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divide~後編~
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私はエクテス地方へと、一人でやって来た。
この地を治めるのは、ドリューという男だ。
彼の事については、あまり情報がない。
一説によると、ドリューはギアン大陸から来たのだという。
そんな彼を一目、見てみたいと思い、私はエクテス城へと向かっていた。
この地方は、主に農業が盛んである。
この、裕な大地は食物を作るのに適している。
普段は、のどかで静かな場所なのである。
だが今、目の前では民たちが騒然としている。
まるで大きな、お祭りでも開催しているかのようだ。
「どうしたのだろうか?」
私は行き交う人々の話を、地獄耳を発動させて聞いてみた。
「キリエス軍が攻めてくるぞ。」
「なぜエクテスに進軍してくるんだ!?」
「キリエスを裏切ったのは、ソルディウスってとこだろ。どうして、こっちに来てるんだよ、キリエスは。」
――情報収集した結果、この地にキリエス軍が進軍して来ている、ということだけが分かった。
「挙兵したとは、聞いていたが、なぜソルディウスでは、ないのだろうか?」
考えても分かりそうもないので、私はエクテス城へと急いだ。
エクテス城付近まで来た時だった。
「あれ?こんな所で、お逢いするとは、驚きですね。」
その声の主は――サフィアであった。
私は、剣を抜こうと構えた。
「もぅ、俺は貴方と戦う気なんて、さらさら無いですよ。今日は友に会いに来ただけですから」
もちろん、そんな話しは信じるはずもなかった。
私は警戒心を解かずに、奴の動向を注視した。
「信用ないんだな……あっ!そうだ、ちょっと付き合いませんか?ここの領主であり、俺の友でもあるドリューに、これから会いに行くので、貴方にも紹介しときますよ。」
「ドリュー……領主か。」
私は、考えた。ここで、領主ドリューに直接、会えるのは今後のエクテスの動向を探るのにも、今現在なにが起こっているのかを知るのにも、この上なく有効である、と。
しかし、サフィアのことは信用ならない。
私は、最大限の注意を払いながら、奴の提案に乗ってみることにした。
私とサフィア、という妙な組合せで、やって来たのはエクテス城である。
「サフィア殿!よく来られた。」
待ちわびていたのが、よく分かる様にして、ドリューは現れた。
それとは、対照的なのがサフィアだ。
「やあ、ドリュー殿。大変な事になりましたね、ハハハ。」
「笑い事ではない。ああ、どうしよう。サフィア殿、私はどうしたらよいだろうか?」
呑気なサフィアと狼狽するドリュー。
私には、この二人の関係性が、どんなものなのかを知らない。
しかし、ドリューの焦り具合から、今は火急の時であることが伺えた。
「サフィア殿。そちらは?」
「ああ、俺の友で――レジェスといいます。旅の共に連れてきただけなので、お気になさらず。」
私は一応、ドリューに頭を下げた。
「レジェスって……いい名ではないか。」
サフィアの咄嗟の気転に私は、なぜか喜びを感じた。
「痛っ!」
その時、突然に頭をハンマーで殴られたような、鈍痛が私を襲った。
「なんなんだ、この激しい痛みは?」と、私は頭を押さえた。
幸いにも、頭痛は一瞬で治まった。
「さて、ドリュー殿。これからどうされます?」
相変わらず、サフィアは他人事の様に、軽い口調で訊ねた。
「どうもこうもない。キリエスの目的が、このエクテスの攻略なのか、それともフェイトフル・リアルムへ攻めこむための拠点確保なのか。ここへ来る理由が分からぬ以上、どうすることもできぬのだ……どうしよう。」
この時、初めて気づいたが、ドリューという男はまだ、かなり若いようだ。
私と同じくらいだろう。
「その若さで、重大な決断をせねばならぬとは、領主というのも大変なものだな。」と、私は思った。
「キリエスは、流石ですね。」と、サフィアは唸るように言った。
「どういうことだ、サフィア殿。」
