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師匠巡り~其の壱
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今日は懐かしい町へ立ち寄った。
ここは、およそ十年前、私が血の滲むような修行を行った場所だ。
当時は、まだ年端もいかぬ子供だったが、私の強さはその時から、もう際立っていた。
私の師匠を努めた男の名前は、トンボという老人であった。
彼に教わったのは、主に槍術だ。
他にも、女風呂の覗き方や食い逃げの極意を私は、彼に習い――そして、修得した。
肝心の槍術のほうは、約十日ほどで師匠越えを果たし、私は師匠の元を去った。
そんな町へ立ち寄ったのには、理由がある。
それは、最近この辺りで「最強]と、謳う槍使いが出現しているという噂があるからだ。
最強の私に許可も得ず最強を名乗るとは、大した度胸である。
一度、顔くらい拝んでおいて損はないだろう。
あわよくば、トンボ師匠にも会っておきたいところだが、なにぶん年が年だけに、ご存命なのかも不明である。
いや、恐らくは……もう、この世には――いた!
ちょうど私の前を横切る、あの妖怪のような老人は、まさしくトンボ師匠だった。
私は突然のことに少々取り乱した。
そして、とりあえず後をつけた。
トンボ師匠は食料品店に入った。
私も、まるでストーカーのように店内へ。
店内に入り、辺りを見回すがトンボ師匠の姿が見当たらない。
「どこへ行った?」
私が必死にトンボ師匠を探していると突然、
「あにょお、すんましぇん。」
ハッ!と、振り向くと、そこには小柄の妖怪……いやトンボ師匠がいた。
「こりぇ、なんでしゅが、しゃんちはどこでしゅかね?」
どうも、店員と間違えられているようだ。
どうする?
ここで私は、すかさず二択を用意した。
まず、本物の店員を呼んでくる。
そしてもう一つは、店員を装い適当に、誤魔化す。
――後者だ!
判断は素早く、的確にである。
「それは、メタール産ですよ、師匠。よかったですね、それなかなか手に入らないですからね。」
――なに!
声をかけてきたのは、一人の若い男だった。
しかも、その顔には見覚えがある。
クレアのパーティーで共に魔王を倒した、槍使いのムーン。
「一話参照」で、ある。
懐かしい。
私は、少し興奮気味に彼に近づいた。
だがムーン……いや奴は、この私を無視した。
いいや、これは無視ではなく、気がつかなかった。
完全にすれ違いざまに私は、奴をガン見したのにも関わらずだ。
おのれ!
ドン!
なにかが私に、ぶつかった。
「あぁ、しゅんましぇん。」
それは、トンボ師匠だった。
師匠は……いや奴は、私にぶつかっておきながら、気がつかない様子だ。
いくら長いこと会ってなかったとはいえ、仮にも私は、あなたの弟子だった男だぞ!
私は、怒りと悲しみからトンボ師匠に向け、低級魔法を唱え始めた。
「よう。久しぶりだな弟子よ。相当腕を上げたようじゃのう。」
私は、我に返りトンボ師匠を見た。
「し、師匠!」
胸に飛び込みたくなったが我慢する。
「はゃくぅ、かいらにゃいと。」
トンボ師匠は跳ねるようにして店を出て行ってしまった。
しかし、私は満足した。
まさか師匠にあんなことを言って頂けるなんて、感激だ。
「そういえば、あのトンボさんとこの、お弟子さん、魔王を倒した一人らしいぞ」
「ああ、そうらしいな。と、いうことは地上最強の槍使いってことだな。ムーン様は」
「だな。彼に敵う奴なんて、同じパーティーのクレアくらいじゃないか。」
「違いねえ。」
そんな噂が街の、あちらこちらで耳に飛び込んでくる。
くそ!ムーンめ!許すまじ。
私は、トンボ師匠の元へ向かった。
師匠の家の前に槍を持つ、二人が立っている。
トンボとムーンで、ある。
トンボ師匠は私を見つけると、すぐにムーンに合図をした。
「あぃちゅを、ておせぃ!ミューン!」
「はい師匠。お任せを。」
猛スピードで、槍を構え突っ込んでくる、ムーン。
「どこの誰かは知らないが悪く思うな、師匠命令なんでな。」
私は完全に怒った。
ムーンは槍で素早く、突きを繰り出してくる。
私は、それを難なくかわし、右手を肩の高さで水平に保った。
そして、拳を鉄のように固くし、腕全体に力を入れた。
そのままの態勢でムーンへと突進していく。
私の右腕がムーンの喉元を捉える。
ムーンは弾かれ、ぶっ飛んだ。
楽勝である。
しかし、私が気を緩めた瞬間、後方からトンボ師匠が襲いかかってきた。
「もりゃった!」
私は振り向きもせず槍をかわすと、槍の柄の先端付近を掴み、トンボ師匠ごと、槍を投げてやった。
「随分と飛んだな。九十九メートルってとこだ。」
これで完全な勝利――のはずだった。
だがトンボ師匠は諦めなかった。
何度、飛ばそうが、殴ろうが、魔法で攻撃しようが起き上がってくる。
「師匠、もう止めてください!」と、ムーンが悲痛な叫びを上げる。
さすがの私も、トンボ師匠の執念に気圧された。
なぜ、そこまでの執念で立ち上がるのだ?
