最強の女戦士ここにあり

田仲真尋

文字の大きさ
67 / 132

黒鋼と約束

しおりを挟む
麒麟という盗賊団のアジトに連れていかれた僕は毎日、雑用をこなしていました。

ここまでは、ヘミング家にいた頃と何ら変わりありません。

しかし、大きく変わった事が二つありました。

一つは、暴力を振るわれなくなったこと。

何故か麒麟のメンバーは僕に優しかった。

それと、もう一つは剣の稽古を始めたこと。

将来的には僕も、戦力として使えるようにしときたかったのだと思われます。

だけど、当時の僕にはそんなこと理解できませんでした。

ただ、剣の修行が楽しくてたまらなかった。僕は夢中になって剣を振りました。その甲斐あって、三年が経った頃には麒麟の中でも、一 、二位を争うほどの実力を身につけていました。


「ピート。お前も次の任務に連れていく。」


盗賊団の頭、エッジは僕にそう言いました。

僕は驚きも怖くもありませんでした。

すぐに、そうなると分かっていたからです。

そして、最初の仕事で僕は初めて人を殺めました。

罪悪感などありませんでした。

ただ、その時に斬った感触、男の顔だけは今でもよく覚えています。


「よく、やった。今日からお前は攻撃隊長に就け。」


エッジにそう言われた時に、僕は麒麟に来て初めて笑顔がこぼれました。

これまでの人生で初めて人に認められたのです。


僕は麒麟で獅子奮迅の働きをしました。

そして、あっという間に二年の月日が流れました。

僕は十五歳になっていました。

この頃になると、盗賊団に対して少し疑問を持つようになりました。

いつまで、こんな事を続けるのか?

僕は、もっと大きな事をしたくなっていました。

その事をエッジにストレートにぶつけてみました。

当時の僕とエッジは、とても良好な関係性にあったので、僕は彼に何一つ隠し事はしなかった。


「ピート。俺達は、このキリエスという国を変えたいと思っているんだ。もちろん、盗賊なんかやっている俺が言っても説得力なんかあるわけないがな。」


「変えるって?」


「究極を言えば、キリエスを滅ぼし、格差のない新しい国を作ること。しかし、そんなに簡単なことではない。だから、今はキリエスが無視できない程の規模の組織を作りあげることが重要なんだ。その為には資金が要る。俺だって早く盗賊業から足を洗いたい。だけど、まあ、まだまだ先は遠いな。」


