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第一章『放り込まれてきた堕天使』
11 口喧嘩
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共用コートは全寮生が隔てなく利用できる、整備された広場だ。観覧ベンチが併設されており、馬術大会が開かれたのもここ。多目的な用途で使用でき、誰でも出入り自由なため、昼寝をしにくる学園生もいる。その場合、セラス寮の学園生よりは、平民出身者の集まりであるウラノス寮生である確率が高い。
そこを選ぶということは、頻繁に利用する場所で安心できる場と無意識に認識しているからだ。
獲物をいたぶるなら自分に有利な陣地に連れ込んでからにしたいと思うもの。
(許せない、ひとりに寄ってたかって卑怯なやり方だ)
琥太郎の身が心配で向かう足が速くなる。
いざ共用コートに着いてみると、人影は大勢いたのだが、誰かひとりの学園生に正座をさせられている?
あの目立つ髪色は琥太郎ではない。
ジョエルは心から安堵して、集団に駆け寄った。
「ジェイコブが先輩たちに話をつけてくれたの?」
「おっ、来たな。こっちはいいから、そこで拗ねてる怒りんぼうの猫ちゃんの様子を見てやって」
「ありがとう!」
端っこのベンチの上でふて寝しているのが琥太郎だろう。ジャケットも靴も脱いで、ブラウスの第一ボタンも外して、こんなだらしない姿をシスターに見られたら卒倒されそうだ。
口うるさく注意したくなる気持ちを堪え、ジョエルは笑顔を作って琥太郎の顔を上から覗いた。
「見つけた。無事で良かった」
「・・・・・・おう」
鳴き真似以外で返事をしてくれたことにホッとする。あまり変わらない素っ気ない返事だったとしても。
「痛いことされなかった?」
「生意気だって暴言吐かれたけどそれだけ、わりとすぐあの赤い髪のひとが助けに来てくれたし。つーか、むしろ、んー」
癖なのか、琥太郎はうなじをガリガリと掻く。
「ここ、落ち着くな。俺に絡んできた学園生たちとは気が合いそうだ」
「えっ、ひどいことされたんだよ?」
「そこまでじゃねぇよ。俺が馬鹿にした態度取ってたのも本当だし」
ジョエルは彼の心境がまったく理解できず、返す言葉が見つからなくなった。
「身分の差ということだろうね」
最上級生と話のかたをつけたジェイコブが間に入ってくると、琥太郎に対して肩をすくめて見せた。
「貴族様の子息の中じゃ息苦しいってわけ、な?」
「そっちのひとはよくわかってんじゃん」
「そんな・・・・・・」
ジョエルは鉛を呑み込んだように体が重たくなる。
わかっていたことだ。身分差によって引き起こされるトラブルを不安視され、だからこそジョエルが選ばれた。それでもなんとか上手く取り持ってあげたくて、心を砕いてきたのに。
けれど、もしかしたら伝わっていたのかもしれない。
「保身のために働いているような人間とは一緒にいたくないですか?」
伝わってほしくなかった、やましい感情が。
ジョエルが頑張ってきたのは、単純に彼の生活を良くするためじゃない。
自分のため。
途方もなく無性に悔しくなり、ジョエルは涙をこぼした。
「おい、ジョエル・・・泣くなよ」
ジェイコブの手で背中をさすられる。余計に嗚咽がひどくなる。
「うっ、うぅ泣いてない!」
「泣いてるよ、あーあ」
笑ってくれた友人がいる一方、琥太郎はジョエルから目を逸らしたまま。
「やれやれ、まるで相対する敵国どうしだね。どちらかが譲歩して歩み寄らないと解決しないよ」
すかさずジョエルはジェイコブに言い返す。
「僕はもうかなり歩み寄ってると思うけど!」
「あー、うるさいな・・・気持ちいいところなんだから寝かせてよ」
琥太郎が大欠伸をする。
「なっ」
両者睨み合いの拮抗状態。ジョエルも辛抱ならなくなってきた。
琥太郎について知りたいことを山ほど抱えていたが、呆れつつも中継ぎ役になってくれるジェイコブがいなければ、まともに会話すら成立しないくらい状況は深刻だった。
そのためジェイコブが声を大きくする。
「とにかく! 被害者であるコタローが気にしようが気にしまいが、先輩がたのしたことは重大な規則違反。起きたことをシスターに報告しなきゃならない。な、ジョエル」
ジョエルは頷いた。寮でも少なからず騒ぎになっているはずだ。ずずっと鼻水を啜りあげ、涙を拭く。
「詳しい事情を聞かせてコタロー。僕と別れて教室棟を出た後、何があったの?」
監督生として私情を抜いて仕事をしなくては。
しかし琥太郎は言いたくないとそっぽを向く。
「ちゃんと話してくれないと困るよ」
「なんで? 話さなかったら俺が罰則を受けるのか?」
「そうはならないけど、琥太郎を襲おうとした彼等が適切な処罰を受けられない」
「別に受けなくてもいいんじゃね。いちいち大事にしやがって変なんだよこの学校は。気持ちわりぃ」
そこで、間に挟まれているジェイコブが「ちょっといいかな」と手をあげた。
「コタローが話さなかったとしても、証言を繋ぎ合わせれば大体わかってしまうと思うんだよね。ちなみに俺も証言できることがある」
「そうなの? 話してジェイコブ」
ジョエルは目を丸くする。
そこを選ぶということは、頻繁に利用する場所で安心できる場と無意識に認識しているからだ。
獲物をいたぶるなら自分に有利な陣地に連れ込んでからにしたいと思うもの。
(許せない、ひとりに寄ってたかって卑怯なやり方だ)
琥太郎の身が心配で向かう足が速くなる。
いざ共用コートに着いてみると、人影は大勢いたのだが、誰かひとりの学園生に正座をさせられている?