その意地は、尊敬に値しますぞ、師匠!
いつの間にか私は涙を流していた。
しかし、もう止めろとは、言えない。
男と男の真剣勝負なのだ。
闘いは一時間に及んだ。
トンボ師匠は息を切らせながらでも、その目には、まだ闘志の炎が宿っていた。
私は、ふと気がついた。
先程からトンボ師匠は何やら、ぶつぶつと呟いていることに。
私は地獄耳を発動した。
「おにょれ、わしゅのたいしぇちゅな、めたゃるしゃんちぃじゅけぃきぃを。じゅうぅにぇぃんみぃぇにょうりゃみぃ!」
「なになに――おのれ、私の大切なメタール産チーズケーキを。十年前のうらみ!」
私は上級魔法を容赦なくトンボ師匠に放った。
「びゅううう!」
トンボ師匠は彼方へと飛んで行った。
「おのれ!よくも師匠を……あっ!お前――久しぶり」
ムーンは気がついた。
私は一言だけ言いたい。
「今頃かよ!」
ここは、およそ十年前、私が血の滲むような修行を行った場所だ。
当時は、まだ年端もいかぬ子供だったが、私の強さはその時から、もう際立っていた。
私の師匠を努めた男の名前は、トンボという老人であった。
彼に教わったのは、主に槍術だ。
他にも、女風呂の覗き方や食い逃げの極意を私は、彼に習い――そして、修得した。
肝心の槍術のほうは、約十日ほどで師匠越えを果たし、私は師匠の元を去った。
そんな町へ立ち寄ったのには、理由がある。
それは、最近この辺りで「最強]と、謳う槍使いが出現しているという噂があるからだ。
最強の私に許可も得ず最強を名乗るとは、大した度胸である。
一度、顔くらい拝んでおいて損はないだろう。
あわよくば、トンボ師匠にも会っておきたいところだが、なにぶん年が年だけに、ご存命なのかも不明である。
いや、恐らくは……もう、この世には――いた!
ちょうど私の前を横切る、あの妖怪のような老人は、まさしくトンボ師匠だった。
私は突然のことに少々取り乱した。
そして、とりあえず後をつけた。
トンボ師匠は食料品店に入った。
私も、まるでストーカーのように店内へ。
店内に入り、辺りを見回すがトンボ師匠の姿が見当たらない。
「どこへ行った?」
私が必死にトンボ師匠を探していると突然、
「あにょお、すんましぇん。」
ハッ!と、振り向くと、そこには小柄の妖怪……いやトンボ師匠がいた。
「こりぇ、なんでしゅが、しゃんちはどこでしゅかね?」
どうも、店員と間違えられているようだ。
どうする?
ここで私は、すかさず二択を用意した。
まず、本物の店員を呼んでくる。
そしてもう一つは、店員を装い適当に、誤魔化す。
――後者だ!
判断は素早く、的確にである。
「それは、メタール産ですよ、師匠。よかったですね、それなかなか手に入らないですからね。」
――なに!