「つまり、キリエスの挙兵は普通に考えれば、裏切ったソルディウスへの攻撃の為だと考えるでしょう。だが、ソルディウスの兵力はキリエスと、さほど変わらぬではないですか。そんな大戦を突然始めてしまえば、双方ともに甚大な被害を受けてしまう。そこで、まずは内側を固める為に、ここエクテスへ向け進軍しているのです。つまり、エクテスがどちらに付く気なのかを、確かめる為ですよ。もし、エクテスが裏切るのなら、キリエスを迎え撃つでしょ?だがキリエス側に付く気なら、無抵抗でエクテスへキリエス軍を迎え入れるでしょ?ようは、エクテスの動きを牽制すると共に、ここの隣国、フェイトフル・リアルムを叩くつもりなんですよ、キリエスは。」
サフィアの言っていることは、もっともだ。
もし、エクテスが裏切るのなら、フェイトフル・リアルムもろとも、潰しておく必要がある。
ソルディウス、一国を相手にするより、こちら側の二国の動きを封じといたほうが、後々に関わるであるだろう。
「なるほど。では、我々はキリエスを無抵抗で迎え入れれば、よいと?」
「いや、そうとも言い切れませんぞ、ドリュー殿。」
「な、なぜだ?サフィア殿。」
「それは、貴方が一番分かっているでしょ、ドリュー殿。これまで、キリエスに隠れて、フェイトフル・リアルムと仲良くしていたじゃ、ありませんか。もし、それがキリエスに筒抜けだったら?」
サフィアの話しに、ドリューの顔から、みるみる血の気が引いていくのが、見てとれた。
「わ、わたしは、少し具合が良くない。ち、ちょっと休ませてもらう。」
ドリューは、おぼつかない足取りで、部屋を出ていった。
「あらら。ありゃ、相当きてるな。もしかしたら、逃げ出したりしちゃって、ハハハ。」
サフィアは、からかう様に、ドリューの後ろ姿を見送った。
「逃げたりするわけないだろ。仮にも、領主だぞ。」と、私はサフィアを軽蔑した。
それから、一時間ほど経ってからだった。
私たちが居る部屋に、一人の兵士が飛び込んできた。
「あの、此方にドリュー様は、いらっしゃいませんか?」
私は首を振って、いないと答えた。
「あら、本当に逃亡しちゃったんじゃないの?」
そこへ、また違う兵士が青ざめた顔で飛び込んでくる。
「大変だ!これが、ドリュー様の部屋に。」
兵士が持ってきたのは、一通の手紙。
「どれどれ。」と、サフィアは手紙を読んだ。
読み終えたあと、手紙を今度は私に渡した。
(もう疲れました。どうか探さないで。さようなら。)
「……逃げおった!」
まさか、本当に逃げるとは、思ってもみなかった。
「我々はどうすれば、よいでしょうか!?」
兵士は、おどおどした態度で訊ねた。
「いや、どうして俺に聞くんだい。」と、サフィアは面倒くさそうに答えた。
「ドリュー様の変わりなら、どなたでも構いません。どなたか領主に、なっては頂けませんか?」
「そんな、ばかな!」と、私は目の前の兵士が錯乱してしまったと、本気で思った。
「この人、本気だよ。ドリュー殿も元は同じ状況で領主になったんだから。この地方はね、しょっちゅう領主が夜逃げするんだ。だから誰でもいいんだよ。」
「そんなものなのか?」と、私は混乱した。
「そうだ!貴方がなればいい!ここの領主に。」と、サフィアはまたしても軽い口調で、さらりと言った
「できるか!」と、突っ込みたくなる。
「そうだ!どうせだったら、独立しよう、キリエスから。」
この男は勢いで、滅茶苦茶なことを言い出す。
「それは、良い考えです。」
驚くことに、兵士も、その提案に賛成のようだった。
「どいつもこいつも、正気なのだろうか?」
「私たちは、キリエスではなくソルディウスに付きたいと、殆どの兵士たちが、そう思っています。その理由として、ソルディウスの王がピーター様で、あるからです。私たちの多くは、かつてピーター様に仕えていたのです。どうか、お願いします。」
「よし、分かった!任せておけ。この方なら、きっとやってくれる。この新たな王、レジェス様なら。」
サフィアは、楽しむように、私に丸投げした。
「はっ!では、皆にその旨伝えて参ります。」
「うむ。では、下の広間に兵士たちを集めておいてくれ。国王様より、お言葉があるのでな。」
こうして私は、なぜか王になった。
「大丈夫、大丈夫。慣れるまでは、俺がサポートしますから。ねっ、国王様。」
「こくおうさま、か……良い響きでは、ある。」
「そうだ、国王様。新しい国の名を。」
国の名前……私の頭に、ある名が浮かび上がった。
そして紙をとり、その名を刻む――「フォンダン」と。
「フォンダン――いい名ではないですか。決まりだ。」
私はサフィアと共に兵士たちの待つ広間へと、やって来た。
最初は、受け入れてもらえるはずがない、と思っていた。
