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7話「今さら何をしにやって来たの」
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帰ってこい? ……何を今さら。ふざけないでほしい、あんなことをしておいて。あんな勝手に、一方的に、私を捨てておいて。どこまで私を馬鹿にするつもりなのか? そんな言葉で私が戻ると、本気で思っているのか?
「実は、国が滅びそうでな。隣国に攻め込まれてまずい状況で、しかも、ネネは怖がって逃げてしまったんだ」
戦いになって怖がって逃げた、か。
随分勝手な女性だ。
だがそういうところがぺパスにはぴったりだとも思う。
「戦争している状況で王子に妻がいないというのもあれだと思ってな。そこで、寛容な俺は、君にもう一度チャンスを与えることにした。君とて魔王の妻となるのは嫌だろう? 魔族と夫婦になるなど嫌だろう? ちょうどいいじゃないか」
ぺパスは調子良くそんなことを言ってくる。
その神経が理解できない。
「お断りします」
「なっ……」
「私はもう貴方のもとへは戻りません。ここで生きてゆくと決めましたので」
するとぺパスは唾を吐き飛ばしてきた。
付近にいたヴァッファリーナは、無礼者、といわんばかりに眉間にしわを寄せる。
「なっ、そんな……魔王の妻となる気か!? 本気か!? ああそうだ、きっと、洗脳の魔法でもかけられているのだろう!? そうか? そうだよな!?」
「まさか。あり得ません。私は正気です」
「ここでもまた嘘をつくのか!」
「嘘ではありません、本当のことしか言っていません」
ぺパスが急に片腕を強く掴んできた。
「帰ろう! 人が人でいられる国へ!」
「やめてください!」
「馬鹿なことを言うな、我が国の方が素晴らしいに決まっているんだ。我が国だけがこの地上の天国なんだ、きっと君もそのうち分かる。だから帰るんだ!」
困った、と思った、その時。
彼の背後から低い声が飛んできた。
「何をしているのだ」
誰か知らないが救世主! と思い、声がした方がへ目をやると、そこには魔王マオンが立っていた。
いつもの照れ初々しい彼ではない。
魔王モードの時の彼だ。
表情はいかにも冷酷そうなもので、怪しく光る赤い瞳からは恐ろしさが溢れており、黒の髪や外見や声からはいかにも闇の王というような雰囲気が漂っている。
「彼女に触れるな人間」
「なっ、お前、何も……ま、まさかっ……魔王か!?」
「そうだ」
「ちっ。何だ、邪魔するな! 生け贄は絶対返さない、ってか!? や、やはり、魔王は強欲だな!」
マオンは、私の腕を掴んでいたぺパスの腕を掴み、捻る。
「あだだだだ!」
「この手を離せ。さもなくば……腕を断ち切る」
「い、いたっ、いだだだ、だ!! 離す! 離すから! 離せばいいんだろ!!」
ぺパスは慌てて私の腕から手を離した。
「人間の王子、残念だが、彼女を取り戻すことはもうできない。差し出したのはそちらであろう? 今さらなかったことにはできないのだ」
マオンの表情には静かな怒りの色があった。
そんな彼を見るのは初めてかもしれない。
「よいから、去れ」
「え、偉そうだな! こっちは王子! 俺は王子なんだ!」
「知らぬ」
「威張るな!」
「なら……やり合うか?」
視線だけで圧をかけるマオン。彼は手を出しはしなかったが、それでも、ぺパスはすっかり小さくなってしまった。マオンの目つきによる圧力、たったそれだけのものに、ぺパスは敗北してしまったようだ。
「わ、分かった! もう帰る!」
「今すぐ帰れ、去れ」
「はいはいはい! 分かった! 帰るから!」
こうしてぺパスは逃げるように去っていった。
彼がいなくなってから。
「あ……ロレーニアさん、あの……」
「マオン様?」
「先ほどの言葉……」
「言葉?」
