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グリフォンブルー 死闘編~Ⅳ部~
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私とアンダーヘアーは、遂にデヴァイン城の城門へと辿り着いた。
「レジェス様。この北門は衛兵が多いので西へ回り込みやしょう。」
私たちは、城を囲うようにある雑木林を抜けて西を目指した。
城の西側には小さな門があり、門番の兵が数名いるだけであった。
「レジェス様は、ここでお待ちを。ここは、あっしが片付けてきやすから。」と、アンダーヘアーは門番に気軽に話しかける素振りで近づき、不意打ちを食らわせた。
そして、辺りをキョロキョロと見回して、私を手招いた。
「どうでやんすか。あっしだって、やるもんでしょ。」と、アンダーヘアーは、照れたようにして言った。
だが、私から言わせてもらえば、
「卑怯では、ある。」で、ある。
こうして私たちは、まんまと城内へ侵入に成功したのである。
「いやー、こう言っちゃあなんですが。我ながら見事でやんしたね。」
アンダーヘアーは城内へ楽々と入り込めたことに、大満足の様子だった。
ところが見つかるのも、また早かったようだ。
「お早い、お着きでしたね。」
突如、私たちの目の前に男が現れたのである。
男は軽微な防具を纏い、黒のマントを羽織っていた。
年はずいぶんと若そうではあったが、その男の放つ異様なオーラは、独特の雰囲気を醸し出していた。
私は一目で、彼が相当な強者であると判断した。
「あわわ――ブ、ブラッド……様!」
その男の姿を見たアンダーヘアーは腰を抜かし、怯えた表情を見せた。
「貴方がレジェス様。その顔立ち――なるほど確かに王家の血が流れているようですね。」
ブラッドは、一人納得したように頬の傷を触りながら頷いた。
「しかし残念ですが、ここから先へ行かせる訳には参りません。一応、命令ですので――ガッシュアウト!」
ブラッドは刹那的な瞬間で剣を抜き、一振りさせた。
すると、地面を切り裂く様にして亀裂が入り、それが私たち目掛けて猛スピードで這ってきた。
私たちは、何が起きたのか分からず呆然と立ち尽くしているだけだった。
その時であった。
カキィン!!と、甲高い音が鳴り響く。
気がつくと、私の前に一人の小柄な老人が立っていた。
ガシャガシャ!
そして、後方からは何やら重たい金属が擦れ合う音がしている。
「ラルナ殿!お待ちを!」
そう叫びながら駆け寄ってくるのは、顔に変な布を巻き付けた、全身を黄金の鎧で纏った大柄な男であった。
「私の攻撃を容易く防ぐとは恐れいった。確か剣聖……そう呼ばれていましたね、ラルナさん。」
私はブラッドの、その言葉で事の成り行きを理解した。
私たちは、気づかぬ内にブラッドから先制の攻撃を受けたのだと。
そして、それを防ぎ守ってくれたのが、師匠のラルナであったことを。
「何をボサッとしておる。お主は先に行くのじゃ。」
ラルナの言葉で、ようやく私は我に返った。
「そうだ。ここは我らに任せておけばよい。」
そう言って、黄金の鎧の男は胸を叩いた。
私は、この黄金の鎧をソルディウスで見ている。
――剣豪ダマンだ。
しかし、何故に顔を汚い布で覆っているのか不思議である。
「そうじゃ。ここは儂とダマン殿に任せておけ。」
「ああ!ラルナ殿、私はダマンなどではありませぬぞ。今はゴールドマンとでも呼んでくださいと申したではないですか。」
「ダマン……キリエス……いや、今はソルディウスに仕えている剣豪か。」と、ブラッドは頷きながら、またしても一人で納得した。
「ち、ちがう!私はゴールドマンだ!他国のいざこざにソルディウスの人間として首を突っ込むのは問題である、と思いわざわざ変装してきたのだぞ!」と、ゴールドマン……ダマンは慌てた様子で声を上げた。
「まあ、よい。そちらのゴールドさんには、我が弟子に相手を努めさせましょう、来い!ボトムス!」
ブラッドの呼び掛けに現れたのは、銀の鎧を纏った剣士であった。
「ブラッド様。お呼びでしょうか。」
「うむ。お前にはあそこの、金ぴか男の相手を任せる。」