だが、事態は違っていた。
「おお、あれが新しい国王様か。」
「よかった。手遅れになる前にキリエスから離れられるぞ。」
「俺はドリューが大嫌いだったからな。歓迎しますぜ!」
なぜか皆、受け入れていた。
「国王様、私が代わりに皆に伝えます。よろしいかな?」
サフィアは私が頷くと、兵士たちの前に立ち、声を上げた。
「皆、聞くがよい。このエクテスはキリエスの支配から脱する。そして、一つの国として生まれ変わる!この国の名は、フォンダンだ!そして我が国の主、レジェス様だ!我々はソルディウスとフェイトフル・リアルムとの三国協同のもと、反キリエスとして突き進む、よいか!」
「オーッ!」と、兵たちは叫んだ。
「よし、よく言った。さあ、皆のもの新たな王の名を!!」
サフィアの煽り文句に兵たちは「レジェス」の、大合唱であった。
私は恥ずかしかったが、剣を抜き天へと振り上げた。
「オーッ!」と、更に兵たちは雄叫びを上げた。
「気持ちが良い!」
これが、私の本心である。
私が、うっとりと自分に酔いしれていると、
「国王陛下!申し上げます。なんと、キリエス兵がマビン・グラスへと引き返し始めました。」
「なんと!?なぜだ?」私には、何が起きたのか全く分からなかったが、隣にいたサフィアは、納得の表情をしていた。
「結局、キリエスは最初から、やる気はなかったのでは、ないかな。なぜだかは分かりませんがね。」
まあ、なんにせよ戦を回避できたのは、いいことである。
その日の夜。
私は盛大な宴で酒を飲んでいた。
サフィアの提案である。
妙な運命で、私はここにいる。
だが、隣にいるサフィアを全面的に信用したわけでは、ない。
どうも、引っ掛かる部分が多すぎる。
私が、懐疑的な目でサフィアを見ていると、
「国王様陛下!またしても大変でございます!」
すかさずサフィアが、
「なんか大変なことばっかりだな、この国は。それで?」
「ハッ!東から軍勢が。」
「軍勢?キリエスは引き返したばかりだし、東からではない。どこの軍勢だ?」
「そ、それが、どうも人ではないようで。恐らくはオークかと思われます。」
「ほう。して、数は?」
「その数、およそ五千ほどかと。」
「また、ずいぶん多いな。キリエスの仕業か。」
サフィアの、その言葉に私は思い出した。
「そうだ!私の当初の目的はキリエスと魔物との因果関係を探ることであった。色々ありすぎて、すっかり忘れておった。」
しかし、これは好機。
そのオークの軍勢を裏で操る何者かが必ずいるはず。
キリエスが絡んでいるのは、もう間違いないだろう。
「レジェス国王様。出陣でよろしいか?」と、サフィアは訊いた。
もちろん迷う事など、無し!
私は力強く、頷いた。
「者ども、キリエスが放った化け物たちが、攻めてくるぞ!奴等を片っ端から埋めてしまえ!」
「うぉーっ!」
兵士たちの士気は激高だった。
私とサフィアは先陣をきり、馬に飛び乗った。
私は久しぶりの乗馬で、途中二度ほど……落馬した。
「おのれ!まけぬ!」
私とサフィアは二千の兵を率いて、オークどもと戦闘を開始した。
「うわ、いるいる。どうですか国王様、俺と勝負しませんか。奴等を何体やれるか。」
「ふん、意気がりおって、小僧め!」と、私は国王気取りの台詞を心の中で吐いてみた。
最初に敵陣に飛び込んだのは、サフィアだった。
彼は、細身の剣で次々に敵を沈めていく。
「さすがにやるな。」と、私も負けじと奮い立つ。
「あの、二人こそ化け物だな。」
「ああ。オークがひびってるもんな。」
兵士たちは、二人の戦いに触発され、更に士気を上げた。
約二時間後。
「いやいや、国王様。きりがないですな。」
少し、息切れし始めたサフィアを私は嘲笑うかのように、戦場を駆け回っていた。
「どんだけ、タフなんだ。あの人は。」と、サフィアは笑みを浮かべた。
「体力的には全然問題ないが、こう多くては面倒だ。」
私は、サフィアを捕まえ、皆に退くよう命じさせた。
「国王陛下。今はこちらが有利。なぜ、退くのです。」
兵士たちの言葉に、サフィアは、
「そういう意味じゃないと思うよ。まあ見てな。」と、言って兵を退かせた。
「よし、これで思う存分やれる!」
私は上級魔法「神聖槍スカーレットスピア」を、唱えた。
剣を収め、私の手には神々しく輝きを放つ、一本の槍。
それを、思いきり空へ向け投げた。
その光は一瞬にして、天高くに消えていった。
ドドド!
