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御所。ー古書。ー
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幼子は星喰らいをしたことがある、霧に隠れてしまったように記憶が愚昧だ。
白いフクロウは、天真爛漫で大人びているままだ。
しかし、幼子が白いフクロウの秘密を知ることはあまりないだろうか。
白いフクロウが巧みに隠していたために、違和感を覚えることはない。
違和感を覚えることは、なかった。
それはさておき、廃れた神社があったため幼子は一人で赴いた。
しかしてそこで悪鬼羅刹が、誰かの首を掴んでいるのを目撃してしまった。
幼子から見れば、美しいモノだったろう。
白い髪に、細身の着物を着ていて。
顔を完全に隠す形で、白い面を装着しているのだから。
その誰かが、何も言わずに幼子に血に塗れた白刃を向けてきた時には逃げたくなったろう。
否、幼子は長く生きていた。
荒事は慣れっこだろう、幼子は勝てると過信していた。
その誰かがあっという間に己を組み伏せ、瞬間的に幼子の喉に。
得物を突き立て、直前で止める。
何も喋らずして、幼子を制圧した。
それも、一匹だけで。
『己の立場を忘れたか?』
かの純白の髪を持ち人を嗤う鬼が、後ろに幼子とは違う幼子の魂を庇っている。
この魂は、かの純白の髪を持ち人を嗤う鬼が唯一愛した幼子の魂。
しかし、幼子にはよく見えなかった。
否、不可視だろう。
それはさておき、幼子は口を開くが。
その誰かが、合図をすると他の悪鬼羅刹が出てきた。
他の悪鬼羅刹の囁きが幼子の頭を掻き乱す、掻き乱してゆく。
しかし、白いフクロウが手出しすることはなく。
その中の一匹の悪鬼羅刹が、囁く。
誰か、の声でもなさそうな低い声だ。
よくぞ月の女神との均衡を、都合のよくもない……
善き神々との……
その魂、よく似ている。
囁きは不意に、そこで終わりを迎え。
悪鬼羅刹達は、霧に。
紛れるように、はたまた霞に紛れるように。
それとも雪に紛れるかのように、あるいは忽然と消えてしまった。
白い面の誰かは、後ろを向き何も言わないまま消失して行ったことに。
幼子は、気づかないままだ。
『曖昧』
幼子が追おうとするも、霧はどんどん深くなっていく。
とうとう木々の輪郭しか分からなくなった、何処に行っているのか判別がつかない中で幼い子供を拾う。
『廃れた社があり、其処で童を拾った。』
しかし、珍妙なことを言いける。
焦点が合っているが、幼い子供は告げる。
『南天、同罪。』
その後も、いひもやらず。
それ以降、何も喋らない幼い子供。
当惑しました。
しかし、その小さな身体には。
しかしながら、その子供は心を奪われ。
刃物か何かで切りつけられたような、刀傷らしき跡が。
置き去りに、された後。
それに幼いはずの声音には、それこそ悪鬼羅刹のような。
脳裏に過ぎる。
『神様をどうして』
凄みや冷たさが、あったように見受けられる。
ぴちゃ。
幼い子供の脳裏には、別の悪鬼羅刹の囁きが過ぎる。
沈黙。
『声をもらふ。』
窓に、刀に、反射する光は、隻月。
『幼子のうがら、この地に留めおく。』
『戡殄』
幼い子供は、それを知らぬ幼子の目を見つめ憐れむかのように目を通している。
その幼い子供の目には、別の悪鬼羅刹の綺麗な笑みが映っていたが幼子はぼーっとしているのかと問う。
幼い子供が何も言わずに、再び焦点を合わせる。
すると幼い子供の目が人のそれではない目に変わる、それも一瞬だけだったが。
幼子はそれに、驚愕しつつもぶっきらぼうに幼い子供の身体を拾い上げる。
『捨てる神あれば拾う神あり』
幼い子供の目が蛇のような、あるいは鬼火のような光を放つ。
何も喋るつもりがないようで、幼子の瞳を見つめて嗤う。
あっという間に、首を絞めてくる幼い子供。
間髪入れずに、幼い子供が白いフクロウの方を一瞥すると。
