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76 相談
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その夜、退勤した足で藤井を見舞った。先日の気まずさが冬次の中で尾を引いていたものの、何食わぬ顔で病室に顔を出すと、藤井もいつもの調子で穏やかな顔つきで迎えてくれた。
「おつかれさん」
藤井は見ていたテレビを消して体を起こす。
「うん」
ひとまずホッとし、冬次は藤井を手伝った。
「悪いな」
「いちいち気にすんなよ」
首を振り、ベッドに椅子を寄せて座る。
「今日はちょっとさ克己さんに聞いてほしいことがあんの」
怒らないでよと念を押し、南雲が残したスマホを鞄から出した。
藤井はそれがなんなのかひと目で察したようで、受け取ろうとはしない。しかし眉をひそめながらも気になっているらしく冬次に「で?」と話を促した。
「俺ね、こいつを充電してみたの。そしたらロックがかけられてた。声紋認証。きっと克己さんの声で解除できると思うんだ」
藤井がギュッと眉を寄せる。
「解除してどうする」
「どうって、中を見たいじゃん。南雲さんが置いてったものを知りたくないの?」
「別に知りたくないな。俺には関係ないことだから」
「わざわざ克己さんにひらいてもらえるような仕掛けがされてるのに?」
「なぜ俺の声だと思うんだ」
「そんなの決まってんじゃんかよ。克己さんが南雲さんの運命の番だからだろ」
知らずうちに熱くなってしまい、冬次の顔が歪んでいた。藤井は目を伏せ、南雲のスマホにしぶしぶ手を伸ばす。
「これは預からせてくれ」
「頼むよ克己さん」
「お前の気持ちはわかったから、少し考える時間をくれないか」
優しい藤井は家族同然の冬次の真剣な願いを断れない。この場を濁す口実じゃないのは、冬次だからこそ通じ合ってわかる。冬次はうなずいて、南雲のスマホを藤井に託した。病院にいるあいだに葉羽からメッセージがきており、文面を読んで思わず軽くえずいた。
冬次の一方的な都合が快諾され、会合は翌晩に持ちこされた。
兄貴は協力するとみせかけてこちらの計画を邪魔をするつもりなのだ。ならばその邪魔を阻止するまでだ。
「あー、だる、ほんと行きたくねぇわ」
冬次はスマホにポチポチとメッセージを打つ。相手は七草。しかし指を動かしながら無駄だと気づく。七草に会う用事をこしらえようと企んだが、彼はヒートの真っ最中だった。彼の部屋に行っても冬次には彼を抱くことはできない。
まぁ、兄貴たちに嘘をつけば解決するかもしれないが、バレた時にエグい仕置きをされそうなので、できれば嘘はやめときたい。兄貴がどうやって冬次の動きを見張っているのか突き止めなければ安心して夜も眠れやしないのだ。
「くそぉ、イライラすんなぁ」
冬次の不機嫌は仕事中も続いた。冬次はぼやきながらデスクを指で小刻みに叩く。
「しゃ~ちょ~!」
「金子さん」
ハッと怪しみ、金子をじーっと見やる。
「君がスパイだったのか」
「変なこと言ってないでご予約のお客様です。お願いします」
「そうね。失礼しました」
冗談を流され、大人しく口を閉じる。職務に邁進するうちは嫌な予定を考えなくて済み、風が吹き抜けっていったような瞬く間に夕方になってしまった。普通に行くしかなくなったので、嫌々ながらも残業ナシで退勤し会食場所に向かった。
車からおりて冬次はため息をつく。店を指定したのは兄貴だと一目瞭然だった。御用達の店にして主導権をつもりか。店頭で名前を告げると、奥から美世が姿を見せた。冬次は目が合った彼女に小さく会釈する。
「こんばんは。兄貴に呼ばれてきたんですが」
「うかがっております。ご案内いたします」
冬次は美世の後ろについていき、一般客用のホールを通り過ぎた。
「兄貴は何様なんすかね。別れた後も美世さんをこき使って。そう思いません?」
美世は厨房スタッフ。客をアテンドするのは彼女の役目じゃないはずだ。
「個室席は著名な方々に利用していただく機会が多い。この店で働いてる者の仕事のひとつです。あの人に頼まれてやってるわけじゃないですよ」
「美世さんは兄貴のこと恨んでないの」
美世の返答が聞ける前に個室席についてしまった。彼女は冬次のために扉をあけ、お辞儀する。下を向いた彼女と目はもう合わないし、口もひらかないだろう。冬次が入室するまで同じ姿勢で居続けさせるのは不憫なので、早々にありがとうと礼を言い、個室に足を踏み入れた。
個室席には兄貴と葉羽がすでに到着していた。二人に迎えられるような形で席につく。すごく居心地が悪い。出方をうかがっていると、葉羽が先陣を切った。
「あなた方ご兄弟の話には色々と驚かされました。危うく何を知らないまま甥を失っていたかもしれなところを助けられたことになりますね」
うさん臭い笑みを浮かべた兄貴が反応する。
「こちらこそ座間家の大奥様を通さず申しわけありませんでしたね」
冬次は不快感を隠しきれず口をはさむ。
「どうせ全部計算してたんだろ」
兄貴は表情を変えないまま冬次を見据えた。
「こればっかりは私のミスだ。調査不足だったことを認めるよ」
「ふん、どうだかな」
にわかには信じられない。兄貴と睨みかえす冬次のあいだに葉羽が仲裁に入った。