「な、なんだ、この音は?」
それは、空からである。
「おいおい、国王様まさか、あの月でも落とす気じゃないだろうな。」と、サフィアは嬉しそうに言った。
「あほか、そんなことしたら、この地ごと消滅してしまうわ。」と、私は呆れた。
空に放った槍は、何万という光の槍となり、オークの軍勢へと激しい雨のように、降り注いだ。
それは、神秘的で恐ろしい魔法である。
「ミッションコンプリート」で、ある。
「うお!すげえ、国王陛下、万歳!」
サフィアの声に兵士たちも、我に返り、勝ちどきを上げる。
こうして、キリエスの陰謀は潰えたのであった。
後日、私はサフィアの姿を城内で探していた。
しかし、何処にも彼の姿は、なかった。
「国王様。ここにおいででしたか。これを、サフィア殿が。」
兵士が持ってきたのは、一通の手紙であった。
中を開けて見てみると、
(楽しかった。また、会おう、兄弟よ。)と、だけ綴ってあった。
「兄弟……か。」
その時、またしても私を激しい頭痛が襲った。
「なんなんだ、これは。も、もしかして病気!?」
私は、あたふたとした。
「うわああ!どうしよう……まっ、いいか。」
今は、今を楽しむだけである。
私は、国王には、国王にしかできない遊びを密かに計画しているのである。
「さあ、ハーレムを作るぞ!!」と。
しかし事態は、この後とんでもない方向へと、進んでいく。
運命の悪戯か、はたまた神々の遊びか。
まあ、とにかく、私はまだ呑気に、今日も全力で生きていくのであった。
この地を治めるのは、ドリューという男だ。
彼の事については、あまり情報がない。
一説によると、ドリューはギアン大陸から来たのだという。
そんな彼を一目、見てみたいと思い、私はエクテス城へと向かっていた。
この地方は、主に農業が盛んである。
この、裕な大地は食物を作るのに適している。
普段は、のどかで静かな場所なのである。
だが今、目の前では民たちが騒然としている。
まるで大きな、お祭りでも開催しているかのようだ。
「どうしたのだろうか?」
私は行き交う人々の話を、地獄耳を発動させて聞いてみた。
「キリエス軍が攻めてくるぞ。」
「なぜエクテスに進軍してくるんだ!?」
「キリエスを裏切ったのは、ソルディウスってとこだろ。どうして、こっちに来てるんだよ、キリエスは。」
――情報収集した結果、この地にキリエス軍が進軍して来ている、ということだけが分かった。
「挙兵したとは、聞いていたが、なぜソルディウスでは、ないのだろうか?」
考えても分かりそうもないので、私はエクテス城へと急いだ。
エクテス城付近まで来た時だった。
「あれ?こんな所で、お逢いするとは、驚きですね。」
その声の主は――サフィアであった。
私は、剣を抜こうと構えた。
「もぅ、俺は貴方と戦う気なんて、さらさら無いですよ。今日は友に会いに来ただけですから」
もちろん、そんな話しは信じるはずもなかった。
私は警戒心を解かずに、奴の動向を注視した。
「信用ないんだな……あっ!そうだ、ちょっと付き合いませんか?ここの領主であり、俺の友でもあるドリューに、これから会いに行くので、貴方にも紹介しときますよ。」
「ドリュー……領主か。」
私は、考えた。ここで、領主ドリューに直接、会えるのは今後のエクテスの動向を探るのにも、今現在なにが起こっているのかを知るのにも、この上なく有効である、と。
しかし、サフィアのことは信用ならない。
私は、最大限の注意を払いながら、奴の提案に乗ってみることにした。
私とサフィア、という妙な組合せで、やって来たのはエクテス城である。
「サフィア殿!よく来られた。」
待ちわびていたのが、よく分かる様にして、ドリューは現れた。
それとは、対照的なのがサフィアだ。
「やあ、ドリュー殿。大変な事になりましたね、ハハハ。」
「笑い事ではない。ああ、どうしよう。サフィア殿、私はどうしたらよいだろうか?」
呑気なサフィアと狼狽するドリュー。
私には、この二人の関係性が、どんなものなのかを知らない。
しかし、ドリューの焦り具合から、今は火急の時であることが伺えた。
「サフィア殿。そちらは?」
「ああ、俺の友で――レジェスといいます。旅の共に連れてきただけなので、お気になさらず。」
