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戦いの爪痕~後編~
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フォンダンは魔法剣、光剣レイブレイドでメフィスに斬りかかった。
「おもしろいですね。」
メフィスは腰から細い、サーベルの様な剣を取りだし攻撃を防いだ。
「まだまだ。」と、フォンダンは高速で連続攻撃を放った。
しかし、攻撃は全てメフィスに弾き返されてしまう。
「いいですね、あなた。だが、それでは私には届きませんよ。」
そう言って、メフィスはフォンダンの心臓目掛けて剣を突き刺した。
「ぐわぁ!」
「フォンダン!」
駆け寄ろうとするハーブティーをフォンダンは手で制した。
「大丈夫。なんとか急所は避けたから。」
「ほう、見事です。ですが次は外しませんよ。」
「凍てつく大地よ、私に力を――グリーミングソード!」
フォンダンの剣が氷の刃となり、白い冷気を放つ。
そして、フォンダンは手負いを感じさせない動きでメフィスに斬りつけた。
そしてそれは、両者の刃が交わった瞬間だった。
「これは!」
メフィスは初めて焦りを見せた。
フォンダンの氷剣がメフィスの剣と、くっついた状態のまま動かない。
「なるほど。私の剣まで凍らせた、ということですか。それで、一体どうしようと――」
「今だ!クライシス君。」
フォンダンの呼び掛けにクライシスは素早く反応し、メフィスに向け矢を放った。
しかし、メフィスは動じることなく、その矢を人差し指と中指で挟み取り、くるりと矢尻をクライシスへ向け、投げ返した。
メフィスが投げた、その矢の速度はクライシスが放った矢の数倍はあろうかという、スピードであった。
クライシスは驚き、一歩も動けない。
カン!
クライシスに命中寸前で私は、それを叩き落とした。
クライシスは恐怖と安堵から膝から、力なく崩れ落ちた。
私はクライシスの前に出て、仁王立ちした。
「守ってやるぞ、クライシス君!」と、言わんばかりにだ。
「どけぃ!私がやる!」
国王を部屋の外の衛兵に任せ、将軍ゼルフィは大剣を抜いた。
「剛剣大破斬!」
ゼルフィの大剣が目にも見えない早さで降り下ろされると、同時にメフィスの右腕を切り飛ばした。
「こんなものか悪魔め――ブハッ!」
「みくびられては困りますね。」
完全に切り落とされた様に見えたメフィスの腕は、一瞬にして元に戻ってしまっていた。
そして、油断したゼルフィの腹部に悠然と剣を突き刺したのであった。
「私は自ら戦うのは、あまり好みません。本当なら、この場から消えてしまいたい。私は憐れな人間を操って楽しむタイプなのですよ――でも、あなた達は始末しなければなりませんね。面倒ですけど。」
「き、きさま!」
ゼルフィは重傷を負いながらも立ち上がろうとしていたが、メフィスは容赦なくゼルフィの頭を踏みつけ、それを阻止した。
「さあ、次はどなたです。」
私は頭にきて飛び出そうとした。
しかし、
「相手は僕のはずでしょ。」と、フォンダンがメフィスの前に立ちはだかった。
「フォンダン、無茶するな。手負いだろ。」
「大丈夫だよ、ハーブ。魔法で止血したから、心配しないで。」
「フォンダンさん、一人では戦わせない。」という強い意思で、私は駆けつけようとした。
「おっと。あなた方は邪魔ですね――来い、フンババよ!」
メフィスは指をパチン!と鳴らした。
