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第2話
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翌日からアゲハはあの畑を見張ることにした。犯人がまた、来るのではないか、そう思い朝から夕方までずっと見張っていた。
事件から三日が経った日。アゲハは眠たい目を擦りながら、またあの畑を窓から見ていた。今のところは変わったことはない。
「ふぁ~」
あくびを一つして瞬きをする。すると、目の前に何かが飛び込んできた。
「何!?...あれは...」
そこに居たのは《狼》。
「なんで狼が、この森に狼はいないはず...」
鋭い目にピンッと立った耳、見た目からはまだ若そうだ。
アゲハの住む森には、狼はいないはずだが。不思議なことに今、目の前にいるのだ。しばらく見ていると、狼は畑をぐるりと回って、一度立ち止まり匂いを嗅ぎ、また歩く。そして、また立ち止まりスッと立ち上がった。狼が立ち上がった?アゲハは思わず音を立てて窓を開けてしまった。
「あ...」
それと目が合った。合ってしまった。しかし、それはさっき目にしたものではなかった。見覚えのある《形》いや、自分と同じものであることに気づいた。
「人間?」
そう、人間。そこに二足で立っているのは人間だ。人間の少年のようだ。その少年は囮に埋めていた人参を手に持っている。が、直ぐに手から人参は落ちていった。目を丸くした少年は、固まっていたが我に帰り、一目散に逃げようとした。
「待って!」
アゲハに呼び止められ、一度静止したが走り去ってしまった。
「行っちゃった。」
あの狼はあの少年は一体何だったのか。畑へ行って地面に落ちた人参を手に取り彼の走って行った方を見ていた。
昼からアゲハは、また野菜を育てられるように畑の整地を始めた。
翌日の夕方になりようやく畑を元の状態に戻すことができた。額の汗を拭き、一息つくために小屋の中に入ろうとすると、背後でガサッという音がした。振り返ると昨日の少年が木の陰からこちらを見ていた。
「ねぇ!」
また、アゲハが声をかけるが、少年はビクッと肩を震わすと昨日と同じように走り去った。
それから何度も少年はアゲハの元を訪れた。何か言いたげな表情をしていたが、声をかける度に逃げていくのだった。数日そんなことが続き一つ分かったことがあった。少年は決まって夕方に来ているのだ。来ては何をする訳でもなく、キョロキョロしてみたりただ、こちらを見ていることもある。
「そうだ!」
ある日アゲハは読んでいた本を置いて、椅子から勢いよく立ち上がった。少年はいつも決まって夕方にアゲハの居る小屋へ来る。だったら別の場所に居たらどうなるのか?もしかするとアゲハを探しに来るかもしれない。その時、逃げられないように森の動物たちに協力して貰えば良い。アゲハは我ながら名案だと思った。外を見ると少し空が紅くなりつつある。夕方前だ。「よし!」っと言って小屋を出て木々の中へ入って行く。すると瞬く間に動物たちがアゲハの周りに集まってきた。少し奥へ進み一本の木にもたれて座る。集まった動物たちもアゲハの側にいる。しばらくするとガサガサと草の音が聞こえてきた。フフッと笑って立ち上がろうとした時周りにいた動物たちが突然走って逃げて行ってしまった。
「えっ!?どうしたの!?」
動物たちが逃げた後、ガサガサという音が大きくまた、早くなっていく。
「な、なに?」
その音はどんどん近づいてくる。アゲハは何かが自分に近づいてきていることに恐怖し震え動けないでいると、中型犬位の動物が走ってくるのが見えてきた。
「あれは..」
目を凝らして見る。その動物は《狼》だ。
「狼!?...こっちに来る!!逃げないと!!」
頭では逃げないといけないと分かっている。しかし恐怖から足がすくんで思うように動くことができない。そうしていると狼は、既に目と鼻の先までに来ているではないか。襲われると思った瞬間、どこからか別の狼が現れて、すんでの所で狼を突き飛ばした。
「えっ!?」
