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mother
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「サーシャが産まれて、しばらくたった頃、ある出来事が起きた。それは、まったく予期せぬことだった。」
ディミトリさんの真剣な表情を、皆が読み取っているようで、次第に空気は張り詰めていきました。
「ある時、サーシャのパープルアイズが突然、覚醒し暴走を始めたんだ。私は止めようとしたが、サーシャの魔力が想像以上に強力で、それを抑えるには私も相応の力を出さなければならなかった。しかし、それでは幼子のサーシャの命まで奪う恐れがあった。」
やはりパープルアイズが覚醒すると自我を失ってしまうのですね。というよりは、コントロールしきれていないと言ったほうが正しいかもしれません。
「私は迷った。このまま無理な魔力を放出し続ければサーシャ自身の身をも滅ぼしかねい。その時だった。マリアがサーシャに寄り、抱きしめたんだ。彼女はサーシャの暴走した魔力を抑えつけようとはせず、それを全て受け入れた。もちろん、そんなことをすればマリアの身が危ない。しかし、彼女はそれを成し遂げた。サーシャの暴走を母の力で止めたのだ。」
その時のサーシャ様がどんな顔をしていたのかは、後ろにいた僕には分かりません。
ですが、きっと悲しい顔をしていたことでしょう。
だってディミトリさんだって今にも泣きだしそうじゃないですか。
「パープルアイズを覚醒させるには、通常長い年月と訓練が必要なんだ。それを産まれて間もないサーシャが覚醒したことについて、我々は危機感を覚えた。やはり人間との混血は災いを招くと言い出す者まで現れる始末だった。マリアは、その事に恐れを抱いたのだろう。私にも何の相談もなく、ある日彼女は自分の全ての魔力を注ぎ込み、サーシャに封印の術式を行ったんだ。」
それが、あのタトゥーだったのですね。
パラドール・ジグマにより封印は解かれましたが、サーシャ様も大人になりました。
また暴走されると困りますが、この前のレジェスとの稽古の最中では、上手くコントロールできていましたから、封印を解く時期としては良かったのではないでしょうか。
「結局、その後でマリアは体調を崩し、この世を去ってしまった。」
「……私のせいで、お母さんは……。」
「それは違う。お前のせいではない。マリアは死に際にこう言ったんだよ。『将来、この話をする時が必ずくる。そうしたらきっとサーシャは、私のせいでママを死なせてしまったと言い出すでしょう。だけど、それは母として当然のことをしたまで、その当然のことが出来たことが、どれだけ幸せだったことか。』と、彼女は言ったんだ。」
マリアさんのそれまでの人生は、きっと辛いことが多くあったんだと思います。
子供の為に自分の命を投げ出すという、母心を幸せに感じられる、マリアさんを僕は心から尊敬します。
「そして、最後にこう言ったんだ。サーシャ、ありがとう。ずっと愛しているわ、とね。」
その言葉にサーシャ様は泣き崩れました。
その場にいた誰もが、同じく涙しました。
一際、大泣きしていたのは何故かレジェスでした。
意外にも、彼は涙脆いのですね。
「お父さん、話してくれてありがとう。」
ディミトリさんは、何も言わず軽く微笑みながら頷きました。
それでは、次は僕の番ですね。
意気揚々と僕は手を挙げました。
「それじゃあ、ピート君。質問してくれ。」
「はい……何だっけ?」
先程の話しに夢中になってしまって、自分が訊ねたい質問を忘れてしまいました。
「『質問がなければ仕方あるまい。私がやろう』と、申しております。」
レジェスが僕の隙をついて橫入りしてきました。
しかし、僕は質問の内容を見つけられないので、ここは譲ってあげましょう。
「『私と勝負してくれまいか、ディミトリよ。』と、申しております。」
「レジェス君、それは質問じゃなくて要望だよね、却下。」
彼は何を考えているんでしょうか、阿呆ですね。
「『そこをなんとか。』と、申しております。」
「嫌だよ。君と戦ったって僕が負けるに決まっているじゃない。君の強さは、よく知っているつもりだからね。君の勝ち、それでいいじゃないか。」
「『フッ、それでは仕方あるまい。私の勝ちだ。』と、申しております。」
まったくなんですか、この――!