すると、黒い霧が辺りに立ち込めた。
そして、その黒い霧を一瞬で全て吹き飛ばし、中から怪物が姿を現した。
巨体の化物は、牛の様な角を頭に持ち、手足には鋭い爪。
「これは元々、神の持ち物だったのですがね。私がペットとして奪いとった物なんですよ。凶暴ですが可愛いらしいでしょ。」
「……どこが可愛いのだ。」と、私は気持ち悪くなった。
「フンババ!こいつらを始末しない。」
フンババは、メフィスの命に従い、私たちに牙を剥いた。
「そいつは、君とハーブに任せたよ。」
フォンダンは強い覚悟を目に宿して、一人でメフィスに立ち向かった。
フンババは、大きく息を吸い込み、口を開いた。
そして、その大きな口から灼熱の炎を吐いた。
私は、傷を負ったゼルフィを抱え上げ、飛んだ。
「ハーブティーは!?」
彼女は、すかさず私と反対方向へ飛び、無事だ。
私はゼルフィを王の間の外に出し、再び部屋の中へ戻った。
「気をつけろ。」という、ゼルフィの言葉を背に、私は部屋の扉を閉めた。
「さて、こちらも楽しみましょうか。魔法剣士殿。」
「君に通用するかどうか、分からないけど――プリフケーションソード!」
二人の剣は激しく交わり、甲高い音を鳴り響かせた。
「こっちも、さっさと終わらせるぞ。」と、ハーブティーは目の前の化物を倒して、一刻も早くフォンダンの加勢に向かいたい様子であった。
「私が、あいつの自由を奪うから、お前がやれ。」
私は頷き、剣を持つ手に力を込めた。
「こんな大きい奴には、こいつが有効だ。ワイヤー!」
ハーブティーのワイヤーがフンババの身体に絡みつく。
「よし、今だ!」
私はフンババの心臓目掛けて、突っ込んだ。
だが、その時フンババは全身に力を入れ、ハーブティーの放ったワイヤーを断ち切ってしまった。
私は突進するのを止めて、慌ててブレーキをかけた。
しかし間に合わず、フンババとの間合いが至近距離にまで迫った。
フンババは手の鋭い爪で私を攻撃してきた。
それを寸前で避け、私は後方へ飛び退いた。
「なんという風圧。あんなもの、まともに喰らったら即死だな。
」と、私は額に脂汗を流した。
フンババの攻撃は、その後も止まらない。
距離を、とれば再び炎を吐き、近付けば爪で襲いかかる。
「くそ!厄介な奴め!」
私たちが苦戦を強いられている、その奥でフォンダンはメフィスと剣を交えていた。
バキン!
二人の剣が重なった瞬間、鈍い音が響いた。
「残念でしたね。剣が折れてしまっては、あなたの出番は終了ということになりますね。」
フォンダンの剣は、根元付近から見事に折れていた。
しかしフォンダンに焦りはない。
「どうかな。僕が普通の剣士なら、終わりなんだろうが、まだ手はある。」
そう言って、フォンダンは光剣「レイブレイド」を発動する。
すると折れた刃の先から、光の刃が出現した。
「なるほど。ですが――」
メフィスは鋭い突きをみせた。
それをフォンダンはレイブレイドで防いだ……筈だった。
「ば、ばかな……。」
メフィスの剣先はフォンダンの心臓を捉えていた。
「そんな紛い物の刃では、私の剣を防ぐことは不可能ですよ、魔法剣士殿。」
「フォンダン!!」
ハーブティーは、その様子に気付き悲鳴の様な叫び声を上げた。
「おのれ!」
私は怒りに任せ、中級魔法「黒箱ブラックボックス」を唱えた。
四角の黒い壁がフンババの四方を囲み、最後に上部に蓋をした。
閉じ込められた、フンババは中で暴れている様子だが、黒箱ブラックボックスは破れなかった。
