10 / 109
第一章『放り込まれてきた堕天使』
10 名前について
しおりを挟む
「彼の名前、コタローという響きに聞き覚えがあった気がしたのですよ」
ぶつぶつとそう言いながら、ページを目で追っている。
「ああ、ありましたね」
モーリッツがあるページを見せた。昔の字で綴られているので、ジョエルには全てを解読できない。けれど親切に丸で囲ってある。そこを指でとんとんとさす。
ジョエルは頷いて、口に出して読んだ。
「魔術師により呼び寄せられた渡来者は我が名をウエスギノシローと名乗り、剣とも似た細長く珍妙な武器具を同様の形をした鞘から抜いた。その武器は美しく湾曲し、当国に見られない物質から打たれたカタナと呼ぶ。ウエスギノシローはカタナの素になる物質をタマハガネと説明した。って、これは・・・・・・」
唖然とするジョエルに、モーリッツは続きを読んで聞かせる。
「この後ろの表記にも、頭部の一部を剃った摩訶不思議な頭をしだとか、袖が広い上着を身につけ腰紐を巻き、下履きはスカートのようにもズボンのようにも見えるとか、当時の出来事が詳しく記載されています。これは大陸にかつてあった巨大王朝の遺跡から掘り出された、古い時代の史実を記録した本ですから、歴史上現実に起こったことなんです」
ジョエルは驚愕して声を失った。
「この本は魔術の発展を中心に構成されているので、ウエスギノシローという人物の最期までは記載がないのですが、名前の響きが彼と似ていると思いませんか?」
「コタロー。トリバシコタロー。ウエスギノシロー。似てます。どっちも馴染みがなくて発音しにくい」
「そうでしょう? アルトリアさんならわかってもらえると思ったんです」
モーリッツは同意を得て嬉しそうに目を輝かせる。その表情に印象ががらりと変わった。丸っこい団子鼻が急に目につき、優しげに見えてくる。
「あの・・・先生、記録の中で魔術師はどのような魔術を用いたのですか?」
「聞いてくれるかい? きっと驚くぞ。この魔術師は別世界に道を通じて、そこに住む人間を呼び寄せた。ウエスギノシローなる人物は実験的に試された術で偶然にも呼び寄せられ、世界を跨いで来てしまったとされている。それが渡来者と表現されているのです」
「術は、現在も使われることはあるのでしょうか?」
「いいえ、残念ながらこの後に同魔術が発展し実用化されていた記録はありませんでした。おそらくは完成されず廃れてしまったか、禁忌とされたかのどちらかです」
ジョエルはモーリッツの返答にわずかに落胆してしまった。謎に包まれている琥太郎の出自を知る手がかりになるかと期待したが、術が確立されていないなら、たまたま類似点があったというだけに過ぎない。
しかしながら、別の世界とはいったいどんなものなのか・・・とんでもない話であり、ジョエルの心臓は早鐘を打っていた。
「多少なりとも関連性があるのなら学園長に話さなくて良いのでしょうか」
「いやいや」
モーリッツはかぶりを振った。
「また変なことを言い出したと笑われてしまうよ。私が学園内で変人扱いされてるのは知ってるかな。昔に比べて魔法の概念は信頼性を失ってしまった。国に容認された、現存している魔術でさえ信用ならないと叩かれる始末ですから」
「僕は好きですけど」
「アルトリアさんならそう言ってくれると思ったよ。でももしもコタローさんが別世界から召喚された渡来者なら・・・少々気の毒かもしれません。気になる記載が」
ジョエルはただならぬモーリッツの声色に耳を傾けたが、だが聞き終える前に教室のドアが荒々しく開かれた。「ジョエル!」と胸を上下させながら声がかかる。よくよく見れば、走ってジョエルを呼びにきたのはジーンだった。
「何事かな?」
呆気に取られたジョエルにかわり、モーリッツが訊ねてくれる。
「は、はい・・・、コタローが十年生に絡まれて連れて行かれました!」
十年生といえば最上級生だ。最近の態度の悪さのせいで目をつけられていたのだろう。
「先生、寮に戻ります」
「すぐにそうした方がいいね」
モーリッツに見送られ、ジョエルはジーンと共にセラス寮へ飛んで帰った。
「はぁ、はぁ、コタローは?」
「あっ、アルトリア様っ」
談話室に駆け込むと、涙目で下級生たちが寄ってくる。
「コタローが何処に連れて行かれたか教えてくれるかな?」
「はい、多分・・・外の共用コートのあたりだと思います。最上級生の先輩がたは五~六人くらいでコタローさんを取り囲んで・・・・・・」
ジョエルはぐっと拳を握った。
「セラス寮の学園生だったかな?」
「違うと思います。怖くて直視できなかったんですけど、セラス寮の子が混じっていたら気がつくので。毎日一緒に生活していますから」
