最強の戦士ここにあり

田仲真尋

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魔女ルナ

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この白銀プラチナの森に入り、もう数時間が経過していた。

さすがの私も疲れ果て、近くの草むらに横になった。

「あー空が綺麗だ。」

流れる雲を見ながら、ふと思った。

「私は一体なにをしているのだろう?」と。


――あれは遡ること数時間前。

私は港町マリーナにて船を待っていた。

海を眺めると遠くの見知らぬ島までも見えるほどの晴天だった。

だが私の心は、曇りがちである。

ギアン大陸に戻るか否か、決断を迷っていたからだ。

「魔王を倒してから、まだそんなに日が経っていない。もう戻ってもよいものだろうか?それとも、もうしばらく経ってからのほうが良いのか……う~ん……。」

そんな、悩める子羊の私が苦しんでいると、

「おい、あれ見ろ!」

「あれは――」

急に町の連中が騒ぎ始めた。

見てみると人々が皆、空に向け顔を向けている。

「なんだ?」

私も空を見上げてみた。

「なんじゃあ、ありゃあ!」

私の目に飛び込んできたのは、大きな鳥である。


人々は興奮状態で口々に、

「あれは、鷲だ。大鷲だ!」

「なんで、そんなのがここに!」

「もしかして見間違いかもしれんが――鷲の上に人がいないか?」

町の人たちは、更に騒ぎ出す。

「本当だ!誰か乗ってるぞ!」

「ありゃあ魔女だ!白銀プラチナの森の魔女だ!」

「どうして魔女が、この町に!?」

「不吉だ!何か起こるんじゃないのか!?」


そんなカオス状態の町の中、私は一人冷静に考えてみた。

「魔女か……面白い。悪ならば私が成敗してくれよう。」

私は早速、町の人が口にしていた白銀プラチナの森を目指した。

しかし、その道中で嫌な顔が頭を過った。

「ま、まさかとは思うが。魔女というのはハーブティーでは、あるまいな。」

私は魔女に会ったことがない。

なので完全なイメージでは、あるが魔女=ハーブティーという方程式が妙に、しっくりくるのである。

しかも、あの女は会うたびにコロコロと、その容姿を変えるものだから突然現れては、私の心臓が飛び出そうになる。


そんなことを考えて歩いていると、目の前に白銀プラチナの森が姿を見せた。

ご丁寧に立て看板まであるので、此処で間違いないだろう。

私は恐る恐る、森へ足を踏み入れた。

「一体どんなに恐ろしい森だろうか?」

しかし、森は至って普通の森であった。

いや、むしろ美しい森だ。

塵ひとつない自然のままの森。

木々たちが風に揺られ、癒しの旋律を奏でる。

「いいなあ。自然って。」

私は魔女を探す目的も忘れ、遠足に来たような気分になっていた。

「くそう!お弁当を持って来るべきだった――あっ!あと、おやつもね。」

私は自然の中を探索しながら、気分よく歩きまわった。

そして数時間後。

私は……迷子になった。

何時間も歩いたせいで疲れきり草むらで横たわり、現在に至るのである。



「――あの。」

私は不覚にも敵の陣地で眠ってしまったことに気づいた。

そして、これは魔女の術中に陥れられていたのだ、とようやく気づいた。

私は焦らず急がず、ゆっくり目を開き、そして声の聞こえた位置を確認した。

奴に、ばれないよう剣に手をやり一気に跳ね起きた。

「来い魔女め!」と、言わんばかりに私は、魔女を睨んだ。

「あ、あの……えっと大丈夫ですか?」

だが、私の目の前に居たのは、とても可愛らしい小柄な女性だった。

「騙されんぞ!」と、私は警戒心を解かない。

「もしかして、魔女を探しに?」

「なんと可愛い声だ!」

私は少しモジモジしながら頷いた。

「そうでしたか。はい、私が魔女です。ルナと申します。」と、言って微笑んだ。

ドッガーン!!!

「皆さん、突然ですが私は恋に落ちました。」

どうだろうか!?この子は自分が魔女だということを隠そうともせずに、しかも名前まで教えてくれた。

止めは、あのキュートな笑顔だ。

相手が魔女だろうが、私にはもう関係のないことだった。


その後、二人は森の中に流れる小川の側で肩を並べて座っていた。

ルナの話によると、彼女は人捜しをしているということだった。

勿論、私は手伝う気満々である。

「ずっと、その人を捜していたんだけど……見つからなくて。時間もないし、仕方なくて人の住む町まで行ったんだけど、大騒ぎになっちゃって……」

なるほど、あの大鷲だな。

今にも泣き出しそうな、ルナの横顔に私は、あたふたした。

「もしよかったら、手伝ってくれませんか?」

私に任せなさい!とばかりに、私は大きく頷いた。

「本当に!?嬉しい、ありがとう。」

ルナは、その小さな両手で私の手を柔らかく包み込んだ。

きっと、この時の私の顔は完熟したトマトの様に赤々としていたことだろう。



その後、ルナは事情を話し始めた。

「私たち魔女には寿命がないの。もちろんそれは自然死のことね。魔女だって病気にもかかるし、殺されたりもするから不老不死では、ないんだけど。」

私はルナの一言一句を逃すまいと、

「ふむふむ、なるほど。為になるな、メモっとこ。」

「それでね魔女は百年に一度、訪れる新月の光を浴びないと死んでしまうの。私は今度で二度目の儀式になるわ。」

「ほうほう。ん!二度目。ということは約二百歳……私の百八十才ほど歳上か……いや構わん!恋に年齢は無用だ!」

「そして今日の晩が、その日なの。」

「そうか、今日はルナの記念日なのか。メモメモ。」

「ところが、問題があるの。ある魔導師が今宵の月に魔法をかけて、光を遮るよう黒雲を月の周りに張り巡らしてしまったの。」

なんという事だ!

