簡易版、徳川家康

信玄は激おこ

　甲斐の武田信玄は怒っていた。怒りの矛先には、徳川家康が居る。
　徳川家康、以前は松平家康だったのに、いつの間に徳川に？ それは、三河を平定して、国守になる際、将軍や朝廷の承認が必要だった。承認には、由緒正しい血筋が必要で、家康は、菩提寺の住職に相談する。

「家系図を見ますと、遠い親戚の遠い親戚の遠い親戚の遠い親戚に得川と言う名が見受けられましてな、これが、源氏の流れを汲む気がしまする」

　住職は、最大の檀家である松平家に報いる為、僧を総動員して探し出した。
　家康は、故今川義元の言葉を思い出す。「武を持って世を治めるのは覇道。徳をもって世を治めるのが王道」この言葉が、胸に響いていた。家康は、義元の心の遺伝子を受け継いでいた。

「名を、徳川家康に改める」



　さて、武田信玄の怒りは、その徳川家康が今川氏真を逃した事だった。しかし、家康から詫びが入り、少し安心する。実は、信玄も三河に攻め込む時期では無いと思っていた。同盟関係を無視して、駿府を侵略した信玄に、同じ同盟関係の北条が怒っていた。しかも、三国同盟の立役者、今川義元の子を匿い、駿府に攻め入る大義名分も揃っている。いや、何より北条家当主、北条氏康がお怒りなのは、今川氏直に嫁いだ愛娘が酷い目に遭わされた事だった。

　北条は、駿府に攻め込んだ武田軍の退路を断ち、甲斐からの補給線を潰す。更に、越後の上杉謙信と結び、甲斐包囲網を作る。

　こうなると、信玄は、家康が今川氏直を北条に逃したのは、策略ではないかと疑う。そう考えると、三河の小童はなかなかの策士だと言える。



　一方、家康は、甲斐と三河が膠着状態の間に上洛した。それは、織田信長が将軍を立て、新しい秩序を作ろうとしていたからで、信長は、各国守に、京に来て将軍の足利義昭に挨拶する様に言いつける。それによって、服従する国守と服従しない国守を選別するつもりだった。

　家康は、そのまま信長の天下布武に付き合う事になる。上洛の命に従わなかった朝倉義景を討つ作戦に参加する事になる。