暗黙の了解のように、霧が更に深くなっていく。
しかしそれでも木々の輪郭しか見えない、幼い子供は幼子の瞳を見つめている。
自分の持つ何かを狙われているかのようで、幼子が言葉を紡ごうとするが。
まるで言葉にもならず、苦しむだけだろう。
幼い子供が目を通して、何かを見出したのか不意に離された。
だがその直後に幼子の腹に鋭い感触が容赦なく走る、それで幼子は気絶してしまった。
目が覚めると、幼子は幼い子供の手によりズタズタにされていた。
幼い子供の手は人のそれだが、爪が少し長くなったように思う。
すると幼い子供の傍に、貴族風の男性のシンプルで精緻な杖が足音の代わりに響く。
さて、貴族風の男性は貴族らしい手袋を装着しており何も喋らない。
喉の傷跡の影響もあり、喋るつもりすらない様子だ。
そのまま足音に等しい杖の音を響かせられないが、歩みを進め幼子の腕をなんの脈絡もなくねじ切る。
『添付』
霧は木々の輪郭すら飲み込み、廃れた神社の森はまるで生と死の狭間のような闇に沈む。
幼子はズタズタに引き裂かれた身体を地面に横たえ、血の味を口に感じながら息を荒らげる。
煤けた着物の裂け目から覗く包帯の腕は、痛みに震え長い前髪の奥の瞳には驚愕と怒りが混じる。
幼い子供は傍らに立ち、爪の長い手をゆっくりと拭うように動かし、その異形の瞳の目が一瞬だけ蛇のような光を宿す。
白いフクロウは依然として沈黙し、幼子の肩に留まったままただ静かに霧の奥を見つめる。
そこへ、杖の音が響く──足音に等しく。
軽やかだが、不気味に規則正しい音。
霧の奥から現れたのは、貴族風の男性。
この男は貴族らしい手袋を装着し、細身のコートが霧に溶け込むように優雅だ。
喉元に古い傷跡が覗き、まるで言葉を永遠に封じ込められたかのように。
無言の視線を、幼子に注ぐ。
喋るつもりすらない───────その傷跡の影響か、それとも自らの選択か。
男性の瞳は冷たく、感情の欠片すら見えない。
杖の音が一瞬止む、男性は。
歩みを進め幼子の前に、立つ。
なんの脈絡もなく、まるで虫を払うように手袋をはめた手が幼子の腕に伸びる。
幼子が反応する暇も与えられず、骨が軋む音が響き腕がねじ切られる。
激痛が幼子の全身を駆け巡り、彼の口から漏れ出るのは。
言葉にならない、咆哮だけだ。
「ぐあっ…!」
───────長く生きてきた老獪な魂が、初めて味わう無力な中での絶望。
もっとだ、もっと……………………██████。
██。
血が霧に飛び散り、地面を赤く染める。
幼い子供はそれを無表情で見つめ、爪を収めるように手を握る。
白いフクロウが、ようやく。
小さく鳴くが、その声は霧に吸い込まれるように弱い。
男性は杖を一振りし、霧が幼子の視界をさらに覆う。
無言のまま、男性は。
幼子の壊れた腕を一瞥し、ゆっくりと背を向ける。
杖の音が、再び霧の奥へと遠ざかっていく。
『天晴』
それとは別に、公爵がいた。
しかし、公爵は既に落ちぶれ死亡している。
幼い妹君が立て直さねばならない、家族は彼女以外死亡している。
彼女はどちらの鬼にも呪われ、そして可愛がられてもいる。
それも秘かに、情をかけられているだろうか。
相も変わらずどちらの鬼も、喋らずに。
しかして、呪われている彼女に問うても。
何も言わず微笑んで、話を巧みにさりげなくそらされる。
さて、話は変わる。
█████████
話がずれてしまった、戻そうか。
何故彼女以外が死亡しており、呪われながらも愛されているのか。
彼女以外が鬼の怒りに触れ、呪いをかけられ。
公爵は、他国の王の処に連れていかれた上に。
最終的には、悲惨な目に遭ったかもしれない。
何故、彼女以外が鬼達の怒りに触れ。
彼女が傷つけられずとも、心を削られていっているのか。
死別した公爵には分からないのだろう、恨みばかりが積もるのだろう。
『青天の霹靂』
王は後悔していた、愛娘の一人を公爵に奪われたのを。
それはさておき、薄く血が流れているのは。
