未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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109 はじまりの未来②

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 冬次が指定した日に、団地に仲間が集まった。冬次の部屋はたびたび会議の集合場所となる。
 谷峨と彼が連れてきたバース性保守派団体のリーダーと顔を合わせ、決行日の役割を話し合い別れた。
 次にこのメンバーで顔を合わせるたのは当日。
 真夜中、冬次は帰らないつもりで団地を出て、谷峨の案内で南雲の研究施設に向かった。谷峨の指示のもとで捜索班が突入し、冬次は外で合図を待つ。ベルトに挟んだ拳銃の固い感触が腹にこすれ、緊張は最高潮に高まっていた。
 やがてインカムに一瞬ノイズが走り、冬次は谷峨の合図と共に侵入した。
 事前に突入した谷峨らの手によってブレイカーが落とされ、室内は暗闇に包まれている。壁に寄せられた職員の数は予想より少なく、警備といえるような警備はされていなかった。世界的な大発明をした偉人を保護するには軽すぎると思うくらいだ。
 しかし建造物は見た目より部屋が多く、暗闇の中ではより迷路のように感じられ、冬次は進んでいるうちに仲間たちとはぐれた。連絡を取ろうにも、何者かの手によって通信手段が遮断されており、拳銃を前にかまえながら自力で進むしかなかった。
 ターゲットを見つけなければ。
 後戻りはできない。
 冬次はどこを進んでいるのか現在地を確かめたくなり、スマホのライトを壁にあてる。光を横へずらしていくと、扉の英数字が照らされた。
 研究施設の部屋番号のようだ。冬次は音を立てないよう扉の一つをあけた。ライトで照らす。中はがらんどうだったが、使われてないパイプベッドとトイレがついている独房ののようだった。
 別の部屋を見てみたが、似た造りの部屋ばかりが冬次のいる廊下に並んでいる。
 冬次は先へ進む。そしていくつ目かの扉をあけた時、冬次は独房じゃない部屋に出た。そこだけは研究室の電気がついたままで、入った瞬間に目がつぶれたかと思った。しばらく目を慣らした後、冬次は室内を探しはじめる。他の部屋とちがって電気がついているだけでなく、この研究室には人がいる気配がした。
 息を殺し、拳銃をかまえ、冬次はゆっくり奥へ進んだ。
 研究室には続きの部屋があり、壁の向こうでカチッと音が鳴った。よほど怯えていたのかあろうことかドアはひらきっぱなしで電気が消えている。
 冬次は目を細め、続きの部屋に近づいた。ドアを大きくひらくと、こちら側の明かりで中が照らされ、物陰に必死に身を隠そうとしている男を浮き彫りにした。

「あんたが南雲涼?」

 事前にもらっていた情報では、特徴は三十代前半痩せ型、蝋人形のように生気のない顔をしている。しかし年齢と体格以外はまちがいだろう。肌は陶器のように白く、中世的な顔立ちでありながら気の強そうな瞳で冬次を睨んでくる。

「答えろ」

 冬次は冷静にグリップを握りなおし、銃口を南雲に向け固定した。

「そうだけど君たちが脅迫状を送ってきてた人? 僕を殺しにきたの?」
「そのとおりだ。だが大人しく言うことをきくなら殺さない」

 冬次は南雲に近づく。

「どうする?」

 半分影になった南雲の表情は読み取れないが、恐怖を感じていないはずがない。冬次は脅しの目的でさらに南雲に近づいた。

「・・・・・・要求は何」
 これを冬次は肯定と受けとり、口をひらく。

「要求は一つだ。今すぐバース性抹消薬の販売を中止して、バース性を復活させる薬を作って広めろ」
「無理だよ」
「あんたが開発者なんだろ。なんとかしろ」
「くだらない。大多数はバース性のない世界を望んだ受け入れてるんだよね。君たちの考えは淘汰されるべきものだってことだよ」

 冬次の頭で怒りが弾けた。我慢できず頭に血がのぼり、南雲との距離を一気に詰める。正気を失いかけた冬次は一歩一歩が綿の上を歩いているみたいに現実味がなく感じられ、なぜ自分がこれほど怒りを覚えているのかを教えなければ気がすまなくなっていた。

「あんたにも運命の番がいたんだぞ?」

 至近距離で銃をつきつけると、冬次は兄貴のパソコンから出てきたデータの話をする。

「興味ない」

 冬次は顔を逸らそうとする南雲の額に銃を寄せ、強制的にこちらを向かせた。

「そのへんのパソコンで調べてみろよ」
「嫌だ」
「調べろ!」

 南雲はビクッと肩を震わせる。冬次の怒声に肩をすくめた南雲に冬次は銃を使ってパソコンの置いてある台に行けと命じる。銃を離さず南雲を移動させ、好相性の人物を調べさせている姿を後ろから睨んで見下ろしていた。
 解析が終了すると、冬次は結果として映し出された藤井の個人情報にまた苦しくなり声を張り上げた。

「ちゃんと見ろよ!」

 南雲は暴力的な冬次の一挙一投足にびくつくものの、冬次が求めた後悔の涙を見せない。それどころか不機嫌そうに声をひそめる。

「彼、僕が生まれる前に死亡してる」
「だから関係ないと思うのか?」
「僕はもうオメガじゃない、この人もしんでる、関係ないでしょ」

 兄貴といいコイツといいわからずやしかいないのかと、冬次の怒りはすでに焼き切れそうだった。
 あれほど運命の番に焦がれていた藤井の相手がバース性を軽視する心ない人間だったなんて報われない。藤井の人生はなんのためにあったのか、冬次はやるせない悔しさで震えだした。

「君も僕の作った薬のせいで運命の番を失くしたの?」

 覆面から唯一見えた冬次の目元が赤く、南雲は問う。

「俺は・・・・・・」
「自分のことじゃないのにどうしてその人のためにここまでするの?」

 南雲から真っ直ぐ見つめられ、冬次はたじろいだ。南雲の瞳は賢く冷たい人間にあるまじき純粋さを秘めており、恐ろしくなる。近づいてはいけないと本能的にブレーキがかかったのだ。
 その瞬間を見透かされ、南雲がダッと走り去る。

「クソッ」

 慌ててあとを追っていくと、南雲は別の部屋に駆けこんだ。そこから地下に降りていき、そこもまた研究室なのか、幾重にも枝分かれする太い配管と機械で埋めつくされた部屋に入っていく。
 南雲は部屋にあるカプセル型の装置の前で追ってきた冬次をふり返る。
 冬次は息を荒げながら銃をかまえた。

「諦めろ。逃げられると思ったのかよ」

 だが南雲は澄んだ瞳で銃口を見据え、カプセルに乗りこもうと動く。

「おいっ!」

 冬次は引き金をしぼる——。
 銃弾は南雲を外れ、金属板をかすめ火花を散らした。南雲はカプセルに乗りこみ、出入り口を閉じる。作動レバーを引くと、配管を電流がすさまじい炸裂音をさせながら伝ってくる。
 まさに一瞬の出来事で、電流は雷となりカプセルに落下し、装置から目のくらむような光が放たれる寸前、南雲は立ちすくむ冬次に「新しい疑問ができた」と唇の動きで伝えていた。

「クソッ、なんて言ってるかわからねぇ。テメェに殺されてたまるか・・・・・・?」

 視界が真っ白に染まり、南雲を容れたカプセルは黒い焦げ跡を残して忽然と姿を消した。
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