「そうだよね。みんな答えてくれてありがとう、共用コートに探しに行ってみるよ」
その場にいた全員に礼を言い、ジョエルは今度は共用コートに向かって走った。
ぶつぶつとそう言いながら、ページを目で追っている。
「ああ、ありましたね」
モーリッツがあるページを見せた。昔の字で綴られているので、ジョエルには全てを解読できない。けれど親切に丸で囲ってある。そこを指でとんとんとさす。
ジョエルは頷いて、口に出して読んだ。
「魔術師により呼び寄せられた渡来者は我が名をウエスギノシローと名乗り、剣とも似た細長く珍妙な武器具を同様の形をした鞘から抜いた。その武器は美しく湾曲し、当国に見られない物質から打たれたカタナと呼ぶ。ウエスギノシローはカタナの素になる物質をタマハガネと説明した。って、これは・・・・・・」
唖然とするジョエルに、モーリッツは続きを読んで聞かせる。
「この後ろの表記にも、頭部の一部を剃った摩訶不思議な頭をしだとか、袖が広い上着を身につけ腰紐を巻き、下履きはスカートのようにもズボンのようにも見えるとか、当時の出来事が詳しく記載されています。これは大陸にかつてあった巨大王朝の遺跡から掘り出された、古い時代の史実を記録した本ですから、歴史上現実に起こったことなんです」
ジョエルは驚愕して声を失った。
「この本は魔術の発展を中心に構成されているので、ウエスギノシローという人物の最期までは記載がないのですが、名前の響きが彼と似ていると思いませんか?」
「コタロー。トリバシコタロー。ウエスギノシロー。似てます。どっちも馴染みがなくて発音しにくい」
「そうでしょう? アルトリアさんならわかってもらえると思ったんです」
モーリッツは同意を得て嬉しそうに目を輝かせる。その表情に印象ががらりと変わった。丸っこい団子鼻が急に目につき、優しげに見えてくる。
「あの・・・先生、記録の中で魔術師はどのような魔術を用いたのですか?」
「聞いてくれるかい? きっと驚くぞ。この魔術師は別世界に道を通じて、そこに住む人間を呼び寄せた。ウエスギノシローなる人物は実験的に試された術で偶然にも呼び寄せられ、世界を跨いで来てしまったとされている。それが渡来者と表現されているのです」
「術は、現在も使われることはあるのでしょうか?」
「いいえ、残念ながらこの後に同魔術が発展し実用化されていた記録はありませんでした。おそらくは完成されず廃れてしまったか、禁忌とされたかのどちらかです」
ジョエルはモーリッツの返答にわずかに落胆してしまった。謎に包まれている琥太郎の出自を知る手がかりになるかと期待したが、術が確立されていないなら、たまたま類似点があったというだけに過ぎない。
しかしながら、別の世界とはいったいどんなものなのか・・・とんでもない話であり、ジョエルの心臓は早鐘を打っていた。
「多少なりとも関連性があるのなら学園長に話さなくて良いのでしょうか」
「いやいや」
モーリッツはかぶりを振った。
「また変なことを言い出したと笑われてしまうよ。私が学園内で変人扱いされてるのは知ってるかな。昔に比べて魔法の概念は信頼性を失ってしまった。国に容認された、現存している魔術でさえ信用ならないと叩かれる始末ですから」
「僕は好きですけど」
「アルトリアさんならそう言ってくれると思ったよ。でももしもコタローさんが別世界から召喚された渡来者なら・・・少々気の毒かもしれません。気になる記載が」
ジョエルはただならぬモーリッツの声色に耳を傾けたが、だが聞き終える前に教室のドアが荒々しく開かれた。「ジョエル!」と胸を上下させながら声がかかる。よくよく見れば、走ってジョエルを呼びにきたのはジーンだった。
「何事かな?」
呆気に取られたジョエルにかわり、モーリッツが訊ねてくれる。
「は、はい・・・、コタローが十年生に絡まれて連れて行かれました!」
十年生といえば最上級生だ。最近の態度の悪さのせいで目をつけられていたのだろう。
「先生、寮に戻ります」
「すぐにそうした方がいいね」
モーリッツに見送られ、ジョエルはジーンと共にセラス寮へ飛んで帰った。
「はぁ、はぁ、コタローは?」
「あっ、アルトリア様っ」
談話室に駆け込むと、涙目で下級生たちが寄ってくる。
「コタローが何処に連れて行かれたか教えてくれるかな?」
「はい、多分・・・外の共用コートのあたりだと思います。最上級生の先輩がたは五~六人くらいでコタローさんを取り囲んで・・・・・・」
ジョエルはぐっと拳を握った。
「セラス寮の学園生だったかな?」
「違うと思います。怖くて直視できなかったんですけど、セラス寮の子が混じっていたら気がつくので。毎日一緒に生活していますから」
「そうだよね。みんな答えてくれてありがとう、共用コートに探しに行ってみるよ」