そして、私は「空間圧縮」の魔法を唱えた。
すると、箱の中は途端に静かになった。
そして黒箱は消え去り、それと共にフンババの姿も消滅した。
「さすがに中級魔法のコンボは、魔力と体力を大幅に消費するな。」
ハーブティーを見ると、彼女は既にフォンダンの元へ行って名前を呼んでいた。
「こうなったら、奴も。」と、私はメフィスにも黒箱ブラックボックスを唱え、発動させた。
「これで終わりだ!」
私は急ぎ「空間圧縮」を唱えようとした。
しかしその時、メフィスを囲っていた黒箱に亀裂が入った。
「な、なに!?」
黒箱は、まるでガラスの様に粉々に砕け散ってしまった。
「驚きましたか?私をフンババごときと、同じだと思わないことですね。」
私は、剣を構えた。
「待て!」
ハーブティーの声が耳に入った私は、彼女の方をチラッと見た。
「こっちへ来い。」
私は苛立ちながらも、言われた通りにした。
「フォンダンを見ててくれ――こいつは私がやる!」
ハーブティーは私の返事を待たずに、魔法提唱に入っていた。
「森羅万象――この世の全てのものよ私に力を与え、そして――このクソ野郎を時空の彼方へ吹き飛ばせ。くらえ、ディメンション!」
「こ、これは。」
私は驚いた。
それは、ハーブティーが上級魔法を使ったからだ。
私が知っているハーブティーは中級魔法までしか使えない。
「弟子にも内緒にした、隠し技を持っていたか――これならば。」
メフィスは、まるで空に吸い込まれるように、体を持っていかれようとしていた。
「くそぉ!」
これまでの冷静さを失ったように声を上げ、メフィスは遂に姿を無くした。
「終わった……はっ!フォンダン。」
ハーブティーは急ぎ旦那の元へ走った。
「今、治療してやるから。」
ハーブティーは、フラフラの状態で治療魔法を唱えようとした。
「いや。もう、いいんだ。治療魔法なら彼から、充分してもらったよ……僕の命は、もう尽きている。」
その事を、私は重々承知していた。
フォンダンさんは、もう……。
「な、なに言ってるんだ――。」
「ハーブ。聞いてくれ。僕は最後に命を失っても少しの間、会話できるように、自分に魔法をかけたんだ。」
ハーブティーは黙って、フォンダンの最後の言葉を一言一句逃すまいと、必死に耳を傾けているようだった。
ふと、私を見たフォンダンが、
「ハーブの事を頼んだよ。」と、言った。
私は、いつしか流れ始めていた涙に気づくこともなく、ただ頷いた。
「そして、ハーブ。今までありがとう。君と会えて良かったよ――いつまでも愛しているからね。」
「ば、ばか野郎。」
この時、私は初めてハーブティーの涙を見た。
この二人は私が思っていたよりもずっと、愛し合っていたのだな、と考えると胸が締め付けられた。
「もう時間だ。二人共ありがとう――そして、さようなら。」
そう言い残すと、フォンダンは眠る様に瞳を閉じた。
その後、私とハーブティーはフォンダンを喪った悲しみにくれ、無言のまま動くことができなかった。
すると、それは突然やってきた、
「おや?彼は死んでしまったのですか。」
その声の主が誰なのかが、すぐに分かった私は、剣を抜き戦闘態勢をとった。
ハーブティーも、ようやく顔を上げ奴を見て驚いた。
「なぜ、お前が……時空の彼方に吹き飛ばしたのに……。」
そう――メフィスだ。
「さすがに少し危なかったですよ。戻って来るのに随分と力を失ってしまいましたしね。しかし、あなた方だけは私の手で殺しておかないと気が治まらないですからね。」
カキン!
