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組合員が多く利用する店で、ミツルは1人酒を飲んでいた。
トウコと思わぬ再会をし、神殿から帰還して1か月以上が経っていた。
結局あの後、謎の外套の人物が現れ、トウコは助けられた。
殺気だった金髪の男がトウコを抱えて出口に駆け込んできて、そのまま一行は神殿を後にしたが、無事に第16都市に帰還した後も男は変わらず殺気立ったままで、悄然とした様子のトウコの腕を引いて去って行った。
誰も、仲間の大男ですら声を掛けることが出来ないようだった。
それを最後に、ミツルはトウコを見ていなかった。
何度この街を離れようと思ったか分からなかったが、未だ踏ん切りがつかずこの街に留まっていた。
自分はどこで間違えてしまったのだろう。
あの日。
トウコを追うことが出来ていたら、結果は変わっていたのだろうか。
団長の部屋の扉を開けることが出来ていたら、結果は変わっていたのだろうか。
8年前のあの日から、ずっとそう思って後悔し続けて来た。
しかし、もしかしたら自分はもっと前から間違えていたのかもしれない。
神殿で、金髪の男から投げつけられた言葉に反論したかったのに、何故か言葉が出てこなかった。
―お前は色無しであるトウコを見下していた。
違う、見下してなどいなかった。
色無しと同じように扱われてきた自分が、なぜ色無しであるトウコを見下せるというのだ。
―色無しのトウコはどこにも行けないと思っていた。
その通りだった。
あの場所以外、トウコに居場所などないと思っていた。
色無しと同じように扱われてきた自分も、あの場所以外居場所はなかったのだ。
トウコもそれは同じだと思った。
なぜならば色無しだから。
―どこかに行っても生きていけるはずがないと思っていた。
そう思っていた。
自分がそうだから。
そしてトウコは色無しだから。
―それなのに、自分を置いて消えてしまった。
そう、トウコはいなくなってしまった。
あの護衛団以外に居場所がないはずのトウコは、自分同様に他に行き場がない自分を置いて消えてしまった。
―とっくの昔に死んでいると思っていた。
死んだと思った。
色無しだから。
自分はどこで間違えてしまったのだろう。
トウコのことを守りたいと思った。
そう、最初は色無しの弱いトウコを守りたいと思った。
そこからもう間違えてしまっていたのだろうか。
しかし、トウコが弱くないと、力があると知ってからも守りたい気持ちは変わらなかった。
ずっとトウコの側にいたいと思っていた。
では、何を自分は間違えてしまったのだろう。
ミツルは、すっかりぬるくなった酒を喉に流し込んだ。
金髪の男から言葉を投げつけられてから、ずっと同じ自問自答を繰り返しているが、本当はもう答えは出ていた。
トウコのことを見下しているつもりはなかった。
けれど。
トウコと出会ったあの日。
ほとんど黒にしか見えない目を見られるのが嫌で、絶対に人と目を合わせることができなかった自分が、今でもなかなか目を合わせられない自分が、クリフの目を見られるようになったのも随分後だった自分が、トウコの目は見ることができた。
決して見下していたわけではない。
しかし、トウコが色無しだから、自分の目の色を馬鹿にしてこないと、馬鹿にできるはずがないと思ったのは―事実だった。
あの日、金髪の男に腰を抱かれたトウコを見たとき、あの男にトウコは守られていると思った。
確かにそれは間違ってはいないのだろう。
けれどそれは、自分が思った「守りたい」とは違うのだ。
あの男はトウコが色無しだから守っているのではない。
トウコだから守っているのだ。
トウコだから側にいるのだ。
酷い言葉を投げつけられても、石を投げつけられても、トウコはずっと前を向いていた。
閉じこもることなく、自分は何も悪くないと外に出ようとしていた。
それなのに、何故自分はそんなトウコを、色無しのトウコを守りたいと思ってしまったのだろう。
トウコの側から片時も離れようとしなかったあの男は、自分が手に入れることができなかったトウコの隣を手に入れることができたのだと思った。
けれど、それも。
もしトウコが色無しでなかったら、自分はトウコの側に居たいと思ったのだろうか。
トウコが色無しでなかったら、そもそも最初から自分はトウコに近づくことすらできなかったのではないだろうか。
ずっと自分は、トウコのことを色無しとして見てしまっていた。
それが間違いだったのだ。
最初から、間違っていた。
だからあの日、団長の部屋の扉を開けることができなかった。
神殿でトウコが殺されそうになったあの時。
金髪の男が叫んだ言葉。
―緒に死んでやるからもうちょっと頑張れ
あの時の、トウコの嬉しそうな顔。
ずっと間違えていたけれど、それでもトウコのことが好きだった。
本当に良かった。
