Ω×Ω/弱虫だったオメガが異世界からきた後天性オメガに恋して好きな人のために世界を変えちゃうかもしれないっていう話。

豆ぱんダ

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第二章『召喚された少年と禁忌の魔法術』

80 突然の招かれざる者

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 ヒートのあいだ、荒れくるう疼きに揉みくちゃにされた体は重く、シーツに横たわり息をしているのがやっとだ。
 気を失うように眠り、昂ぶりに引きずられて起こされる。
 そんなことが何度もあるせいで、ジョエルの時間の感覚は二日も経てばいつも失われる。だがわずかな明かりの差で、夜か朝かくらいは判別できた。
 三日目の、夕刻。隔離部屋のドアが叩かれた。

「コタロー・・・・・・なの?」

 初日に顔を見にきてくれたことが思い出される。

「ふぅ、はぁ・・・い、開けるね」

 ジョエルは鉛をくくりつけられているような気だるい腰をのそりと上げた。
 自我を保っていられる程度になっていたけれど、ヒートが終わるにはまだ日が足りない。足取りは怪しく、ともすれば転んでしまいそうだ。
 弱々しくドアに歩み寄り、ジョエルは施錠を外す。

「来てくれてありがと、嬉しい」

 体は辛いが、精一杯の声を取り繕った。
 だが一瞬でジョエルの笑みが恐怖に引き攣る。

「だれ・・・ですか・・・・・・」

 琥太郎の顔が見たい一心で、訪問者の確認を怠った。
 急いでドアを閉めようとしたが遅かった。体をドアの隙間に体を割り込ませてきた見知らぬ男に阻まれる。

「ジョエル」
「・・・・・・」

 ジョエルはある匂いを嗅いで動けなくなっていた。
 男はアルファだった。男は手早くドアを閉め、ジョエルがそちらに回れないように、部屋の奥へ、ベッドの近くへと一歩ずつ追い詰める。
 ひくっと喉が鳴る。ジョエルはオメガのフェロモンを出さないよう自身をコントロールした。凶暴化は防げるだろう、けれど、相対する匂いにヒート中の体が反応してしまう。

「ジョエル、楽にしなさい」

 命じるような口調と男の纏っている上質な服装が貴族の階級をうかがわせる。
 知り合いか、いや、知らない。
 親しげに呼ばれる覚えはない。

「失礼ながら・・・っ、ここが何処なのか承知しているのですか?」
「お父様からご子息の相手をするよう仰せつかって参りました」

 ジョエルは耳を疑い、目を剥いた。

「体が火照ってお辛いだろう」
「父が何を考えているのかわかりませんが、学園生を相手するのはいかなるアルファも許されていない。立ち去ってください」

 若いオメガと遊びたいだけで男がホラを吹いている可能性がある。

(でもどうやって侵入を・・・・・・)

 ゾッとした。どんなに上手く忍び込んだとしても、最後に医務官と鉢合わせするはずなのに、身を隠すこともなく現れた男の言い分が正当性を持ち始める。

「ヒート中に既成事実を作ることができれば、ご子息をくださると約束されました」
「僕は結婚する道を望みません」

 震える膝を叱咤し、きっぱりと宣言した。
 男の表情がにわかに厳しくなる。

「お前に意見する権利はない。生意気なオメガにはいちから教えてやる必要がありそうだ」
「来ないでください・・・!」

 覆い被さろうとしてくる男にジョエルは悲鳴をあげた。
 抗おうにも逃げ場はなく、体力も残っていない。体も限界で、男と共にフェロモンの匂いが近づくにつれ意思に反したような吐息が漏れた。

(嫌だ、こんなの嫌だ。助けて、コタロー!)

 押さえつけられた肩と腕。かろうじて動かせる片腕を突っ張り男の胸を押した。怖い。騎士のように目立った筋肉はないのに、アルファの体はびくともしなかった。

「いやぁ・・・ひぃぐ」

 悔しいのは、男の息がかかると腰が跳ねてしまう。ジョエルは歯を食いしばったけれど、男はいたって愉しんだ様子で余裕がある。しだいにジョエルはじわじわと押し負けた。

「そろそろ欲しくなってきたか?」

 首を振りたいが、思考がまとまらなくなる。琥太郎に助けを求めたくても知らせるすべがない。心の中で叫ぶだけ。
 その時、小窓の外でギャアギャアと鳥がわめく鳴き声がした。そして次の瞬間、鳥たちは鋭い嘴をガラスに向けて体当たりを始めた。
 鳥たちが体をぶつける鈍い音の数がどんどん増えていく。
 彼らを呼んだのはジョエルだ。
 助けてという強い呼応が、無意識下でフェロモンを発動させ、ジョエルを助けにこさせたのである。
 そう理解すると、ジョエルは気力を取り戻した。琥太郎には届かなかったが、近場にいた空を飛んでいた鳥たちがキャッチしてくれたのだろう。

「ドン、ドン、と騒がしい」

 邪魔をされ苛立ったように男が小窓を見る。

「・・・・・・ありがとう、もうやめてください。怪我をしてしまう」

 ジョエルは呟いた。

「何か言ったのか」
「あなたには言っていません。退いてください」

 軽蔑を込めて男を睨み上げると、フェロモンを最高濃度にまで一気に高める。ハワードがやっていたのを模倣したのだ。
 男はカッと目を見開くと、たっぷりとフェロモンを吸い込んだ鼻を膨らませた。そのままぐるりと瞳孔を上向きに反転させる。失神して覆い被さってくる前にすばやく男の下から移動したジョエルはシーツに突っ伏した男の顔を覗く。息はある。男は鼻から血を流し、口から泡を吹いていた。

「あ・・・ぁ・・・。僕は、なんてむごい使い方を」

 ジョエルは慄いたが、ふと男の股間が下劣な反応をしていることに気づき、ぴたりと震えが止まった。

「でも、こうしなければ手籠めにされていた」

 今ごろ恐ろしい目にあっていたのだと、ジョエルは自分の胸に言い聞かせるために口に出した。
 放心したように思い詰めるジョエルのこめかみがズキンと脈打った。消耗している体に無理を強いたせいで頭が割れそうに痛んだが、強姦魔と同じ部屋で倒れるわけにはいかない。
 ジョエルは沈痛な面持ちで、医務官を探しに隔離部屋を出たのだった。
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