その場にいた全員に礼を言い、ジョエルは今度は共用コートに向かって走った。
5
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜
MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。
竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。
※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
異世界唯一のオメガ、恋を選ぶまでの90日
秋月真鳥
BL
――異世界に「神子」として召喚されたのは、28歳の元高校球児、瀬尾夏輝。
男性でありながらオメガである彼は、オメガの存在すら知られていない異世界において、唯一無二の「神に選ばれし存在」として迎えられる。
番(つがい)を持たず、抑制剤もないまま、夏輝は神殿で生活を共にする五人のアルファ候補たちの中から、90日以内に「番」となる相手を選ばなければならない。
だがその日々は決して穏やかではなく、隣国の陰謀や偽の神子の襲撃、そして己の体に起きる変化――“ヒート”と呼ばれる本能の波に翻弄されていく。
無口で寡黙な軍人アルファ・ファウスト。
年下でまっすぐな王太子・ジェラルド。
優しく理知的な年上宰相・オルランド。
彼らが見せる愛情と執着に、心を揺らしながら、夏輝は己の運命と向き合っていく。
――90日後、夏輝が選ぶのは、誰の「番」としての未来か。
神の奇跡と恋が交錯する異世界で、運命の愛が始まる――。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
オメガだと隠して地味なベータとして生きてきた俺が、なぜか学園最強で傲慢な次期公爵様と『運命の番』になって、強制的にペアを組まされる羽目に
水凪しおん
BL
この世界では、性は三つに分かたれる。支配者たるアルファ、それに庇護されるオメガ、そして大多数を占めるベータ。
誇り高き魔法使いユキは、オメガという性を隠し、ベータとして魔法学園の門をくぐった。誰にも見下されず、己の力だけで認められるために。
しかし彼の平穏は、一人の男との最悪の出会いによって打ち砕かれる。
学園の頂点に君臨する、傲慢不遜なアルファ――カイ・フォン・エーレンベルク。
反発しあう二人が模擬戦で激突したその瞬間、伝説の証『運命の印』が彼らの首筋に発現する。
それは、決して抗うことのできない魂の繋がり、『運命の番』の証だった。
「お前は俺の所有物だ」
傲慢に告げるカイと、それに激しく反発するユキ。
強制的にペアを組まされた学園対抗トーナメント『双星杯』を舞台に、二人の歯車は軋みを上げながらも回り出す。
孤独を隠す最強のアルファと、運命に抗う気高きオメガ。
これは、反発しあう二つの魂がやがて唯一無二のパートナーとなり、世界の理をも変える絆を結ぶまでの、愛と戦いの物語。
王太子専属閨係の見る夢は
riiko
BL
男爵家のシンは、親に売られて王都に来た。
売られた先はこの国最大の相手!? 王子の閨係というお仕事に就いたのだった。
自分は王子が婚約者と結婚するまでの繋ぎの体だけの相手……だったはずなのに、閨係なのに一向に抱いてもらえない。そして王子にどんどん惹かれる自分に戸惑う。夢を見てはいけない。相手はこの国の王太子、自分はただの男娼。
それなのに、夢を見てしまった。
王太子アルファ×閨担当オメガ
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます。
物語、お楽しみいただけたら幸いです!
【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。
キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。
しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。
迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。
手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。
これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。
──運命なんて、信じていなかった。
けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる