幼馴染みで婚約者だった彼に切り捨てられてしまいましたが、自分にできることをしながら生きていたところ意外な良縁に恵まれました。

四季

文字の大きさ
23 / 23

23話「その時が来たのなら」

しおりを挟む
 ある日のこと、ラムティクが自宅へやって来た。

「こんにちは!」

 珍しく前もっての連絡がなかったのでかなり驚いたけれど不快ではないので対応はする。

「殿下、通りかかられたのですか?」
「なぜ」
「いつもは連絡をくださいますよね。それがなかったので。もしかしたらたまたま通りかかられたのかな、と」
「ああ、そういうことでしたか。確かに仰る通りです」

 ラムティクがほんの少し苦々しげに笑みをこぼした。

「驚かせてしまいすみませんでした」
「いえ」
「ですが今日は特別なのです」
「……特別?」
「はい。遊びに来ただけではないのです。それゆえ急に来てしまいました」

 彼がそんなことを言うのは珍しいので意外に思った。

「私……もしかして何かやらかしてしまいました?」
「いやそうじゃなくてですね」
「そうですか? ああ良かった。ついに無礼をやらかして怒らせてしまったかと……」

 正面に立ったラムティクの背筋はいつも以上に伸びている。

 その姿はやはり高貴だ。
 どこにでもいるような一般人とは一線を画した品格をまとっている。

 楽しくのんびり過ごしている時には至って普通の男性といった感じなのに。

 ……いや、違う、そうじゃない。

 一緒にいる時の彼は自然体。だから変に格調高さを感じさせてはこない。けれどもそれは高貴でないこととイコールではないのだろう。飾らない、ありのままの、そんな姿を見せてくれているから、嫌みがないというだけで。彼の身に宿る絶対的な品格はきっとどんな時も消えてはいない。敢えてそれを強調してはいないというだけで。

「マリエさん、共に生きてくださいませんか」

 そう言って彼は小さな箱を取り出す。

「ぇ」

 ――何が起きた?

「想いを伝えたくて本日はここへ来ました」

 ちょ、ちょちょちょ……な、なにこれ……?

「そしてこちらを」
「え、えとっ……これ、は……」
「生涯を共にしたい相手を見つければこの指輪を渡す。それが、我が王家に代々伝わる求婚の儀なのです」

 理解が追いつかない。

「あの……ちょ、ま、待ってください!!」
「え?」
「い、いきなりすぎます! 何の話ですか? 求婚? 展開が早すぎて理解が追いつきません!」

 思ったことをそのまま言ってしまって、後悔しそうになって、けれども目の前にいる彼の表情に安堵する。怒っている感じではなさそうだ。

「答えを聞かせてください」

 ああ、そうか。

 その時が来たんだ。

 なら恐れは捨てよう。

 そして、今こそ――。


 ◆


 あれから数年、私マリエ・フローレニシアは、王子ラムティク・オム・ディーヴォンの妻として生きている。

「ラムティク、書類できたわ」
「え。……もうできたの!? 早いね!?」
「もう数日経ってるでしょ」
「あ、そうか。……すごいな、マリエは。いつだって仕事熱心だし、寄り添ってくれるし、良いところが多すぎる」

 ラムティクと結ばれた私は幸せのただなかに在る。

 だからこそ、彼のためにできることはすべてする。


◆終わり◆
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

「愛される価値がない」と言われ続けた伯爵令嬢、無口な騎士団長に拾われて初めて「おかえり」を知る

歩人
ファンタジー
伯爵令嬢フリーダは、婚約者の子爵に「お前は愛される価値がない」と 公の場で婚約を破棄された。家族にも「お前が至らないから」と責められ、 居場所を失った彼女は、雨の中を一人で歩いていた。 声をかけたのは、"鉄面皮"と呼ばれる騎士団長グスタフだった。 「屋根がある。来い」——たった一言で、彼女を騎士団の官舎に迎え入れた。 無口で不器用な男は、毎朝スープを温め、毎晩「おかえり」と言い、 フリーダが泣くと黙って隣に座った。それだけだった。 それだけで、フリーダの凍りついた心が溶けていった。 半年後、落ちぶれた元婚約者が「やり直そう」と現れたとき、 フリーダは初めて自分の言葉で言えた。 「私にはもう、帰る場所がありますので」