これだ!
僕は一つ聞いておきたい質問を思い出しましたよ。
これは、グッドなクエスチョンです。
サーシャ様にも関係するのですから、きっとグッジョブと言ってもらえるでしょう。
さあディミトリさん、ベストなアンサーをプリーズです。
「あの、ファシリアの血というのは?」
これは、ここフルガイアに来る前に、キリエスのグラス城の地下で戦った魔物が言った言葉です。
その魔物とサーシャ様、ディミトリさんには、魔法が効かないという、共通点があります。
そして、それはファシリアの血というのが大きく関係しているようです。
「ああ、ファシリアか。それはね、古来よりフルガイアに居た者達のことさ。時が流れて今では殆どいなくなってしまったけどね。まあ、だけど混血であるサーシャにもまだ、その血の影響が残っているということは、実は他にもファシリアの血が残っているのかもしれないね。」
「なるほど……それで?」
「それで?それだけだよ。」
なんか僕の番だけ短くないですか?
結構、良い質問だと思っていたのですが残念です。
「『よし、ピートよ出番は終わりだ。今度こそ私の番だ。』と、申しております。」
お、おのれレジェス。
君よりは僕の方が良い質問をしたはずですよ。
君のは、質問にさえなっていなかったではありませんか。
「『これより問う私の質問は、核心に迫るものだ。よく聞いておくのだピートよ。』と、申しております。」
なんだか腹立ちますね。
そこまで言うのなら聞いてあげましょう。
「『ずばり、デーモンズホールのことについて、洗いざらい吐いてもらおうか、ディミトリよ。』と、申しております。」
「デーモンズホールか……分かった、少し長くなるが話そう。」
この瞬間、僕は敗北を感じざるを得ませんでした。
ディミトリさんの真剣な表情を、皆が読み取っているようで、次第に空気は張り詰めていきました。
「ある時、サーシャのパープルアイズが突然、覚醒し暴走を始めたんだ。私は止めようとしたが、サーシャの魔力が想像以上に強力で、それを抑えるには私も相応の力を出さなければならなかった。しかし、それでは幼子のサーシャの命まで奪う恐れがあった。」
やはりパープルアイズが覚醒すると自我を失ってしまうのですね。というよりは、コントロールしきれていないと言ったほうが正しいかもしれません。
「私は迷った。このまま無理な魔力を放出し続ければサーシャ自身の身をも滅ぼしかねい。その時だった。マリアがサーシャに寄り、抱きしめたんだ。彼女はサーシャの暴走した魔力を抑えつけようとはせず、それを全て受け入れた。もちろん、そんなことをすればマリアの身が危ない。しかし、彼女はそれを成し遂げた。サーシャの暴走を母の力で止めたのだ。」
その時のサーシャ様がどんな顔をしていたのかは、後ろにいた僕には分かりません。
ですが、きっと悲しい顔をしていたことでしょう。
だってディミトリさんだって今にも泣きだしそうじゃないですか。
「パープルアイズを覚醒させるには、通常長い年月と訓練が必要なんだ。それを産まれて間もないサーシャが覚醒したことについて、我々は危機感を覚えた。やはり人間との混血は災いを招くと言い出す者まで現れる始末だった。マリアは、その事に恐れを抱いたのだろう。私にも何の相談もなく、ある日彼女は自分の全ての魔力を注ぎ込み、サーシャに封印の術式を行ったんだ。」
それが、あのタトゥーだったのですね。
パラドール・ジグマにより封印は解かれましたが、サーシャ様も大人になりました。
また暴走されると困りますが、この前のレジェスとの稽古の最中では、上手くコントロールできていましたから、封印を解く時期としては良かったのではないでしょうか。
「結局、その後でマリアは体調を崩し、この世を去ってしまった。」
「……私のせいで、お母さんは……。」