「え……と、あの、ここで生きてゆくと決めましたので、と、いう……言葉……なの、だが……」
それか、と、思い出す。
「その……本当の気持ち……ですか?」
マオンは控えめに尋ねてきた。
「実は、国が滅びそうでな。隣国に攻め込まれてまずい状況で、しかも、ネネは怖がって逃げてしまったんだ」
戦いになって怖がって逃げた、か。
随分勝手な女性だ。
だがそういうところがぺパスにはぴったりだとも思う。
「戦争している状況で王子に妻がいないというのもあれだと思ってな。そこで、寛容な俺は、君にもう一度チャンスを与えることにした。君とて魔王の妻となるのは嫌だろう? 魔族と夫婦になるなど嫌だろう? ちょうどいいじゃないか」
ぺパスは調子良くそんなことを言ってくる。
その神経が理解できない。
「お断りします」
「なっ……」
「私はもう貴方のもとへは戻りません。ここで生きてゆくと決めましたので」
するとぺパスは唾を吐き飛ばしてきた。
付近にいたヴァッファリーナは、無礼者、といわんばかりに眉間にしわを寄せる。
「なっ、そんな……魔王の妻となる気か!? 本気か!? ああそうだ、きっと、洗脳の魔法でもかけられているのだろう!? そうか? そうだよな!?」
「まさか。あり得ません。私は正気です」
「ここでもまた嘘をつくのか!」
「嘘ではありません、本当のことしか言っていません」
ぺパスが急に片腕を強く掴んできた。
「帰ろう! 人が人でいられる国へ!」
「やめてください!」
「馬鹿なことを言うな、我が国の方が素晴らしいに決まっているんだ。我が国だけがこの地上の天国なんだ、きっと君もそのうち分かる。だから帰るんだ!」
困った、と思った、その時。
彼の背後から低い声が飛んできた。
「何をしているのだ」
誰か知らないが救世主! と思い、声がした方がへ目をやると、そこには魔王マオンが立っていた。
いつもの照れ初々しい彼ではない。
魔王モードの時の彼だ。
表情はいかにも冷酷そうなもので、怪しく光る赤い瞳からは恐ろしさが溢れており、黒の髪や外見や声からはいかにも闇の王というような雰囲気が漂っている。
「彼女に触れるな人間」
「なっ、お前、何も……ま、まさかっ……魔王か!?」
「そうだ」
「ちっ。何だ、邪魔するな! 生け贄は絶対返さない、ってか!? や、やはり、魔王は強欲だな!」
マオンは、私の腕を掴んでいたぺパスの腕を掴み、捻る。
「あだだだだ!」
「この手を離せ。さもなくば……腕を断ち切る」
「い、いたっ、いだだだ、だ!! 離す! 離すから! 離せばいいんだろ!!」
ぺパスは慌てて私の腕から手を離した。
「人間の王子、残念だが、彼女を取り戻すことはもうできない。差し出したのはそちらであろう? 今さらなかったことにはできないのだ」
マオンの表情には静かな怒りの色があった。
そんな彼を見るのは初めてかもしれない。
「よいから、去れ」
「え、偉そうだな! こっちは王子! 俺は王子なんだ!」
「知らぬ」
「威張るな!」
「なら……やり合うか?」
視線だけで圧をかけるマオン。彼は手を出しはしなかったが、それでも、ぺパスはすっかり小さくなってしまった。マオンの目つきによる圧力、たったそれだけのものに、ぺパスは敗北してしまったようだ。
「わ、分かった! もう帰る!」
「今すぐ帰れ、去れ」
「はいはいはい! 分かった! 帰るから!」
こうしてぺパスは逃げるように去っていった。
彼がいなくなってから。
「あ……ロレーニアさん、あの……」
「マオン様?」
「先ほどの言葉……」
「言葉?」
「え……と、あの、ここで生きてゆくと決めましたので、と、いう……言葉……なの、だが……」
それか、と、思い出す。
「その……本当の気持ち……ですか?」
マオンは控えめに尋ねてきた。
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