私は一応、ドリューに頭を下げた。
「レジェスって……いい名ではないか。」
サフィアの咄嗟の気転に私は、なぜか喜びを感じた。
「痛っ!」
その時、突然に頭をハンマーで殴られたような、鈍痛が私を襲った。
「なんなんだ、この激しい痛みは?」と、私は頭を押さえた。
幸いにも、頭痛は一瞬で治まった。
「さて、ドリュー殿。これからどうされます?」
相変わらず、サフィアは他人事の様に、軽い口調で訊ねた。
「どうもこうもない。キリエスの目的が、このエクテスの攻略なのか、それともフェイトフル・リアルムへ攻めこむための拠点確保なのか。ここへ来る理由が分からぬ以上、どうすることもできぬのだ……どうしよう。」
この時、初めて気づいたが、ドリューという男はまだ、かなり若いようだ。
私と同じくらいだろう。
「その若さで、重大な決断をせねばならぬとは、領主というのも大変なものだな。」と、私は思った。
「キリエスは、流石ですね。」と、サフィアは唸るように言った。
「どういうことだ、サフィア殿。」
「つまり、キリエスの挙兵は普通に考えれば、裏切ったソルディウスへの攻撃の為だと考えるでしょう。だが、ソルディウスの兵力はキリエスと、さほど変わらぬではないですか。そんな大戦を突然始めてしまえば、双方ともに甚大な被害を受けてしまう。そこで、まずは内側を固める為に、ここエクテスへ向け進軍しているのです。つまり、エクテスがどちらに付く気なのかを、確かめる為ですよ。もし、エクテスが裏切るのなら、キリエスを迎え撃つでしょ?だがキリエス側に付く気なら、無抵抗でエクテスへキリエス軍を迎え入れるでしょ?ようは、エクテスの動きを牽制すると共に、ここの隣国、フェイトフル・リアルムを叩くつもりなんですよ、キリエスは。」
サフィアの言っていることは、もっともだ。
もし、エクテスが裏切るのなら、フェイトフル・リアルムもろとも、潰しておく必要がある。
ソルディウス、一国を相手にするより、こちら側の二国の動きを封じといたほうが、後々に関わるであるだろう。
「なるほど。では、我々はキリエスを無抵抗で迎え入れれば、よいと?」
「いや、そうとも言い切れませんぞ、ドリュー殿。」
「な、なぜだ?サフィア殿。」
「それは、貴方が一番分かっているでしょ、ドリュー殿。これまで、キリエスに隠れて、フェイトフル・リアルムと仲良くしていたじゃ、ありませんか。もし、それがキリエスに筒抜けだったら?」
サフィアの話しに、ドリューの顔から、みるみる血の気が引いていくのが、見てとれた。
「わ、わたしは、少し具合が良くない。ち、ちょっと休ませてもらう。」
ドリューは、おぼつかない足取りで、部屋を出ていった。
「あらら。ありゃ、相当きてるな。もしかしたら、逃げ出したりしちゃって、ハハハ。」
サフィアは、からかう様に、ドリューの後ろ姿を見送った。
「逃げたりするわけないだろ。仮にも、領主だぞ。」と、私はサフィアを軽蔑した。
それから、一時間ほど経ってからだった。
私たちが居る部屋に、一人の兵士が飛び込んできた。
「あの、此方にドリュー様は、いらっしゃいませんか?」
私は首を振って、いないと答えた。
「あら、本当に逃亡しちゃったんじゃないの?」
そこへ、また違う兵士が青ざめた顔で飛び込んでくる。
「大変だ!これが、ドリュー様の部屋に。」
兵士が持ってきたのは、一通の手紙。
「どれどれ。」と、サフィアは手紙を読んだ。
読み終えたあと、手紙を今度は私に渡した。
(もう疲れました。どうか探さないで。さようなら。)
「……逃げおった!」
まさか、本当に逃げるとは、思ってもみなかった。
「我々はどうすれば、よいでしょうか!?」
兵士は、おどおどした態度で訊ねた。
「いや、どうして俺に聞くんだい。」と、サフィアは面倒くさそうに答えた。
「ドリュー様の変わりなら、どなたでも構いません。どなたか領主に、なっては頂けませんか?」
「そんな、ばかな!」と、私は目の前の兵士が錯乱してしまったと、本気で思った。
「この人、本気だよ。ドリュー殿も元は同じ状況で領主になったんだから。この地方はね、しょっちゅう領主が夜逃げするんだ。だから誰でもいいんだよ。」
「そんなものなのか?」と、私は混乱した。