妹君達と言えば、耳触りがいいだろう。
他国の王が、二匹の鬼と。
それも悪鬼羅刹達と、関わりを持っているに留まらず。
恋の魔女とも密接な関係が、あった。
契約か、友誼を結んでいたのか。
友誼を結んでいた、それは変わらず。
友誼を切った、それが変わった。
他国の王は微笑み、鬼共と共に赴いた。
また別の王は叫び、永久の封印を刻んだ。
宵闇が包み、拐かす。
『今昔より、愛でに来た』
妹君の今の父親は、義理の父親である前公爵。
しかしながら、その当の本人である父親は伝わっていない───────母親だけが知っている。
母君が微笑み、示していてくれたことを覚えている。
母君が微笑み、書庫の中にある古びた書物を読みながらも。
片手間とばかりに、仕草で示していてくれたことを覚えている。
どちらの鬼の所持している得物で、貫かれる直前にさえも。
容赦なく、遠慮もなしに貫かれる直前にさえも。
母君は物静かだ、それこそ。
何処の国の姫君かと、見紛うくらいに聡明なお方だった。
母親が黙すれば、幼い妹君達も自然と口を噤んだ。
『その血脈、何処かに』
例外的存在に値するのは、前公爵のみだった。
さりとて、特筆に値するほどの前公爵の功績などがないのが、残念だが当然だ。
閑話休題、一人の人間と鬼の恋に横槍を入れたのが前公爵か、義兄の家系に纏わる遠い先祖か。
一人の人間は情愛を、あるいは信愛を。
片や一匹の鬼は盲愛を、渇愛を。
それでも様々な価値を慈しみ、大切にするその人間に徐々に惹かれ。
次第に鍾愛か、寵愛か、どのような想いを抱き始めた鬼はやがて。
美しく可憐に成長したその人間に、愛を囁き。
『束の間の幸福』
時が経ち、鬼と人が恩愛と愛慕を抱きながら過ごしていたその最中に公爵の遠い先祖が隊を率いて攻め入ってきた。
少なくともそれが原因ではなかったが、きっかけのひとつにはなり得た。
きっかけのひとつであるそれが、厄介な火種を残したが。
後世に渡ってそれは注がれ、その度に鬼側が恩愛と愛慕の相手を取り囲み。
優しく、時には切愛を囁いた。
つまり、鬼側が情はどうあれ愛する人間を取り戻してきたといったところか。
『天和』
白いフクロウは、天真爛漫で大人びているままだ。
しかし、幼子が白いフクロウの秘密を知ることはあまりないだろうか。
白いフクロウが巧みに隠していたために、違和感を覚えることはない。
違和感を覚えることは、なかった。
それはさておき、廃れた神社があったため幼子は一人で赴いた。
しかしてそこで悪鬼羅刹が、誰かの首を掴んでいるのを目撃してしまった。
幼子から見れば、美しいモノだったろう。
白い髪に、細身の着物を着ていて。
顔を完全に隠す形で、白い面を装着しているのだから。
その誰かが、何も言わずに幼子に血に塗れた白刃を向けてきた時には逃げたくなったろう。
否、幼子は長く生きていた。
荒事は慣れっこだろう、幼子は勝てると過信していた。
その誰かがあっという間に己を組み伏せ、瞬間的に幼子の喉に。
得物を突き立て、直前で止める。
何も喋らずして、幼子を制圧した。
それも、一匹だけで。
『己の立場を忘れたか?』
かの純白の髪を持ち人を嗤う鬼が、後ろに幼子とは違う幼子の魂を庇っている。
この魂は、かの純白の髪を持ち人を嗤う鬼が唯一愛した幼子の魂。
しかし、幼子にはよく見えなかった。
否、不可視だろう。
それはさておき、幼子は口を開くが。
その誰かが、合図をすると他の悪鬼羅刹が出てきた。
他の悪鬼羅刹の囁きが幼子の頭を掻き乱す、掻き乱してゆく。
しかし、白いフクロウが手出しすることはなく。
その中の一匹の悪鬼羅刹が、囁く。
誰か、の声でもなさそうな低い声だ。
よくぞ月の女神との均衡を、都合のよくもない……
善き神々との……
その魂、よく似ている。
囁きは不意に、そこで終わりを迎え。
悪鬼羅刹達は、霧に。
紛れるように、はたまた霞に紛れるように。
それとも雪に紛れるかのように、あるいは忽然と消えてしまった。
