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魔界への訪問者
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「彼が、このフルガイアへ突然やって来た日、この街は軽いパニックに陥ったんだ。人間が攻めこんで来たってね。」
人間に免疫がないのだから、そうなっても仕方ないかもしれませんね。
僕らの場合は、最初から来訪することが分かっていたので、スムーズにここへ来れました。
しかし、突然とはいえ人間が一人やって来ただけでパニックになるなんて、なんだか可笑しいですね。
彼らは、人間よりも個の力が遥かに優れているんですから。
「ブラウン・ドレイクが、どうやってフルガイアに来たのかは不明だった。もちろん当の本人さえも理解していなかった。おそらくは、時空の狭間にでも迷いこんだのだろう。」
そんなパターンもあるのですね。
世の中、何があっても不思議はないということですね。
「彼は数年の間、このフルガイアで時を過ごした。君達には想像がつかないと思うけど、ブラウン・ドレイクはフルガイアの民に愛された唯一の人間だった。」
僕らにとってキリエスという国自体の印象が良くないですからね。その国の支配者というのだから、やはり悪のイメージを払拭できません。
「ブラウン・ドレイクは、このフルガイアを大層気に入り、自分の国にも同じ名前をつけることを望んだ。その代わり、フルガイアへの一切の協力を惜しまないことを誓ったのだ。この時から、同じ名を冠す二つのキリエスは協力関係を築いた。まあ、時代が変わりその関係性は、いびつなものに変わってしまったがね。」
「それでは、今のドレイク三世との関係は?そもそも現国王のドレイク三世は生きているのですか?それともアイスに消されてしまっているのですか?」
ローラスは矢継ぎ早にディミトリさんへ疑問を投げつけました。
「ローラス君、質問は一人一つまでだよ。やっぱりゲームはルールを守らなきゃつまらないだろ。」
「分かりました。俺の番は終わりだな。」
それでは次は僕がいきましょう。
そう思っていたのですが、
「じゃあ続いて私の質問にお答えください。」と、声を上げたのはジャクリンさんでした。
「アイスとはいったい何者なのです?ザラスという国を治めていますが、彼もまたフルガイアの民だということは調べがついています。そうとなれば、ディミトリさん、貴方も今回の件に関わっておいでなのでは?」
ジャクリンさんは、真剣な眼差しでディミトリさんを見つめていました。
その瞳に映るのは強い信念。
もしかしたら、レジェスとジャクリンさんは、フルガイアの長であるディミトリさんを討ち取りにやってきたのではないだろうか?ディミトリさんの返答次第では、それもありえるかもしれません。
そうなったらサーシャ様は、いったいどうするのでしょうか。
僕はサーシャ様の判断に、どこまでもついていきますよ。
「アイスは、かつて私の手下だった。しかし、あいつは私の手を離れていった。そして今、アイスは人間界を支配しようとしている。人間界を牛耳った後、おそらくこのフルガイアを攻め滅ぼす気だろう。人間という駒を使ってね。私はそれを何とか食い止めたいと考えている。」
「なるほど。それでは、この件についてディミトリさんは関与していないということでよろしいですか。」
「もちろんだ。本当なら私が人間界へ出向き、アイスを自ら処分しなければならないのだが、恥ずかしながら私に、そんな力は残っていない。だがもし、あいつがフルガイアへと帰還したのならば私の残る力で必ず倒してみせる。」
「ディミトリさん、貴方の気持ちはよく分かりました。私の質問は、以上です。」
やはり僕の見立てた通りだったようです。
さっき、ディミトリさんが話している最中、レジェスから少しの殺気を感じましたから。
ですが、どうやらディミトリさんはアイスの陰謀とは関係なさそうなので、ほっとしました。
もし戦いになれば、サーシャ様は十中八九ディミトリさん方に加勢するでしょう。
そうなれば、僕も必然的にそうなります。
今のレジェスと戦わなければならないとなると、僕は死亡確定でしたからね。