その狼は、アゲハの畑を荒らした狼だった。狼同士は激しくぶつかり合い始めたが、しばらくすると襲ってきた狼は一歩後ろに下がり、アゲハと狼を交互に見て走り去っていった。
「はぁ、ビックリした。」
アゲハは力が抜けペタッと地べたに俯いて座り込んだ。
「お前油断しすぎだ。こんな時間に外に出るなよ」
上から知らない声が降ってくる。ハッとして顔を上げると、狼ではなくあの少年が目の前に立っていた。
「あ、ごめんなさい。でも、君に会いたくて。ちゃんと話しをしたくて」
少年は、「はぁ」とため息を吐いて、座り込んでいるアゲハと目線を合わせるようにしゃがんだ。
「君は誰なの?ずっと私の家に来て何をしていたの?」
「...」
「あの狼は、君が飼っているの?」
そう聞くと少年の表情が曇った。
「違う」
「じゃあ誰が?」
「...見てろ」
そういうと、少年はクルッと宙返りをした。すると少年の頭に獣の耳とお尻に尻尾が生えたではないか。少年はもう一度宙返りをして見せる。と、その姿は再び変わり、さっきアゲハを助けた狼になっていた。
「わぁ!凄い!あの狼は君だったのね!」
「驚かないのか?」
「少し驚いたけど、君は私の命の恩人だもの!とても感謝してるわ!」
「はぁ、陽気なやつだな」
少年は、ニコニコと笑うアゲハに呆れた様子である。
「そういえば、私の畑を荒らしたのも君よね?」
「あ、あれは...悪かった」
「何か理由があるの?それに何で狼がこの森にいるの?」
この数日、不思議に思っていた事を少年に問う。それはと言いかけたが、口を噤んだ。
「どうしたの?」
「静かに」
耳をすませるとドサドサと何かの足音がする。その音は徐々に近づいてくる。少年が警戒していると、大きな影が見えてきた。
「あれは熊だ!逃げるぞ!」
少年は人間の姿に戻りアゲハの腕を引こうとしたが、アゲハはそれに逆らった。
「おい!何してるんだ!」
「待って!あのクマさんは私の友達なの!何も悪いことはしないわ!」
「はぁ?熊が友達!?」
「そうよ!友達!この森の動物はみんな私の友達なの!」
「まぁ...いい。もう暗いから送ってやる」
「本当?ありがとう!」
「...ほら、行くぞ」
少年とアゲハは小屋に向かって歩き出す。大きな三日月と熊に見送られながら。
事件から三日が経った日。アゲハは眠たい目を擦りながら、またあの畑を窓から見ていた。今のところは変わったことはない。
「ふぁ~」
あくびを一つして瞬きをする。すると、目の前に何かが飛び込んできた。
「何!?...あれは...」
そこに居たのは《狼》。
「なんで狼が、この森に狼はいないはず...」
鋭い目にピンッと立った耳、見た目からはまだ若そうだ。
アゲハの住む森には、狼はいないはずだが。不思議なことに今、目の前にいるのだ。しばらく見ていると、狼は畑をぐるりと回って、一度立ち止まり匂いを嗅ぎ、また歩く。そして、また立ち止まりスッと立ち上がった。狼が立ち上がった?アゲハは思わず音を立てて窓を開けてしまった。
「あ...」
それと目が合った。合ってしまった。しかし、それはさっき目にしたものではなかった。見覚えのある《形》いや、自分と同じものであることに気づいた。
「人間?」
そう、人間。そこに二足で立っているのは人間だ。人間の少年のようだ。その少年は囮に埋めていた人参を手に持っている。が、直ぐに手から人参は落ちていった。目を丸くした少年は、固まっていたが我に帰り、一目散に逃げようとした。
「待って!」
アゲハに呼び止められ、一度静止したが走り去ってしまった。
「行っちゃった。」
あの狼はあの少年は一体何だったのか。畑へ行って地面に落ちた人参を手に取り彼の走って行った方を見ていた。
昼からアゲハは、また野菜を育てられるように畑の整地を始めた。
翌日の夕方になりようやく畑を元の状態に戻すことができた。額の汗を拭き、一息つくために小屋の中に入ろうとすると、背後でガサッという音がした。振り返ると昨日の少年が木の陰からこちらを見ていた。
「ねぇ!」
また、アゲハが声をかけるが、少年はビクッと肩を震わすと昨日と同じように走り去った。
