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第二章『召喚された少年と禁忌の魔法術』
55 ギュンターの葉っぱ
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直々に幸運の葉っぱ仕様にされた部屋を眺め、流されゆく頭をふるふると振った。
「魔術師様は僕等はもはや籠の鳥とおっしゃいましたが、実はヨウが同じことを話していました。ですが僕等はロンダールの国王陛下に囲われるために来たのではなく、ヨウのおまけで呼び寄せられてしまったコタローを元の世界に帰すための手立てを探しに来たのです」
「師から大まかな事情は聞いている。ヨウ様が申したように、君らの望みが叶う可能性は薄いだろう。我が国王は、国内のオメガはあまねく自らの寵愛の下に置くと明言されている」
「と、いうことは僕も?」
「そのとおりだ。アルトリアくん。君たちは二度と華宮からは出られない」
厳しい宣告をされ、ジョエルは奥歯を噛み締めた。
「ま、しかし私も惜しい。せっかく私のところに舞い込んできた弟子候補をみすみす失いたくないと思っていた」
ギュンターの言葉に一時的に気持ちが高揚したものの、すぐに萎む。
「僕には特別な力はありません」
「それはまだわからんぞ、堕天使よ」
「その・・・呼び名は」
「君たちの国では魔法術が盛んではない。国独自の文化や人々の暮らしの違いがあるのなら、歴史や言い伝えにも違いが出てくると思わないかね?」
「思います」
「堕天使、オメガ、魔法術。ロンダールの国ではいくぶん面白いことが知れるかもしれんぞ?」
きらきらした瞳を向けられ、ジョエルはごくりと唾を飲み込んだ。
「知りたい・・・です。教えてください」
「ほう、弟子になるか」
「なりたいです」
「ならば、私も君を弟子にするため力を尽くしてみよう」
「はいっ」
力強く頷いた。ギュンターも頷く。そして部屋中に散らした葉っぱを処分しないようジョエルに言いつけると、この日は華宮を去って行った。
ギュンターの進捗を待つ間、ジョエルは室内の葉っぱが育っていることに気がついた。一枚ずつの葉は根を張っているわけではないのに、手のひらに収まるくらいだったのが、数日で広げた指先を超すほどの大きさになった。確かに、日に当たってはいるが。葉のちぎり目から新しい蔓が伸びてきているのは異常だ。
部屋にやって来た琥太郎がギョッとする。
「なぁジョエル、この部屋ってこんなにジャングルみたいだったか?」
「なはは、そうなんだよねぇ、凄いよねぇ」
ジョエルもお手上げの変化に笑うしかない。ギュンターに出会ったことを琥太郎には話しておらず、葉っぱの詳細も秘密だった。
何故、話していないかというと、自分でもよくわからない。別に隠す内容でもないけれど、ジョエルは無意識に洋との口喧嘩まがいのやり取りを引きずっているのかもしれなかった。
ジョエルが知らない琥太郎の人生。意地を張って自分も秘密を作ったとしても、琥太郎と距離が離れてしまうだけなのに。
「でもなんかいいな。ジョエルの部屋ん中は気持ちいい」
ジョエルはどきりとする。
「緑が多いとリラックスできるよね。空気が洗われる感じ」
うーん、と、琥太郎は考えるように顎をさすった。
「これってもしかしてお前の匂い?」
「匂い・・・? 嘘っ、僕フェロモン出てる?」
「さぁ、わかんねぇけど」
琥太郎は大きな欠伸をする。逆の場合と異なり、彼がジョエルのフェロモンに充てられて興奮する兆しは見えない。
だが、心地よく感じてくれるなら最高に嬉しい。
「コタロー・・・・・・」
室内を観察している琥太郎を見ていると、ジョエルは唐突に触れたくなって、手を伸ばした。
「なぁ」
気づくそぶりのない琥太郎が無邪気に振り返る。
「あっ、何?」
「ずっとこっちの世界にいてもいいな」
ジョエルの背中が総毛立つ。心がピリピリとひりついた。
「意味わかってるの」
「いやー、だってさ、思ってたよりすっげぇ快適じゃん?」
「・・・・・・っ、駄目だよ」
「なんでだよ、そうしたら俺たち一緒に」
ジョエルと目を合わせた瞬間に琥太郎の顔が凍りつき、「ごめん」と小さく口走る。
「軽率だった。それだったら最初からシーレハウス学園で大人しくしてろって話だよな」
「そうじゃないよ。そのことはもういい。気にしてない」
「なら他に何に怒ってるんだよ」
「そんなの知らない。ヨウとべたべた仲良くしながら考えたら?」
くだらない拗ね方をして格好悪い。しかし嬉しかった数秒前までの気持ちの反動から、ジョエルは無神経な琥太郎を冷笑した。
琥太郎が片方の眉を吊り上げ、ため息と共に肩を落とす。
「お前さ、俺のことが邪魔になったんならそう言えばいいじゃん」
「邪魔とは言ってない」
言い訳したが、琥太郎は話を進めてしまう。
「もう俺たち二人きりにならない方がいいよな。ヨウは誤解されやすい性格だけど、ジョエルなら安心だわ。あいつのこと頼んだ」
「ヨウだって?」
信じられなかった。弁明したかったが遅し、物言う余地は与えられず、ジョエルを最悪の展開に突き落としたのだった。
× × ×
琥太郎はジョエルに近寄らなくなった。ジョエル自身の発言が招いたことであるが、なんとも悲しい。
時折見かける洋の顔が、ザマァみろと言っているようだった。琥太郎から何処までの話を聞いているのか。しかしあの子ならどの程度であろうと、これ幸いと知らぬふりをして利用する。