「じゃあ次は私。どうしよっかな。」
シエルさん……決めていないのなら僕に順番を譲ってくださいよ。
「そうだ、決めた。ディミトリ、マリアのことをサーシャに話してあげて。」
その名前は確か、以前パークさんから聞いた、サーシャ様の母上の名前ですね。
シエルさんにしては、なかなか気配りのできた質問です。
この機会を逃せば、一生母上について何も知らないまま生きていかねばならないかもしれませんから。
「……マリアか。そうだな、サーシャには知っておいてもらいたい。」
ディミトリさんは一瞬、躊躇った表情を見せましたが、すぐに決意のこもった顔つきに変わりました。
「まず、最初に言っておくがマリアは人間だ。つまり、サーシャはフルガイアの民と人間との混血ということだ。」
その事については、大方の予想通りですね。
「我々フルガイアの民は人間のおよそ三倍ほどの寿命がある。それをどこまでサーシャが引き継いでいるかは、私にも分からない。」
これは初耳でした。
恐ろしいほどの長生きをするのですね。
するとサーシャ様も実はお婆ちゃんくらいの歳だったりして。
いや、考えたくもないことです。
「マリアは、人間界では稀な家系に生まれた。その一族は非常に高い魔力を持ち合わせていたんだ。しかし、その異質さ故に他の人間たちからは忌み嫌われた一族でもあった。山奥でひっそりと暮らす、その一族の中にマリアは居たんだ。」
サーシャ様はディミトリさんの話しに熱心に聞き入っていました。
その表情は、どこか寂しそうでもありました。
「私が人間界に行っていた時に彼女と偶然知りあい、そして恋に落ち、お前が産まれた。本来、フルガイアの民と人間が交わることなど誰も想像していなかったことで、お互いの家からは壮絶な反対をされたが、私たちは何とか周囲を認めさせた。」
それは、とてつもなく困難な壁だったでしょう。
考えただけでも、凄いことです。
「マリアは、フルガイアへと移り住んだのだが、ここでも居場所がなかった。私が不甲斐ないばかりに、マリアには辛い思いをさせてしまった。マリアにとって希望はサーシャ、お前だけだった……。」
ここから、ディミトリさんは少しの間、言葉を詰まらせました。
そして、それは言葉を慎重に選んでいるようにも見えました。
人間に免疫がないのだから、そうなっても仕方ないかもしれませんね。
僕らの場合は、最初から来訪することが分かっていたので、スムーズにここへ来れました。
しかし、突然とはいえ人間が一人やって来ただけでパニックになるなんて、なんだか可笑しいですね。
彼らは、人間よりも個の力が遥かに優れているんですから。
「ブラウン・ドレイクが、どうやってフルガイアに来たのかは不明だった。もちろん当の本人さえも理解していなかった。おそらくは、時空の狭間にでも迷いこんだのだろう。」
そんなパターンもあるのですね。
世の中、何があっても不思議はないということですね。
「彼は数年の間、このフルガイアで時を過ごした。君達には想像がつかないと思うけど、ブラウン・ドレイクはフルガイアの民に愛された唯一の人間だった。」
僕らにとってキリエスという国自体の印象が良くないですからね。その国の支配者というのだから、やはり悪のイメージを払拭できません。
「ブラウン・ドレイクは、このフルガイアを大層気に入り、自分の国にも同じ名前をつけることを望んだ。その代わり、フルガイアへの一切の協力を惜しまないことを誓ったのだ。この時から、同じ名を冠す二つのキリエスは協力関係を築いた。まあ、時代が変わりその関係性は、いびつなものに変わってしまったがね。」
「それでは、今のドレイク三世との関係は?そもそも現国王のドレイク三世は生きているのですか?それともアイスに消されてしまっているのですか?」
ローラスは矢継ぎ早にディミトリさんへ疑問を投げつけました。
「ローラス君、質問は一人一つまでだよ。やっぱりゲームはルールを守らなきゃつまらないだろ。」
「分かりました。俺の番は終わりだな。」
それでは次は僕がいきましょう。
そう思っていたのですが、
「じゃあ続いて私の質問にお答えください。」と、声を上げたのはジャクリンさんでした。