声をかけてきたのは、一人の若い男だった。
しかも、その顔には見覚えがある。
クレアのパーティーで共に魔王を倒した、槍使いのムーン。
「一話参照」で、ある。
懐かしい。
私は、少し興奮気味に彼に近づいた。
だがムーン……いや奴は、この私を無視した。
いいや、これは無視ではなく、気がつかなかった。
完全にすれ違いざまに私は、奴をガン見したのにも関わらずだ。
おのれ!
ドン!
なにかが私に、ぶつかった。
「あぁ、しゅんましぇん。」
それは、トンボ師匠だった。
師匠は……いや奴は、私にぶつかっておきながら、気がつかない様子だ。
いくら長いこと会ってなかったとはいえ、仮にも私は、あなたの弟子だった男だぞ!
私は、怒りと悲しみからトンボ師匠に向け、低級魔法を唱え始めた。
「よう。久しぶりだな弟子よ。相当腕を上げたようじゃのう。」
私は、我に返りトンボ師匠を見た。
「し、師匠!」
胸に飛び込みたくなったが我慢する。
「はゃくぅ、かいらにゃいと。」
トンボ師匠は跳ねるようにして店を出て行ってしまった。
しかし、私は満足した。
まさか師匠にあんなことを言って頂けるなんて、感激だ。
「そういえば、あのトンボさんとこの、お弟子さん、魔王を倒した一人らしいぞ」
「ああ、そうらしいな。と、いうことは地上最強の槍使いってことだな。ムーン様は」
「だな。彼に敵う奴なんて、同じパーティーのクレアくらいじゃないか。」
「違いねえ。」
そんな噂が街の、あちらこちらで耳に飛び込んでくる。
くそ!ムーンめ!許すまじ。
私は、トンボ師匠の元へ向かった。
師匠の家の前に槍を持つ、二人が立っている。
トンボとムーンで、ある。
トンボ師匠は私を見つけると、すぐにムーンに合図をした。
「あぃちゅを、ておせぃ!ミューン!」
「はい師匠。お任せを。」
猛スピードで、槍を構え突っ込んでくる、ムーン。
「どこの誰かは知らないが悪く思うな、師匠命令なんでな。」
私は完全に怒った。
ムーンは槍で素早く、突きを繰り出してくる。
私は、それを難なくかわし、右手を肩の高さで水平に保った。
そして、拳を鉄のように固くし、腕全体に力を入れた。
そのままの態勢でムーンへと突進していく。
私の右腕がムーンの喉元を捉える。
ムーンは弾かれ、ぶっ飛んだ。
楽勝である。
しかし、私が気を緩めた瞬間、後方からトンボ師匠が襲いかかってきた。
「もりゃった!」
私は振り向きもせず槍をかわすと、槍の柄の先端付近を掴み、トンボ師匠ごと、槍を投げてやった。
「随分と飛んだな。九十九メートルってとこだ。」
これで完全な勝利――のはずだった。
だがトンボ師匠は諦めなかった。
何度、飛ばそうが、殴ろうが、魔法で攻撃しようが起き上がってくる。
「師匠、もう止めてください!」と、ムーンが悲痛な叫びを上げる。
さすがの私も、トンボ師匠の執念に気圧された。
なぜ、そこまでの執念で立ち上がるのだ?
その意地は、尊敬に値しますぞ、師匠!
いつの間にか私は涙を流していた。
しかし、もう止めろとは、言えない。
男と男の真剣勝負なのだ。
闘いは一時間に及んだ。
トンボ師匠は息を切らせながらでも、その目には、まだ闘志の炎が宿っていた。
私は、ふと気がついた。
先程からトンボ師匠は何やら、ぶつぶつと呟いていることに。
私は地獄耳を発動した。
「おにょれ、わしゅのたいしぇちゅな、めたゃるしゃんちぃじゅけぃきぃを。じゅうぅにぇぃんみぃぇにょうりゃみぃ!」
「なになに――おのれ、私の大切なメタール産チーズケーキを。十年前のうらみ!」
私は上級魔法を容赦なくトンボ師匠に放った。
「びゅううう!」
トンボ師匠は彼方へと飛んで行った。
「おのれ!よくも師匠を……あっ!お前――久しぶり」
ムーンは気がついた。
私は一言だけ言いたい。
「今頃かよ!」
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