メフィスは喋りながらも、私の剣撃をいとも簡単に防いだ。
「まったく、人間の分際で……そんなに死にたいのなら、今すぐ殺してやる!!」
メフィスは、剣を私に突き刺そうと、狂った様に攻撃を乱発した。
「ヒャヒャヒャ!どうした人間!手も足も出ないか!」
私は、その攻撃を全て避け反撃に出る。
メフィスを倒す術は色々とあったが、私は師匠であり友であった、フォンダンと同じ魔法剣を選択した。
「聖なる翼よ《ホーリーウイングソード》」
私の剣の刃の根元に、真っ白な美しい両翼が生えた。
「おまえ……それを修得していたのか。」
ハーブティーが驚くのも無理はない。
あの、天才魔法剣士フォンダンさえも成し得なかった剣である。
私は翼の生えた剣から、そっと手を離した。
すると、翼は羽を広げ、そしてゆっくりと羽を動かした。
剣は、浮くようにして空中に留まる。
そして、私が攻撃の意思を剣に伝えると、
「ホーリー・ウイングソード」は羽ばたき、メフィスへと飛び出した。
「また面白い技を使いますね。ですが、そんな曲芸で私を倒すことなど不可能ですよ。」
余裕の笑みを不敵に浮かべているメフィスは、未だ気が付いていない。
私の「ホーリー・ウイングソード」が、既に己の心臓を貫いていることに。
やっと自分の胸に刃が突き刺さっていることを理解した、メフィスは、
「まったく……恐ろしくも美しい剣だ……いや、魔法剣か……また会いましょう――」
そう言い残すと、メフィスは今度こそ消滅した。
勝利は、したものの後に残ったのは空しい、戦いの爪痕だけであった。
――数日後。
フォンダンの葬儀を済ませた私たちは、まだアトラスに居た。
元々、アトラス出身のフォンダンは、この地に骨を埋めることと、なった。
その後、ハーブティーはクライシスを連れ、クスの村へと旅立った。
クライシスを無事に祖父母の元へ送り届けることと、クレアを迎えに行き、レガリアへ連れ帰るという使命を抱えて。
「お前には、世話になったな。――もし良かったら今度は、お前の旅を手伝わせてくれ。」
私は吃驚仰天した。
「ハーブティーが、私の手伝い!?」
考えたくもないことだ……だが、悪い気はしなかった。
私はハーブティーたちを見送り、その後ゼルフィの見舞いに顔を出した。
「ハーブティー殿は行ったのか。」
私は、そっと頷いた。
ゼルフィの話では、モートラル国王は今回の一件での、兵たちへの出陣命令を取り消し、更に自身は責任をとり、国王の座を退くといった声明を出したのだ、という。
そして、ことの発端となった事件の責任をレガリアの王である、クレアにもアトラス国は求めた。
その結果、レガリアはそれに応じた。
クレアを退陣させる、ということで此度の全ての事に関して、お互いが水に流すということで、決着して幕を下ろしたということだった。
「しかし、お前は強くなった。もう私より強いかもしれんな。」
私は首を横に振った――もちろん謙遜である。
「これから、どうする?」
ゼルフィの問いに、私は……何処へ向かうのだろうか?と、自問自答してみたが、答えは出なかった。
「もしも決まっていないのならば、西へ行け――ブレイズへ。」
ブレイズ?
確かに、まだ足を踏み入れたことのない国である。
そして、一度は行ってみたい国ランキング(自分の番付)ナンバーワンで、ある。
しかし、そこへ行き何をすれば?
