いつか獣になりたいふたり

南條ゆりか

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「あ……ごめん。聞いてなかった。てゆうか、先生のことを考えてた」
「え、何それ。笑う」

 だよね……。

 恥ずかしくなって、蓮は慌てて食事を再開した。豚肉にかかっているわさびソースが、辛味より爽やかさを演出ている。

「それ、美味しそう」
「一口食べてみる?」

 料理はシェフがその日の気分で決めることが多いので、同じ料理がいつもあるとは限らない。
 蓮は豚のグリエを一口大に切り分け、自分の皿を貴正の方に寄せた。

 す、と、しなやかに伸ばされた腕。豚肉を突き刺すフォークに添えられた長い指。そして豚肉を迎え入れるために薄く開かれた唇。何もかもが、エロい。エロいとしか思えない。
 できることなら、あの口に怒張した自分のモノを突っ込んで、めちゃくちゃに蹂躙して泣かせたい。

「ん……これも美味い。ソースが良いね」
「わさびなのに辛くないよね」

 いやいやいやいや! わさびなんて、どうでもいいから!!

 嚥下するあの喉元に食らいつきたい。あの指に自分の指を絡ませて、逃がしたくない。

 ……なーんて、バカじゃね!? さかってんじゃねーよ!!

「先生のもちょうだい」

 熱を持ったように火照った顔は、多分、真っ赤になっている。
 蓮は己の欲望を誤魔化すように、貴正の皿の牡蠣をフォークで突き刺した。

 噛んだ瞬間、口の中に磯臭さが広がった。むっちりとした見た目に反して、どろりとした歯ごたえのなさに、顎が疼くような心地になる。
 奇怪な生き物の残骸が、口の中にいつまでもへばりついている不快感に、蓮は顔をしかめた。

「嫌いなら無理するな」

 と、貴正がレモン水を差し出した。

 冷たいレモン水を一気に流し込む。レモンの香りが磯臭さをほとんど洗い流した。まだ不快感は残っているが、我慢できないほどではない。

「食べられるかと思って」
「なるほど」
  
 さして興味もなかったのか、話題はクリスマスのことに変わった。
 クリスマスプレゼントのリクエストを尋ねられて、蓮は驚いた。まさか、貰えるなどと思っていなかったのだ。

「お、おまかせで!」
「それ一番困るやつ」

 困った表情で笑う貴正も、もちろん素敵だった。

「俺も先生にプレゼントしたい」
「じゃあ……クリスマスは蓮が行きたいところに行こう」
「それ、俺からのプレゼントじゃなくない?」
「そうかな? 俺のしたいことを考えたらそうなるけど」
「欲しいものはないの?」

 聞いた後で、愚問だと気づく。
 子供の自分がバイトで稼いで買えるものは、既に働いている貴正には普段から手に入れられるものばかりなのだから。
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