未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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121 クリスマス・イブ

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 バース性抹消薬のニュースが世間を騒がせたのは深まった秋の風に肌寒さを覚えた頃だったが、世の中はクリスマスという一大イベントを迎えようとしている。約一ヶ月弱のあいだに人々の関心は目新しい発表のないナナクサ製薬よりも目先のイベントに移り、SNSサイトやテレビ番組なんかも街中を飾るイルミネーションとクリスマスツリーを熱心に発信していた。
 冬次は渦中からより一層遠ざけられた一般人になりさがっていたが、人々の関心の落ち着きはバース性抹消薬の存在が世の中に許容され溶けこんでいった証であると肌で感じられ、世の中への警戒心は日に日に薄れていった。計画はいい方向に推移していると安堵し、本来の自分の仕事に集中できている。
 クリスマスイブは、社員の要望もあり、いつもより早めに店を閉めた。社員たちを先に帰し、戸締まりをして店を出る。早く閉めたとはいえ冬場は暗くなるのがさらに早い。日が落ちた街中をイルミネーションが照らし、アップテンポなクリスマスソングが人々の心を盛り上げる。冬次は運転席でハンドルを握りながら漏れ聞こえてくる曲に鼻歌をのせた。これまでは南雲が消えた季節でもあり藤井の両親が事故にあったクリスマスはどうしても気が塞いでしまうイベントだった。しかし今年は南雲と過ごす人生で一番最高のクリスマスになるはずだ。
 冬次は団地に車を停めると、助手席のプレゼントとささやかなケーキの箱を手に抱える。欲を言えばデートしてレストランで食事がしたいと望んでいたが外に出たがらない南雲を誘えなかった。でもいい。一緒にいられるならどこでも嬉しい。
 南雲はクリスマスだからって浮かれていなかった。だがケーキの箱にはウズウズと興味を示す。甘いもの好きは若い時から変わっていない。
 冬次たちはケーキと自分で持ってきたシャンパンで簡単なお祝いをした。窓の外ではチラチラと雪が降りはじめ、最高の演出が冬次のためでなくても世界の中心になったような気分にさせてくれる。
 キメるぞ。カッコよく!
 食べ終わったケーキに物足りなそうな顔の南雲の顎に指をかけると、唇にキスを落とし抱きしめた。

「メリークリスマス南雲さん。プレゼントあけてみて」

 用意したプレゼントは大きいのと小さいのが一つずつ。大きい方の包みは温かい部屋着。外にでないなら室内で快適に過ごせるように。小さい方の包みはネックレスだ。邪魔にならないよう小振りなデザインを選んだ。

「ネックレスは俺のわがまま。お揃いにしたくて」

 冬次はシャツの襟からペアで購入したネックレスを引きだした。

「つけたくなかったらつけなくていいから持っててよ」
「つけて」

 南雲が襟足を掻きあげて白いうなじを見せる。

「うん」

 ドキドキしながら南雲の首にネックレスをつけた。さりげなくダイヤが嵌め込まれたバースティックが左右の鎖骨のくぼみに上品におさまる。襟足をおろした南雲はふり返って冬次を見つめた。

「僕は何も用意してなくてごめん」
「気にしてないよ。つけてくれてありがとう」

 南雲からのプレゼントは贅沢な望みなので期待していない。期待してないのでショックも受けていない。
 南雲は少し考えるように小首を傾げ、冬次の膝にまたいで座った。

「こういうのは嬉しいのかな。僕を好きにしてくれ」
「え⋯⋯死ぬほど嬉しいよ。いいの?」

 願ってもないプレゼントをもらえた。冬次はブンブン尻尾を振って喜び、南雲の細腰を性急な手つきで抱きよせ、なだれのようにキスを浴びせる。髪、額、瞼、鼻、頬、顎、チュッと音を立てながら口に行きつくと、噛みつくように唇をかぶせた。髪を耳にかけ、耳朶を指で挟んでこする。南雲がぴくんと肩をすくませたのを見て、冬次は耳をいじりつつ、口内に舌を入れた。ケーキの残り味で唾液が甘い。あますところなく吸って味わう。

「・・・・・・ふ、ぁ、はぁ」
「ベッドいく?」
「うぅん」

 訊いたそばから冬次は口を塞いだ。クリスマスプレゼントにはまだ足りない。

「んっ、んん!」

 苦しくなったのか南雲が胸を叩いた。息継ぎが下手くそなとこも可愛いくて冬次は口角をつりあげたが、南雲は冬次の背中をつねり本気で抵抗した。

「好きにしていいって言ったのに」
「もう充分させた」

 冬次の拗ねた口ぶりに無表情で答え、いまだ腰をがっちり抑えている腕をつねる。

「わかったって」

 冬次が腕を緩めると、南雲はスクッと立ち上がりなぜか窓の外へ視線をやった。

「冬次くん。出かけようか」

 冬次の目が驚きで丸くなる。今夜は思いがけない発言が多い。

「もしかして雪が見たいの?」

 まだ鑑賞して楽しめるほど積もってないと思うが。

「デートしてあげる」
「⋯⋯デート!?」
「したくないの?」
「いやぁ、お酒飲んじゃったから」

 車の運転ができないことが悔やまれる。出かけるなら、南雲を安全で温かい助手席に乗せてドライブしたかった。

「バスに乗ればいいよ」

 冬次はさらに目を丸くした。バスに乗ってどこにいくつもりなのか。目的地を決めてあるように話した南雲は部屋着にコートを羽織り、手際よく外出する準備を整える。冬次はコートをひっかけ玄関で待っている南雲のもとに走った。
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