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危険な奇襲
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「それでは参ろうか。」
いよいよ、出陣です。
この二日間は、憂鬱な限りでした。
ところが、いざとなると人間、開き直るもので、気分は晴れ渡っているように、清々しささえ感じています。
「では、皆の者くれぐれも陛下に無理をさせぬよう頼んだぞ。」
出陣前、パークさんは何度も兵士たちに、そう釘を刺していました。
「ピート、アイスの情報頼んだわよ。」
期待に応えれるよう頑張ります、サーシャ様。
「ピートよ、長い間世話になった、あの世でも達者でな。」
シエルさん、ひどいです。
僕は生きて帰ってきますよ、必ずね。
「揃っとるな。よいか敵の大将の首などはどうでもいい。我らの目的は敵の動揺を誘うことじゃ。恐れさせ、慌てさせれればそれでいい。焦って攻撃に転じてくれれば、こちらの思う壺だ。死ぬな、とは言わぬが生きて帰るぞ。それでは行くぞ!」
やはりオベリンさんは、なかなかのやり手だと思いました。
最初は無謀で、戦好きなだけの国王なのかと思っていましたが、どうやら違うようで安心しました。
僕だってまだ死にたくありませんからね。
そして、僕たちは馬に乗ってジャスティス城から出撃しました。
すでに偵察隊が先に発っているとのことで、途中で合流するということでした。
偵察部隊と合流したのは、深い森の中でした。
「それでどうじゃった?」
「はっ、やはり読み通り、本陣の真横は手薄になっておりました。」
「うむ、やはりそうか。あそこは切り立った崖に囲まれておるからのう。じゃが、実は抜け道があるのだ。奴等では見つけることのできない小路が存在する。地の利は我らにあるぞ。」
「本陣の少し手前に見張りの部隊がおりますが、どういたします?」
「そんなものには構うな、突っ切るのみじゃ。」
どうやら、このオベリンさんは策士だったようです。
ちゃんと敵の本陣までの道筋を計算し、それをきっちり偵察させるあたりの用心深さ。
そして、それを実行に移す度胸。
彼は兵の命を預かる者として、とても優れていると感じます。
「では、ここからはキリエス本陣のみに集中するのだ。その他の雑魚には用はない。突っ込むぞ!」
「オーッ!」
兵たちの士気も高いです。
これなら、上手くいきそうです。
「ん?何やら騒がしくないか?」
「……確かに、これは馬の蹄の音?」
「て、敵襲!敵襲だ!」
「ば、馬鹿な!敵がここまで来れるはずが――!」
先陣をきって突撃したのは、オベリンさんでした。
完全に虚を突かれたキリエス兵たちは、混乱状態に陥っています。
これはチャンスですよ。
「慌てるな、攻撃態勢を整えろ!ぐわっ!」
敵に猶予を与えてはいけません。
片っ端から斬りまくってやりますよ。
「皆の者、怯むな!フェイトフル・リアルムの強さを見せてやれ!アオ、ニック、あのテントだ。あれを焼き払え!」
オベリンさんは、二人の魔法使いに一番豪華なテントを燃やすように指示しました。
「了解です。」
「かしこまりました!」
「ファイア!」
「ストーム!」
アオの魔法は炎を生み出し、それをニックの激しい風がテントへと運びました。
炎と風の相性は抜群で、あっという間に敵のテントを燃やし尽くしました。
そして、その炎は次々と他のテントにも燃え広がり、キリエス本陣はパニックに陥りました。
「よし、上出来だ。引き揚げるぞ。キリエスの諸君、我々はまたすぐにやって来るぞ。もっと気を引き締めておけ、ガハハハ!」
オベリンさんは、恐らくキリエスの精神面に傷をつけたかったのでしょう。
こうなっては、またいつ奇襲をかけられるか分かりませんからね。
キリエス兵も呑気に構えてはおけない状況を作ったと思われます。
僕は戦いながらも、アイスの所在を確認することに励んでいましたが、とうとう見つかりませんでした。
というより、あの場にいるのであれば、きっと姿を見せていたハズです。
ということは……。
そう結論づけようと、した瞬間でした。
引き揚げる僕たちの後方から、耳をつんざくような嫌な音が聞こえてきました。
ヒュン!