「そうだ!貴方がなればいい!ここの領主に。」と、サフィアはまたしても軽い口調で、さらりと言った
「できるか!」と、突っ込みたくなる。
「そうだ!どうせだったら、独立しよう、キリエスから。」
この男は勢いで、滅茶苦茶なことを言い出す。
「それは、良い考えです。」
驚くことに、兵士も、その提案に賛成のようだった。
「どいつもこいつも、正気なのだろうか?」
「私たちは、キリエスではなくソルディウスに付きたいと、殆どの兵士たちが、そう思っています。その理由として、ソルディウスの王がピーター様で、あるからです。私たちの多くは、かつてピーター様に仕えていたのです。どうか、お願いします。」
「よし、分かった!任せておけ。この方なら、きっとやってくれる。この新たな王、レジェス様なら。」
サフィアは、楽しむように、私に丸投げした。
「はっ!では、皆にその旨伝えて参ります。」
「うむ。では、下の広間に兵士たちを集めておいてくれ。国王様より、お言葉があるのでな。」
こうして私は、なぜか王になった。
「大丈夫、大丈夫。慣れるまでは、俺がサポートしますから。ねっ、国王様。」
「こくおうさま、か……良い響きでは、ある。」
「そうだ、国王様。新しい国の名を。」
国の名前……私の頭に、ある名が浮かび上がった。
そして紙をとり、その名を刻む――「フォンダン」と。
「フォンダン――いい名ではないですか。決まりだ。」
私はサフィアと共に兵士たちの待つ広間へと、やって来た。
最初は、受け入れてもらえるはずがない、と思っていた。
だが、事態は違っていた。
「おお、あれが新しい国王様か。」
「よかった。手遅れになる前にキリエスから離れられるぞ。」
「俺はドリューが大嫌いだったからな。歓迎しますぜ!」
なぜか皆、受け入れていた。
「国王様、私が代わりに皆に伝えます。よろしいかな?」
サフィアは私が頷くと、兵士たちの前に立ち、声を上げた。
「皆、聞くがよい。このエクテスはキリエスの支配から脱する。そして、一つの国として生まれ変わる!この国の名は、フォンダンだ!そして我が国の主、レジェス様だ!我々はソルディウスとフェイトフル・リアルムとの三国協同のもと、反キリエスとして突き進む、よいか!」
「オーッ!」と、兵たちは叫んだ。
「よし、よく言った。さあ、皆のもの新たな王の名を!!」
サフィアの煽り文句に兵たちは「レジェス」の、大合唱であった。
私は恥ずかしかったが、剣を抜き天へと振り上げた。
「オーッ!」と、更に兵たちは雄叫びを上げた。
「気持ちが良い!」
これが、私の本心である。
私が、うっとりと自分に酔いしれていると、
「国王陛下!申し上げます。なんと、キリエス兵がマビン・グラスへと引き返し始めました。」
「なんと!?なぜだ?」私には、何が起きたのか全く分からなかったが、隣にいたサフィアは、納得の表情をしていた。
「結局、キリエスは最初から、やる気はなかったのでは、ないかな。なぜだかは分かりませんがね。」
まあ、なんにせよ戦を回避できたのは、いいことである。
その日の夜。
私は盛大な宴で酒を飲んでいた。
サフィアの提案である。
妙な運命で、私はここにいる。
だが、隣にいるサフィアを全面的に信用したわけでは、ない。
どうも、引っ掛かる部分が多すぎる。
私が、懐疑的な目でサフィアを見ていると、
「国王様陛下!またしても大変でございます!」
すかさずサフィアが、
「なんか大変なことばっかりだな、この国は。それで?」
「ハッ!東から軍勢が。」
「軍勢?キリエスは引き返したばかりだし、東からではない。どこの軍勢だ?」
「そ、それが、どうも人ではないようで。恐らくはオークかと思われます。」
「ほう。して、数は?」
「その数、およそ五千ほどかと。」
「また、ずいぶん多いな。キリエスの仕業か。」
サフィアの、その言葉に私は思い出した。
「そうだ!私の当初の目的はキリエスと魔物との因果関係を探ることであった。色々ありすぎて、すっかり忘れておった。」
しかし、これは好機。
そのオークの軍勢を裏で操る何者かが必ずいるはず。
キリエスが絡んでいるのは、もう間違いないだろう。
「レジェス国王様。出陣でよろしいか?」と、サフィアは訊いた。
もちろん迷う事など、無し!