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

わたしと婚約破棄? では、一族の力を使って復讐させていただきますね

ともボン
恋愛
 伯爵令嬢カスミ・リンドバーグは、第二王太子シグマとの婚約お披露目パーティーで衝撃的な告白をされる。 「カスミ・リンドバーグ! やはりお前とは結婚できない! なのでこの場において、この僕――ガルディア王国の第二王太子であるシグマ・ガルディアによって婚約を破棄する!」  理由は、カスミが東方の血を引く“蛮族女”だから。  さらにシグマは侯爵令嬢シルビアを抱き寄せ、彼女と新たに婚約すると貴族諸侯たちに宣言した。  屈辱に染まる大広間――だが、カスミの黒瞳は涙ではなく、冷ややかな光を宿していた。 「承知しました……それではただいまより伯爵令嬢カスミ・リンドバーグではなく、ガルディア王国お庭番衆の統領の娘――カスミ・クレナイとして応対させていただきます」  カスミが指を鳴らした瞬間、ホール内に潜んでいたカスミの隠密護衛衆が一斉に動き出す。  気がつけばシグマは王城地下牢の中だった。  そこに現れたのは、国王バラモンと第一王太子キース――。  二人はカスミこそ隣国との戦争で王国を勝利へ導いたクレナイ一族の姫であり、シグマの暴挙は王家にとっても許されぬ大罪だとしてシグマとの縁を切った。  それだけではなく、シグマには想像を絶する処罰が下される。  これは婚約破棄から生まれる痛快な逆転劇と新たなラブストーリー。

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

つかぬことを伺いますが ~伯爵令嬢には当て馬されてる時間はない~

有沢楓花
恋愛
「フランシス、俺はお前との婚約を解消したい!」  魔法学院の大学・魔法医学部に通う伯爵家の令嬢フランシスは、幼馴染で侯爵家の婚約者・ヘクターの度重なるストーキング行為に悩まされていた。  「真実の愛」を実らせるためとかで、高等部時代から度々「恋のスパイス」として当て馬にされてきたのだ。  静かに学生生活を送りたいのに、待ち伏せに尾行、濡れ衣、目の前でのいちゃいちゃ。  忍耐の限界を迎えたフランシスは、ついに反撃に出る。 「本気で婚約解消してくださらないなら、次は法廷でお会いしましょう!」  そして法学部のモブ系男子・レイモンドに、つきまといの証拠を集めて婚約解消をしたいと相談したのだが。 「高貴な血筋なし、特殊設定なし、成績優秀、理想的ですね。……ということで、結婚していただけませんか?」 「……ちょっと意味が分からないんだけど」  しかし、フランシスが医学の道を選んだのは濡れ衣を晴らしたり証拠を集めるためでもあったように、法学部を選び検事を目指していたレイモンドにもまた、特殊設定でなくとも、人には言えない事情があって……。 ※次作『つかぬことを伺いますが ~絵画の乙女は炎上しました~』(8/3公開予定)はミステリー+恋愛となっております。

妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです

藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。 ――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。 妹は父の愛人の子。 身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、 彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。 婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、 当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。 一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。 だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。 これは、誰かが罰した物語ではない。 ただ、選んだ道の先にあった現実の話。 覚悟のなかった婚約者が、 自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。

遊び人の婚約者から面白くないと言われたうえ婚約破棄されました――が、彼から解放されて前向きになれ、また、幸せにも出会えました。

四季
恋愛
遊び人の婚約者から面白くないと言われたうえ婚約破棄されました――が、彼から解放されて前向きになれ、また、幸せにも出会えました!

「貴女、いい加減コンロコ様から離れてくださらないかしら」婚約者の幼馴染み女からそんなことを言われたのですが……?

四季
恋愛
「貴女、いい加減コンロコ様から離れてくださらないかしら」 婚約者の幼馴染み女からそんなことを言われたのですが……? ※一部修正しました。そのため、見づらい等ありましたらすみません。(>_<)

処理中です...