背格好がダマンとよく似たボトムスは、
「ハッ!」と、その役を素直に受けた。
「では、私は剣聖と呼ばれた御仁の相手をすることに致そう。」
ブラッドの言葉にピクリと反応したのは、ラルナだった。
「ほう。では、この二人は通して頂けるのかな?」
「さすがの私も貴方とレジェス様の二人を相手にするのは、いささか無理というもの。私は剣聖だけで手一杯ですよ。」
ラルナは、ニヤリと微笑み、
「ブラッド――と申されたかな。なかなか良き男じゃ。思う存分に相手をしましょう。」
私はラルナとダマンに一礼し、アンダーヘアーと共に城内へと向かった。
アンダーヘアーはブラッドに深く礼をし、私たちは先を急いだのであった。
――ハーブティーたち対ファットの戦場。
「今だ!クレア、奴にとどめを!」
「了解、姉さん。」
ハーブティーとクッキーが「ワイヤー」で、ファットの両腕の自由を奪っている間にクレアは剣を抜き、ファットに渾身の一撃を放った。
「シンクレア!」
「よし!」
「やった!」
しかし、ハーブティーとクッキーの期待は瞬時に打ち破られた。
「ふん!そんなの僕には効かないよ。」
クレアの攻撃ではファットにダメージを与えることができなかった。
そればかりか、これまでファットの自由を奪っていた、ハーブティーとクッキーの魔法、ワイヤーまでも断ち切られてしまった。
「くそ!クッキー、しっかり繋いどけ!」
「師匠こそ、ちゃんとしてくださいよ。こっちに負担がかかっちゃうじゃないですか。」
「なんだと!お前、師匠に対してなんだ、その物言いは!」
「まあまあ。今は、そんなことで揉めてる場合じゃないでしょう。」
ハーブティーとクッキーの師弟喧嘩にクレアは、苦笑いしながら仲裁に入った。
「もうよい!こんな奴、私一人で充分だ!」
ハーブティーは、ファットの前まで飛び出し、
「ゴーストファイアー!」と、炎系の低級魔法を唱えた。
真っ赤に燃え盛る火の幽霊は、ファットを包む。
「おお!さすが師匠!完全に決まりましたね。」と、クッキーは調子よく言った。
「暑いな。僕は暑いの嫌いなんだ。」と、ファットは突然、ハーブティーの放った炎を吸い込み始めた。
「なっ!こいつ、火を飲み込んでるぞ!」
クレアは驚きの声を上げる。
ハーブティーとクッキーは、あまりの事に言葉を失っていた。
「ふーっ。あんまり美味しくなかったな。」
ゴーストファイアを全て吸い込んでしまった、ファットは平然とした顔で言った。
「こ、こいつ化け物か!?」
ハーブティーから思わず漏れた言葉が、ファットの脳を刺激した。
「化け物?……だ、だれが化け物だ!!」
突如、ファットは人格が豹変したように怒りはじめたではないか。
「僕は怒ったぞ!!」
ファットは立ち上がり、ハーブティーたち目掛けて突進を始めた。
「な、なんか怒っちゃったみたいだよ、姉さん。」
「師匠が変なことを言うからですよ。」
「知るか。しかし、まずいな。ここは……一旦逃げるぞ!」
こうして、ファットとハーブティー、クッキー、クレアの追いかっけっこがスタートした。
「師匠。きっとあいつは、すぐにバテますよ。」
「クッキーの言う通りだよ、姉さん。」
「そうだな。あいつが、へばったら一気に総攻撃をかけるよ!」
……一時間程の後。
「ハァハァ――師匠、あいつ全然バテないじゃないですか。」
「クッキー!お前が言ったんだろうが。」
「どっちでもいいじゃない。それより、私の方が倒れそうだよ。」
クレアの言い分はハーブティーもクッキーも同じ意見であった。
「はっ!閃いた。」
ハーブティーは突然、走るのを止め、ファットの方へと向きなおした。
「なにも倒す必要はない。くらえ!ピットフォール!」
ハーブティーは低級魔法ピットフォールを唱えた。
すると、ファットの行く手に巨大な穴が出現した――落とし穴だ。
ファットは足下の穴に気付かず、地上から何処かへワープでもしたかの様に消えた。
「どうだ!これで足止めになっただろう。最初から倒そうと思ったのが間違いだったな。」と、ハーブティーはどこか安堵したように言った。
「さすが師匠。僕も同じことを考えていたんですけどね。」
ハーブティーは疑いの眼差しで、弟子のクッキーを見た。