白い面の誰かは、後ろを向き何も言わないまま消失して行ったことに。
幼子は、気づかないままだ。
『曖昧』
幼子が追おうとするも、霧はどんどん深くなっていく。
とうとう木々の輪郭しか分からなくなった、何処に行っているのか判別がつかない中で幼い子供を拾う。
『廃れた社があり、其処で童を拾った。』
しかし、珍妙なことを言いける。
焦点が合っているが、幼い子供は告げる。
『南天、同罪。』
その後も、いひもやらず。
それ以降、何も喋らない幼い子供。
当惑しました。
しかし、その小さな身体には。
しかしながら、その子供は心を奪われ。
刃物か何かで切りつけられたような、刀傷らしき跡が。
置き去りに、された後。
それに幼いはずの声音には、それこそ悪鬼羅刹のような。
脳裏に過ぎる。
『神様をどうして』
凄みや冷たさが、あったように見受けられる。
ぴちゃ。
幼い子供の脳裏には、別の悪鬼羅刹の囁きが過ぎる。
沈黙。
『声をもらふ。』
窓に、刀に、反射する光は、隻月。
『幼子のうがら、この地に留めおく。』
『戡殄』
幼い子供は、それを知らぬ幼子の目を見つめ憐れむかのように目を通している。
その幼い子供の目には、別の悪鬼羅刹の綺麗な笑みが映っていたが幼子はぼーっとしているのかと問う。
幼い子供が何も言わずに、再び焦点を合わせる。
すると幼い子供の目が人のそれではない目に変わる、それも一瞬だけだったが。
幼子はそれに、驚愕しつつもぶっきらぼうに幼い子供の身体を拾い上げる。
『捨てる神あれば拾う神あり』
幼い子供の目が蛇のような、あるいは鬼火のような光を放つ。
何も喋るつもりがないようで、幼子の瞳を見つめて嗤う。
あっという間に、首を絞めてくる幼い子供。
間髪入れずに、幼い子供が白いフクロウの方を一瞥すると。
暗黙の了解のように、霧が更に深くなっていく。
しかしそれでも木々の輪郭しか見えない、幼い子供は幼子の瞳を見つめている。
自分の持つ何かを狙われているかのようで、幼子が言葉を紡ごうとするが。
まるで言葉にもならず、苦しむだけだろう。
幼い子供が目を通して、何かを見出したのか不意に離された。
だがその直後に幼子の腹に鋭い感触が容赦なく走る、それで幼子は気絶してしまった。
目が覚めると、幼子は幼い子供の手によりズタズタにされていた。
幼い子供の手は人のそれだが、爪が少し長くなったように思う。
すると幼い子供の傍に、貴族風の男性のシンプルで精緻な杖が足音の代わりに響く。
さて、貴族風の男性は貴族らしい手袋を装着しており何も喋らない。
喉の傷跡の影響もあり、喋るつもりすらない様子だ。
そのまま足音に等しい杖の音を響かせられないが、歩みを進め幼子の腕をなんの脈絡もなくねじ切る。
『添付』
霧は木々の輪郭すら飲み込み、廃れた神社の森はまるで生と死の狭間のような闇に沈む。
幼子はズタズタに引き裂かれた身体を地面に横たえ、血の味を口に感じながら息を荒らげる。
煤けた着物の裂け目から覗く包帯の腕は、痛みに震え長い前髪の奥の瞳には驚愕と怒りが混じる。
幼い子供は傍らに立ち、爪の長い手をゆっくりと拭うように動かし、その異形の瞳の目が一瞬だけ蛇のような光を宿す。
白いフクロウは依然として沈黙し、幼子の肩に留まったままただ静かに霧の奥を見つめる。
そこへ、杖の音が響く──足音に等しく。
軽やかだが、不気味に規則正しい音。
霧の奥から現れたのは、貴族風の男性。
この男は貴族らしい手袋を装着し、細身のコートが霧に溶け込むように優雅だ。
喉元に古い傷跡が覗き、まるで言葉を永遠に封じ込められたかのように。
無言の視線を、幼子に注ぐ。
喋るつもりすらない───────その傷跡の影響か、それとも自らの選択か。
男性の瞳は冷たく、感情の欠片すら見えない。
杖の音が一瞬止む、男性は。
歩みを進め幼子の前に、立つ。
なんの脈絡もなく、まるで虫を払うように手袋をはめた手が幼子の腕に伸びる。