あの目立つ髪色は琥太郎ではない。
ジョエルは心から安堵して、集団に駆け寄った。
「ジェイコブが先輩たちに話をつけてくれたの?」
「おっ、来たな。こっちはいいから、そこで拗ねてる怒りんぼうの猫ちゃんの様子を見てやって」
「ありがとう!」
端っこのベンチの上でふて寝しているのが琥太郎だろう。ジャケットも靴も脱いで、ブラウスの第一ボタンも外して、こんなだらしない姿をシスターに見られたら卒倒されそうだ。
口うるさく注意したくなる気持ちを堪え、ジョエルは笑顔を作って琥太郎の顔を上から覗いた。
「見つけた。無事で良かった」
「・・・・・・おう」
鳴き真似以外で返事をしてくれたことにホッとする。あまり変わらない素っ気ない返事だったとしても。
「痛いことされなかった?」
「生意気だって暴言吐かれたけどそれだけ、わりとすぐあの赤い髪のひとが助けに来てくれたし。つーか、むしろ、んー」
癖なのか、琥太郎はうなじをガリガリと掻く。
「ここ、落ち着くな。俺に絡んできた学園生たちとは気が合いそうだ」
「えっ、ひどいことされたんだよ?」
「そこまでじゃねぇよ。俺が馬鹿にした態度取ってたのも本当だし」
ジョエルは彼の心境がまったく理解できず、返す言葉が見つからなくなった。
「身分の差ということだろうね」
最上級生と話のかたをつけたジェイコブが間に入ってくると、琥太郎に対して肩をすくめて見せた。
「貴族様の子息の中じゃ息苦しいってわけ、な?」
「そっちのひとはよくわかってんじゃん」
「そんな・・・・・・」
ジョエルは鉛を呑み込んだように体が重たくなる。
わかっていたことだ。身分差によって引き起こされるトラブルを不安視され、だからこそジョエルが選ばれた。それでもなんとか上手く取り持ってあげたくて、心を砕いてきたのに。
けれど、もしかしたら伝わっていたのかもしれない。
「保身のために働いているような人間とは一緒にいたくないですか?」
伝わってほしくなかった、やましい感情が。
ジョエルが頑張ってきたのは、単純に彼の生活を良くするためじゃない。
自分のため。
途方もなく無性に悔しくなり、ジョエルは涙をこぼした。
「おい、ジョエル・・・泣くなよ」
ジェイコブの手で背中をさすられる。余計に嗚咽がひどくなる。
「うっ、うぅ泣いてない!」
「泣いてるよ、あーあ」
笑ってくれた友人がいる一方、琥太郎はジョエルから目を逸らしたまま。
「やれやれ、まるで相対する敵国どうしだね。どちらかが譲歩して歩み寄らないと解決しないよ」
すかさずジョエルはジェイコブに言い返す。
「僕はもうかなり歩み寄ってると思うけど!」
「あー、うるさいな・・・気持ちいいところなんだから寝かせてよ」
琥太郎が大欠伸をする。
「なっ」
両者睨み合いの拮抗状態。ジョエルも辛抱ならなくなってきた。
琥太郎について知りたいことを山ほど抱えていたが、呆れつつも中継ぎ役になってくれるジェイコブがいなければ、まともに会話すら成立しないくらい状況は深刻だった。
そのためジェイコブが声を大きくする。
「とにかく! 被害者であるコタローが気にしようが気にしまいが、先輩がたのしたことは重大な規則違反。起きたことをシスターに報告しなきゃならない。な、ジョエル」
ジョエルは頷いた。寮でも少なからず騒ぎになっているはずだ。ずずっと鼻水を啜りあげ、涙を拭く。
「詳しい事情を聞かせてコタロー。僕と別れて教室棟を出た後、何があったの?」
監督生として私情を抜いて仕事をしなくては。
しかし琥太郎は言いたくないとそっぽを向く。
「ちゃんと話してくれないと困るよ」
「なんで? 話さなかったら俺が罰則を受けるのか?」
「そうはならないけど、琥太郎を襲おうとした彼等が適切な処罰を受けられない」
「別に受けなくてもいいんじゃね。いちいち大事にしやがって変なんだよこの学校は。気持ちわりぃ」
そこで、間に挟まれているジェイコブが「ちょっといいかな」と手をあげた。
「コタローが話さなかったとしても、証言を繋ぎ合わせれば大体わかってしまうと思うんだよね。ちなみに俺も証言できることがある」
「そうなの? 話してジェイコブ」
ジョエルは目を丸くする。
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