トウコが幸せになっていて。
トウコと思わぬ再会をし、神殿から帰還して1か月以上が経っていた。
結局あの後、謎の外套の人物が現れ、トウコは助けられた。
殺気だった金髪の男がトウコを抱えて出口に駆け込んできて、そのまま一行は神殿を後にしたが、無事に第16都市に帰還した後も男は変わらず殺気立ったままで、悄然とした様子のトウコの腕を引いて去って行った。
誰も、仲間の大男ですら声を掛けることが出来ないようだった。
それを最後に、ミツルはトウコを見ていなかった。
何度この街を離れようと思ったか分からなかったが、未だ踏ん切りがつかずこの街に留まっていた。
自分はどこで間違えてしまったのだろう。
あの日。
トウコを追うことが出来ていたら、結果は変わっていたのだろうか。
団長の部屋の扉を開けることが出来ていたら、結果は変わっていたのだろうか。
8年前のあの日から、ずっとそう思って後悔し続けて来た。
しかし、もしかしたら自分はもっと前から間違えていたのかもしれない。
神殿で、金髪の男から投げつけられた言葉に反論したかったのに、何故か言葉が出てこなかった。
―お前は色無しであるトウコを見下していた。
違う、見下してなどいなかった。
色無しと同じように扱われてきた自分が、なぜ色無しであるトウコを見下せるというのだ。
―色無しのトウコはどこにも行けないと思っていた。
その通りだった。
あの場所以外、トウコに居場所などないと思っていた。
色無しと同じように扱われてきた自分も、あの場所以外居場所はなかったのだ。
トウコもそれは同じだと思った。
なぜならば色無しだから。
―どこかに行っても生きていけるはずがないと思っていた。
そう思っていた。
自分がそうだから。
そしてトウコは色無しだから。
―それなのに、自分を置いて消えてしまった。
そう、トウコはいなくなってしまった。
あの護衛団以外に居場所がないはずのトウコは、自分同様に他に行き場がない自分を置いて消えてしまった。
―とっくの昔に死んでいると思っていた。
死んだと思った。
色無しだから。
自分はどこで間違えてしまったのだろう。
トウコのことを守りたいと思った。
そう、最初は色無しの弱いトウコを守りたいと思った。
そこからもう間違えてしまっていたのだろうか。
しかし、トウコが弱くないと、力があると知ってからも守りたい気持ちは変わらなかった。
ずっとトウコの側にいたいと思っていた。
では、何を自分は間違えてしまったのだろう。
ミツルは、すっかりぬるくなった酒を喉に流し込んだ。
金髪の男から言葉を投げつけられてから、ずっと同じ自問自答を繰り返しているが、本当はもう答えは出ていた。
トウコのことを見下しているつもりはなかった。
けれど。
トウコと出会ったあの日。
ほとんど黒にしか見えない目を見られるのが嫌で、絶対に人と目を合わせることができなかった自分が、今でもなかなか目を合わせられない自分が、クリフの目を見られるようになったのも随分後だった自分が、トウコの目は見ることができた。
決して見下していたわけではない。
しかし、トウコが色無しだから、自分の目の色を馬鹿にしてこないと、馬鹿にできるはずがないと思ったのは―事実だった。
あの日、金髪の男に腰を抱かれたトウコを見たとき、あの男にトウコは守られていると思った。
確かにそれは間違ってはいないのだろう。
けれどそれは、自分が思った「守りたい」とは違うのだ。
あの男はトウコが色無しだから守っているのではない。
トウコだから守っているのだ。
トウコだから側にいるのだ。
酷い言葉を投げつけられても、石を投げつけられても、トウコはずっと前を向いていた。
閉じこもることなく、自分は何も悪くないと外に出ようとしていた。
それなのに、何故自分はそんなトウコを、色無しのトウコを守りたいと思ってしまったのだろう。
トウコの側から片時も離れようとしなかったあの男は、自分が手に入れることができなかったトウコの隣を手に入れることができたのだと思った。
けれど、それも。
もしトウコが色無しでなかったら、自分はトウコの側に居たいと思ったのだろうか。
トウコが色無しでなかったら、そもそも最初から自分はトウコに近づくことすらできなかったのではないだろうか。
ずっと自分は、トウコのことを色無しとして見てしまっていた。
それが間違いだったのだ。
最初から、間違っていた。
だからあの日、団長の部屋の扉を開けることができなかった。
神殿でトウコが殺されそうになったあの時。
金髪の男が叫んだ言葉。
―緒に死んでやるからもうちょっと頑張れ
あの時の、トウコの嬉しそうな顔。
ずっと間違えていたけれど、それでもトウコのことが好きだった。
本当に良かった。
トウコが幸せになっていて。
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