いつか獣になりたいふたり

南條ゆりか

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 恋愛対象が男性に限られている貴正には、出会いと同時に失恋してしまう場合が多い。
 出会いを求めるなら、仲間だけが集まるコミュニティ内で探すのが一番安全なのだが、ごく稀に、ふとした時に「仲間の匂い」を感じることがある。

 ある日の放課後、誰もいない教室で、ある生徒の机をそっと触れている蓮を見かけた。
 その愛しさと寂しさを混ぜ合わせた表情が、諦めの陰を落としていく様に、貴正は自分の高校時代を重ね、同情した。

 かわいそうに。近しい存在への恋ほど、苦しいものはないのに。

 廊下からの不躾な視線に気づいたのか、蓮が不意に顔をあげた。

「あれ、先生?    どうしたんですか?」

 クラスメイトとじゃれ合うときの、カラッとしたいつもの明るい声だった。

「最終下校の見回りだよ。お前こそ、まだ帰らなかったのか」
「んー、忘れ物したんで」

 忘れ物……ね。あんなに切なげに男子の机を撫でていたくせに。

「部活の後の教室への入室は禁止だぞ」
「解ってますって。今回は許してくださいよ。課題のノートを忘れちゃったんで、仕方なく。もう帰ります」
「気をつけて帰れよ」
「はーい」

 当たり障りのないやり取りで蓮を見送った。
 日々の忙しさに忙殺されて、すっかりそのことを忘れていた貴正の元に、「相談がある」と、蓮はやってきた。

「先生、退学届けの書き方を教えてください」
「は!? なんで?」
「だって先生、俺の担任でしょ」
「そうじゃなくて……!」

 しれっと重大な決意を告げる蓮を引きずるようにして、貴正は面談室に駆け込んだ。面談室は職員室とは違い、人目を気にすることなく相談ができる個室だ。
 机と椅子と、棚に進路に関する資料が並んでいるだけの、8畳ほどの簡素な部屋で、内鍵をかけることができるので、会話を誰にも邪魔をされることがない。

「うち、母親ひとりのシングル家庭なんですよ。父親はいるんですけど、別の家の人間で。母親はちゃんと正社員で働いているんですけど、俺が第一志望の公立を落ちて私立ここに通うことになって、経済的に負担かけちゃったなと。来年には妹が受験生で、もし妹も私立に行くようなことになったら、学費以外にもすごくお金がかかるし。かと言って、妹に行きたい学校を諦めさせたり、ランクを下げさせるのも違うなって」
「ちょっと待て、まずは座って話そう」

 いくらなんでも、情報が多すぎだ。
 落ち着いて話し合うために、2人は対面して椅子に座った。
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