未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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136 来てくれた!

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「んん? 誰かいる?」

 囁くような声に、冬次は眉をひそめ、うつむいた顔をもちあげた。
 涼くんはタブレットサイズのモニターを見ている。ここからじゃ何が映っているのかわからない。冬次は立ち上がってよく見えるように近づいた。

「涼くん。それ何?」
「建物外の監視カメラ映像。門のとこに誰かがずーっと立ってんの」
「えっ、見せて」

 冬次は画面にかじりつくように目をこらす。

「・・・・・・南雲さんが来たわ。来てくれたよ」

 机に肘をついていた涼くんがまじまじと画面に顔を近づけた。

「げー。僕なのになんで来たのさ」
「迎えにいってくる」

 冬次は門まで走って出ていくと、南雲を抱きしめた。

「俺の頼みをきいてくれてありがとう」
「冬次くんに恨まれたくないから」

 冬次の腕の中でもみくちゃにされ不機嫌そうにつぶやく南雲。

「僕は来たけど、こっちの僕は許したの?」
「ああ」

 冬次は南雲を見つめる。

「その件は大丈夫そう。だけど緊急事態が起きて、すぐには薬作りに取りかかれないかもしれない」
「そうか。なら帰る」
「待ってまって・・・・・・!」
「嘘だよ。案内して」

 南雲を引き連れて地下へおりると、ドア一枚隔てたところで座間の悲鳴を聞いた。駆けつけると座間が兄貴の部下に縛られていた。

「タンマ!」

 冬次の叫びに兄貴が部下を後ろに下がらせる。

「彼が助っ人かな? おや、なんだか私の目には⋯⋯」

 兄貴の訝しむ目が南雲と涼くんを交互に捉えた。同一人物なので似ていて当然。冬次はごまかすための口実を話す。

「母方の血縁者だそうだよ。葉羽さんにも似てるでしょ」
「言われてみればそうだな」

 年齢のおかげで南雲は葉羽との方が雰囲気が近い。そしてさらに嬉しい誤算があり、酷似する顔のおかげで兄貴の警戒心がゆらぎ信頼を得たらしい。スムーズに信じた兄貴は尋問の手を休め、南雲に問いかける。

「冬次の言っていたことを確かめたい。あなたが我々の研究に協力してくれるということでまちがいありませんか」

 これに南雲が小さな動作でうなずいた。

「しかし失礼を承知で申し上げるが、あなたが薬を完成させられるとは信じがたいのですよ」
「まぁ、信じるか信じないかはそちらの自由だね。僕は役に立てると思うけど」

 兄貴はしばらく黙考し、手を南雲に差しだした。

「よろしくお願いします。名前はなんとお呼びしましょうか」
「名前は教えたくないな、じゃAさんで」
「エイさん? はは、わかりました」

 二人は握手を交わし、兄貴がその足で涼くんを紹介しようとする。だが南雲はくるっと冬次をふり返った。

「緊急事態って座間啓が拷問されそうなこと?」
「え、ああ、それもなんだけど、谷峨先輩がこちら側の仲間を拉致したんだ。ちょうど俺らに重要な情報を伝えてくれている最中にいきなり襲われた」

 しかし兄貴が話を遮った。

「そちらは我々で対処します。エイさんは薬の開発に尽力してください」
「うるさいな」

 南雲が兄貴を牽制する。

「興味があるんだ。僕は冬次くんと話してる」

 続けてと言われ、冬次は再び口をひらいた。

「潜伏先を知ってるのは座間だけ。救助に向かうには口を割らせるしか方法がない」
「なるほど。それでこれから拷問するのか」

 何を考えているのかわからない薄ら笑いを浮かべ、南雲は頭をふった。

「やめなよ。時間の無駄だから」

 冬次はサッと兄貴の顔色をうかがった。南雲の口の悪さを良く思うはずがない。

「エイさん、時間がありませんのでこちらへどうぞ」

 兄貴は笑っているが目が笑ってない。南雲がなおも冬次に話し続けるので、冬次は股間がヒュッとなるのを我慢して耳をかたむけた。

「場所に心当たりがあるから。座間家はここみたいな施設を複数所有していて、その中で大勢の人間を収容できる規模があり、秘密裏に監禁できる廃墟といえば一つにしぼれるんだよね。ほら、当たりみたいだよ」

 南雲が座間を指でさす。

「マジか」

 冬次はつぶやいた。座間が本気で逃げようと暴れだしたからだ。だが自由の効かない体では何もできず芋虫みたいにもんどり返り、兄貴の指示で押さえつけられた。

「信じるか信じないかはお好きに」

 そう言う南雲に兄貴は薄く汗をかき額をさする。奇跡の救出劇となるか、空振りとなるか、どちらに舵を切るべきか難しい判断を迫られていた。
 冬次は南雲の手を引き、声を落とす。

「どうして教えてくれたの?」

 この時代の出来事に南雲が関わる義理はなく、これまでは遠巻きに観察していただけだったのに。

「⋯⋯冬次くんのせいだ」

 南雲が冬次の胸ぐらを引きよせ、唇が触れあった。
 冬次はギョッとして顔が熱くなる。

「な、こんなとこで」

 しかし南雲は飄々としていた。

「冬次くんのせいだよ」

 ツンとそっぽを向いた鼻先。冬次は南雲の横顔を見ているうちに彼の内心がわかった気がした。
 ーーふふ、そっか、俺のためか。
 そしてこの瞬間に南雲の言葉を無条件に信じられた。

「兄貴!」

 冬次は大股で兄貴に歩み寄って呼びかける。

「俺が行って確かめてくる」
「私も行こう」
「いや、座間を連れてく。兄貴にはその間やってほしいことがあるんだ」
「しかし大丈夫なのか」

 許可を渋るのはごもっともだが谷峨には座間をぶつけなければ活路を見出せないし、兄貴にはもっと重要な役割があった。兄貴にしかできない大仕事だ。
 その仕事の内容を話すと、兄貴は目を見ひらいた。
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