「アイスとはいったい何者なのです?ザラスという国を治めていますが、彼もまたフルガイアの民だということは調べがついています。そうとなれば、ディミトリさん、貴方も今回の件に関わっておいでなのでは?」
ジャクリンさんは、真剣な眼差しでディミトリさんを見つめていました。
その瞳に映るのは強い信念。
もしかしたら、レジェスとジャクリンさんは、フルガイアの長であるディミトリさんを討ち取りにやってきたのではないだろうか?ディミトリさんの返答次第では、それもありえるかもしれません。
そうなったらサーシャ様は、いったいどうするのでしょうか。
僕はサーシャ様の判断に、どこまでもついていきますよ。
「アイスは、かつて私の手下だった。しかし、あいつは私の手を離れていった。そして今、アイスは人間界を支配しようとしている。人間界を牛耳った後、おそらくこのフルガイアを攻め滅ぼす気だろう。人間という駒を使ってね。私はそれを何とか食い止めたいと考えている。」
「なるほど。それでは、この件についてディミトリさんは関与していないということでよろしいですか。」
「もちろんだ。本当なら私が人間界へ出向き、アイスを自ら処分しなければならないのだが、恥ずかしながら私に、そんな力は残っていない。だがもし、あいつがフルガイアへと帰還したのならば私の残る力で必ず倒してみせる。」
「ディミトリさん、貴方の気持ちはよく分かりました。私の質問は、以上です。」
やはり僕の見立てた通りだったようです。
さっき、ディミトリさんが話している最中、レジェスから少しの殺気を感じましたから。
ですが、どうやらディミトリさんはアイスの陰謀とは関係なさそうなので、ほっとしました。
もし戦いになれば、サーシャ様は十中八九ディミトリさん方に加勢するでしょう。
そうなれば、僕も必然的にそうなります。
今のレジェスと戦わなければならないとなると、僕は死亡確定でしたからね。
「じゃあ次は私。どうしよっかな。」
シエルさん……決めていないのなら僕に順番を譲ってくださいよ。
「そうだ、決めた。ディミトリ、マリアのことをサーシャに話してあげて。」
その名前は確か、以前パークさんから聞いた、サーシャ様の母上の名前ですね。
シエルさんにしては、なかなか気配りのできた質問です。
この機会を逃せば、一生母上について何も知らないまま生きていかねばならないかもしれませんから。
「……マリアか。そうだな、サーシャには知っておいてもらいたい。」
ディミトリさんは一瞬、躊躇った表情を見せましたが、すぐに決意のこもった顔つきに変わりました。
「まず、最初に言っておくがマリアは人間だ。つまり、サーシャはフルガイアの民と人間との混血ということだ。」
その事については、大方の予想通りですね。
「我々フルガイアの民は人間のおよそ三倍ほどの寿命がある。それをどこまでサーシャが引き継いでいるかは、私にも分からない。」
これは初耳でした。
恐ろしいほどの長生きをするのですね。
するとサーシャ様も実はお婆ちゃんくらいの歳だったりして。
いや、考えたくもないことです。
「マリアは、人間界では稀な家系に生まれた。その一族は非常に高い魔力を持ち合わせていたんだ。しかし、その異質さ故に他の人間たちからは忌み嫌われた一族でもあった。山奥でひっそりと暮らす、その一族の中にマリアは居たんだ。」
サーシャ様はディミトリさんの話しに熱心に聞き入っていました。
その表情は、どこか寂しそうでもありました。
「私が人間界に行っていた時に彼女と偶然知りあい、そして恋に落ち、お前が産まれた。本来、フルガイアの民と人間が交わることなど誰も想像していなかったことで、お互いの家からは壮絶な反対をされたが、私たちは何とか周囲を認めさせた。」
それは、とてつもなく困難な壁だったでしょう。
考えただけでも、凄いことです。
「マリアは、フルガイアへと移り住んだのだが、ここでも居場所がなかった。私が不甲斐ないばかりに、マリアには辛い思いをさせてしまった。マリアにとって希望はサーシャ、お前だけだった……。」
ここから、ディミトリさんは少しの間、言葉を詰まらせました。
そして、それは言葉を慎重に選んでいるようにも見えました。
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