ダークイースター

仲神舜一の場合

☆12

　遺体を移動する？
　僕は、綾香が言っている意味が解らなかった。考えられるのは、豊雄が犯行を隠す為に取る行動だが、この派手な犯罪を隠す必要があるのだろうか？ 被害者は一人二人ではない。三十人となると、隠蔽する気になれないだろう。しかも、本人は犯行後に自殺している。

　僕が考えていると、綾香が更に驚くべき事を口にする。

「文献によるとね、死体が動いたらしいよ」

「ゾンビみたいに？」

「ゾンビかな？ どちらかと言えばワールド・ウォーZかな？」

　綾香は、変な所に拘こだわっている。しかも、現場を見た訳ではないだろう。うん？ 文献に書いてあるのか？ 僕は、素朴な質問をした。

「もしかして、死体の移動速度が速いとか？」

　僕の読みは的中し、綾香が補足する。

「うん、記録によるとね、犯行時刻から十分後に十キロメートル離れた場所で見つかった人がいる」

　確かに速い。一万メートル走の記録は三十分くらいだったと思う。それはそうとして、かなりオカルトな展開になってきた。
　僕は、綾香に聞いてみる。

「死者が歩き回るのは、カルト教団の教えからきているの？」

「文献によるとね、獣の王と処女おとめが交わると、闇の王子が産まれる。彼は、狼の子と呼ばれるだろう。
狼の子から闇洗礼を受けた者は、獣となって野に放たれ、死者に命令するだろう。これが、世の終わりの時である。う～ん、ちょっとなに言ってんのか解らない系の話だね」

　僕は、あっけらかんと呪いの解説をする彼女に呆れていた。ソバカスの上で目が三日月になっている。