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竹尾安五郎
◯十二
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「弁天一家を仕切らせて貰ってます。仲と申します」
女は、歳の頃なら二十歳前後に見えた。ただ、藤色の着物から覗く肌の感じからすると、もっと若いかも知れない。
「じゃ、ここは親分同士で話をつけたらええ」
亀寿郎は退席する。
取り残された寿郎長と仲は、お見合いみたいになっていた。
「寿郎長親分、お一ついかがです」
仲が寿郎長に酌をする。二人の距離が縮んだ。
「弁天一家の貸元を酌婦にしちゃ、申し訳ない。あっしも酌夫になろう」
寿郎長も、仲に酌をする。
仲は、可笑しくなって笑い出す。心の距離が縮む。
「ごめんなさいね。寿郎長親分がお茶目なもので、びっくりしました」
「鬼か蛇、だとでも思ったかい」
寿郎長は、仲の表情を見て、かなり若いと判断した。まぁ、歳を聞くのは野暮になる。
「弁天の貸元は、なんで弁天一家を構える事になったんだね。見ればまだ若そうなんだが」
差しつ差されつ会話する。場の雰囲気は、お見合いから逢引きに昇格した。
「おとっつぁんが弁天一家の親分でね、その跡目を継いだんですよ。姐さんは度胸がいいから博徒に向いている。なんて言われてねぇ。まぁ、そんなのは建前で、小娘を神輿に乗せて担ぐのが好きな変態なんですよ。うちの子分どもは」
今度は、寿郎長が笑ってしまう。仲は子分を卑下するが、彼女は目力が強いので、博徒向きの判断には納得する。
さて、娘の赤い唇が動く度、寿郎長は妙な気分になる。仲の方も、どんどん接近してくる。女の色香に酔いそうだった。
「実はね、寿郎長親分には借りがあるんですよ」
「どんな借りだろう?」
「天神法六を斬ったのは、寿郎長親分じゃないですか。法六は、親の仇なんですよ」
寿郎長は、仲の告白に驚く。
「それで、お礼をしたい気持ち、解って欲しいんです」
仲は、寿郎長に密着する。
寿郎長は、困っていた。仲は美人で好みだが、関係を持つのは良くない気がしていた。まずは、寿郎長にはお蝶が居る。兄の大熊の事もある。それに、親分同士の馴れ合いは、吉と出るか凶と出るか解らない。賽子の目と同じで、転がす度に変わる可能性がある。
「ここは、七分三分の盃でどうだろう」
寿郎長は、雰囲気を変える様に提案した。
「よろしいですよ。寿郎長親分が七分ですね」
「いやいや、弁天の親分が七分ですよ。清水湊では親分さんの方が格上でござんす」
仲は、意義を唱えようとしたが、遠慮しすぎるのも失礼になると感じて止めた。
その日は、盃事を交わす日時を決めた。
後日、弁天一家と寿郎長一家は盃事を交わし、同盟関係になった。寿郎長に取って、年下の姉貴になった仲の要求は、親分ではなく仲と呼ぶ事だった。寿郎長は、「お仲さん」と呼ばせて貰う。
寿郎長一家が清水で活躍し始めると、甲州の方が騒がしくなった。竹尾安五郎と黒駒勝堂は、再び親分衆を集結させ、寿郎長に喧嘩状を送って来た。弁天一家の仲は、駿河の親分衆を集め、敵対する構えを見せる。寿郎長が安五郎の所の遊女を足抜けさせたのは、安五郎が女を人質にした為であり、仁義を忘れた外道は竹尾安五郎の方だと、弾劾した。追分参五郎の事情を書き添え、甲斐の連中とは戦うべきだと解いた。その昔、戦国時代、駿河の今川と甲斐の武田を引き合いに出し、今度は武田信玄を滅ぼすべきだと檄を飛ばした。
女は、歳の頃なら二十歳前後に見えた。ただ、藤色の着物から覗く肌の感じからすると、もっと若いかも知れない。
「じゃ、ここは親分同士で話をつけたらええ」
亀寿郎は退席する。
取り残された寿郎長と仲は、お見合いみたいになっていた。
「寿郎長親分、お一ついかがです」
仲が寿郎長に酌をする。二人の距離が縮んだ。
「弁天一家の貸元を酌婦にしちゃ、申し訳ない。あっしも酌夫になろう」
寿郎長も、仲に酌をする。
仲は、可笑しくなって笑い出す。心の距離が縮む。
「ごめんなさいね。寿郎長親分がお茶目なもので、びっくりしました」
「鬼か蛇、だとでも思ったかい」
寿郎長は、仲の表情を見て、かなり若いと判断した。まぁ、歳を聞くのは野暮になる。
「弁天の貸元は、なんで弁天一家を構える事になったんだね。見ればまだ若そうなんだが」
差しつ差されつ会話する。場の雰囲気は、お見合いから逢引きに昇格した。
「おとっつぁんが弁天一家の親分でね、その跡目を継いだんですよ。姐さんは度胸がいいから博徒に向いている。なんて言われてねぇ。まぁ、そんなのは建前で、小娘を神輿に乗せて担ぐのが好きな変態なんですよ。うちの子分どもは」
今度は、寿郎長が笑ってしまう。仲は子分を卑下するが、彼女は目力が強いので、博徒向きの判断には納得する。
さて、娘の赤い唇が動く度、寿郎長は妙な気分になる。仲の方も、どんどん接近してくる。女の色香に酔いそうだった。
「実はね、寿郎長親分には借りがあるんですよ」
「どんな借りだろう?」
「天神法六を斬ったのは、寿郎長親分じゃないですか。法六は、親の仇なんですよ」
寿郎長は、仲の告白に驚く。
「それで、お礼をしたい気持ち、解って欲しいんです」
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寿郎長は、困っていた。仲は美人で好みだが、関係を持つのは良くない気がしていた。まずは、寿郎長にはお蝶が居る。兄の大熊の事もある。それに、親分同士の馴れ合いは、吉と出るか凶と出るか解らない。賽子の目と同じで、転がす度に変わる可能性がある。
「ここは、七分三分の盃でどうだろう」
寿郎長は、雰囲気を変える様に提案した。
「よろしいですよ。寿郎長親分が七分ですね」
「いやいや、弁天の親分が七分ですよ。清水湊では親分さんの方が格上でござんす」
仲は、意義を唱えようとしたが、遠慮しすぎるのも失礼になると感じて止めた。
その日は、盃事を交わす日時を決めた。
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