「い、いやだな。本当ですよ、たぶん僕の方が先に考えてたと思うんですけどね。」
「だったら、お前がやれ!」と、ハーブティーとクッキーのバトルをよそに、クレアは一人、穴を見つめていた。
そして、
「ね、ねえさん。あ、あれ!」と、指差した。
「どうしたクレア……うわぁあ!!」
ハーブティーが目にしたものは、穴から這い上がってくるファットの姿であった。
「師匠!なにやってるんですか!上ってきますよ!」
「くそ!こうなったら、ぶっ殺してやる。」と、ハーブティーは、低級魔法「ホーネットボム」を浴びせた。
「姉さん、そんなのじゃ、またあいつに食われてしまうよ!」
しかし、ハーブティーは動じない。
「食ってからが、お楽しみだ。」
蜂の形をした、ハーブティーの攻撃は、すぐにファットの口の中へと吸い込まれていく。
「よし、食った!」と、ハーブティーが、その瞬間に指をパチン!と鳴らすと、ファットの口の中で爆発が起きた。
「これで、どうだい!」
しかし、ファットは面食らった表情を見せたが、ダメージは無さそうである。
「くっそ!やっぱり化け物だな、こいつ。」
「姉さん。倒すのは無理だよ!もう一回拘束できるような魔法はないの?」
すると、クッキーが、
「師匠、もう一度ワイヤーを仕掛けますか?」と、言った。
だが、ハーブティーは首を横に振り、
「いや、ワイヤーでは無理だ。また、引きちぎられてしまうだろう。少し考えがある、ここは私に任せてくれ。ところでクッキーよ、電撃系の魔法は使えるな。」
「ええ、まあ使えますけど。どうするんです?」
「あいつを倒す!いいかい、私の合図で攻撃するんだよ。」
クッキーは不安そうに頷いた。
「ウォーターサーペント!」
ハーブティーの魔法は水の大蛇を生み出した。
その大蛇はファットの体に巻きつき、自由を奪う。
「今だ!クッキー、あの大蛇に電撃を放て!」
ハーブティーの合図にクッキーは、すぐに応えなかった。
何やら迷っている様子である。
「なにやってんだ、早くしろ!」
「い、いや。どの魔法をチョイスしようかと迷っちゃって。」
「どれでもいいだろ!とにかく強力なやつだ!」と、ハーブティーはクッキーを急かした。
二人のやり取りを見ていたクレアも焦っていた。
「早くしないと、あれも飲み込まれちゃうよ!」
しかし、そんな焦りをよそに、事態は急変していた。
ファットの様子が変なのだ。
「う、うわぁ!へ、へびは嫌いだよ、怖いよ。」
予想外の幸運に恵まれた三人は顔を見合せ、かすかに微笑んだ。
「よし、いけ!クッキー!」
「はい!エレクトリック・クッキー・ショック!」
クッキーの魔法がハーブティーの魔法と混ざりあう。
水の大蛇をクッキーが放った電撃が伝い、ファットへ流れ込んだ。
「ぎょぇえええ!」
「しかし……なんというネーミングセンスだ。我が弟子ながら恥ずかしい。」
師弟のコラボレーション魔法は、ファットに大打撃を与えた。
「よし!効いてる。あとは、クレア頼むぞ。」
「私!?」
「ああ、お前の底力を見せてくれ。」
「わ、わかったよ、姉さん。やってみる!」
クレアは戸惑いながらも剣を抜き、
「やるしかない!――真・シンクレア!」
クレアは高く舞い上がり、更に自身の身体を捻り回転を加え、ファットへ突っ込んだ。
ファットは痺れて動けず、クレアの攻撃をまともに受けた。
さすがのファットも、これには耐えきれなかった。
巨体は音を立て、崩れさった。
「よくやった!クレア!」
クレアは照れくさそうに剣を収めた。
「さすがクレアだね。僕の魔法が奴の動きを止めていたというのも大きかった。」
「まあ、何はともあれ、よく倒したよ、こんな化け物――」と、ハーブティーが口にした時だった。
完全に意識を失っていたファットが、ガバッと起き上がったのだ。
「う、うそ……だろ?」
三人は固まって動けなかった。
死をも覚悟するほどに脳の回路は止まってしまっていた。
ファットは再び起き上がると、三人に向け突進を始めた。
しかし、僅か数歩ほど走ると、ファットはまた音を立て倒れてしまった。
そして、二度と起き上がることはなかった。
「今度こそ終わったな。」
「僕には、こうなる事が分かっていたので余裕でしたけどね。」
