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山籠り編
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今日は久しぶりに山籠りでもやろうかと、訪れたのはキイロ山。
標高こそたいしたことはないが、この山は人も立ち入らない険しくも過酷な場所である。
その、手付かずの自然こそが私の師であり友である。
まずは軽く滝にでも打たれ、心身を清めようではないか。
山の中腹辺りにある、滝を目指し歩いた――遭難しました。
開始五分ほどで、私は道を見失ってしまい、軽いパニックに陥る。
まあ、いつものことである。
気を取り直し歩いていると、今度は野生の熊に遭遇した。
「おう。こいつは我が友、文ちゃんではないか。久しいな。」
その熊は昔から馴染みのある奴だった。
右目の上には、大きな傷がある。
「懐かしいな、その傷。覚えているか?あれは二人で――」
バシ!っと突然の文ちゃんのパンチに、
「このやろう!」と、低級魔法を唱えた。
……二人の再会は悲しいものになった。
またもや気を取り直し、私はひたすら滝を目指し歩いた。
「むっ!この木には見覚えがある。確か、ここを真っ直ぐに行けば。」
ようやく目印となる木を見つけ、真っ直ぐ歩いた――遭難しました。
「なぜだ!?」
……だが、これもよくあることである。
私は気持ちをしっかり立て直し、再び滝を目指した。
「こ、この木は!」
それは、ついさっき見たばかりの木に間違いない。
つまり同じ場所を、ぐるぐると回っているということだ。
「おのれ!」
私は猛ダッシュで、この無限回廊を脱すべく、走った。
走りに走って、そして――遭難した。
今度は完全に道を見失い、道なき道を進む。
やがて遠くから水の流れる音を聞いた。
その音に導かれ突き進むと、川に辿り着いた。
私は喉の乾きを潤すため、川に顔を突っ込んで水を飲んだ。
一息ついて、ふと考えた。
この川を辿っていけば、滝に着くのではないだろうか、と。
我ながら天才的な閃きだ!
早速、川の上流へ向け出発した。
およそ十分後、目の前に滝がその姿を現した。
「ぬっ!これは……滝は滝でも……違うやつだ。」
私が目指した滝の五倍は、あろうかという大きな滝だった。
しかし、これも運命。
私は、さっと服を脱ぎ捨て滝壺へ走った。
間近で見る、そいつは大迫力である。
一瞬、躊躇うが気合いで飛び込んだ――押し潰された。
「なんという水圧!」
しかし私の適応力は半端ではない。
ものの二、三分で私は滝の真下に仁王立ちしてみせた。
「慣れれば心地よいものだ。」
ふと、滝を昇る魚がいるという話しを思い出す。
「――やってみるか」
私は、飛び上がり水を掻いてみる。
もちろん出来る筈がない。
もう一度――無理。
もう一度――やっぱり無理。
もう一度――全然無理!
もう一度――絶対無理!!
「くそぉぉ!」
私の怒りは頂点に達した。
「手足の動きが足りぬのだ。」
高速で手足を動かすと、少し昇った。
「もっとだ。もっと早く。」
数時間が経過した頃、私はついにコツを掴んだ。
調子に乗って、どこまでも昇る。
「見たか!これが私の実力だ!」
そして頂点へ昇りつめた。
すっぽんぽんの私は昇天した竜だ!と、ばかりに勢いよく滝を制覇した。
川から這い上がると、川岸になにやら気配を感じた。
見ると、なぜかそこには三人の女性が驚いた表情でこちらを見ている。
「きゃあああ!化け物よ!」
どうやら、それは私のことのようだ。
「とう!」
私は再び川に飛び込み、滝を猛スピードで落下した。
言うまでもなく、私は落ちた衝撃で頭を強打した。
そして半分程、意識を失いながら服を手に取り全裸のまま走った。
「なぜこの山に、あのような軽装の女子が――」
山の中を野生児のように走る私は大木に正面から激突した。
「も、もういやだ。帰る。」
私は、無念の下山を決めた。
山の斜面を勢いよく駆け抜ける――遭難しました。