私が一人で考えていると、
「行ってから考えればよい。今までも、そうしてきただろう。」
……確かに、それもそうだ。
「私は、お前の過去を多少知っている。そして、何を求め旅をするのかも……何となく分かる気がするのだ。」
私が何を求めて、か。
「そのヒントが、西の地であるカラエル地方に、あるかもしれん。」
私はゼルフィの提案に乗ってみることにした。
それから三日後、私は西の大国ブレイズへと出発した。
別れ際にゼルフィから忠告をうけた。
西の大国ブレイズへ行くには、大陸を縦断しているマゼイル山脈を越えるか、アトラスから船にて行くしか、方法はない。
もちろん、ゼルフィは私が極度の船嫌い、だという事を知っている。
「いいか、マゼイル山脈を越えるつもりなら、南へ迂回して行け。そちらの方が険しい道ではあるが、北部から中央付近にはハーゲン・ライブという野蛮な民族が住み着いているのでな。余計な戦闘は避けたほうが、いいだろう。」
できるだけ、私も揉め事は起こしたくないので、素直にゼルフィの忠告を聞くことにした。
そして、私はまた一人旅を続ける。
自分が探しているものは、なんなのかを知るために。
真実を求めて。
「おもしろいですね。」
メフィスは腰から細い、サーベルの様な剣を取りだし攻撃を防いだ。
「まだまだ。」と、フォンダンは高速で連続攻撃を放った。
しかし、攻撃は全てメフィスに弾き返されてしまう。
「いいですね、あなた。だが、それでは私には届きませんよ。」
そう言って、メフィスはフォンダンの心臓目掛けて剣を突き刺した。
「ぐわぁ!」
「フォンダン!」
駆け寄ろうとするハーブティーをフォンダンは手で制した。
「大丈夫。なんとか急所は避けたから。」
「ほう、見事です。ですが次は外しませんよ。」
「凍てつく大地よ、私に力を――グリーミングソード!」
フォンダンの剣が氷の刃となり、白い冷気を放つ。
そして、フォンダンは手負いを感じさせない動きでメフィスに斬りつけた。
そしてそれは、両者の刃が交わった瞬間だった。
「これは!」
メフィスは初めて焦りを見せた。
フォンダンの氷剣がメフィスの剣と、くっついた状態のまま動かない。
「なるほど。私の剣まで凍らせた、ということですか。それで、一体どうしようと――」
「今だ!クライシス君。」
フォンダンの呼び掛けにクライシスは素早く反応し、メフィスに向け矢を放った。
しかし、メフィスは動じることなく、その矢を人差し指と中指で挟み取り、くるりと矢尻をクライシスへ向け、投げ返した。
メフィスが投げた、その矢の速度はクライシスが放った矢の数倍はあろうかという、スピードであった。
クライシスは驚き、一歩も動けない。
カン!
クライシスに命中寸前で私は、それを叩き落とした。
クライシスは恐怖と安堵から膝から、力なく崩れ落ちた。
私はクライシスの前に出て、仁王立ちした。
「守ってやるぞ、クライシス君!」と、言わんばかりにだ。
「どけぃ!私がやる!」
国王を部屋の外の衛兵に任せ、将軍ゼルフィは大剣を抜いた。
「剛剣大破斬!」
ゼルフィの大剣が目にも見えない早さで降り下ろされると、同時にメフィスの右腕を切り飛ばした。
「こんなものか悪魔め――ブハッ!」
「みくびられては困りますね。」
完全に切り落とされた様に見えたメフィスの腕は、一瞬にして元に戻ってしまっていた。
そして、油断したゼルフィの腹部に悠然と剣を突き刺したのであった。
「私は自ら戦うのは、あまり好みません。本当なら、この場から消えてしまいたい。私は憐れな人間を操って楽しむタイプなのですよ――でも、あなた達は始末しなければなりませんね。面倒ですけど。」
「き、きさま!」
ゼルフィは重傷を負いながらも立ち上がろうとしていたが、メフィスは容赦なくゼルフィの頭を踏みつけ、それを阻止した。
