Ω×Ω/弱虫だったオメガが異世界からきた後天性オメガに恋して好きな人のために世界を変えちゃうかもしれないっていう話。

豆ぱんダ

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第三章『悪魔と天使のはざま』

85 sideハワード 裏で起こっていること

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 それはヒート期間にジョエルが襲われた事件があった数日後のことだった。
 ハワードはセスを連れてシーレハウス学園を出かけた。向かった先はスヴェア王国宮殿。
 朝届いた文に『至急』と記されていたので、洋の見張りをティコに頼み——ティコには婚約者の王太子殿下がついている——、こうして乞われたとおりに参ろうとしているわけだ。
 幸い未遂であったが強姦魔の件を調べている最中で寝不足もいいところなのに、余程のことが起こったのだろうとハワードは馬の足を急がせた。
 王宮に着いたのはそれでもその日の昼を過ぎた頃になり、ネガティブな予感はひとしおになっていた。

「グレッツェル!」

 研究室のドアを弾くように開け、ハワードは知らせを送ってきたギュンターの姿を認めるなり名を呼んだ。
 生きている中で感情のままに大声を出すことはあまりない。一歩後ろを歩くセスがハッとする。

「おおっ、これはこれは早いお越しで・・・ようこそいらっしゃいました」

 いつもと雰囲気の異なるハワードを見て、ギュンターは固まっていた。

「余計な挨拶はいい」

 ハワードは室内に入り、さっそく本題を始める。
 ギュンターは大慌てで文にしたためた報告を繰り返した。

「・・・・・・何故その日のうちに伝えなかったのです」

 ハワードのため息が落ちる。

「貴様、殿下を裏切ろうとしたのか?」

 この後に及んでとセスに厳しく睨まれて、ギュンターは体を小さく縮こませた。

「ひぃ・・・、これでもすまないと思っております・・・。私は研究に没頭するとなんにも見聞きできなくなってしまうのだ」

 どうやらギュンターは寝泊まりさせている宮殿の研究施設内で五日ほど寝ずに資料に埋もれていたと、そして気づいた時には共同で研究をしていたはずのモーリッツの姿がなくなっていたらしい。

「まったくとんでもない失態です。しかし、嘘ではないのでしょう。悪いことをしようものならアルトリアさんと交わした主従契約が発動しています」
「まこと、そのとおり」

 ギュンターがビクビクしながら手を揉んだ。

「では、モーリッツは何処に消えたと思いますか」

 ハワードは額を抑えて問う。
 敵であるのか味方であるのか、つまり悪魔側の予言の人間なのかそうではないのか、モーリッツこそ謎の立ち位置でいたためにシーレハウス学園から遠ざけた。
 しかしこちらに意図がはかれない形でこうなったとなれば、モーリッツを味方と考えるのは難しくなった。モーリッツに悪意があろうとなかろうと・・・だ。

「あなたの知恵を貸してください。ギュンター。恩師と助手として付き合いの長かったあなたなら知っていることがあるのではないですか?」
「そう言われましても・・・むむぅ」
「どんなことでもいいのです。思い出してください」

 そうしてギュンターは捻り出したゆかりのある地名と名前を紙に書き写す。

「言っておきますが、付き合いがあったのは数年前です。空振りで終わると思いますよ」
「構いません。一つでも多く手がかりが欲しいのです。では失礼します。あなたの研究の進捗は適宜お願いしますね」

 ハワードはメモをセスに受け取らせ、研究室をあとにした。



 ×  ×  ×



 この後、モーリッツの行方が予想だにしなかった場所に繋がったのだ。

「間違いありません。アルトリア家の屋敷の周辺でモーリッツの目撃情報です」

 ハワードはセスの報告に目を剥いた。
 セスは配下の黒兎をロンダール王国から呼び寄せて調査の足に使っていた。彼女たちからもたらされた情報は信用性が高い。

「モーリッツが現れたのはいつのことだろうか」
「研究室から行方をくらませた当日だろうと」
「なんだってそんな・・・・・・」

 ハワードは恐ろしい悪寒を覚える。

「他の、三大貴族家のもとにはどうなのだろう」

 アルトリア家はフローレス侯爵家でもある。残るマンチェスティオ公爵家、ジエルダ侯爵家、どれか一つだけでも多大なる権力を持ち、悪魔の予言によることを企んでいるとなれば相応の被害規模を想定しなければならない。

「今のところ他の場所で目撃された報告はありませんが、どうでしょうか」

 油断できない返答にハワードはうなる。

「モーリッツの目的は調べられそうですか?」
「引き続き調査をさせます」
「お願いします。よろしく頼みますよ」
「はい」

 セスが行ってしまうと、ハワードは洋の様子を見に向かった。
 寮長部屋には王太子が手配したベータの護衛が入っている。
 ふって沸いた事件の調査に忙しくなり、あらゆる融通の効くティコの存在は大いに心強いものになった。
 でも・・・今の報告を鑑みてティコの身辺も調べた方がいいのかもしれない。王太子はティコを溺愛している、ティコが望むなら国を動かすこともできてしまうのだ。

(さすがに働きすぎで疲れた・・・・・・)

 疑心暗鬼になる心が折れそうになった。ハワードはふらふらと廊下を歩き、寮長部屋のドアを叩いた。見張りを交代すると言って、護衛兵に部屋を空けてもらい、ソファにぐったりと腰を沈める。
 現実を忘れて昼寝休憩でもしたい気分だが、本業であるシスター長の職務をおろそかにできない。
 もうすぐ学年末試験を控え、テストが終われば卒業して嫁いでいく学園生のためのセレモニーと次年度の入学生を迎える準備がある。
 いっときも気を休めている時間はなかった。

「ん? ヨウさん、あなたのお腹が」

 ふと、ハワードは眠っている洋の腹の膨らみに注目する。
 腹に子を宿しているので、体型の変化は普通の経過である。けれどもハワードの目に違和感があるように映ったのだ。間違いなく急激に大きくなっている。
 洋の腹の中にいる胎児は、

「お前は何をしようと言うのです」

 ハワードは悪魔という最悪の予言を噛み締め、洋の腹部にこわごわと触れたのだった。
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