未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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137 救出にいく

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 谷峨の潜伏先に向かうことに決まったのは冬次と座間、それから兄貴のかわりに座間の監視および護衛としてついてきてくれる兄貴の部下。自己紹介ではコンドウと名乗った。
 コンドウは黙って後ろをついてくるだけだが気配を消すのがうまい。冬次はコンドウの存在を忘れて座間と二人の気分になるが、座間は縛られた恨みかチラチラと後ろを気にして歩いていた。

「このあたりでしょうか」

 コンドウがぽつりと喋った。素人丸出しで大雑把に進む前方二名のために、南雲から教えられた地点を地図で確認してくれている。
 例の閉鎖した施設というのは意外にも多くの工場が隣接する地域にあった。もっとこう森や山奥の人里から離れた場所にあるようなイメージがあったのだが、機械の製造工場のような外観で研究所だとは言われてもわからない。常時近くの製鉄所から騒音が響き特殊な工業臭が漂ってくるため、研究所の声や薬品臭をカモフラージュしてくれたのだろう。そして今現在も捕らわれた人達を隠すのに最適な役割を果たしている。

「忍びこんで中の様子を見てきますか?」

 コンドウはジャケットの前ボタンをゆるめ、ショルダーホルスターに吊られた拳銃をわざと冬次たちに覗かせた。

「おお、頼もしい。コンドウさんは前歩いてくださいね」

 初めて生で目にする圧倒的武器。冬次の合図で三人は施設に足を踏み入れる。
 入り口付近に人の気配はない。後ろの座間が怯えた声をあげる。

「やめた方がいい」

 コンドウと冬次は足を止めない。

「座間が怯える必要ないんじゃないのか。逃げんなよ」

 逃げれば銃口は座間に向く。冬次は指を銃の形にして突きつけた。
 座間はごくりと唾を呑みこむ。

「止まって」

 コンドウが人の気配を察知したようだ。薄闇が続くかに思われた建物内に明かりが見える。声は聞こえてこないが、うっかり腹が鳴りそうな食べ物の匂いが漂ってきた。調理場が近くにあるのか?

「拘束して話を聞き出しますか」

 指示をあおぐコンドウに、冬次は首を横に振る。

「顔を確認してからです」
「了解」

 だがその直後、コンドウの視線が冬次の頭上のあたりへ不自然に動いた。眉をひそめた瞬間、冬次の目にコンドウに迫る人影が映る。
 そして危ないと伝える隙もなく、頭に激しい痛みが襲った。後頭部を殴打されたらしい。脳みそが揺れて立っていられなくなった冬次は膝をついたが、意識はぎりぎり保っていた。
 視野が狭まり床上数センチの視界の中で奇襲に対応するコンドウの靴が踊っているようだった。
 頭に袋を被され、「立て」と命じられる。座間はどうなったんだろうか。立ち上がると「歩け」と命じられ、遮断されていない聴覚が過敏に周囲の音を聞き取ろうと働いた。靴音は複数。人数を絞りこむのは難しい。前を歩かされているのはコンドウか。
 突然、周囲が賑やかになる。聞こえてきたのはテレビの音⋯⋯。
 袋が取り去られ、LED照明のあかりが目に飛び込んできた。明るさに慣れてくると、自分を観察する多くの瞳と目が合った。驚くべきことに知っている人間ばかりで、冬次が探していた七草も久遠も葉羽もいる。全員拘束されているわけでもなく、悲しみに暮れている様子も見受けられなかった。まるで大家族の夕食時にお邪魔したかのようなくつろいだ雰囲気だ。
 コンドウと冬次は顔を見合わせる。
 座間はすでにあちら側にいた。

「あー頭いってぇ、俺を殴ったの座間だな?」
「もろもろの仕返しだ。ばーか」

 何がもろもろだ。物理的な危害を加えたのはコンドウだろうに、コンドウが怖いからって冬次だけを狙うとは。

「てゆーか、あなた達こんなとこで何してんですか! どんだけ家族が心配してると思ってます?」

 答えたのは葉羽だった。

「この方々は自らの意思で谷峨帯人に従っています。ここには見張りはいません。出ていこうと思えば簡単に出ていけますが誰もそうしようとしません」

 続けて久遠が口をひらく。

「俺らの体が実験体にされていたこと谷峨さんから聞いた。生まれつきのバース性をめちゃめちゃにされてハラワタ煮えくりかえってんのさ」

 久遠の次は七草が発言する。

「座間家の偉い人達は僕らの存在が不都合だから始末してくれと頼んだんだよね。谷峨さんは僕らに全てを打ち明けて命を救ってくれたんだよ。僕らは谷峨さんの望みを叶えるために協力しようって話し合って決めたの」

 全員が同意しているようで冬次は愕然とした。

「望みは死ぬことなんだぞ?」
「知ってるよ」

 七草は平然とそう答えた。

「・・・・・・谷峨先輩はどこに?」
「この研究所には寝泊まりに使える部屋がたくさんあって、そこのどれかに入ったきり姿を見せてない」
「食事は?」

 彼らは結託して口をとざし、冬次らの前に立ちふさがる。

「通報しに行くつもりならあなた達も帰せません」
「退いて。谷峨先輩を探しに行きたいから」

 こういうアルファ性の使い方はしたくなかったが、冬次は彼らを威圧的に射すくめた。オメガと似非アルファしかいない中で冬次が睨みを効かせば、威嚇された彼らは竦みあがり動けなくなる。
 コンドウに残ってもらうよう頼み、彼らのわきをすり抜けて施設の内部に進む。

「奈良林さん」

 コンドウが追いかけてきた。

「これを」

 こっそり渡されたのは拳銃。

「俺には使えないです」
「簡単ですよ」

 コンドウは拳銃を構え、撃鉄を起こしてみせ、もとに戻してから銃先を持って冬次に渡す。

「仁科さんにあなたの身の安全を託されてますので」
「了解です」

 冬次はおっかなびっくり本物の拳銃に触れた。
 拳銃を構えながら内部へ進んでいく。通路に並んだ部屋数は思っていたより多く、一つひとつドアをあけて中を確かめた。大中の部屋は研究室として使われていたか廃棄された機器置き場だ。小さな部屋はパイプベッドが置かれているだけのがらんどうで、どこにも谷峨はいなかった。
 電気がついている範囲はそこまでだ。この奥の通路は真っ暗だった。
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