「さあ、次はどなたです。」
私は頭にきて飛び出そうとした。
しかし、
「相手は僕のはずでしょ。」と、フォンダンがメフィスの前に立ちはだかった。
「フォンダン、無茶するな。手負いだろ。」
「大丈夫だよ、ハーブ。魔法で止血したから、心配しないで。」
「フォンダンさん、一人では戦わせない。」という強い意思で、私は駆けつけようとした。
「おっと。あなた方は邪魔ですね――来い、フンババよ!」
メフィスは指をパチン!と鳴らした。
すると、黒い霧が辺りに立ち込めた。
そして、その黒い霧を一瞬で全て吹き飛ばし、中から怪物が姿を現した。
巨体の化物は、牛の様な角を頭に持ち、手足には鋭い爪。
「これは元々、神の持ち物だったのですがね。私がペットとして奪いとった物なんですよ。凶暴ですが可愛いらしいでしょ。」
「……どこが可愛いのだ。」と、私は気持ち悪くなった。
「フンババ!こいつらを始末しない。」
フンババは、メフィスの命に従い、私たちに牙を剥いた。
「そいつは、君とハーブに任せたよ。」
フォンダンは強い覚悟を目に宿して、一人でメフィスに立ち向かった。
フンババは、大きく息を吸い込み、口を開いた。
そして、その大きな口から灼熱の炎を吐いた。
私は、傷を負ったゼルフィを抱え上げ、飛んだ。
「ハーブティーは!?」
彼女は、すかさず私と反対方向へ飛び、無事だ。
私はゼルフィを王の間の外に出し、再び部屋の中へ戻った。
「気をつけろ。」という、ゼルフィの言葉を背に、私は部屋の扉を閉めた。
「さて、こちらも楽しみましょうか。魔法剣士殿。」
「君に通用するかどうか、分からないけど――プリフケーションソード!」
二人の剣は激しく交わり、甲高い音を鳴り響かせた。
「こっちも、さっさと終わらせるぞ。」と、ハーブティーは目の前の化物を倒して、一刻も早くフォンダンの加勢に向かいたい様子であった。
「私が、あいつの自由を奪うから、お前がやれ。」
私は頷き、剣を持つ手に力を込めた。
「こんな大きい奴には、こいつが有効だ。ワイヤー!」
ハーブティーのワイヤーがフンババの身体に絡みつく。
「よし、今だ!」
私はフンババの心臓目掛けて、突っ込んだ。
だが、その時フンババは全身に力を入れ、ハーブティーの放ったワイヤーを断ち切ってしまった。
私は突進するのを止めて、慌ててブレーキをかけた。
しかし間に合わず、フンババとの間合いが至近距離にまで迫った。
フンババは手の鋭い爪で私を攻撃してきた。
それを寸前で避け、私は後方へ飛び退いた。
「なんという風圧。あんなもの、まともに喰らったら即死だな。
」と、私は額に脂汗を流した。
フンババの攻撃は、その後も止まらない。
距離を、とれば再び炎を吐き、近付けば爪で襲いかかる。
「くそ!厄介な奴め!」
私たちが苦戦を強いられている、その奥でフォンダンはメフィスと剣を交えていた。
バキン!
二人の剣が重なった瞬間、鈍い音が響いた。
「残念でしたね。剣が折れてしまっては、あなたの出番は終了ということになりますね。」
フォンダンの剣は、根元付近から見事に折れていた。
しかしフォンダンに焦りはない。
「どうかな。僕が普通の剣士なら、終わりなんだろうが、まだ手はある。」
そう言って、フォンダンは光剣「レイブレイド」を発動する。
すると折れた刃の先から、光の刃が出現した。
「なるほど。ですが――」
メフィスは鋭い突きをみせた。
それをフォンダンはレイブレイドで防いだ……筈だった。
「ば、ばかな……。」
メフィスの剣先はフォンダンの心臓を捉えていた。
「そんな紛い物の刃では、私の剣を防ぐことは不可能ですよ、魔法剣士殿。」
「フォンダン!!」
ハーブティーは、その様子に気付き悲鳴の様な叫び声を上げた。