「さて、それじゃあ行きますか、姉さん、クッキー。」
三人は疲れた体に鞭を打ち、再び歩きだした。
仲間を救うために。
「レジェス様。この北門は衛兵が多いので西へ回り込みやしょう。」
私たちは、城を囲うようにある雑木林を抜けて西を目指した。
城の西側には小さな門があり、門番の兵が数名いるだけであった。
「レジェス様は、ここでお待ちを。ここは、あっしが片付けてきやすから。」と、アンダーヘアーは門番に気軽に話しかける素振りで近づき、不意打ちを食らわせた。
そして、辺りをキョロキョロと見回して、私を手招いた。
「どうでやんすか。あっしだって、やるもんでしょ。」と、アンダーヘアーは、照れたようにして言った。
だが、私から言わせてもらえば、
「卑怯では、ある。」で、ある。
こうして私たちは、まんまと城内へ侵入に成功したのである。
「いやー、こう言っちゃあなんですが。我ながら見事でやんしたね。」
アンダーヘアーは城内へ楽々と入り込めたことに、大満足の様子だった。
ところが見つかるのも、また早かったようだ。
「お早い、お着きでしたね。」
突如、私たちの目の前に男が現れたのである。
男は軽微な防具を纏い、黒のマントを羽織っていた。
年はずいぶんと若そうではあったが、その男の放つ異様なオーラは、独特の雰囲気を醸し出していた。
私は一目で、彼が相当な強者であると判断した。
「あわわ――ブ、ブラッド……様!」
その男の姿を見たアンダーヘアーは腰を抜かし、怯えた表情を見せた。
「貴方がレジェス様。その顔立ち――なるほど確かに王家の血が流れているようですね。」
ブラッドは、一人納得したように頬の傷を触りながら頷いた。
「しかし残念ですが、ここから先へ行かせる訳には参りません。一応、命令ですので――ガッシュアウト!」
ブラッドは刹那的な瞬間で剣を抜き、一振りさせた。
すると、地面を切り裂く様にして亀裂が入り、それが私たち目掛けて猛スピードで這ってきた。
私たちは、何が起きたのか分からず呆然と立ち尽くしているだけだった。
その時であった。
カキィン!!と、甲高い音が鳴り響く。
気がつくと、私の前に一人の小柄な老人が立っていた。
ガシャガシャ!
そして、後方からは何やら重たい金属が擦れ合う音がしている。
「ラルナ殿!お待ちを!」
そう叫びながら駆け寄ってくるのは、顔に変な布を巻き付けた、全身を黄金の鎧で纏った大柄な男であった。
「私の攻撃を容易く防ぐとは恐れいった。確か剣聖……そう呼ばれていましたね、ラルナさん。」
私はブラッドの、その言葉で事の成り行きを理解した。
私たちは、気づかぬ内にブラッドから先制の攻撃を受けたのだと。
そして、それを防ぎ守ってくれたのが、師匠のラルナであったことを。
「何をボサッとしておる。お主は先に行くのじゃ。」
ラルナの言葉で、ようやく私は我に返った。
「そうだ。ここは我らに任せておけばよい。」
そう言って、黄金の鎧の男は胸を叩いた。
私は、この黄金の鎧をソルディウスで見ている。
――剣豪ダマンだ。
しかし、何故に顔を汚い布で覆っているのか不思議である。
「そうじゃ。ここは儂とダマン殿に任せておけ。」
「ああ!ラルナ殿、私はダマンなどではありませぬぞ。今はゴールドマンとでも呼んでくださいと申したではないですか。」
「ダマン……キリエス……いや、今はソルディウスに仕えている剣豪か。」と、ブラッドは頷きながら、またしても一人で納得した。
「ち、ちがう!私はゴールドマンだ!他国のいざこざにソルディウスの人間として首を突っ込むのは問題である、と思いわざわざ変装してきたのだぞ!」と、ゴールドマン……ダマンは慌てた様子で声を上げた。
「まあ、よい。そちらのゴールドさんには、我が弟子に相手を努めさせましょう、来い!ボトムス!」
ブラッドの呼び掛けに現れたのは、銀の鎧を纏った剣士であった。
「ブラッド様。お呼びでしょうか。」
「うむ。お前にはあそこの、金ぴか男の相手を任せる。」
背格好がダマンとよく似たボトムスは、
「ハッ!」と、その役を素直に受けた。
「では、私は剣聖と呼ばれた御仁の相手をすることに致そう。」
ブラッドの言葉にピクリと反応したのは、ラルナだった。