麒麟がターゲットとしていたのは、キリエス王家との繋りが深い者ばかりでした。

金銭は、麒麟の活動費と募金で蓄えなど、ほぼありません。

しかし、キリエスに反感をもっている人々は沢山いました。

そのため、団員は増加していく一方でした。

もしも、このまま麒麟が活動を続けていけば、キリエスで反乱を起こせるほどの規模になっていくのかもしれません。


「ピート……悪いな。」


エッジが何に対してそう言ったのか。

その真意が何だったのか、今でもよく分かりません。

ただ、僕にはエッジという男を支えるという、人生の目標ができたことを彼に感謝したかった。


僕たちの活動が次第に活発化していったのは、その数ヶ月後でした。

だんだんと、キリエス国も麒麟を本気で追い始めました。

僕らは、お尋ね者なのです。

まあ、盗賊なので当然といえば当然ですね。


そして僕には三十人の手下ができました。

全員が僕より遥かに歳上でしたが、そんなことは関係なく、しっかりと、ついてきてくれました。


「ピート隊長、今日も素晴らしい働き、ご苦労様。」


「ヴァン、あなたも充分な働きでした。」


僕の部下で一番頼りになる男がヴァンでした。

腹心として働いてくれた彼は、僕と親子の差ほど年が離れていました。

立場は違えど、僕は彼を父親のように感じていました。


そんな、ある日。

任務がなかったこの日、僕らは西の砦でゆっくりと時を過ごしていました。

麒麟のアジトは大きく分けて三つありました。

エッジがいる中央の砦。僕が仕切っていた西の砦。もう一つは東の砦で、他の部隊が常駐していました。


「隊長!大変だ!キリエスが攻めてきた!」


僕は、すぐに剣を持ち、見張り台へと走りました。

そして、そのキリエスの軍勢を見て、唖然としました。

その数は、およそ千人。

しかも、それ以外に約二千程の軍勢がいるという報告を受けました。

僕らの砦には団員が百にも満たないくらいしかいません。

他の砦も同様で、圧倒的戦力差でした。

望遠鏡で東の砦を見てみると遠巻きにですが、煙が上がっているのが見えました。

恐らくもう陥落させられたのでしょう。


そして、この西の砦にも、あっという間にキリエス兵が、なだれ込んで来ました。


「ピートさん!報告があります。」


どうやら中央からの使いの者らしいです。


「中央は――エッジさんは!?」


すると、その使いの者は、僕に剣を差し出しました。


「頭は中央に残りました。ですが、恐らくもう……。それで、ピートさんに、これを渡してくれと頼まれました。」


それはエッジの剣、黒銅でした。

彼は、死の覚悟を決めたのでしょう。

そして、その意思を僕に託した。

……だけど……僕は、その期待には応えることができない。

この時、僕はエッジや他の団員と共に、死ぬまで戦うつもりでした。


「隊長、ここは逃げてください。」


そんな僕の心中を見透かしたように、ヴァンが言いました。


「な、なにを?隊長の僕が逃げるわけには、いかない。」


「――うるせえ!いいから、黙って行け。頭、だってそう望んだはずだ!」


僕は、心底驚きました。

これまでは、どんなことがあろうと僕に逆らったことがなかったヴァンが、すごい剣幕で怒鳴りつけてきたのです。


「で、でもヴァン、あなたを見捨ててなんて、行けないよ。」


すると、険しい顔をしていたヴァンの表情が緩みました。


「隊長。俺はあんたの倍ほど生きてきた。もう、充分だ。だけど、あんたはまだ若い。これから、色んな事を経験しろ。それで、これだけは約束してくれ、最低でも俺と同じ年になるまで、死なないってね。」


僕は、自分の記憶にある短い人生で初めて泣きました。

そして、涙を流したまま、大きくヴァンに頷いてみせました。


それから、僕は無我夢中で山の中を走り続けました。

腕の中にはエッジの形見である黒銅を抱いて。



それから二ヶ月ほど、僕は路頭に迷いながら何とか生きていました。

そして、気づけばマビン・グラスへと辿り着いていました。

どうして、こんな所にやって来たのかは自分でも謎でした。

ふらふらと、マビン・グラスの、とある酒場に入り、席に腰を下ろしました。

フードを深く被って、僕は目立たないように息を潜めます。

ちょうど僕の隣の席にキリエス兵三人が座っていました。

彼らの口から『麒麟』というワードが出た瞬間から、僕は彼らに意識を集中することに心血を注ぎました。


「こないだの麒麟とかいう盗賊団、たいしたことなかったな。」


「ああ、あれは楽な仕事だったぜ。あんな任務なら、いつでも歓迎だな。」


「奴等のリーダーなんて、いつの間にか始末されちまってて、後で身元確認するのが大変だったぞ。まったく、リーダーならもっとリーダーらしくして欲しいものだな。ワハハハ。」


三人は、麒麟の話を酒のつまみにして、盛り上がっていました。

僕は、その三人が店を出るまで、じっとしてました。

そして、彼らが外へ出たのを見計らい、背後から近寄り、あの世へと送ってやりました。


それ以降、僕はキリエス兵を斬りまくりました。

そして、あっという間に僕はキリエスでの賞金首になりました。

それでも毎日毎日、キリエス兵を見つけては惨殺しました。

これは、僕にとっての復讐でした。

今でもキリエス兵を見かけると、思わず行動に移したくなる衝動が、確かにあります。

ですが、今は他にやらねばならないことを優先すべきですね。


「今夜はここに泊まろう。」


サーシャ様の一言に、すっかり昔を思い出していた僕は我に返りました。


「そうですね。ここにしましょうか。」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

処理中です...