幼子が反応する暇も与えられず、骨が軋む音が響き腕がねじ切られる。
激痛が幼子の全身を駆け巡り、彼の口から漏れ出るのは。
言葉にならない、咆哮だけだ。
「ぐあっ…!」
───────長く生きてきた老獪な魂が、初めて味わう無力な中での絶望。
もっとだ、もっと……………………██████。
██。
血が霧に飛び散り、地面を赤く染める。
幼い子供はそれを無表情で見つめ、爪を収めるように手を握る。
白いフクロウが、ようやく。
小さく鳴くが、その声は霧に吸い込まれるように弱い。
男性は杖を一振りし、霧が幼子の視界をさらに覆う。
無言のまま、男性は。
幼子の壊れた腕を一瞥し、ゆっくりと背を向ける。
杖の音が、再び霧の奥へと遠ざかっていく。
『天晴』
それとは別に、公爵がいた。
しかし、公爵は既に落ちぶれ死亡している。
幼い妹君が立て直さねばならない、家族は彼女以外死亡している。
彼女はどちらの鬼にも呪われ、そして可愛がられてもいる。
それも秘かに、情をかけられているだろうか。
相も変わらずどちらの鬼も、喋らずに。
しかして、呪われている彼女に問うても。
何も言わず微笑んで、話を巧みにさりげなくそらされる。
さて、話は変わる。
█████████
話がずれてしまった、戻そうか。
何故彼女以外が死亡しており、呪われながらも愛されているのか。
彼女以外が鬼の怒りに触れ、呪いをかけられ。
公爵は、他国の王の処に連れていかれた上に。
最終的には、悲惨な目に遭ったかもしれない。
何故、彼女以外が鬼達の怒りに触れ。
彼女が傷つけられずとも、心を削られていっているのか。
死別した公爵には分からないのだろう、恨みばかりが積もるのだろう。
『青天の霹靂』
王は後悔していた、愛娘の一人を公爵に奪われたのを。
それはさておき、薄く血が流れているのは。
妹君達と言えば、耳触りがいいだろう。
他国の王が、二匹の鬼と。
それも悪鬼羅刹達と、関わりを持っているに留まらず。
恋の魔女とも密接な関係が、あった。
契約か、友誼を結んでいたのか。
友誼を結んでいた、それは変わらず。
友誼を切った、それが変わった。
他国の王は微笑み、鬼共と共に赴いた。
また別の王は叫び、永久の封印を刻んだ。
宵闇が包み、拐かす。
『今昔より、愛でに来た』
妹君の今の父親は、義理の父親である前公爵。
しかしながら、その当の本人である父親は伝わっていない───────母親だけが知っている。
母君が微笑み、示していてくれたことを覚えている。
母君が微笑み、書庫の中にある古びた書物を読みながらも。
片手間とばかりに、仕草で示していてくれたことを覚えている。
どちらの鬼の所持している得物で、貫かれる直前にさえも。
容赦なく、遠慮もなしに貫かれる直前にさえも。
母君は物静かだ、それこそ。
何処の国の姫君かと、見紛うくらいに聡明なお方だった。
母親が黙すれば、幼い妹君達も自然と口を噤んだ。
『その血脈、何処かに』
例外的存在に値するのは、前公爵のみだった。
さりとて、特筆に値するほどの前公爵の功績などがないのが、残念だが当然だ。
閑話休題、一人の人間と鬼の恋に横槍を入れたのが前公爵か、義兄の家系に纏わる遠い先祖か。
一人の人間は情愛を、あるいは信愛を。
片や一匹の鬼は盲愛を、渇愛を。
それでも様々な価値を慈しみ、大切にするその人間に徐々に惹かれ。
次第に鍾愛か、寵愛か、どのような想いを抱き始めた鬼はやがて。
美しく可憐に成長したその人間に、愛を囁き。
『束の間の幸福』
時が経ち、鬼と人が恩愛と愛慕を抱きながら過ごしていたその最中に公爵の遠い先祖が隊を率いて攻め入ってきた。
少なくともそれが原因ではなかったが、きっかけのひとつにはなり得た。
きっかけのひとつであるそれが、厄介な火種を残したが。
後世に渡ってそれは注がれ、その度に鬼側が恩愛と愛慕の相手を取り囲み。
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