「くそ、ここはどこだ!」
私は怒りのあまり、この山ごと吹っ飛ばしてやろうと、上級魔法を唱え始めた。
「――い、いかん、いかん。自然は大切にせねば。」
なんとか思いとどまり冷静になる。
数時間後。
結局、迷ったまま夜を迎える羽目になった。
火を起こし、体を暖める。
「しかし、しばらく来てないだけで、こうも勝手が違うものなのか。自然というものは恐ろしい。そして神秘的だ。ここは以前な山とは違う……迷いの森だ。」
山は静寂に包まれていた。
時折、聞こえてくる正体不明な動物の鳴き声。
すぐ近くから聞こえてくる、ガサ!という音。
「だ、だれだ!」
私の神経は尖っていた。
ふと目の前を光る何かが横切った。
見間違いか?と、目を擦る……いる。
間違いなく、その光りは青白く光りながらフワフワと浮いている。
「も、もしかして妖精さん……いや、まさか――」
私は、ごくりと生唾を飲みこみ、天秤を頭の中で思い描いた。
「好奇心か恐怖心か……妖精さん!」
結局こういった場合、好奇心が勝利するものだ。
妖精さんに会いたくて、暗闇の中を、ヨチヨチと歩けるようになったばかりの子供みたいにして、光る物体を追いかけた。
そして、もう少しで手が届きそうになった時だった。
ふっと、足下の感覚が消えた。
真っ暗な中、どっちが上か下なのかも分からず落下した。
「うわぁぁ!ようせいさーん!」
気がつくと、辺りは既に明るかった。
「こ、ここは?」
周囲を見回すと、誰かが歩いてくるのが見えた。
「おはようさん。」
「おはようさん。」
それは、老夫婦らしき二人連れであった。
「おや、お兄さん。そんなとこで寝とったんか?風邪ひくぞ」
「違いねぇ。」
老人達は、笑いながらスローペースで歩いていく。
「さあ今日も頂上まで頑張るかの。」
「そうですね。軽く登っちゃいましょうかね。」
――私は、まだまだな男だと痛感させられた。
この危険極まりない山を、いとも簡単に制覇しようとしている老人達は、きっと名のある武芸者なのだろう。
それに、昨日の女子達もそうだ。
「人は見た目によらぬ――か。」
すぐ脇に立てられた看板には、「アオイ山ハイキングコース」の文字が刻まれていることに、彼が気づくことはなかった。
「いやー、世の中は広いな。」
標高こそたいしたことはないが、この山は人も立ち入らない険しくも過酷な場所である。
その、手付かずの自然こそが私の師であり友である。
まずは軽く滝にでも打たれ、心身を清めようではないか。
山の中腹辺りにある、滝を目指し歩いた――遭難しました。
開始五分ほどで、私は道を見失ってしまい、軽いパニックに陥る。
まあ、いつものことである。
気を取り直し歩いていると、今度は野生の熊に遭遇した。
「おう。こいつは我が友、文ちゃんではないか。久しいな。」
その熊は昔から馴染みのある奴だった。
右目の上には、大きな傷がある。
「懐かしいな、その傷。覚えているか?あれは二人で――」
バシ!っと突然の文ちゃんのパンチに、
「このやろう!」と、低級魔法を唱えた。
……二人の再会は悲しいものになった。
またもや気を取り直し、私はひたすら滝を目指し歩いた。
「むっ!この木には見覚えがある。確か、ここを真っ直ぐに行けば。」
ようやく目印となる木を見つけ、真っ直ぐ歩いた――遭難しました。
「なぜだ!?」
……だが、これもよくあることである。
私は気持ちをしっかり立て直し、再び滝を目指した。
「こ、この木は!」
それは、ついさっき見たばかりの木に間違いない。
つまり同じ場所を、ぐるぐると回っているということだ。
「おのれ!」
私は猛ダッシュで、この無限回廊を脱すべく、走った。
走りに走って、そして――遭難した。
今度は完全に道を見失い、道なき道を進む。
やがて遠くから水の流れる音を聞いた。
その音に導かれ突き進むと、川に辿り着いた。
私は喉の乾きを潤すため、川に顔を突っ込んで水を飲んだ。
一息ついて、ふと考えた。
この川を辿っていけば、滝に着くのではないだろうか、と。
我ながら天才的な閃きだ!
