「すみません、こういうことは……よくあることなのです」
「そうなんですか」
「はい。ですが……安心して、ください、大丈夫……ですから……」
それからしばらくお茶を楽しみ、解散の時間が来る。
「そろそろ、お開きと……しましょうか」
マオンはやはりまだ緊張があるようだ。最初に比べれば少しはまともに話してもらえるようになった気もするが、それでも、まだ自然に喋ることができるところには至れていない。
「そうですね」
「あ、あの、今日はっ……」
「今日?」
「今日、は、楽しかったです」
「こちらこそ、ありがとうございました。私も楽しかったです」
こうしてお茶会は無事に終わったと思われたのだが……刹那、急に、どこかから光の矢が飛んできた。
「危ない!」
叫んだのはマオン。
彼は飛んできた矢を手で直接掴んで防いだ。
やや黒めの赤が滲んで垂れる。
「魔王様!」
手に傷がついたことに気づいたヴァッファリーナはマオンを心配する。
だが彼はそれを拒否した。
「問題ない」
「しかし……」
「何もしなくていい、彼女を部屋へ連れていくように」
「分かりました」
別れしな、マオンは「また会いましょう」と言ってくれた。
手の怪我は大丈夫なのだろうか? 明らかに傷ついているようだったが。でもまぁあのくらいどうということはないのかもしれない。だって一般人ではなく魔王だから。でも、それでも、少しは心配になってしまって。大丈夫? 本当に何もないの? などと、つい考えてしまう。
それからしばらく、私は、魔王の城にて生活した。
そうしているうちに段々マオンと会うことにも慣れて。次第に心の抵抗は薄れていった。彼のどこか愉快な人柄に惹かれている、そういうことなのだと思う。
事実、ここへ来たのは強制されたからで、自ら望んでではなかった。
けれども今はここへ来たことを後悔はしていない。
もちろん、あちらの国に残った両親のことが気になることはあるし、この先ずっとここにいてやっていけるのか、というような不安も多少はある。
が、それでも、マオンが心優しいので不安を薄めてはくれるのだ。
そんなある日。
魔王城で暮らしていた私の前に一人の男性がやって来た。
「久々だな、ローレニア・ハーモニア」
「……ぺパス王子」
どうしてここに彼が……。
もう二度と見たくなかった顔。目にするだけで吐きそうなくらい不愉快な面。もう二度と見なくて済むかと思っていたのに、こんな形でまた対面することになるとは。残念な想定外だ。彼の顔なんてもう二度と見たくなかった。
「実は、話があって来た」
「お話しすることは何もありません」
そう言うのだけれど。
「俺のところへ帰ってきてはくれないか?」
彼はそんな問いを放ってきた。
「え、そ、そうですかね? あ、あり、ありがとうございます」
美味しいお茶とお菓子を楽しむ時間というのは偉大だ。どんな状況であっても私を楽しませてくれる。お茶の良い香りだけでも心が癒えてゆくかのよう。たとえ慣れない地にあっても、それでも、こうして美味しいものを口にする時間だけは心が安らぐ。
その時、中庭へ一人の男性が走ってきた。
鹿のような角が額から生えている男性だ。
「魔王様! ご報告があります!」
「何だ」
「城内へ敵襲です!」
「そうか。……すぐに仕留めよ」
「承知しました!」
鹿のような男性は一礼し去っていく。
マオンは改めてこちらへ視線を向けた。
「すみません、こういうことは……よくあることなのです」
「そうなんですか」
「はい。ですが……安心して、ください、大丈夫……ですから……」
それからしばらくお茶を楽しみ、解散の時間が来る。
「そろそろ、お開きと……しましょうか」
マオンはやはりまだ緊張があるようだ。最初に比べれば少しはまともに話してもらえるようになった気もするが、それでも、まだ自然に喋ることができるところには至れていない。
「そうですね」
「あ、あの、今日はっ……」
「今日?」
「今日、は、楽しかったです」
「こちらこそ、ありがとうございました。私も楽しかったです」
こうしてお茶会は無事に終わったと思われたのだが……刹那、急に、どこかから光の矢が飛んできた。
「危ない!」
叫んだのはマオン。
彼は飛んできた矢を手で直接掴んで防いだ。
やや黒めの赤が滲んで垂れる。
「魔王様!」
手に傷がついたことに気づいたヴァッファリーナはマオンを心配する。
だが彼はそれを拒否した。
「問題ない」
「しかし……」
「何もしなくていい、彼女を部屋へ連れていくように」
「分かりました」
別れしな、マオンは「また会いましょう」と言ってくれた。
手の怪我は大丈夫なのだろうか? 明らかに傷ついているようだったが。でもまぁあのくらいどうということはないのかもしれない。だって一般人ではなく魔王だから。でも、それでも、少しは心配になってしまって。大丈夫? 本当に何もないの? などと、つい考えてしまう。
それからしばらく、私は、魔王の城にて生活した。
そうしているうちに段々マオンと会うことにも慣れて。次第に心の抵抗は薄れていった。彼のどこか愉快な人柄に惹かれている、そういうことなのだと思う。
事実、ここへ来たのは強制されたからで、自ら望んでではなかった。
けれども今はここへ来たことを後悔はしていない。
もちろん、あちらの国に残った両親のことが気になることはあるし、この先ずっとここにいてやっていけるのか、というような不安も多少はある。
が、それでも、マオンが心優しいので不安を薄めてはくれるのだ。
そんなある日。
魔王城で暮らしていた私の前に一人の男性がやって来た。
「久々だな、ローレニア・ハーモニア」
「……ぺパス王子」
どうしてここに彼が……。
もう二度と見たくなかった顔。目にするだけで吐きそうなくらい不愉快な面。もう二度と見なくて済むかと思っていたのに、こんな形でまた対面することになるとは。残念な想定外だ。彼の顔なんてもう二度と見たくなかった。
「実は、話があって来た」
「お話しすることは何もありません」
そう言うのだけれど。
「俺のところへ帰ってきてはくれないか?」
彼はそんな問いを放ってきた。
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