私は力強く、頷いた。
「者ども、キリエスが放った化け物たちが、攻めてくるぞ!奴等を片っ端から埋めてしまえ!」
「うぉーっ!」
兵士たちの士気は激高だった。
私とサフィアは先陣をきり、馬に飛び乗った。
私は久しぶりの乗馬で、途中二度ほど……落馬した。
「おのれ!まけぬ!」
私とサフィアは二千の兵を率いて、オークどもと戦闘を開始した。
「うわ、いるいる。どうですか国王様、俺と勝負しませんか。奴等を何体やれるか。」
「ふん、意気がりおって、小僧め!」と、私は国王気取りの台詞を心の中で吐いてみた。
最初に敵陣に飛び込んだのは、サフィアだった。
彼は、細身の剣で次々に敵を沈めていく。
「さすがにやるな。」と、私も負けじと奮い立つ。
「あの、二人こそ化け物だな。」
「ああ。オークがひびってるもんな。」
兵士たちは、二人の戦いに触発され、更に士気を上げた。
約二時間後。
「いやいや、国王様。きりがないですな。」
少し、息切れし始めたサフィアを私は嘲笑うかのように、戦場を駆け回っていた。
「どんだけ、タフなんだ。あの人は。」と、サフィアは笑みを浮かべた。
「体力的には全然問題ないが、こう多くては面倒だ。」
私は、サフィアを捕まえ、皆に退くよう命じさせた。
「国王陛下。今はこちらが有利。なぜ、退くのです。」
兵士たちの言葉に、サフィアは、
「そういう意味じゃないと思うよ。まあ見てな。」と、言って兵を退かせた。
「よし、これで思う存分やれる!」
私は上級魔法「神聖槍スカーレットスピア」を、唱えた。
剣を収め、私の手には神々しく輝きを放つ、一本の槍。
それを、思いきり空へ向け投げた。
その光は一瞬にして、天高くに消えていった。
ドドド!
「な、なんだ、この音は?」
それは、空からである。
「おいおい、国王様まさか、あの月でも落とす気じゃないだろうな。」と、サフィアは嬉しそうに言った。
「あほか、そんなことしたら、この地ごと消滅してしまうわ。」と、私は呆れた。
空に放った槍は、何万という光の槍となり、オークの軍勢へと激しい雨のように、降り注いだ。
それは、神秘的で恐ろしい魔法である。
「ミッションコンプリート」で、ある。
「うお!すげえ、国王陛下、万歳!」
サフィアの声に兵士たちも、我に返り、勝ちどきを上げる。
こうして、キリエスの陰謀は潰えたのであった。
後日、私はサフィアの姿を城内で探していた。
しかし、何処にも彼の姿は、なかった。
「国王様。ここにおいででしたか。これを、サフィア殿が。」
兵士が持ってきたのは、一通の手紙であった。
中を開けて見てみると、
(楽しかった。また、会おう、兄弟よ。)と、だけ綴ってあった。
「兄弟……か。」
その時、またしても私を激しい頭痛が襲った。
「なんなんだ、これは。も、もしかして病気!?」
私は、あたふたとした。
「うわああ!どうしよう……まっ、いいか。」
今は、今を楽しむだけである。
私は、国王には、国王にしかできない遊びを密かに計画しているのである。
「さあ、ハーレムを作るぞ!!」と。
しかし事態は、この後とんでもない方向へと、進んでいく。
運命の悪戯か、はたまた神々の遊びか。
まあ、とにかく、私はまだ呑気に、今日も全力で生きていくのであった。
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