最強の戦士ここにあり

田仲真尋

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グリフォンブルー 死闘編~Ⅸ部~

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私の答えにウェルは、驚いた表情というよりも、どこか納得したような表情を見せた。


「やはりそうでしたか。貴方が――レジェス兄様。」


「ウェル!何を言っているの!この者は、レジェス王子の名を騙った不届きな偽者です!レジェス王子は、もうこの世にはいないのですから。」


「しかし母上。もしも本人であったならば、どうするおつもりです。レジェス王子であった場合、彼はグリフォンブルーの正統な王位継承権を持つ、お方。ここは一度、よく話し合ってから、結論を出すべきでは、ありませんか。」


メルバ女王の言葉に、ウェルは反論した。

その光景を見ていたサフィアは驚きを隠せないでいた。


「あれは本当にウェル様なのか?俺の知っているウェル王子は、母であるメルバ王妃の言うことには黙って従う、そんな方だったはず。しばらく見ない内に、随分と変わられた――」


「サフィア。貴方が探したのですか?」


ウェルの問いかけに、サフィアは、

「ハッ!時間はかかりましたが、レジェス様を見つけだすことができました。それで、出来れば国王陛下に、お目通りを願いたいと思い、多少手荒なことをしてしまいました。この責任は全て俺がとります。」と、言った。


「そうか。確かに私たちでは判断に迷うな。ここは国王様に判断を委ねるとしよう。サフィア、ご苦労様でした。もう、下がってよい。それに双牙宰相のコーエン兄弟も下がってください。他の者も、お下がりなさい。」


「ハッ!仰せのままに。」


サフィアはウェルの命に従った。

だが、ウェルの言葉に従わない者もいた――コーエン兄弟である。


「お言葉では、ございますが、我らは女王陛下の命にて動いております。」

「ウェル王子様は、まだお若い。ここは、母君である女王陛下に、お任せ自室へ、お戻りくださいませ。」


コーエン兄弟は揃ってメルバ女王を見た。


「そうですよ、ウェル。ここは私に任せておきなさい。貴方は、まだ子供なのよ。ですから母の言うことを聞いてちょうだい。」


そして、メルバはコーエン兄弟へ目で合図を送る。

するとコーエン兄弟は、不敵な笑みを口元に浮かべた。

ブラックとホワイトは、顔を見合わせ、同時にサフィアへと襲いかかったのだ。

ブラックは切り落とされた右腕から剣を取り、それを左手に持って斬りかかった。

完全に不意をつかれたサフィアは、一歩も動くことができなかった。

まともにコーエン兄弟の攻撃を受けてしまった。


「ガハッ!」


サフィアは、その場で力なく倒れてしまった。

私は、すぐにサフィアへと近寄った。

そして、すぐにディルクもサフィアの側へと駆け寄って来た。


「サフィア様!」


サフィアの出血は、予想以上に深刻だった。

私は治療系の魔法で手当てを試みたが、追いつかない。

するとサフィアは、私の手を握り、

「も、もういいよ。」と、言った。

私は、治療を止めずにサフィアの手を握り返して頷いた。


「最後に言っておきたいことがある――まずディルク。」


ディルクは深刻な面持ちで、サフィアの側へと寄った。


「今まで俺に仕えてくれて、ありがとう。だが、これからは、そこにいるレジェス様に仕えてくれないか。」


ディルクは、今にも泣き出しそうな顔で、声を出せずに何度も頷いた。


「す、すまない――グッ!」


私は、何とか彼を救おうと魔力を高めた。

しかし、それは無意味なものであった。

彼は――サフィアは、本当なら、とっくに死んでいてもおかしくない状態であったからだ。

もはや治療云々という話ではない。

私は、フッと魔法を取り止めた。


「それでいい、兄上。魔力の無駄遣いだ。」


私は、サフィアの手を握ってやることしかできなかった。


「兄上、貴方には謝らないといけない。最初は、貴方を利用するつもりで近づいたんだ。貴方が国王になり、俺が裏で操る、そんな風に企てていたんだけど、貴方と触れあっている内に、そんな浅ましい考えがなくなっちまった――ウッ!」