それから何度も少年はアゲハの元を訪れた。何か言いたげな表情をしていたが、声をかける度に逃げていくのだった。数日そんなことが続き一つ分かったことがあった。少年は決まって夕方に来ているのだ。来ては何をする訳でもなく、キョロキョロしてみたりただ、こちらを見ていることもある。
「そうだ!」
ある日アゲハは読んでいた本を置いて、椅子から勢いよく立ち上がった。少年はいつも決まって夕方にアゲハの居る小屋へ来る。だったら別の場所に居たらどうなるのか?もしかするとアゲハを探しに来るかもしれない。その時、逃げられないように森の動物たちに協力して貰えば良い。アゲハは我ながら名案だと思った。外を見ると少し空が紅くなりつつある。夕方前だ。「よし!」っと言って小屋を出て木々の中へ入って行く。すると瞬く間に動物たちがアゲハの周りに集まってきた。少し奥へ進み一本の木にもたれて座る。集まった動物たちもアゲハの側にいる。しばらくするとガサガサと草の音が聞こえてきた。フフッと笑って立ち上がろうとした時周りにいた動物たちが突然走って逃げて行ってしまった。
「えっ!?どうしたの!?」
動物たちが逃げた後、ガサガサという音が大きくまた、早くなっていく。
「な、なに?」
その音はどんどん近づいてくる。アゲハは何かが自分に近づいてきていることに恐怖し震え動けないでいると、中型犬位の動物が走ってくるのが見えてきた。
「あれは..」
目を凝らして見る。その動物は《狼》だ。
「狼!?...こっちに来る!!逃げないと!!」
頭では逃げないといけないと分かっている。しかし恐怖から足がすくんで思うように動くことができない。そうしていると狼は、既に目と鼻の先までに来ているではないか。襲われると思った瞬間、どこからか別の狼が現れて、すんでの所で狼を突き飛ばした。
「えっ!?」
その狼は、アゲハの畑を荒らした狼だった。狼同士は激しくぶつかり合い始めたが、しばらくすると襲ってきた狼は一歩後ろに下がり、アゲハと狼を交互に見て走り去っていった。
「はぁ、ビックリした。」
アゲハは力が抜けペタッと地べたに俯いて座り込んだ。
「お前油断しすぎだ。こんな時間に外に出るなよ」
上から知らない声が降ってくる。ハッとして顔を上げると、狼ではなくあの少年が目の前に立っていた。
「あ、ごめんなさい。でも、君に会いたくて。ちゃんと話しをしたくて」
少年は、「はぁ」とため息を吐いて、座り込んでいるアゲハと目線を合わせるようにしゃがんだ。
「君は誰なの?ずっと私の家に来て何をしていたの?」
「...」
「あの狼は、君が飼っているの?」
そう聞くと少年の表情が曇った。
「違う」
「じゃあ誰が?」
「...見てろ」
そういうと、少年はクルッと宙返りをした。すると少年の頭に獣の耳とお尻に尻尾が生えたではないか。少年はもう一度宙返りをして見せる。と、その姿は再び変わり、さっきアゲハを助けた狼になっていた。
「わぁ!凄い!あの狼は君だったのね!」
「驚かないのか?」
「少し驚いたけど、君は私の命の恩人だもの!とても感謝してるわ!」
「はぁ、陽気なやつだな」
少年は、ニコニコと笑うアゲハに呆れた様子である。
「そういえば、私の畑を荒らしたのも君よね?」
「あ、あれは...悪かった」
「何か理由があるの?それに何で狼がこの森にいるの?」
この数日、不思議に思っていた事を少年に問う。それはと言いかけたが、口を噤んだ。
「どうしたの?」
「静かに」
耳をすませるとドサドサと何かの足音がする。その音は徐々に近づいてくる。少年が警戒していると、大きな影が見えてきた。
「あれは熊だ!逃げるぞ!」
少年は人間の姿に戻りアゲハの腕を引こうとしたが、アゲハはそれに逆らった。
「おい!何してるんだ!」
「待って!あのクマさんは私の友達なの!何も悪いことはしないわ!」
「はぁ?熊が友達!?」
「そうよ!友達!この森の動物はみんな私の友達なの!」
「まぁ...いい。もう暗いから送ってやる」
「本当?ありがとう!」
「...ほら、行くぞ」
少年とアゲハは小屋に向かって歩き出す。大きな三日月と熊に見送られながら。
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