「ほう。では、この二人は通して頂けるのかな?」
「さすがの私も貴方とレジェス様の二人を相手にするのは、いささか無理というもの。私は剣聖だけで手一杯ですよ。」
ラルナは、ニヤリと微笑み、
「ブラッド――と申されたかな。なかなか良き男じゃ。思う存分に相手をしましょう。」
私はラルナとダマンに一礼し、アンダーヘアーと共に城内へと向かった。
アンダーヘアーはブラッドに深く礼をし、私たちは先を急いだのであった。
――ハーブティーたち対ファットの戦場。
「今だ!クレア、奴にとどめを!」
「了解、姉さん。」
ハーブティーとクッキーが「ワイヤー」で、ファットの両腕の自由を奪っている間にクレアは剣を抜き、ファットに渾身の一撃を放った。
「シンクレア!」
「よし!」
「やった!」
しかし、ハーブティーとクッキーの期待は瞬時に打ち破られた。
「ふん!そんなの僕には効かないよ。」
クレアの攻撃ではファットにダメージを与えることができなかった。
そればかりか、これまでファットの自由を奪っていた、ハーブティーとクッキーの魔法、ワイヤーまでも断ち切られてしまった。
「くそ!クッキー、しっかり繋いどけ!」
「師匠こそ、ちゃんとしてくださいよ。こっちに負担がかかっちゃうじゃないですか。」
「なんだと!お前、師匠に対してなんだ、その物言いは!」
「まあまあ。今は、そんなことで揉めてる場合じゃないでしょう。」
ハーブティーとクッキーの師弟喧嘩にクレアは、苦笑いしながら仲裁に入った。
「もうよい!こんな奴、私一人で充分だ!」
ハーブティーは、ファットの前まで飛び出し、
「ゴーストファイアー!」と、炎系の低級魔法を唱えた。
真っ赤に燃え盛る火の幽霊は、ファットを包む。
「おお!さすが師匠!完全に決まりましたね。」と、クッキーは調子よく言った。
「暑いな。僕は暑いの嫌いなんだ。」と、ファットは突然、ハーブティーの放った炎を吸い込み始めた。
「なっ!こいつ、火を飲み込んでるぞ!」
クレアは驚きの声を上げる。
ハーブティーとクッキーは、あまりの事に言葉を失っていた。
「ふーっ。あんまり美味しくなかったな。」
ゴーストファイアを全て吸い込んでしまった、ファットは平然とした顔で言った。
「こ、こいつ化け物か!?」
ハーブティーから思わず漏れた言葉が、ファットの脳を刺激した。
「化け物?……だ、だれが化け物だ!!」
突如、ファットは人格が豹変したように怒りはじめたではないか。
「僕は怒ったぞ!!」
ファットは立ち上がり、ハーブティーたち目掛けて突進を始めた。
「な、なんか怒っちゃったみたいだよ、姉さん。」
「師匠が変なことを言うからですよ。」
「知るか。しかし、まずいな。ここは……一旦逃げるぞ!」
こうして、ファットとハーブティー、クッキー、クレアの追いかっけっこがスタートした。
「師匠。きっとあいつは、すぐにバテますよ。」
「クッキーの言う通りだよ、姉さん。」
「そうだな。あいつが、へばったら一気に総攻撃をかけるよ!」
……一時間程の後。
「ハァハァ――師匠、あいつ全然バテないじゃないですか。」
「クッキー!お前が言ったんだろうが。」
「どっちでもいいじゃない。それより、私の方が倒れそうだよ。」
クレアの言い分はハーブティーもクッキーも同じ意見であった。
「はっ!閃いた。」
ハーブティーは突然、走るのを止め、ファットの方へと向きなおした。
「なにも倒す必要はない。くらえ!ピットフォール!」
ハーブティーは低級魔法ピットフォールを唱えた。
すると、ファットの行く手に巨大な穴が出現した――落とし穴だ。
ファットは足下の穴に気付かず、地上から何処かへワープでもしたかの様に消えた。
「どうだ!これで足止めになっただろう。最初から倒そうと思ったのが間違いだったな。」と、ハーブティーはどこか安堵したように言った。
「さすが師匠。僕も同じことを考えていたんですけどね。」
ハーブティーは疑いの眼差しで、弟子のクッキーを見た。
「い、いやだな。本当ですよ、たぶん僕の方が先に考えてたと思うんですけどね。」
「だったら、お前がやれ!」と、ハーブティーとクッキーのバトルをよそに、クレアは一人、穴を見つめていた。
そして、