だが全てが悪い方向に進んでいたのではない。
ついにギュンターが喜ばしい報告を手にして顔を見せたのだ。
「魔術師様は僕等はもはや籠の鳥とおっしゃいましたが、実はヨウが同じことを話していました。ですが僕等はロンダールの国王陛下に囲われるために来たのではなく、ヨウのおまけで呼び寄せられてしまったコタローを元の世界に帰すための手立てを探しに来たのです」
「師から大まかな事情は聞いている。ヨウ様が申したように、君らの望みが叶う可能性は薄いだろう。我が国王は、国内のオメガはあまねく自らの寵愛の下に置くと明言されている」
「と、いうことは僕も?」
「そのとおりだ。アルトリアくん。君たちは二度と華宮からは出られない」
厳しい宣告をされ、ジョエルは奥歯を噛み締めた。
「ま、しかし私も惜しい。せっかく私のところに舞い込んできた弟子候補をみすみす失いたくないと思っていた」
ギュンターの言葉に一時的に気持ちが高揚したものの、すぐに萎む。
「僕には特別な力はありません」
「それはまだわからんぞ、堕天使よ」
「その・・・呼び名は」
「君たちの国では魔法術が盛んではない。国独自の文化や人々の暮らしの違いがあるのなら、歴史や言い伝えにも違いが出てくると思わないかね?」
「思います」
「堕天使、オメガ、魔法術。ロンダールの国ではいくぶん面白いことが知れるかもしれんぞ?」
きらきらした瞳を向けられ、ジョエルはごくりと唾を飲み込んだ。
「知りたい・・・です。教えてください」
「ほう、弟子になるか」
「なりたいです」
「ならば、私も君を弟子にするため力を尽くしてみよう」
「はいっ」
力強く頷いた。ギュンターも頷く。そして部屋中に散らした葉っぱを処分しないようジョエルに言いつけると、この日は華宮を去って行った。
ギュンターの進捗を待つ間、ジョエルは室内の葉っぱが育っていることに気がついた。一枚ずつの葉は根を張っているわけではないのに、手のひらに収まるくらいだったのが、数日で広げた指先を超すほどの大きさになった。確かに、日に当たってはいるが。葉のちぎり目から新しい蔓が伸びてきているのは異常だ。
部屋にやって来た琥太郎がギョッとする。
「なぁジョエル、この部屋ってこんなにジャングルみたいだったか?」
「なはは、そうなんだよねぇ、凄いよねぇ」
ジョエルもお手上げの変化に笑うしかない。ギュンターに出会ったことを琥太郎には話しておらず、葉っぱの詳細も秘密だった。
何故、話していないかというと、自分でもよくわからない。別に隠す内容でもないけれど、ジョエルは無意識に洋との口喧嘩まがいのやり取りを引きずっているのかもしれなかった。
ジョエルが知らない琥太郎の人生。意地を張って自分も秘密を作ったとしても、琥太郎と距離が離れてしまうだけなのに。
「でもなんかいいな。ジョエルの部屋ん中は気持ちいい」
ジョエルはどきりとする。
「緑が多いとリラックスできるよね。空気が洗われる感じ」
うーん、と、琥太郎は考えるように顎をさすった。
「これってもしかしてお前の匂い?」
「匂い・・・? 嘘っ、僕フェロモン出てる?」
「さぁ、わかんねぇけど」
琥太郎は大きな欠伸をする。逆の場合と異なり、彼がジョエルのフェロモンに充てられて興奮する兆しは見えない。
だが、心地よく感じてくれるなら最高に嬉しい。
「コタロー・・・・・・」
室内を観察している琥太郎を見ていると、ジョエルは唐突に触れたくなって、手を伸ばした。
「なぁ」
気づくそぶりのない琥太郎が無邪気に振り返る。
「あっ、何?」
「ずっとこっちの世界にいてもいいな」
ジョエルの背中が総毛立つ。心がピリピリとひりついた。
「意味わかってるの」
「いやー、だってさ、思ってたよりすっげぇ快適じゃん?」
「・・・・・・っ、駄目だよ」
「なんでだよ、そうしたら俺たち一緒に」
ジョエルと目を合わせた瞬間に琥太郎の顔が凍りつき、「ごめん」と小さく口走る。
「軽率だった。それだったら最初からシーレハウス学園で大人しくしてろって話だよな」
「そうじゃないよ。そのことはもういい。気にしてない」
「なら他に何に怒ってるんだよ」
「そんなの知らない。ヨウとべたべた仲良くしながら考えたら?」
くだらない拗ね方をして格好悪い。しかし嬉しかった数秒前までの気持ちの反動から、ジョエルは無神経な琥太郎を冷笑した。
琥太郎が片方の眉を吊り上げ、ため息と共に肩を落とす。
「お前さ、俺のことが邪魔になったんならそう言えばいいじゃん」
「邪魔とは言ってない」
言い訳したが、琥太郎は話を進めてしまう。
「もう俺たち二人きりにならない方がいいよな。ヨウは誤解されやすい性格だけど、ジョエルなら安心だわ。あいつのこと頼んだ」
「ヨウだって?」
信じられなかった。弁明したかったが遅し、物言う余地は与えられず、ジョエルを最悪の展開に突き落としたのだった。
× × ×
琥太郎はジョエルに近寄らなくなった。ジョエル自身の発言が招いたことであるが、なんとも悲しい。
時折見かける洋の顔が、ザマァみろと言っているようだった。琥太郎から何処までの話を聞いているのか。しかしあの子ならどの程度であろうと、これ幸いと知らぬふりをして利用する。
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ついにギュンターが喜ばしい報告を手にして顔を見せたのだ。
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