「おのれ!」
私は怒りに任せ、中級魔法「黒箱ブラックボックス」を唱えた。
四角の黒い壁がフンババの四方を囲み、最後に上部に蓋をした。
閉じ込められた、フンババは中で暴れている様子だが、黒箱ブラックボックスは破れなかった。
そして、私は「空間圧縮」の魔法を唱えた。
すると、箱の中は途端に静かになった。
そして黒箱は消え去り、それと共にフンババの姿も消滅した。
「さすがに中級魔法のコンボは、魔力と体力を大幅に消費するな。」
ハーブティーを見ると、彼女は既にフォンダンの元へ行って名前を呼んでいた。
「こうなったら、奴も。」と、私はメフィスにも黒箱ブラックボックスを唱え、発動させた。
「これで終わりだ!」
私は急ぎ「空間圧縮」を唱えようとした。
しかしその時、メフィスを囲っていた黒箱に亀裂が入った。
「な、なに!?」
黒箱は、まるでガラスの様に粉々に砕け散ってしまった。
「驚きましたか?私をフンババごときと、同じだと思わないことですね。」
私は、剣を構えた。
「待て!」
ハーブティーの声が耳に入った私は、彼女の方をチラッと見た。
「こっちへ来い。」
私は苛立ちながらも、言われた通りにした。
「フォンダンを見ててくれ――こいつは私がやる!」
ハーブティーは私の返事を待たずに、魔法提唱に入っていた。
「森羅万象――この世の全てのものよ私に力を与え、そして――このクソ野郎を時空の彼方へ吹き飛ばせ。くらえ、ディメンション!」
「こ、これは。」
私は驚いた。
それは、ハーブティーが上級魔法を使ったからだ。
私が知っているハーブティーは中級魔法までしか使えない。
「弟子にも内緒にした、隠し技を持っていたか――これならば。」
メフィスは、まるで空に吸い込まれるように、体を持っていかれようとしていた。
「くそぉ!」
これまでの冷静さを失ったように声を上げ、メフィスは遂に姿を無くした。
「終わった……はっ!フォンダン。」
ハーブティーは急ぎ旦那の元へ走った。
「今、治療してやるから。」
ハーブティーは、フラフラの状態で治療魔法を唱えようとした。
「いや。もう、いいんだ。治療魔法なら彼から、充分してもらったよ……僕の命は、もう尽きている。」
その事を、私は重々承知していた。
フォンダンさんは、もう……。
「な、なに言ってるんだ――。」
「ハーブ。聞いてくれ。僕は最後に命を失っても少しの間、会話できるように、自分に魔法をかけたんだ。」
ハーブティーは黙って、フォンダンの最後の言葉を一言一句逃すまいと、必死に耳を傾けているようだった。
ふと、私を見たフォンダンが、
「ハーブの事を頼んだよ。」と、言った。
私は、いつしか流れ始めていた涙に気づくこともなく、ただ頷いた。
「そして、ハーブ。今までありがとう。君と会えて良かったよ――いつまでも愛しているからね。」
「ば、ばか野郎。」
この時、私は初めてハーブティーの涙を見た。
この二人は私が思っていたよりもずっと、愛し合っていたのだな、と考えると胸が締め付けられた。
「もう時間だ。二人共ありがとう――そして、さようなら。」
そう言い残すと、フォンダンは眠る様に瞳を閉じた。
その後、私とハーブティーはフォンダンを喪った悲しみにくれ、無言のまま動くことができなかった。
すると、それは突然やってきた、
「おや?彼は死んでしまったのですか。」
その声の主が誰なのかが、すぐに分かった私は、剣を抜き戦闘態勢をとった。
ハーブティーも、ようやく顔を上げ奴を見て驚いた。
「なぜ、お前が……時空の彼方に吹き飛ばしたのに……。」
そう――メフィスだ。
「さすがに少し危なかったですよ。戻って来るのに随分と力を失ってしまいましたしね。しかし、あなた方だけは私の手で殺しておかないと気が治まらないですからね。」
カキン!
