未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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122 聖なる夜に

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 団地から最寄りのバス停でバスを待つあいだ、南雲は寒そうに手をこすり合わせ、息を吹きかけて指先を温めている。マフラーも手袋も耳当てもなくコートの下も薄着だ。真冬に出歩くには軽装な恰好をしているため冬次は風邪を引くんじゃないかとやきもきした。無理して外に出る必要なんてなかったんじゃないかと冷や冷やしながら隣に立っていたが、当の南雲は帰ろうとは言わず、白肌をほんのり赤くしてバスを待っている。

「南雲さん」

 冬次は自分の手袋を南雲に貸すことにした。防寒具がそれしかなかったのでコートまで羽織らせようとしたが、南雲はいらないと呆れた顔をする。しかし冬次は南雲が風邪を引いて倒れては困ると言い張った。南雲は馬鹿じゃないのと受け取らない。

「君が風邪を引くよ」
「俺は丈夫だから」

 言い合っているうちにバスが来た。車内は暖房が効いており温かく、南雲にコートを二枚着せる必要はなくなったので諦める。
 バスは駅へ向かい、南雲は電車に乗り換えた。電車はより都心へ向かう路線で、南雲は車内の電光掲示板を見据え、目的の駅が近づくとアナウンスが流れる前に扉へ移動した。南雲は時計を確認すると、急ぎ足で降車し、ホームを歩いていく。商業ビルがいくつもある大きな駅のためクリスマスに訪れた人でごった返す駅校内を、冬次は南雲から離されないようについていく。専門店エリアに入ると、わずかに人混みが緩和した。冬次はブランド店に目をやり、歩速をはやめ南雲に追いついた。

「せっかく来たし寄っていかない? ついでに南雲さんの手袋とマフラーを買おう」

 クリスマス商戦本番でどの店舗も贈り物におすすめの商品を前面に陳列している。冬次は歩みを止めない南雲についていきながらマネキンが身につけた商品を見定めるようにキョロキョロした。

「あれもいい。あそこの店も良さそうだよ」

 南雲は興味がないのか冬次の誘いには耳を貸さない。専門店エリアを通過しただけで終わってしまい、冬次はがっかりした。
 商業ビルから南雲は街路に出たかったようだ。二階フロアから外へ出たので、今いるのは歩行者用の立体交差橋の上だ。ここからだとイルミネーションの中を歩く人々がよく見下ろせた。

「南雲さん寒いでしょ。温かいコーヒーとか買ってこようか?」
「ああ、うん」

 南雲は気のない返事をする。南雲の目線は橋の下に向いていた。

「もうすぐだよ冬次くん」

 聖なる夜にちなんだロマンチックな催しでもあるのだろうか。南雲らしからぬサプライズを期待したのは一瞬。クリスマスをぶちこわす集団が街道を行進してくる。賑わっていた街がシーンと静まりかえり、身の危険を感じた人々は左右に割れて集団に道をあけた。
 BGMのクリスマスソングが鳴り響くなか、集団はクリスマスを楽しむ声にかわってプラカードを掲げ、プラカードに書かれた言葉を提唱しながら進む。

「バース性抹消薬は危険な薬だ」
「私たちから番を奪うな」
「神がつくった人類の体を冒涜するな!」

 聞こえてくるのはバース性抹消薬に反対する声。南雲はこの反対デモを冬次に見せるためにいきなりデートすると言いだしたのか。呆気にとられていると、通報を受けた警察が駆けつけた。マスコミも集まりだす。

「じゃ帰ろっか」

 南雲は寒さに首をすくめて踵をかえした。

「デートは?」
「寒いから終わり」
「だから言ったのに。買い物するよ」

 冬次は南雲を専門店エリアに引きずっていこうとしたが、駅の周辺に規制線がつくられると帰宅を促された人々の波で埋め尽くされ買い物どころではなくなってしまった。冬次は断念し、流れに逆らわずに電車に乗り、最寄りの駅に戻ってこれたのはバスの最終便が過ぎた時間だった。団地まで歩くには遠いので冬次はタクシー乗り場に向かう。デートらしいことはできなかったが、人混みのなかで冬次と南雲ははぐれないように手を繋いでいた。がらんとした最寄り駅ではもう手を繋ぐ意味はないが、南雲は手を離せとは言わなかった。タクシーはすぐにやってきて冬次は南雲を連れて乗りこむ。タクシーの中でも二人は手を繋いでいた。温度差で結露した窓が外の景色をぼやけさせる。耳に残る反対デモの声がエコーのように曇って遠ざかった。

「お客さん。つきましたよ」
「あっ、はい」

 南雲は手を離して先におりた。冬次が支払いをしておりると外の気温で手先があっという間に冷たくなる。寂しい感じがしたが不謹慎な下心が手のひらの熱と共に消えた。真剣な話をするには丁度よく頭が冷えた。
 部屋に入るまでは無言で、ドアを閉めた直後に口をひらく。

「南雲さんはデモが起きるって知ってたんだね。谷峨先輩?」

 谷峨が南雲に接触してくるだろうと考えなかったわけじゃない。玄関のサボテンの横に小さなクリスマスツリーの置物が増えていたことに気づかなかったわけじゃない。言及しなかったのは南雲が何も言わないからだ。近頃の順調さにほだされていたのがまちがいだった。

「谷峨だったらどうする?」
「止めなきゃ。南雲さん手を貸してよ」
「僕は干渉したくない」
「でもデモのことを俺に教えてくれたじゃないか。なんとかしたくて俺に見せたんじゃないの?」

 南雲はふいと背を向ける。

「早く冷えた体を温めたい」
「南雲さん!」
「お風呂。早くして」

 この話題を続ける気がない南雲にいくら問いかけても無駄だった。大好きな南雲を怒鳴ったりきつく問いつめたりしたくないし、冬次にはできない。惚れた弱みで冬次は南雲に甘い態度しかとれないのだ。何よりクリスマスの夜は続いている。喧嘩には絶対になりたくなかった。
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