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小学5年⒈

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クソガキの名前は早瀬 翔 。[はやせ かける] 
11歳。

センスに恵まれず、運動神経にも恵まれず。

いい家族に恵まれず、明るい性格にも恵まれず。

金に恵まれず、視力に恵まれず。

そして、何より顔に恵まれず。



直したい所は星の数ほどある。 

目を細めるクセ、キレ症。

引き笑い、死にかけの小さい声。

すぐ物に当たる。

すぐ金を無駄づかいする。

白すぎる肌。

分厚い唇。ほっそい目。

無駄に細長い手足。

無駄に高い身長。


思い返せば、あんなクソみたいなゴミ陰キャなんて生きている価値などなかった。


ある日、こんな自分がいやで、いやで、嫌すぎてリスカでもしようかと母親の目を盗んでキッチンから包丁を取り出した。

でも、痛いのが怖くて結局そのまま包丁を元に戻してしまって、自分の情けなさに部屋で大きな声で泣いた。









そんなクソみたいなガキにも、少しだが恵まれていた物があった。


かけがえのない愉快な友達たち。

独特なキャラ。

独創性。 




そして、憧れのあの子。





それらがあったから、彼はもう二度とリスカしようとか死のうとか思うことはなくなった。


今を生きることを決めた。
















「⋯⋯」
1人の少年が教室の隅で読書にふけっている。
少年は断じて美男子ではなく、長すぎる前髪が彼の顔を完全に隠している。

あたりは騒がしく、男子は走り回り、女子は固まってじゃれている。

彼だけが蚊帳の外。
 




「⋯⋯」

いいよなぁ⋯⋯⋯。

俺は本を読み終わってそう思っていた。

この読み終わった本の主人公はまさに今の俺みたいな暗い奴から、中学にあがってはっちゃけたキャラに変貌している。

オマケにバスケ部。

そして最後にずっと好きだった人に愛を伝えて、フラれるけども⋯⋯まあそれはもうアオハルそのものだ。


運動神経ゴミな俺にバスケ部は無理だわ⋯⋯。



そんな事を考えていた。
すると、後ろから騒がしい声がする。
「はやせ~!」 

「⋯⋯」
また奴らだ、畜生。

陰キャ殺しの女子集団。 

奴らは俺の席の周りを囲うと、お馴染みの質問をしてくる。
「はやせってさ~好きな人おるん!?」
クラスの女王様は、俺の顔を覗き込んではこう言う。

もうええっちゅうねん。
「おらんよ⋯⋯」
適当に返す。
「え?」
いつも聞き返してくる。
俺の声は小さすぎるらしいな。
「だから⋯⋯おらんて⋯⋯」 
「はい、ウソ~。」
「私知ってんで!!」
何をやねん⋯⋯。
「いつも授業の時、まやぎさんの事じーって見てるやろ!?」

え~ホンマなん!?

きっしょ~

そんな声があちこちでする。

いや、見てないし⋯⋯誰やねんそいつ。
「⋯⋯いや⋯⋯別に⋯」
「しゃーないから呼んだるわ!みやちゃーん!!」
ああ、俺の声は届かないようだ。
女王様が後ろを振り向いてその人を呼ぶ。
「もう⋯⋯ええって⋯⋯」 
俺は項垂れる。

でも、女王様が見た方を俺は仕方なく見てみる。

「⋯⋯?」
すると、1人の少女が振り向いた。
不思議そうに目をしばたかせ、でも少し笑いながら彼を見つめた。

茶色混じりの髪がふわり、と揺れる。

彼は思わず席から立ち上がる。

そして、息を呑む。

なぜなら、目の前の彼女が彼のどストライクでタイプの女の子だったからだ。

「ちょっと来てー!」
女王様が手招きする。

「なに~?」
あの子が明るい声で返事をする。

こ、声も可愛いだと⋯⋯  

目の前に彼女が来た。

ち、近くで見たらもっと可愛い⋯⋯

ぱっちりおめめ、プルプル唇、つやつや髪の毛。

「なに、はやせくん?」 
彼女は、俺の顔を見つめる。

小柄で華奢な彼女は、俺を見上げていた。




彼は自分より一回り小さくて、死ぬほど可愛い彼女にまっすぐ見上げられて、なんかもうどうにかなってしまいそうになった。


それで、逃げるようにトイレへ駆け込んだのは仕方がなかった。



だって俺やもん。





続くよ

    
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