最強の戦士ここにあり

田仲真尋

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キュプロクス

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ようやく人の住む村へと辿り着いたのは夜明け間近のことだった。

私は、よろめきながら村へ入り、近くにあった馬小屋に飛び込み倒れこんだ。

「……腹減った」

恥ずかしながら、この二日間なにも食べていない。

理由は、前に滞在した街での出来事が原因である。



その日、私はレガリアという国の、ある街で気分良く酒を飲んでいた。

高い酒を頼み、小さな幸せを噛み締めていた。

今日は懐がホクホクなのである。

昼間、人気のない沼の近くを通りかかった時に旅の商人が九つ頭の蛇に襲われているのを、私が低級魔法で追っ払ってやった。

そのお礼に商人は、

「ありがとうございます。僅かですがこれを」と、言って大金をくれたのだ。

「良いことをすると、良い酒が飲めるとは、この事だな。」と、今宵の私は上機嫌であった。

酒場を出たのは夜も随分と深まった頃だった。

気分良く宿へと帰っている途中、どこからか声がした。

「お兄さん。そこのカッコいいお兄さん。」

私は辺りを見回したが、私以外に人はいない。

「あなたのことよ。」

姿を現したのは、艶やかな女性だった。

色気を着て歩いているような女性は私に近づき、

「遊びましょうよ。」と、猫なで声ですり寄ってきた。

私は鼻息が荒くなり、つい女性の誘いに乗ってしまった。

暗闇に連れ込まれたまでは覚えている。

気がつくと夜は明けていて、後頭部に激しい痛みが残っていた。

起き上がり、懐を探ると持ち金は全て無くなっている。

それから、宿にも戻ることができなくなった私は、逃げるようにして街を出た。

それから、二日間さまよい続け、この村へ行き着いたのだ。



疲れから私は深く眠った。

そして数時間後、私は復活を遂げた。

だが腹の虫は治まらず、

「何か食べなくては死んでしまう。」と、私をうろたえさせた。

馬小屋を出て、村の中を歩いていると、なにやら人だかりができている。

近づいてみると、一人の男がなにやら声高に話している。

「昨日、村の付近で一つ目の巨人が現れた。人間に危害を及ぼす可能性が高い。――そこで我々、レガリア平和維持活動協会は、巨人の捕獲に懸賞金を出したいと思います。因みに私達は非営利団体です。」

これに人々は絶句した。

「生きたまま捕獲なんて無理だろう!」

「確かに……では、こうしましょう。生死を問いません。これだったらいけるでしょう。」

集まった村人達は呆れて、その場を後にした。

「あら?誰もいなくなっちゃった。」

それはそうだろう。

巨人を倒すのも至難の技というのに……普通の人間ならな!

私は、協会の男の前に出て、手を挙げた。

「おお!勇気ある若者よ。よく来ましたね。」

私は、その男のオーバーなリアクションに少し照れた。

「レガリアの平和の為に是非キュクロプスを捕らえてください。」

キュクロプス?

私の不思議そうな顔に男は、

「巨人の名前ですよ。では宜しく。報酬は現物と引き替えになりますので、あしからず。」と、言った。



私は空腹を紛らわしながら、キュクロプスを捜索していた。

しかし、なかなか見つからない。

さすがにヘロヘロになった私は、近くの川で水を飲み、飢えを凌いだ。

なんとか一息つき、ふと川の上流を見た。

「み、みつけた!!」

なんと川上でキュクロプスも水を飲んでいるではないか。

奴は私に気づき、驚いている様子だった。

「うわあ!おめえこっち来るな。」

「し、しゃべった!」

私としたことが動揺してしまった。

気を取り直し、私は剣を抜いた。

「や、やめてけれ。」

キュクロプスは私に恐れをなし逃亡を図った。

「逃がすか!」

私は奴の背後に迫り、低級魔法「ワイヤー」を唱えた。

再び説明しておこう。

「ワイヤー」とは、鋼の様に硬いロープ状の物である。

ワイヤーは私の意志で生き物の様にキュクロプスの全身に絡みつく。

そして、身動きできないほど絡んだワイヤーにより、キュクロプスは倒れこんだ。

「捕獲完了!」で、ある。

意外に、あっさりと――終わってはなかった。

奴は私の放ったワイヤーを力で振りほどいた。

「なんですと!」

さすがの私も、これには驚いた。

だがキュクロプスは、うずくまったまま反撃してくる様子がない。

私は警戒しながら奴に近づく……泣いている。

私は、どうしてよいものか分からずにオロオロした。

するとキュクロプスは、

「おら、兄ちゃん達とはぐれちまって、探してただけだ。人間には、見られるなって言われてたけど……おら、どうしていいかわかんねぇで、それで――」

再び泣き出す、キュクロプス。

私は途端に、こいつが純粋な子供の様に見えた。

そして、立ち上がりキュクロプスに背を向け歩き出した。

「お、おめえ。おらを捕まえにきたんじゃないのか?」

子供相手に、そんなことはできない――私は戦士なのだ。

私はキュクロプスに手を上げ、別れを告げた。

「兄さんたちに会えるといいな。」と、心の中でそっと呟いて。



村へ戻り、なんとか協会の男を探した。

「いた!キュクロプスは人間に害はないと伝えておかねば。」

男は誰かと話しをしていた。

その相手の男は、黒く長い帽子を被り、マントの様な黒いコートを纏っていた。

私は近づき様子を伺った。

「確かに確認して参りました。こちらが報酬です。」

「どうも。」

「しかし、お強いのですね。」

「いえいえ、俺なんてまだまだです。」

「ご謙遜を。まぁ、本音を言えば生きたまま捕らえて欲しかったのですがね。」

「すみません。あの化け物が大声で泣き出し、やかましかったものでついつい。」

「ついついで倒しちうんだから、やっぱりお強いんですよ。なんせ、あのキュクロプスを殺しちゃうんだから。」

私の中で何かが弾けた。

気がつくと私は、剣を抜こうと手をかけていた。

「こんな所で、お止めなさい。」

帽子の男は、いつの間にか私の手を押さえていた。

「ば、ばかな!さっきまで、あそこで立ち話しをしていたのに。」

私は、全身から変な汗を吹き出していた。

「俺は、サフィアと言います。貴方とは、また必ず会う機会があるでしょう――それでは。」

私は、ほんの少しの間、全く動けなかった。

慌てて辺りを探したが、サフィアと名乗る男は見当たらない。

「いったい、あいつは何者だ……」



その後、私は協会の男の後をつけ、キュクロプスの遺体のある場所へと着いた。

そして、協会の男に低級魔法を浴びせて気を失わせ、キュクロプスを人気のない場所まで運び土を掘り、弔った。

「これも運命なのだろうが――可哀想だな。」

私は、その場をそっと離れ歩き出した。

そして、いつかまた再会するであろう、サフィアという男との戦いに備え、もっと強くなると決心した。

腹の音はいつしか消え、次の旅へと私を駆り立てる強い気持ちだけがメラメラと音を立てていた。


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