メフィスは喋りながらも、私の剣撃をいとも簡単に防いだ。
「まったく、人間の分際で……そんなに死にたいのなら、今すぐ殺してやる!!」
メフィスは、剣を私に突き刺そうと、狂った様に攻撃を乱発した。
「ヒャヒャヒャ!どうした人間!手も足も出ないか!」
私は、その攻撃を全て避け反撃に出る。
メフィスを倒す術は色々とあったが、私は師匠であり友であった、フォンダンと同じ魔法剣を選択した。
「聖なる翼よ《ホーリーウイングソード》」
私の剣の刃の根元に、真っ白な美しい両翼が生えた。
「おまえ……それを修得していたのか。」
ハーブティーが驚くのも無理はない。
あの、天才魔法剣士フォンダンさえも成し得なかった剣である。
私は翼の生えた剣から、そっと手を離した。
すると、翼は羽を広げ、そしてゆっくりと羽を動かした。
剣は、浮くようにして空中に留まる。
そして、私が攻撃の意思を剣に伝えると、
「ホーリー・ウイングソード」は羽ばたき、メフィスへと飛び出した。
「また面白い技を使いますね。ですが、そんな曲芸で私を倒すことなど不可能ですよ。」
余裕の笑みを不敵に浮かべているメフィスは、未だ気が付いていない。
私の「ホーリー・ウイングソード」が、既に己の心臓を貫いていることに。
やっと自分の胸に刃が突き刺さっていることを理解した、メフィスは、
「まったく……恐ろしくも美しい剣だ……いや、魔法剣か……また会いましょう――」
そう言い残すと、メフィスは今度こそ消滅した。
勝利は、したものの後に残ったのは空しい、戦いの爪痕だけであった。
――数日後。
フォンダンの葬儀を済ませた私たちは、まだアトラスに居た。
元々、アトラス出身のフォンダンは、この地に骨を埋めることと、なった。
その後、ハーブティーはクライシスを連れ、クスの村へと旅立った。
クライシスを無事に祖父母の元へ送り届けることと、クレアを迎えに行き、レガリアへ連れ帰るという使命を抱えて。
「お前には、世話になったな。――もし良かったら今度は、お前の旅を手伝わせてくれ。」
私は吃驚仰天した。
「ハーブティーが、私の手伝い!?」
考えたくもないことだ……だが、悪い気はしなかった。
私はハーブティーたちを見送り、その後ゼルフィの見舞いに顔を出した。
「ハーブティー殿は行ったのか。」
私は、そっと頷いた。
ゼルフィの話では、モートラル国王は今回の一件での、兵たちへの出陣命令を取り消し、更に自身は責任をとり、国王の座を退くといった声明を出したのだ、という。
そして、ことの発端となった事件の責任をレガリアの王である、クレアにもアトラス国は求めた。
その結果、レガリアはそれに応じた。
クレアを退陣させる、ということで此度の全ての事に関して、お互いが水に流すということで、決着して幕を下ろしたということだった。
「しかし、お前は強くなった。もう私より強いかもしれんな。」
私は首を横に振った――もちろん謙遜である。
「これから、どうする?」
ゼルフィの問いに、私は……何処へ向かうのだろうか?と、自問自答してみたが、答えは出なかった。
「もしも決まっていないのならば、西へ行け――ブレイズへ。」
ブレイズ?
確かに、まだ足を踏み入れたことのない国である。
そして、一度は行ってみたい国ランキング(自分の番付)ナンバーワンで、ある。
しかし、そこへ行き何をすれば?
私が一人で考えていると、
「行ってから考えればよい。今までも、そうしてきただろう。」
……確かに、それもそうだ。
「私は、お前の過去を多少知っている。そして、何を求め旅をするのかも……何となく分かる気がするのだ。」
私が何を求めて、か。
「そのヒントが、西の地であるカラエル地方に、あるかもしれん。」
私はゼルフィの提案に乗ってみることにした。
それから三日後、私は西の大国ブレイズへと出発した。
別れ際にゼルフィから忠告をうけた。
西の大国ブレイズへ行くには、大陸を縦断しているマゼイル山脈を越えるか、アトラスから船にて行くしか、方法はない。
もちろん、ゼルフィは私が極度の船嫌い、だという事を知っている。
「いいか、マゼイル山脈を越えるつもりなら、南へ迂回して行け。そちらの方が険しい道ではあるが、北部から中央付近にはハーゲン・ライブという野蛮な民族が住み着いているのでな。余計な戦闘は避けたほうが、いいだろう。」
できるだけ、私も揉め事は起こしたくないので、素直にゼルフィの忠告を聞くことにした。
そして、私はまた一人旅を続ける。
自分が探しているものは、なんなのかを知るために。
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