未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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135 意地と覚悟

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 座間が目を覚ますのを見守りつつ、南雲の到着を待った。しかし座間の覚醒の方が早かった。涼くんに至ってはずいぶん前に見切りをつけると、「やっぱ来ないじゃん」と吐き捨てて顕微鏡を覗く作業に戻ってしまっていた。

「冬次⋯⋯!」

 兄貴のこめかみが痙攣している。まずい。

「おっかしいなぁ、道に迷っちゃったのかなぁ」

 組んだ腕を指でトントンと小刻みに叩く兄貴の横をすり抜けて、冬次は電話すると言い残して廊下に逃げた。連絡手段を携帯しない南雲に電話ができるはずない。階段下でしゃがみこみ、前髪に指をとおす。

「頼むよ。お願いします」

 頭上で指を組み合わせた。祈りのポーズは神のごとき南雲に捧げて。
 神、南雲はうんともすんとも冬次に応えない。諦めて、腹をくくった冬次はヨロヨロ地下室に戻った。言いわけを考えて歩いていたせいでドア枠に体をぶつけ、めちゃくちゃカッコ悪い。喉元まで出かかっていた現状を乗り切れそうな言いわけもすっ飛んでしまった。
 だが、そんな冬次と入れ替わるように兄貴が地下室を出ていく。やたら慌てたそぶりで階段をあがっていった。
 まさか。やっと祈りが通じて窓のない地下に光明が差したのか?

「あれー、兄貴はどうしたのかなぁ。すごい早さで出てったね」

 とぼけた声は誰にも受けとめられず行き場を失って消える。
 目を覚ましていた座間が再び床で撃沈しているからだ。
 涼くんは普通に無視しているからだ。
 冬次はしつこく同じ文言をくり返す。今より大きな声で。

「うっるさいよ! 仁科さんは電話! おっさんが電話してる間にかかってきたの!」
「あっそうなんだ・・・・・・」

 冬次だけに見えた光明は夢まぼろしだったらしい。

「座間は?」
「その人もうるさいからもっかい眠ってもらった」

 平然と話す涼くんにゾッとした。

「合法?」
「当たり前じゃん!」

 一悶着やっているところに兄貴が帰ってきた。まだ通話中らしく、スマホを耳にあてたまま戻ってくる。
 兄貴は冬次を見つけると無言でスマホを渡し、替われとジェスチャーで示した。

「誰?」

 疑問が解決しないまま、言われたとおりに電話を替わる。

「あのー。もしもし」
「奈良林様。葉羽です」

 冬次は瞠目し、兄貴に目配せする。兄貴はスピーカーフォンにしろと身振り手ぶりで訴えるので、通話を地下室全体に聞こえるように切り替えた。

「葉羽さん? どこからかけてるんですか?」
「今出先なんです。あなたに謝っておきたくて。この前の電話をいただいた際は大変失礼な態度をとってしまいました」

 七草の行方不明を相談した日のことだ。

「気にしてないっすよ。留守電聞いてくれたんですね」
「はい。実はそのことで調査をしている最中なのです」
「葉羽さんご自身で動いてるんですか? 危険です!」
「大丈夫。谷峨と行方不明者たちの居場所を突き止めましたよ」

 すごい。お手柄だ。冬次は心の声をそのまんま口にした。
 葉羽が照れくさそうに笑い声を立てる。

「ふふ、仁科様はお説教ばかりでしたがお電話替わってもらって正解でした」

 苦笑しながらちらりと兄貴を見やる。ショックを受けた兄貴の顔。ドンマイ。

「場所を教えて葉羽さん」
「はい。ここは・・・・・・ん! なんですかっ、離しなさっ・・・・・・」

 ガチャ。ツーツー・・・・・・。

 冬次はスマホを兄貴に返却する。兄貴はスマホではなく冬次の手首を掴むと捻りあげ、ぎりぎり力を込めた。

「て、ててっ、折れるって」

 兄貴は怖い顔だ。

「お前が無責任に葉羽さんを煽ったせいだぞ」
「それに関しては反省してるよ・・・・・・」

 手首がマジで痛い。

「兄弟喧嘩してるより助けに行った方がいいんじゃないの?」

 涼くんの声がため息と共に地下室の片隅から聞こえてきた。

「そうだな。座間くんを起こしてくれ」

 兄貴は冬次を離し、肩をまわす運動をくり返す。

「了解」

 涼くんが薬品を持って座間の傍に膝をついた。小瓶の中身を眠り王子の鼻に近づけると、まな板の上で抵抗する魚を思わせる跳ね方をした後、体を勢いよく起こした。鼻を押さえて、オェーッと嘔吐する。

「くっさ!」

 涙目の座間の傍に涼くんと入れ替わりで兄貴がひざまずく。

「座間くん」

 兄貴の迫力に座間がヒュッと喉を鳴らした。

「はい・・・・・・」
「緊急事態が発生した。君の協力が必要だ。谷峨の行き先を教えなさい」

 座間は唇を噛む。兄貴は凄みある声で続けた。

「たった今、谷峨は我々の仲間を拉致した。仲間の安否を確認しに行かせてくれないか」
「でも。約束で」

 座間は握り拳を額にあてる。手は震えている。

「知っているのは君しかいないんだ」
「・・・・・・」
「わかった。では荒っぽい手段を取らせてもらうがよろしいかな?」
「あ・・・・・・」

 震える座間の前で兄貴が肩をそびやかした。

「すまないが涼くん。自白剤はないのかい?」
「ない」と即答がある。
「残念だ。冬次の友人なので穏便に済ませたかったが仕方ない」

 兄貴は立ち上がると地下室のドアへ向かう。荒っぽい手段とやらのために人を連れてくるつもりなのだ。
 今度は冬次が座間の傍に膝をついて説得を試みる。

「なぁ、教えてくれよ。お前が最後まで約束を守ろうとしたこと、俺からも谷峨先輩に伝えてやるから!」
「うるせぇ。最後に教えたら守れなかったと一緒だろ。俺はお前たちに協力できない!」

 座間の決意はかたく、これから起こることの恐怖と痛みを突きつけられても揺らがない。全てを受け入れて兄貴の背中を見つめていた。
「はぁ」

 兄貴のため息は重く苦しそうだ。

「冬次、彼を見張ってろ」

 冬次はそう言いドアノブに指をかける兄貴を息を殺して睨み、うなずくしかない。

「うん」

 兄貴が人を呼びに出ていくと、座間が冬次の表情を見て苦笑した。

「なんつー顔してんだよ。奈良林が強引に招いた結果じゃんか」
「そうだよ・・・・・・でもお前はただの交渉材料にするだけのつもりだったの」

 予定がくるって本当にごめんと、冬次は拳で自身の膝を殴った。
 どうしよう。兄貴がすぐに戻ってきてしまう。
 そんな時、涼くんがポロッとつぶやいた。
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