「サフィア様!」


ディルクの叫びに、サフィアは意識を失いかけながらも、手を上げて応えた。


「俺は……俺には家族がいなかった……だけど兄上と最後に一緒に戦えて……俺は幸せだった……ありがとう……。」


そう言い残すと、サフィアは穏やかな顔をしたまま、息を引き取った。


「サフィア!」


その死に対し、もう一人の兄弟、ウェル王子も悲痛な叫びを上げた。


「さあ、何をしているのです!ホワイト、ブラック。そこのレジェスの亡霊も早く始末してしまいなさい!」


メルバは、コーエン兄弟に命じた。

そして、二人は待っていました、とばかりに私に襲いかかってきた。

ここから先は少しの間、私の記憶が曖昧になっていく。


コーエン兄弟はレジェスを挟むようにして、左右から攻撃を仕掛けた。


「もらった!」

「死ね!」


「レジェス様!」


コーエン兄弟の攻撃を防ごうと、ディルクが立ち上がったが、間に合わない。


――その時だった。

完全に、何かがレジェスの脳内で弾け飛んだ。


「――ウオォォォォォォオ!!!」


その雄叫びは、その場にいた全員が体をこわばらせた。

もちろんコーエン兄弟とて例外ではない。

一瞬、躊躇ったコーエン兄弟だが、すぐに持ち直しレジェスを襲う。

レジェスは両拳を左右に突きだし、

「ダブル・パンチャー」と、唱えた。

すると、まるで吸い込まれるようにして、コーエン兄弟はレジェスの拳へと引き寄せられた。


「グォオ!」

「ギャヒ!」


ホワイトとブラックは激しく吹き飛ばされた。


「レ、レジェス様……声が。」


ディルクの声にレジェスは、少し冷静さを取り戻した。

辺りを見ると、皆がレジェスを見つめていた。


「私は――レジェス。」


そして、何となく声を出してみると――出た。


「おお!なかなか良い声しているじゃないか。」

「本当、渋いじゃん。」

「もっと変な声だったら面白かったのに、残念。」


ハーブティー、クレア、クッキーは、それぞれ思い思いを口にした。


「声が戻った!それじゃあ、これで話し合いが出来ますよ、母上。




ウェルは自分の事の様に、顔を上気させて言った。


「初めから出せたんでしょう。変な芝居をして、本当に汚らわしいわ。早く終らせなさい。」


メルバの表情には、どこか焦りを感じる。

彼女が一番恐れていたことが起こってしまったからである。


「――サフィア……。」

レジェスは自分の声でサフィアの名を呼んだ。

だが返答はない。


「私は――国王などに興味はない……だから話し合いを希望する。」


レジェスは、自分の声に大きな違和感を覚えながらも、必死に思いを伝えた。


「何の話しだ!」

「こちらには話しなど不要!」


しかし、レジェスの思いは届かない。

コーエン兄弟は容赦なく襲いかかってきた。


「――仕方ない。ヒャァア!」


レジェスは剣を抜き、己の声を確かめる様に高い声を上げてみた。


キン!

キン!


ホワイトとブラックの一糸乱れぬ攻撃をレジェスは、簡単に防いだ。


「トオッ!ヤァ!ソリャ!」


「あれ……何だろうね。」


クレアの問いかけにハーブティーもクッキーも首を横に振った。


レジェスは自分の声に酔いしれていた。

物心ついた時から言葉を話せなかった、レジェスにとっては新鮮で仕方なかったのだ。

不思議なことに、その気持ちの高ぶりが戦いにも少なからず影響を与えていた。


「な、なんだこれは!身体が羽の様に軽いぞ!」


「師匠。ああいうの、いちいち言葉に出さないといけないのかな?」


クッキーの素朴な質問にハーブティーは手を広げ首を横に振った。


「おのれ!我らの攻撃を、こうも容易く!」

「甘く見ていたのかもしれぬな兄者!」


コーエン兄弟の嵐の様な攻撃を、レジェスは鼻歌でも歌うように防ぎ続けた。


「ば、ばかな!」

「くそ!」


コーエン兄弟は苛立ち始めていた。

そして、それを嘲笑うかのようにレジェスは、

「いい気分だ。」と、上機嫌である。


「どうしたの!早くやっておしまい!」


メルバ女王も苛立ちを募らせていた。


「おばさん、申し訳ないが黙っていてください。」


レジェスの突然の発言に、メルバは気を失いそうになった。


「お、おばさん!?キッー!」


「これが『皮肉』というものか。気持ちがいいな。」


「また口に出してるよ。」

「よっぽどうれしいんだね。」

「まぁ、いいじゃないか。あいつが楽しそうなんだから。」


ハーブティーたちはレジェスを温かく見守った。


「コケにしおって!ホワイト!あれをやるぞ!」

「おう兄者!」


コーエン兄弟は互いの剣を重ね合わせた。


「インフィニィティ・アタック!」

「インフィニィティ・アタック!」


限り無き剣撃がレジェス目掛けて放たれた。

それは豪雨のような攻撃であった。

さすがのレジェスも剣一本では防ぎきれない。


「なんという攻撃だ。ならば――」


レジェスは攻撃を防ぎながら、

「虚ろな剣ホローソード!」を発動した。

すると、レジェスの剣から、もう一本、剣が出現した。

それは確実に剣なのだが、その姿が、ハッキリしないような不可思議な剣だった。


レジェスは、その剣を振るいコーエン兄弟の攻撃を押し退けていく。

さらに、コーエン兄弟の攻撃を押しきっただけではなく、レジェスの振るう剣がホワイトとブラックに迫っていく。


「な、なんだ、この力は!?」

「兄者、このままでは!」


「これで終わりだ!」


ついにレジェスの剣がコーエン兄弟を捉えた。

二人の身体はレジェスの剣により激しく切り裂かれた。


「ぐゎあ!」

「ギャア!」


「そ、そんな。コーエン兄弟が倒されるなんて……。」


「母上。こうなっては致し方ありません。話しをしましょう。」


「……分かったわ、ウェル。」


息子ウェルの声はメルバ女王に、ついに届いた。

そして、ちょうどメルバが覚悟を決めた、その時だった。


「これは一体、どういうことだ。」


懐かしくも力強い声が響き渡った。


「父上――いや、国王陛下!」


ウェル王子の一言で、その場にいた全員が認識した。

グリフォンブルー国王、プライトの登場を。



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