最強の女戦士ここにあり

田仲真尋

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レイズマウンテン

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僕とサーシャ様は、オタムから西の方角へ向かいました。目的地があるわけではありません。サーシャ様の思いつきです。

このまま北西に行けば、ソルディウス国の中心部であるカヴァリに行くことになるでしょう。

ピーター・ドレイク王の居城、ワルツ城は是非とも観ておきたい歴史ある古城です。

ですが、その前に険しい山を越えなければなりません。レイズマウンテンという山です。ちょうど僕らが居る、この場所がそうです。


レイズマウンテンは普段、人が気軽に通るような山ではありません。手付かずの大自然が僕らを待ち受けていました。


「サーシャ様。何もこんな所を通らなくてもいいのでは?避けていくことも出来るのですよ。」


「仕方ないだろ。来てしまったからには真っ直ぐ突っ切るしかない。私は後戻りするのが嫌いなんだ。」


ただの面倒くさがりともいいますがね。ただ、これ以上刺激して、ご機嫌斜めになられても困りますので、黙って歩くことにしましょう。

幸いなことに、どうやら人が通っている形跡の道があったようで、随分と歩き易くなりました。

こうなってくると気分はまさにピクニックです。お弁当を持参してくるべきでしたね。


僕らは暖かな陽射しを受けながら、気持ちよく歩いていきます。

……しかし、さっきから何だか耳障りな音が後方からずっとしていますね。虫でしょうか?ずっとついてくるような、そんな気がしてなりません。

僕は、ふと後ろを振り返ってみました。


「ぎゃああ!」


「なんだピート、騒々しい――きゃああ!」


僕らのすぐ後ろで羽ばたいていたのは、巨大な蝿でした。

それも何匹もです。

こんな光景見たことありません。僕は恐怖のあまりサーシャ様を置き去りにして走り出しました。大丈夫、サーシャ様ならあんな虫ごとき一瞬にして退治してくれるはず――!

その時でした。僕の真横を凄まじいスピードで追い抜くサーシャ様の姿が。


「ち、ちょっとサーシャ様。あの虫どもを退治してくださいよ。」


「冗談じゃないぞ。私は虫は駄目なんだ。」


なんということでしょう。まさか、あのサーシャ様が虫を苦手だったとは驚きです。ちなみに僕も苦手ですが。


「サーシャ様。虫くらいなんですか。そんなことでは最強なんて遥か遠くですよ。さあ早く駆除してください。」


「ば、ばか!あれはもう虫ではない。虫の概念を覆す程の大きさだぞ。」


虫の大きさに定義などあるのでしょうか?ただ単に怖いから逃げているようにしか聞こえません。

でも、どうでしょう?僕達は相当速く走ってきました。もう、蝿どもはいないのではないでしょうか。僕は、おそるおそる振り返ります――いた!

まだ追ってきます。これは何かの意思を持った蝿に違いありません。

これでは切りがない。僕は仕方なく立ち止まりました。

ご主人を守るのも従者の務めですからね。


「ファイア!」


僕は低級魔法ファイアで迫り来る化け物どもを次々と灰にしてやりました。


「おお!ピート、お前魔法が使えたのか!?」


「最近覚えたんですよ。何かの役に立つと思って。」


「凄いじゃん!見直したよ。よくやった。」


見直したって。僕はそんなに駄目キャラでしたっけ?と言いたくなりましたが我慢我慢です。


「おのれ人間風情が私の子供たちを、許さん!」


どこからか気味の悪い声がしました。僕達は声の主を探しました。すると木の上から黒い物体が降ってくるように飛んできました。


「ぎゃああああ!」


僕とサーシャ様は同時に悲鳴を上げました。だってさっきより巨大な蝿が人の言葉を喋っているのですよ。そりゃあ悲鳴くらい上げますよ。


「な、なんだ貴様は!?」


サーシャ様は震える声でそいつに尋ねた。


「私か?私はボトフライだ。この山に迷いこんだ人間を食って生活している者だ。よってお前たちは私に食われることになる。頂きます。」


ボトフライは羽ばたいて、こちらへ飛んできた。


「ピート、焼き尽くせ。」


「了解です。ファイア!」


炎がボトフライに飛んでいく。

しかし、奴は僕の放った炎をなんと息だけで弾き飛ばした。


「な、なんて奴だ。ピート、他の魔法は?」


「……ありません。」


「なに!?役に立たないじゃないか!」


そんなことを言われても困ります。そもそも僕は魔法使いではありませんので。


「こうなったらサーシャ様の剣だけが頼りです。お願いします。」


「いやいや無理無理!あんな気持ち悪いの相手には戦えないって。」


確かに気持ち悪いです。ですが倒さなければ僕達は食われてしまうことになります。この魔物を倒す方法――これだ!


「サーシャ様、これを。」


「なにこれ?」


「目隠しして戦えば気持ち悪くないはずです。ナビゲートは僕にお任せください。」


「だ、大丈夫か?」


もうこの手しかありません。


「いきますよサーシャ様!」


サーシャ様は渋々剣を抜いて構えた。

ボトフライは真っ直ぐサーシャ様に突っ込んできました。


「サーシャ様横に避けて!」


さすがに反射神経の良いサーシャ様です。ボトフライをあっさりとかわしました。


「おのれ!小賢しい!」


またしてもボトフライが突っ込んできます。

しかし、これも先程と同じように軽く避けきれました。

ここで僕は、あることに気づきました。

もしかしたらボトフライは真っ直ぐにしか攻撃できないのではないだろうか、ということにです。

だとしたらタイミングを合わせれれば簡単に真っ二つに斬れます。


「サーシャ様、僕の合図で剣を降り下ろしてください。いきますよ。一、二、三、今です!」


サーシャ様は剣を勢いよく降り下ろしました……早すぎました。タイミングが合いません。

ボトフライはサーシャ様に向かって一直線です。

ですが、これをサーシャ様は自力で避けました。

これはもしかして?

目は塞がっていますが、おそらくサーシャ様は音を聞いて回避したのではないでしょうか。


「サーシャ様。奴の、ボトフライの羽音を聞いてください。」


あれだけブンブンと不快な羽音をだしているのです、耳の良いサーシャ様ならきっとやってくれるでしょう。


「さっきからちょこまかと。今度こそ食ってやる!」


ボトフライは怒りに任せて、これまでよりも速度を上げてサーシャ様に突撃しました。


「――ここだ!」


サーシャ様の振った剣が見事にボトフライを捉えました。

ボトフライは真っ二つになり地面にボトッと落ちました。すかさず僕は、まだ息のあるボトフライをファイアで焼き尽くしました。


「ふーっ。何とか倒せたみたい。」


「さすがサーシャ様。完全勝利ですね。」


するとサーシャ様は僕をジロリと睨みつけました。何でしょうか?僕が一体なにを……?


「ピート。主として命じる。魔法の鍛練を毎日続けなさい。」


これを手っ取り早く理解すると、面倒な敵が現れたら僕が倒さなければならないというこに他なりません。

この旅は僕の修業ではないのに、といったことは申しません。

こんな時は素直に、

「はい。かしこまりました。」と、言っておけばよいのです。


こうして僕らは薄気味悪いレイズマウンテンを無事に越えることが出来たのでした。


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