「それは違う。お前のせいではない。マリアは死に際にこう言ったんだよ。『将来、この話をする時が必ずくる。そうしたらきっとサーシャは、私のせいでママを死なせてしまったと言い出すでしょう。だけど、それは母として当然のことをしたまで、その当然のことが出来たことが、どれだけ幸せだったことか。』と、彼女は言ったんだ。」
マリアさんのそれまでの人生は、きっと辛いことが多くあったんだと思います。
子供の為に自分の命を投げ出すという、母心を幸せに感じられる、マリアさんを僕は心から尊敬します。
「そして、最後にこう言ったんだ。サーシャ、ありがとう。ずっと愛しているわ、とね。」
その言葉にサーシャ様は泣き崩れました。
その場にいた誰もが、同じく涙しました。
一際、大泣きしていたのは何故かレジェスでした。
意外にも、彼は涙脆いのですね。
「お父さん、話してくれてありがとう。」
ディミトリさんは、何も言わず軽く微笑みながら頷きました。
それでは、次は僕の番ですね。
意気揚々と僕は手を挙げました。
「それじゃあ、ピート君。質問してくれ。」
「はい……何だっけ?」
先程の話しに夢中になってしまって、自分が訊ねたい質問を忘れてしまいました。
「『質問がなければ仕方あるまい。私がやろう』と、申しております。」
レジェスが僕の隙をついて橫入りしてきました。
しかし、僕は質問の内容を見つけられないので、ここは譲ってあげましょう。
「『私と勝負してくれまいか、ディミトリよ。』と、申しております。」
「レジェス君、それは質問じゃなくて要望だよね、却下。」
彼は何を考えているんでしょうか、阿呆ですね。
「『そこをなんとか。』と、申しております。」
「嫌だよ。君と戦ったって僕が負けるに決まっているじゃない。君の強さは、よく知っているつもりだからね。君の勝ち、それでいいじゃないか。」
「『フッ、それでは仕方あるまい。私の勝ちだ。』と、申しております。」
まったくなんですか、この――!
これだ!
僕は一つ聞いておきたい質問を思い出しましたよ。
これは、グッドなクエスチョンです。
サーシャ様にも関係するのですから、きっとグッジョブと言ってもらえるでしょう。
さあディミトリさん、ベストなアンサーをプリーズです。
「あの、ファシリアの血というのは?」
これは、ここフルガイアに来る前に、キリエスのグラス城の地下で戦った魔物が言った言葉です。
その魔物とサーシャ様、ディミトリさんには、魔法が効かないという、共通点があります。
そして、それはファシリアの血というのが大きく関係しているようです。
「ああ、ファシリアか。それはね、古来よりフルガイアに居た者達のことさ。時が流れて今では殆どいなくなってしまったけどね。まあ、だけど混血であるサーシャにもまだ、その血の影響が残っているということは、実は他にもファシリアの血が残っているのかもしれないね。」
「なるほど……それで?」
「それで?それだけだよ。」
なんか僕の番だけ短くないですか?
結構、良い質問だと思っていたのですが残念です。
「『よし、ピートよ出番は終わりだ。今度こそ私の番だ。』と、申しております。」
お、おのれレジェス。
君よりは僕の方が良い質問をしたはずですよ。
君のは、質問にさえなっていなかったではありませんか。
「『これより問う私の質問は、核心に迫るものだ。よく聞いておくのだピートよ。』と、申しております。」
なんだか腹立ちますね。
そこまで言うのなら聞いてあげましょう。
「『ずばり、デーモンズホールのことについて、洗いざらい吐いてもらおうか、ディミトリよ。』と、申しております。」
「デーモンズホールか……分かった、少し長くなるが話そう。」
この瞬間、僕は敗北を感じざるを得ませんでした。
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