それではルナは今日、死んでしまうのではないのか!?

私は不安と怒りに満ち溢れた。

「その魔法は術者本人しか解除できない。だからその魔導師を私は、捜していたの。」

「理解した。なんという、とんでもない魔法をかける奴だ!一体どこのどいつだ。」と、私は憤慨した。

「その人の名前は、大魔導師エクシュリオン。」


「……エクシュリオン。」


――私には馴染みのある名前だ。

彼は私の魔法の師匠であった。

基本的に私の師匠たちは変人が多いのだが、エクシュリオンは数少ない、とてもまともな師匠だった。

私は今でも彼を心から尊敬している……だが彼はもう。


エクシュリオンが亡くなったのは、およそ三年前。

彼は先天性の心臓の病を患っていた。

強くて偉大な魔法使いも病気には敵わなかった。

そんな彼の魔法は、亡くなった今でもなお、その魔力を現世に留めているのには驚きである。

それと同時に、そんな男がどうして魔女たちを苦しめるような厄介な遺物を残したのか謎である。

「あのエクシュリオンの魔法で発生した黒雲を取り除けるのは、彼の上級魔法ムービング・ゲールだけよ。」

私は立ち上がり、ルナの肩に手をかけ親指を立てた。

ムービング・ゲールは私がエクシュリオンに最後に教わった魔法である。

「これでルナは助かる。良かった。」と、心からそう思った。



二人は、夜になるまで共に過ごした。

ルナは色々な事を話してくれた。

彼女の眩いばかりの笑顔に、私も心底嬉しかった。


そして、遂に夜を迎えた。

今夜は見事な新月なのだそうだ。

だが月の姿は、どこにもない。

空の一角に、おびただしい黒色の雲の固まりを見つけた私は、

空に向かい、上級魔法ムービング・ゲールを唱え始めた。

この雲が晴れれば、きっと美しい月の下で私とルナは結ばれることだろう、と都合の良い妄想を頭の中で繰り広げながら、

「ムービング・ゲール!」と、唱え発動させた。


この大魔法の威力は想像を遥かに越えていた。

月を覆っていた雲を一瞬で吹き飛ばし、そこからは黄金色の丸い月が姿を見せた。

月光の幻想的な光がルナへと降り注いだ。

ルナは、どこか悲しそうな微笑みを浮かべている。

「私、謝っておきたいことがあるの。」

急にルナは真剣な眼差しで私を見つめた。

「エクシュリオンは魔女を苦しめる為に、あんなことをしたんじゃないの……ううん、むしろ逆。」

私には彼女の言いたいことが全く読めなかった。

「魔女は百年に一度の新月の光を浴びてしまったら、この世から消えてしまうの――だからエクシュリオンが、かけた魔法は魔女たちを救う為に施されていたものなの。」

私の頭の中は、ぐちゃぐちゃになっていた。

「最後の魔女の私は、もう充分に生きた。だから、もういいかなって。」

ルナの身体が少しずつ透けていることに私は気づき焦ったが、どうすることも出来なかった。

「……本当のことを言うと、私……エクシュリオンのことを愛していたの。それで、彼を喪ってからは生きている意味が分からなくなっちゃって……」

「なんですと!私は今、さりげなく振られたのでは!?」

「実は貴方のことも知っていたの。貴方が彼の、お弟子さんだってことを。利用しちゃったみたいで――本当にごめんなさい。」

こうしている間にもルナの身体は薄くなり、もはや半透明になっていた。

「もし私が普通の人間だったら、きっと貴方のことを好きになっていたと思う。短い間だったけど、楽しかった。」

私は突然の別れに、まだ頭と心が追いついていない。

「そろそろ消えちゃうね。ありがとう――さようなら。」

ルナは、私の唇に優しくキスをした。

「私の残りの魔力を全て貴方にあげる。これで、魔力と魔法に対する抵抗力が、かなり上がったはず。それじゃあ。」

ルナが手を振ると、彼女は跡形もなく消え去った。

「そんなもの要らないよ!」

ルナがくれた、口づけの温かく柔らかい感触が、まだ残っていた。


私は、しばらくその場に座り込み、

「エクシュリオンと会えたらいいな。」と、彼女の幸せを心から願った。

こうして私は、また一つ大人になるのだろう。

月を眺めると、涙が零れてしまいそうだ。

「泣くもんか!」と、私は綺麗な輪郭を描いている、お月さんに強がってみせたのであった。

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