最強の戦士ここにあり

田仲真尋

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アメとムチ

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私は、フォンダン国の王、レジェスである。

――つい、さっきまでは。

それを説明するには、今から遡ること数時間ほど前に戻らねばならない。


私は、爽やかな朝の陽を感じて、優雅に目覚めた。

「良い朝だ。しかし、このベッドの寝心地は最高だな。」

窓を開け、外の新鮮な空気を吸い込んだ。

まるで、体内が浄化されていくような、清々しい気分だった。

そんな、高貴な私の元に一羽の白い鳩が舞い降りてきた。

汚れのない真っ白な鳩は、その円らな瞳で私に何かを訴えているように思えた。

「どうしたんだい、鳩ちゃん。」と、私はその鳩に近寄った。

その時であった。

今まで可愛らしい瞳をしていた、鳩の目つきが急変したのだ。

キッ!と、きつい目をした鳩は、なんと人の言葉を喋り出したではないか。


「おはよう。ずいぶんとゴージャスな生活を送っているじゃないか――レジェスさんよ。」

その声に聞き覚え、あり!

「ま、まさか……。」

「そうだ、そのまさかだ。」

「――ハーブ・ティーだ!」

私は焦り、挙動不審になった。

「今日は、お前に用があってな。ちょっとこれから家に来な。」

何と!?

「冗談じゃない!私は一国一城の主だぞ!やなこった。」と、私は鳩に向け舌を出した。

「ほう、そんな態度をとるのか。言っておくが全部、見えているのだからな。」

「し、しまった!調子にのり過ぎてしまった。」

「来てくれるんだよな?レジェス国王さん。」

私は鳩に何度も頷いて応えた。

「だったら、さっさと準備して出てこい!」

「はい!」と、言わんばかりに、私は着替えを終えて、城を飛び出そうとした。

「そ、そうだ、あれを置いていかねば。」

私は手紙を書き、テーブルの上に置いて、城を出た。

手紙の内容は、こうである。

(前略。フォンダンの皆様。私、レジェスは一身上の都合により、国王を今日限りで辞めさせて頂きます。短い間でしたが、お世話になりました。草々)


私は、ハーブ・ティーの住むアトラスへ向けてフォンダンを出た。

「まったく、勝手な師匠だ。こちらの都合はお構いなし――」

歩いている、私の前に一羽の鳩。

「ま、まさか。ハーブ・ティーか!?」

しかし、その鳩が喋ることは、なかった。

「まったく、これでは鳩、恐怖症になってしまう。」

私は疲労と絶望に抱かれ、フェイトフル・リアルムへと、入った。

アトラスへ行くには、またしても、船に乗れねばならないからだ。

「踏んだり蹴ったりとは、このことだ。」

私は、フェイトフル・リアルムの船着き場がある、シレトという町にたどり着いた。

この町は、漁師たちが多く住む町であり、海鮮料理が美味しい観光地らしい。

私が訪れた、この時も小さな町が数多くの人で賑わいをみせていた。

そんな平和な町が、ある一声で、突如として一変することになった。


「海賊だ!海賊が出たぞ!」

海を見ると、海賊旗を掲げた船が三隻、こちらを目指して来ている様子だ。

「上陸する気か。」

町の人々は、不安気に見ていたが、どんどん近寄ってくる海賊船に、次第に恐怖を感じている。

「あいつら、陸に上がってくる気だ!」

「あれは、ホール・デストロイだ!」

「その海賊は凶暴で有名だぞ!逃げろ!」

人々は恐怖に震えた。

そんな中、逃げる民衆と逆行するように、一人の女性が前に進みでた。

細く長い、綺麗な生足が黒いエナメル質のショートパンツから伸びている。美脚だ。

上に着ているジャケットも同じく黒のエナメル質で、ピタッと身体に張りついている。

身体のラインが見事である。

思わず「女王様!」と、叫びたくなるほどにだ。

私が、彼女に見とれているのには、訳がある。

彼女は私に気がついたのか、立ち止まり、そして振り返った。

緑色に染められた彼女の前髪は、不揃いだった。

所謂、アシンメトリーと、いうやつだ。

「あら、僕ちゃんじゃない。お久しぶりね、元気してた。」

私は、赤面しながら頷いた。

――そう、彼女は私の師匠である、ネイル様だ。


ネイルは鞭の使い手である。

彼女の手にかかれば、どんな屈強な男も、たちまち「女王様」と、叫んでしまう。

「しかし、ネイル様は確か、アトラスに居るはず。なぜ、ここに?」と、私が疑問に思っていると。


「ここはね、私の生まれ故郷なのよ。なにやら、キリエスが攻めてくるとかで、私も故郷の為に戦うつもりで帰郷してきたら、キリエスは引き返したって、いうじゃない。だから退屈してたのよ――でも、いい玩具が現れたわね。」

