ラブドール

豆ぱんダ

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来たる日の再会

80 それぞれの思惑

 だがナガトは自室の寸前まで足を止めなかった。
 最下デッキは重たいエンジン音が響いている。
 譲は何か言わねばならないと思ったが、言葉が出てこない。何をどう訊ねれば良いのか。この状況で仲違いをし、新たな敵を作るのは賢明とはいえない。
 一番にナガトは大事な存在だ。
 艦上で起きるであろう苦難を乗り越えるには一人より二人で協力しなければ。

「俺、いいよ。教えても」

 下手くそなカタコトのような言い方になってしまった。

「なんて?」

 ナガトが振り返って眉を吊り上げる。

「や、ほら。俺達はバディだろ? ボスはターゲットを教え合うのは禁止だって言ったけど、俺はナガトと任務を遂行するんだと思ってたから。そうしたい」

 勝手に部屋に侵入されて泥棒じみた真似をされていたことには触れないように言った。

「・・・ああ、うん」

 ナガトは安堵している。と、明らかに思えてしまったのが譲には残念だった。釈然としないままナガトの出方を見計らう。

「でも教え合うのはやめるべきだ」

 意外な返事がなされる。

「なんで」
「しかし協力はしよう。俺もそうしたい。というか、そうするしかないからな」
「何言ってんだ? お互いの狙いを知らないでどう動くんだよ」

 譲は感情的になり、ナガトに詰め寄っていた。どいつもこいつも意味不明なことばかり言いやがる。

「行動は一緒にしようってことだ。別任務を忘れたか? 両国の要人が集まるのだから、秘密裏に暗殺を考えているのは俺らだけじゃないかもしれない。怪しい動きを見せる者がいないか監視せよという指令だぞ」
「覚えているさ勿論」
「監視を行う為には艦内を歩き回る必要があるだろう。そちらの任務は協力し合うというのでどうだ? 途中でターゲット暗殺の機会が訪れた場合には、暗黙の了解で別行動に切り替えるということにしよう」

 不思議だ、ナガトはこのように潔癖で几帳面なことを言う奴だっただろうか。にこやかに励ましてくれた今朝は何だったんだ。船に乗った途端にスイッチが切り替わったのか。任務だから徹底する方針なのか。他の時間は行動を共にするなら、もうずっと一緒でもいいんじゃないかと思ったが、とりあえずは承諾する。
 譲は今後について話し足りなかったけれど、作戦が始まったら気が休まらなくなるぞと、ナガトは部屋に入ってしまった。

「じゃ、僅かな時間しかないが、入港するまで休んでおけよ」

 そう言い残されたので、自身も仕方なく休むことにする。
 隠しごとをしているのはお互い様なので、何も言えなかった。


 ◇◆


 レニーランド港が目視できる距離にきた。
 譲とナガトは所定の位置に着く。
 軍艦テティスの入港にあたりレニーランド港はお祭り騒ぎになっていた。
 だが目にした限りでは、伝説の軍艦見たさにというふうではなさそうだ。人々の目線の多くは演説真っ只中の人物にある。
 全ての国民が現在の政権に反発しているわけではないとわかってしまう。数年前のクーデターを成功させた英雄とも等しいお偉方が顔を揃えるとあっては人が集まって当然だ。
 この精鋭班に与えられている表向きの役目は艦全体の管理と大まかな乗船客の世話だった。
 どの賓客もそばに専属の世話役を侍らせて乗船することが予想される為、譲達が行える仕事と言えば艦内案内と清掃と設備品の補充くらいにはなるが。
 こうも盛り上がっていては、本来は顔を伏せておくべき譲達も、乗船時だけは甲板上の見える位置に並んで出迎えなくてはならなかった。

「知ってる顔はいないな、当たり前だけど」

 譲は敬礼の姿勢で静止し、手を振りながら乗り込んでくる賓客の顔を一人ひとり観察する。

(退屈だな・・・・・・)

 ナガトが気になって横目に隣りを見ると、大勢の注目の的になっている渡し板の上ではない別の方向を睨んでいた。
 譲がそちらに目をやると、人だかりができているのは確実だったが、特別変わったものは見えなかった。
 疑問に思うものの、今は訊ねられない。
 そうしているうちに主要な賓客達の乗り込みが終了し、譲は場所を移動するよう指示をされ、その場から意識を引き剥がす。
 ロイシアでヴィクトルが乗船してくるまで、譲はまだ一日は気持ちの余裕があるが、さっそく行動に起こしている者は動き出している。

(集中・・・集中!)

 監視の任務に移る為に、譲は気を引き締めて、甲板下のフロアに降りた。
 アレグサンダーの粋な計らいだろう、軍艦テティスは集まった国民に向かって汽笛を鳴らし、華々しい演出を加えると港を再度出発した。
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