「本当のことでしょう。仁科様に話を持ちかけた人物はそういうやり方をします。私も似たようなやり口を使うことがあるのでお互様に軽蔑したりしませんが、この件は私にも引けない部分がありますのでお二人にはご尽力をいただきます」
「おつかれさん」
藤井は見ていたテレビを消して体を起こす。
「うん」
ひとまずホッとし、冬次は藤井を手伝った。
「悪いな」
「いちいち気にすんなよ」
首を振り、ベッドに椅子を寄せて座る。
「今日はちょっとさ克己さんに聞いてほしいことがあんの」
怒らないでよと念を押し、南雲が残したスマホを鞄から出した。
藤井はそれがなんなのかひと目で察したようで、受け取ろうとはしない。しかし眉をひそめながらも気になっているらしく冬次に「で?」と話を促した。
「俺ね、こいつを充電してみたの。そしたらロックがかけられてた。声紋認証。きっと克己さんの声で解除できると思うんだ」
藤井がギュッと眉を寄せる。
「解除してどうする」
「どうって、中を見たいじゃん。南雲さんが置いてったものを知りたくないの?」
「別に知りたくないな。俺には関係ないことだから」
「わざわざ克己さんにひらいてもらえるような仕掛けがされてるのに?」
「なぜ俺の声だと思うんだ」
「そんなの決まってんじゃんかよ。克己さんが南雲さんの運命の番だからだろ」
知らずうちに熱くなってしまい、冬次の顔が歪んでいた。藤井は目を伏せ、南雲のスマホにしぶしぶ手を伸ばす。
「これは預からせてくれ」
「頼むよ克己さん」
「お前の気持ちはわかったから、少し考える時間をくれないか」
優しい藤井は家族同然の冬次の真剣な願いを断れない。この場を濁す口実じゃないのは、冬次だからこそ通じ合ってわかる。冬次はうなずいて、南雲のスマホを藤井に託した。病院にいるあいだに葉羽からメッセージがきており、文面を読んで思わず軽くえずいた。
冬次の一方的な都合が快諾され、会合は翌晩に持ちこされた。
兄貴は協力するとみせかけてこちらの計画を邪魔をするつもりなのだ。ならばその邪魔を阻止するまでだ。
「あー、だる、ほんと行きたくねぇわ」
冬次はスマホにポチポチとメッセージを打つ。相手は七草。しかし指を動かしながら無駄だと気づく。七草に会う用事をこしらえようと企んだが、彼はヒートの真っ最中だった。彼の部屋に行っても冬次には彼を抱くことはできない。
まぁ、兄貴たちに嘘をつけば解決するかもしれないが、バレた時にエグい仕置きをされそうなので、できれば嘘はやめときたい。兄貴がどうやって冬次の動きを見張っているのか突き止めなければ安心して夜も眠れやしないのだ。
「くそぉ、イライラすんなぁ」
冬次の不機嫌は仕事中も続いた。冬次はぼやきながらデスクを指で小刻みに叩く。
「しゃ~ちょ~!」
「金子さん」
ハッと怪しみ、金子をじーっと見やる。
「君がスパイだったのか」
「変なこと言ってないでご予約のお客様です。お願いします」
「そうね。失礼しました」
冗談を流され、大人しく口を閉じる。職務に邁進するうちは嫌な予定を考えなくて済み、風が吹き抜けっていったような瞬く間に夕方になってしまった。普通に行くしかなくなったので、嫌々ながらも残業ナシで退勤し会食場所に向かった。
車からおりて冬次はため息をつく。店を指定したのは兄貴だと一目瞭然だった。御用達の店にして主導権をつもりか。店頭で名前を告げると、奥から美世が姿を見せた。冬次は目が合った彼女に小さく会釈する。
「こんばんは。兄貴に呼ばれてきたんですが」
「うかがっております。ご案内いたします」
冬次は美世の後ろについていき、一般客用のホールを通り過ぎた。
「兄貴は何様なんすかね。別れた後も美世さんをこき使って。そう思いません?」
美世は厨房スタッフ。客をアテンドするのは彼女の役目じゃないはずだ。
「個室席は著名な方々に利用していただく機会が多い。この店で働いてる者の仕事のひとつです。あの人に頼まれてやってるわけじゃないですよ」
「美世さんは兄貴のこと恨んでないの」
美世の返答が聞ける前に個室席についてしまった。彼女は冬次のために扉をあけ、お辞儀する。下を向いた彼女と目はもう合わないし、口もひらかないだろう。冬次が入室するまで同じ姿勢で居続けさせるのは不憫なので、早々にありがとうと礼を言い、個室に足を踏み入れた。
個室席には兄貴と葉羽がすでに到着していた。二人に迎えられるような形で席につく。すごく居心地が悪い。出方をうかがっていると、葉羽が先陣を切った。
「あなた方ご兄弟の話には色々と驚かされました。危うく何を知らないまま甥を失っていたかもしれなところを助けられたことになりますね」
うさん臭い笑みを浮かべた兄貴が反応する。
「こちらこそ座間家の大奥様を通さず申しわけありませんでしたね」
冬次は不快感を隠しきれず口をはさむ。
「どうせ全部計算してたんだろ」
兄貴は表情を変えないまま冬次を見据えた。
「こればっかりは私のミスだ。調査不足だったことを認めるよ」
「ふん、どうだかな」
にわかには信じられない。兄貴と睨みかえす冬次のあいだに葉羽が仲裁に入った。
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