「――なっ!」
それは僕の耳もとを掠めた一本の矢の音でした。
物凄いスピードで放たれた矢は僕を通りすぎ、オベリンさんへと向かっていきます。
「オベリンさん、危ない!」
僕の言葉にオベリンさんは瞬時に反応し、体を反らしました。
矢はオベリンさんから逸れ、彼の馬に直撃しました。
「ぬぅう!」
オベリンさんは地面に投げ出されてしまいました。
しかし、この矢は一体?
そんなことを考えていると、またあの音が聞こえてきました。
今度は馬の蹄の音もなかったので、矢を放つ音さえも聞こえてきました。
僕は馬から飛び降り、飛んでくる矢を剣で払いました。
「これは、魔法剣士だ。」
この時、僕は確信しました。
僕らの今居る場所から、さっきの本陣まではとてもではありませんが、矢が届く距離ではありません。
しかし、飛んでくる方向と、矢を放った音の位置関係を推測すると、これは敵の本陣から放たれた矢だという結論に達しました。
そして、そんなことができるのは恐らく魔法剣士くらいでしょう。
彼らは、剣に魔法を注ぎ込む要領で様々な武器にも応用がききます。
この場合、弓と矢の両方に魔力を込めているようです。
厄介ですね。
それに、きっと追手もすぐに追いついてくるでしょう。
ここで、グダグタやっている場合ではありませんね。
「――オベリンさん。この馬で行ってください。」
「ブラックエッジ!?お前さん、どうするつもりじゃ。」
「殿はぼくが引き受けます。だから、早く行ってください。」
「し、しかし、一人ではどうにも――。」
「国王様、早く。追手が来ています。」
兵たちに急かされるがまま、オベリンさんは、僕の渡した馬に乗り、戦場を離脱します。
「ブラックエッジよ。すまん、恩に着る。生きてまた会おうぞ。」
僕は、それに笑顔で応えました。
勝算など全くありません。
ただ憧れていたんです、こういうシチュエーションに。
後悔してないかですって?
もちろん、滅茶苦茶後悔していますよ。
僕は、言葉とは裏腹に剣を抜いて、構えました。
いよいよ、出陣です。
この二日間は、憂鬱な限りでした。
ところが、いざとなると人間、開き直るもので、気分は晴れ渡っているように、清々しささえ感じています。
「では、皆の者くれぐれも陛下に無理をさせぬよう頼んだぞ。」
出陣前、パークさんは何度も兵士たちに、そう釘を刺していました。
「ピート、アイスの情報頼んだわよ。」
期待に応えれるよう頑張ります、サーシャ様。
「ピートよ、長い間世話になった、あの世でも達者でな。」
シエルさん、ひどいです。
僕は生きて帰ってきますよ、必ずね。
「揃っとるな。よいか敵の大将の首などはどうでもいい。我らの目的は敵の動揺を誘うことじゃ。恐れさせ、慌てさせれればそれでいい。焦って攻撃に転じてくれれば、こちらの思う壺だ。死ぬな、とは言わぬが生きて帰るぞ。それでは行くぞ!」
やはりオベリンさんは、なかなかのやり手だと思いました。
最初は無謀で、戦好きなだけの国王なのかと思っていましたが、どうやら違うようで安心しました。
僕だってまだ死にたくありませんからね。
そして、僕たちは馬に乗ってジャスティス城から出撃しました。
すでに偵察隊が先に発っているとのことで、途中で合流するということでした。
偵察部隊と合流したのは、深い森の中でした。
「それでどうじゃった?」
「はっ、やはり読み通り、本陣の真横は手薄になっておりました。」
「うむ、やはりそうか。あそこは切り立った崖に囲まれておるからのう。じゃが、実は抜け道があるのだ。奴等では見つけることのできない小路が存在する。地の利は我らにあるぞ。」
「本陣の少し手前に見張りの部隊がおりますが、どういたします?」
「そんなものには構うな、突っ切るのみじゃ。」
どうやら、このオベリンさんは策士だったようです。
ちゃんと敵の本陣までの道筋を計算し、それをきっちり偵察させるあたりの用心深さ。
そして、それを実行に移す度胸。
彼は兵の命を預かる者として、とても優れていると感じます。
「では、ここからはキリエス本陣のみに集中するのだ。その他の雑魚には用はない。突っ込むぞ!」