早速、川の上流へ向け出発した。
およそ十分後、目の前に滝がその姿を現した。
「ぬっ!これは……滝は滝でも……違うやつだ。」
私が目指した滝の五倍は、あろうかという大きな滝だった。
しかし、これも運命。
私は、さっと服を脱ぎ捨て滝壺へ走った。
間近で見る、そいつは大迫力である。
一瞬、躊躇うが気合いで飛び込んだ――押し潰された。
「なんという水圧!」
しかし私の適応力は半端ではない。
ものの二、三分で私は滝の真下に仁王立ちしてみせた。
「慣れれば心地よいものだ。」
ふと、滝を昇る魚がいるという話しを思い出す。
「――やってみるか」
私は、飛び上がり水を掻いてみる。
もちろん出来る筈がない。
もう一度――無理。
もう一度――やっぱり無理。
もう一度――全然無理!
もう一度――絶対無理!!
「くそぉぉ!」
私の怒りは頂点に達した。
「手足の動きが足りぬのだ。」
高速で手足を動かすと、少し昇った。
「もっとだ。もっと早く。」
数時間が経過した頃、私はついにコツを掴んだ。
調子に乗って、どこまでも昇る。
「見たか!これが私の実力だ!」
そして頂点へ昇りつめた。
すっぽんぽんの私は昇天した竜だ!と、ばかりに勢いよく滝を制覇した。
川から這い上がると、川岸になにやら気配を感じた。
見ると、なぜかそこには三人の女性が驚いた表情でこちらを見ている。
「きゃあああ!化け物よ!」
どうやら、それは私のことのようだ。
「とう!」
私は再び川に飛び込み、滝を猛スピードで落下した。
言うまでもなく、私は落ちた衝撃で頭を強打した。
そして半分程、意識を失いながら服を手に取り全裸のまま走った。
「なぜこの山に、あのような軽装の女子が――」
山の中を野生児のように走る私は大木に正面から激突した。
「も、もういやだ。帰る。」
私は、無念の下山を決めた。
山の斜面を勢いよく駆け抜ける――遭難しました。
「くそ、ここはどこだ!」
私は怒りのあまり、この山ごと吹っ飛ばしてやろうと、上級魔法を唱え始めた。
「――い、いかん、いかん。自然は大切にせねば。」
なんとか思いとどまり冷静になる。
数時間後。
結局、迷ったまま夜を迎える羽目になった。
火を起こし、体を暖める。
「しかし、しばらく来てないだけで、こうも勝手が違うものなのか。自然というものは恐ろしい。そして神秘的だ。ここは以前な山とは違う……迷いの森だ。」
山は静寂に包まれていた。
時折、聞こえてくる正体不明な動物の鳴き声。
すぐ近くから聞こえてくる、ガサ!という音。
「だ、だれだ!」
私の神経は尖っていた。
ふと目の前を光る何かが横切った。
見間違いか?と、目を擦る……いる。
間違いなく、その光りは青白く光りながらフワフワと浮いている。
「も、もしかして妖精さん……いや、まさか――」
私は、ごくりと生唾を飲みこみ、天秤を頭の中で思い描いた。
「好奇心か恐怖心か……妖精さん!」
結局こういった場合、好奇心が勝利するものだ。
妖精さんに会いたくて、暗闇の中を、ヨチヨチと歩けるようになったばかりの子供みたいにして、光る物体を追いかけた。
そして、もう少しで手が届きそうになった時だった。
ふっと、足下の感覚が消えた。
真っ暗な中、どっちが上か下なのかも分からず落下した。
「うわぁぁ!ようせいさーん!」
気がつくと、辺りは既に明るかった。
「こ、ここは?」
周囲を見回すと、誰かが歩いてくるのが見えた。
「おはようさん。」
「おはようさん。」
それは、老夫婦らしき二人連れであった。
「おや、お兄さん。そんなとこで寝とったんか?風邪ひくぞ」
「違いねぇ。」
老人達は、笑いながらスローペースで歩いていく。
「さあ今日も頂上まで頑張るかの。」
「そうですね。軽く登っちゃいましょうかね。」
――私は、まだまだな男だと痛感させられた。
この危険極まりない山を、いとも簡単に制覇しようとしている老人達は、きっと名のある武芸者なのだろう。
それに、昨日の女子達もそうだ。
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