未来から来た天才オメガ研究者に恋したアルファ高校生の話

豆ぱんダ

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11 はやくも夏になりまして

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「あっつうー」

 ねっとりと絡みつくような気温だ。蝉の声が本格的な夏の到来を告げる。外に出れば秒で汗だくになり、うなじに照りつける日差しがじりじりと痛い。

「冬次くん、大事な頼みがある。ここのスーパーに行きたいんだけど」
「えー? 隣駅のとこじゃん。近くじゃ駄目なのかよ」
「魚が安いスーパーらしい」
「できる主婦か」
「馬鹿にするな。特に魚はどこで買うかで値段に雲泥の差が出るんだぞ。刺身が食いたくないのか」
「食べたいけど」
「なら決まりだな。しかし僕は行き方がわからない」
「あー。んじゃ俺が学校終わってからね」

 七月の半ば。南雲が居候の仲間入りをしてから一ヶ月余りが経過した。
 冬次と南雲はこのように打ち解け、相変わらずおじさんとも仲良くやっているが、藤井はわかりやすく南雲の存在を遠ざけている。朝ご飯だけはきっちり人数分準備されているのは彼なりの道義なのか。
 藤井があけるようになった夕食当番の穴を南雲が埋めており、家事を手伝うようになってから、余計な研究者魂が働いてテレビから仕入れた便利な裏技や豆知識を試したくてウズウズしているみたいである。
 それはいいけど本題はどうしたと突っ込みたいところだが、南雲がいる生活を悪くないと思ってしまう冬次だった。

「三時くらいには帰ってこれる」
「了解。いってらっしゃい」
「ん」

 満たされていると思う瞬間。・・・・・・思っちゃいけないんだけど。冬次はチャリのカゴに通学鞄を突っ込んで軟弱なおのれの心を踏み砕くように一心にペダルを漕いだ。
 高校につくと昇降口の掲示板に人だかりができている。ちょいと背伸びして生徒たちの頭の上から覗くと、テスト前のお知らせが張り出されていた。テスト期間の二週間前につき職員室への立ち入り制限と部活動時間の短縮、不要な居残り禁止の旨。
 冬次の通う高校には夏休み前に生徒の学力指数をはかる大きなテストがあった。これの結果を元にレベル別のクラス分けがなされるわけで。
 バース性に関係なく点数の順位が出されるが、オメガだけはクラス分けの対象にはならない。アルファとベータの割合は上位クラスにいくたびアルファに占められ、下位クラスにいくたびベータが増える、そのまんま社会の縮図のようだと思う。
 ごくまれに突然変異種のごとくオメガクラスの生徒がトップ十位内に食いこむことがあるが、だからなんだというふうに校内ヒエラルキーには反映されず淘汰される。もし南雲が生徒だったらトップクラスの点数を修めて十位内に名前を連ねるのだろうか。そうなったらどうしていたのだろう。あの人のことだから、優秀すぎるオメガを淘汰しようとする波に平気で逆らっていきそうだ。ありもしない想像をすると冬次は胸がすく思いがする。だってわくわくして面白いのだ。
 しかしなるほど、藤井があまり家にいないのはテスト期間の備えで忙しいからという理由もあるらしい。

「奈良林」

 心の中で噂をすれば藤井に呼ばれた。

「ちょっと話がある」
「ういーす」

 職員室には入れないので、保護者面談などで使用される生徒指導室に連れていかれる。ピシャンと気持ちよく戸が閉まると、藤井は嬉しくない報告をした。

「近々、お兄さんが会いにくるそうだ」

 へ? なんだって?

「俺テストちゃんとがんばるよ・・・・・・?」

 縋るような言葉に、くるりとこちらを向いた藤井は哀れみの顔でかぶりを振った。

「成績とは関係なく会いたいそうだ。お前が兄貴からの連絡を全て無視するからだぞ」
「やだ。俺は会いたくない。つーかこの話題なら家で話せばよくない?」
「それを言うなら冬次は俺にでかい借りがあるよな。あのニートを居候させるのを我慢してやってるんだ」
「うっ。返す言葉もございません」

 藤井は的確に冬次の感じている負い目をついてきた。いやいや言い方ってもんがあるでしょうと言い返したいが、どでかい借りは本物なので閉口するしかない。家族と冬次のあいだで板挟みになってくれる藤井だが、助けてやらないぞと顔が言っている。拒否権はないのだとわからされるためにこうして呼ばれたようだ。

「話は以上だ。テスト勉強しっかりやれよ」
「へいへい」
「・・・・・・ったくお前は」
「はいはい」

 冬次は生徒指導室を先に出ようとしていた藤井の横を投げやりな口調で追いこす。後ろから名前を呼ばれた気がしたけれど、背中を向けたまま立ち止まってやらない。
 教室に向かいながら八つ当たりを後悔したが。
 日本史の授業はひたすら気まずくて、目を合わせなくて済むように前後左右の席のクラスメイトたちに擬態していた。結果的に普段より真面目に授業を受けることになり良かったのか悪かったのか。
 放課後帰宅すると、冬次待ちをしていた南雲に心の動揺があっという間にバレた。

「元気ないね」
「俺の表情筋を観察しないで」
「多分僕じゃなくてもわかるよ」

 そんなに顔に出てたのか。

「俺、克己さんと喧嘩しちゃったかも」

 落ち込んでいる理由を話した自分が愚かだった。南雲が慰めてくれるなんて思っちゃいけない。

「ずっと喧嘩してるじゃないか」

 ほらみろ。理解できないという目つきだ。

「ここ最近の微妙な感じは南雲さんのせいでしょ」
「僕のせいにするな」
「ひゃい。すみません」

 可哀想な俺。理不尽に木っ端微塵にされたのに謝罪する俺。この流れが定着しつつあることに危機感を覚えなくもないが、クセになってる自分にさらなる危機感だ。ドMかって。

「さっさと行くよ。僕は暇じゃないんだ」
「ソウデスネ」

 こっちが一緒に行きたくて待っててもらったみたいな感じで言うのやめてもらっていいですかね?
 でももちろんお供しますとも。
 スーパーの帰り道は当然荷物持ち要員だった。
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