「オーッ!」
兵たちの士気も高いです。
これなら、上手くいきそうです。
「ん?何やら騒がしくないか?」
「……確かに、これは馬の蹄の音?」
「て、敵襲!敵襲だ!」
「ば、馬鹿な!敵がここまで来れるはずが――!」
先陣をきって突撃したのは、オベリンさんでした。
完全に虚を突かれたキリエス兵たちは、混乱状態に陥っています。
これはチャンスですよ。
「慌てるな、攻撃態勢を整えろ!ぐわっ!」
敵に猶予を与えてはいけません。
片っ端から斬りまくってやりますよ。
「皆の者、怯むな!フェイトフル・リアルムの強さを見せてやれ!アオ、ニック、あのテントだ。あれを焼き払え!」
オベリンさんは、二人の魔法使いに一番豪華なテントを燃やすように指示しました。
「了解です。」
「かしこまりました!」
「ファイア!」
「ストーム!」
アオの魔法は炎を生み出し、それをニックの激しい風がテントへと運びました。
炎と風の相性は抜群で、あっという間に敵のテントを燃やし尽くしました。
そして、その炎は次々と他のテントにも燃え広がり、キリエス本陣はパニックに陥りました。
「よし、上出来だ。引き揚げるぞ。キリエスの諸君、我々はまたすぐにやって来るぞ。もっと気を引き締めておけ、ガハハハ!」
オベリンさんは、恐らくキリエスの精神面に傷をつけたかったのでしょう。
こうなっては、またいつ奇襲をかけられるか分かりませんからね。
キリエス兵も呑気に構えてはおけない状況を作ったと思われます。
僕は戦いながらも、アイスの所在を確認することに励んでいましたが、とうとう見つかりませんでした。
というより、あの場にいるのであれば、きっと姿を見せていたハズです。
ということは……。
そう結論づけようと、した瞬間でした。
引き揚げる僕たちの後方から、耳をつんざくような嫌な音が聞こえてきました。
ヒュン!
「――なっ!」
それは僕の耳もとを掠めた一本の矢の音でした。
物凄いスピードで放たれた矢は僕を通りすぎ、オベリンさんへと向かっていきます。
「オベリンさん、危ない!」
僕の言葉にオベリンさんは瞬時に反応し、体を反らしました。
矢はオベリンさんから逸れ、彼の馬に直撃しました。
「ぬぅう!」
オベリンさんは地面に投げ出されてしまいました。
しかし、この矢は一体?
そんなことを考えていると、またあの音が聞こえてきました。
今度は馬の蹄の音もなかったので、矢を放つ音さえも聞こえてきました。
僕は馬から飛び降り、飛んでくる矢を剣で払いました。
「これは、魔法剣士だ。」
この時、僕は確信しました。
僕らの今居る場所から、さっきの本陣まではとてもではありませんが、矢が届く距離ではありません。
しかし、飛んでくる方向と、矢を放った音の位置関係を推測すると、これは敵の本陣から放たれた矢だという結論に達しました。
そして、そんなことができるのは恐らく魔法剣士くらいでしょう。
彼らは、剣に魔法を注ぎ込む要領で様々な武器にも応用がききます。
この場合、弓と矢の両方に魔力を込めているようです。
厄介ですね。
それに、きっと追手もすぐに追いついてくるでしょう。
ここで、グダグタやっている場合ではありませんね。
「――オベリンさん。この馬で行ってください。」
「ブラックエッジ!?お前さん、どうするつもりじゃ。」
「殿はぼくが引き受けます。だから、早く行ってください。」
「し、しかし、一人ではどうにも――。」
「国王様、早く。追手が来ています。」
兵たちに急かされるがまま、オベリンさんは、僕の渡した馬に乗り、戦場を離脱します。
「ブラックエッジよ。すまん、恩に着る。生きてまた会おうぞ。」
僕は、それに笑顔で応えました。
勝算など全くありません。
ただ憧れていたんです、こういうシチュエーションに。
後悔してないかですって?
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僕は、言葉とは裏腹に剣を抜いて、構えました。
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