「ね、ねえさん。あ、あれ!」と、指差した。
「どうしたクレア……うわぁあ!!」
ハーブティーが目にしたものは、穴から這い上がってくるファットの姿であった。
「師匠!なにやってるんですか!上ってきますよ!」
「くそ!こうなったら、ぶっ殺してやる。」と、ハーブティーは、低級魔法「ホーネットボム」を浴びせた。
「姉さん、そんなのじゃ、またあいつに食われてしまうよ!」
しかし、ハーブティーは動じない。
「食ってからが、お楽しみだ。」
蜂の形をした、ハーブティーの攻撃は、すぐにファットの口の中へと吸い込まれていく。
「よし、食った!」と、ハーブティーが、その瞬間に指をパチン!と鳴らすと、ファットの口の中で爆発が起きた。
「これで、どうだい!」
しかし、ファットは面食らった表情を見せたが、ダメージは無さそうである。
「くっそ!やっぱり化け物だな、こいつ。」
「姉さん。倒すのは無理だよ!もう一回拘束できるような魔法はないの?」
すると、クッキーが、
「師匠、もう一度ワイヤーを仕掛けますか?」と、言った。
だが、ハーブティーは首を横に振り、
「いや、ワイヤーでは無理だ。また、引きちぎられてしまうだろう。少し考えがある、ここは私に任せてくれ。ところでクッキーよ、電撃系の魔法は使えるな。」
「ええ、まあ使えますけど。どうするんです?」
「あいつを倒す!いいかい、私の合図で攻撃するんだよ。」
クッキーは不安そうに頷いた。
「ウォーターサーペント!」
ハーブティーの魔法は水の大蛇を生み出した。
その大蛇はファットの体に巻きつき、自由を奪う。
「今だ!クッキー、あの大蛇に電撃を放て!」
ハーブティーの合図にクッキーは、すぐに応えなかった。
何やら迷っている様子である。
「なにやってんだ、早くしろ!」
「い、いや。どの魔法をチョイスしようかと迷っちゃって。」
「どれでもいいだろ!とにかく強力なやつだ!」と、ハーブティーはクッキーを急かした。
二人のやり取りを見ていたクレアも焦っていた。
「早くしないと、あれも飲み込まれちゃうよ!」
しかし、そんな焦りをよそに、事態は急変していた。
ファットの様子が変なのだ。
「う、うわぁ!へ、へびは嫌いだよ、怖いよ。」
予想外の幸運に恵まれた三人は顔を見合せ、かすかに微笑んだ。
「よし、いけ!クッキー!」
「はい!エレクトリック・クッキー・ショック!」
クッキーの魔法がハーブティーの魔法と混ざりあう。
水の大蛇をクッキーが放った電撃が伝い、ファットへ流れ込んだ。
「ぎょぇえええ!」
「しかし……なんというネーミングセンスだ。我が弟子ながら恥ずかしい。」
師弟のコラボレーション魔法は、ファットに大打撃を与えた。
「よし!効いてる。あとは、クレア頼むぞ。」
「私!?」
「ああ、お前の底力を見せてくれ。」
「わ、わかったよ、姉さん。やってみる!」
クレアは戸惑いながらも剣を抜き、
「やるしかない!――真・シンクレア!」
クレアは高く舞い上がり、更に自身の身体を捻り回転を加え、ファットへ突っ込んだ。
ファットは痺れて動けず、クレアの攻撃をまともに受けた。
さすがのファットも、これには耐えきれなかった。
巨体は音を立て、崩れさった。
「よくやった!クレア!」
クレアは照れくさそうに剣を収めた。
「さすがクレアだね。僕の魔法が奴の動きを止めていたというのも大きかった。」
「まあ、何はともあれ、よく倒したよ、こんな化け物――」と、ハーブティーが口にした時だった。
完全に意識を失っていたファットが、ガバッと起き上がったのだ。
「う、うそ……だろ?」
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ファットは再び起き上がると、三人に向け突進を始めた。
しかし、僅か数歩ほど走ると、ファットはまた音を立て倒れてしまった。
そして、二度と起き上がることはなかった。
「今度こそ終わったな。」
「僕には、こうなる事が分かっていたので余裕でしたけどね。」
「さて、それじゃあ行きますか、姉さん、クッキー。」
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