そう言って、ネイルは猫の様に舌舐めずりをした。

「ま、まさか玩具って!私のことか!?」と、私は恐怖に陥った。

しかし、よく見てみると、ネイルの視線は海の方、海賊船へと向けられていた。

「よかった。私じゃなかった。」と、ホッとしていると、

「はい、僕ちゃん。飴ちゃんあげるわ、アーン。」

私は、素直に口を開けた。

すると、ネイルは飴玉を一つ放り込んできた。

「し、しまった!」

私は、すっかり忘れてしまっていた。

飴を与えられた後には、鞭があることを。


「おい。」

ネイルの目つきは、豹変していた。

いや、性格もである。

「てめぇ、この豚野郎!今まで何の連絡も寄越さずに何さらしてたんじゃ。ボケ!」

私は、鞭に打たれた。

……何故か、痛みと共に快感を得られた――ような気がした。

「――痛かったぁ?ごめんね、僕ちゃん。」

「はい、大丈夫です、ネイル様。」と、言わんばかりに、私は忠誠心を剥き出しにする、犬のように寝っころがり、腹をみせたのであった。



「よし、野郎ども!久々の陸だ!酒に女に、欲しいものは全て奪い取れ!」

「うおー!船長!最高だ!」

海賊たちは、いつの間にか上陸してきていた。

「待ちな!」と、海賊の前に立ち塞がったのは、ネイル様だ。

「ひゅーっ!いい女の登場だ。たまらんな。」と、海賊は興奮した。

「女、邪魔するな。俺がホール・デストロイの船長、キャプテンキッズと知ってのことか、ああん?」

船長らしき小柄な男は、ネイルに歩み寄った。

「キッドじゃなくて、キッズなのね。よく、お似合いだわ、僕ちゃん。ご褒美に飴ちゃんあげるわね、はいアーン。」

「おっ、そ、そうか。あーん。」と、キャプテンキッズは、素直にネイルに従った。

「馬鹿な男だ。飴玉を食わせられおった!」と、私は自分のことは、さておきキッズを嘲笑った。

「お前、いい女だな。どうだ、俺の女にならねえか?」

「はぁ?てめぇ、みてえなチビと、このスタイル抜群のネイル様が釣り合うとでも?身の程をしれ!」と、ネイルは豹変し、鞭を打った。

「キャイーン!痛い――でも、なんか良い。」

「それ!さあ、女王様とお呼び!」

「は、はい。女王様ーっ!」

その光景を見ていた、海賊たちは口をあんぐりとしていた。

「せ、せんちょう。しっかりしてください。」

「はっ!い、いかん。」と、キッズは我に返った。

「くそ、俺に恥をかかせやがって。お前ら、この女をやっちまえ!」

総勢、五十以上はいる海賊たちは、容赦なくネイルに襲いかかった。


バキッ!

私は低級魔法、いつもの「パンチャー」を、唱えて海賊を殴りつけてやった。

「僕ちゃん。ありがとう、後で飴ちゃんあげるわね。」

「いえ結構です。」と、言いたかったが、自分の意思に反して、私は笑顔で頷いていた。

「そうだ。久しぶりに、僕ちゃんの腕を――み・せ・て。」と、ネイルは色っぽく、私に鞭を投げた。

「はい、女王様!」と、言わんばかりに、私は張り切った。

鞭を振り上げ鋭く、しなるように、

「ピシッ!ピシッ!」と、海賊たちを倒していく。

「しかし鞭だけで、この人数は、ちときついか……仕方ない。」

私は鞭に、魔法をかけた。

「スパーク!」

電気を帯びた鞭は、青白い電流を放つ。

「電流鞭」と、でも名付けよう。

私は、それを振り回した。

海賊たちは、感電してバタバタと倒れる。

「ハハハッ!楽しいでは、ないか。」

気づけば海賊たちは、全て地面に転がっていた。

「なんだ、もう終わりか 。女王様、やってやりました。褒めてください。」と、振り返る。

「……女王……さま?」

ネイル様は海賊たちと同様、地面に倒れていらっしゃる。

「ぼ、ぼくちゃん。よ、よくもやってくれたわね。飴ちゃん十個あげる……わ。」

私は、そっと鞭をネイル様の側に置き、走って逃げたのであった。


その後、私は苦手な船に乗り、アトラスへと渡った。

船を下りた私が、その後数時間は動けなかった、ということは言うに及ばずで、ある。

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