Perfect Humanと福音書

雨川 海(旧 つくね)

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十字架への道

○イエスの逮捕

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 一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、祝福してこれをさき、弟子たちに与えて言われた、
「取って食べよ、これはわたしのからだである」。
 また杯を取り、感謝して彼らに与えて言われた、
「みな、この杯から飲め。これは、罪のゆるしを得させるようにと、多くの人のために流すわたしの契約の血である。あなたがたに言っておく。わたしの父の国であなたがたと共に、新しく飲むその日までは、わたしは今後決して、ぶどうの実から造ったものを飲むことをしない」
 彼らは、さんびを歌った後、オリブ山へ出かけて行った。
 そのとき、イエスは弟子たちに言われた、
「今夜、あなたがたは皆わたしにつまずくであろう。『わたしは羊飼を打つ。そして、羊の群れは散らされるであろう』と、書いてあるからである。しかしわたしは、よみがえってから、あなたがたより先にガリラヤへ行くであろう」
 するとペテロはイエスに答えて言った、
「たとえ、みんながあなたにつまずいても、わたしは決してつまずきません」。 
 イエスは言われた、
「よくあなたに言っておく。今夜、鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」
 ペテロは言った、
「たといあなたと一緒に死なねばならなくなっても、あなたを知らないなどとは、決して申しません」
 弟子たちもみな同じように言った。

 そして、イエスがまだ話しておられるうちに、そこに、十二弟子のひとりのユダがきた。また祭司長、民の長老たちから送られた大ぜいの群衆も、剣と棒とを持って彼についてきた。 
 イエスを裏切った者が、あらかじめ彼らに、
「わたしの接吻する者が、その人だ。その人をつかまえろ」と合図をしておいた。
 彼はすぐイエスに近寄り、
「先生、いかがですか」と言って、イエスに接吻した。 
 しかし、イエスは彼に言われた、
「友よ、なんのためにきたのか」。
 このとき、人々が進み寄って、イエスに手をかけてつかまえた。 
 すると、イエスと一緒にいた者のひとりが、手を伸ばして剣を抜き、そして大祭司の僕に切りかかって、その片耳を切り落した。
 そこで、イエスは彼に言われた、
「あなたの剣をもとの所におさめなさい。剣をとる者はみな、剣で滅びる。それとも、わたしが父に願って、天の使たちを十二軍団以上も、今つかわしていただくことができないと、あなたは思うのか。しかし、それでは、こうならねばならないと書いてある聖書の言葉は、どうして成就されようか」
 そのとき、イエスは群衆に言われた、
「あなたがたは強盗にむかうように、剣や棒を持ってわたしを捕えにきたのか。わたしは毎日、宮ですわって教えていたのに、わたしをつかまえはしなかった。しかし、すべてこうなったのは、預言者たちの書いたことが、成就するためである」
 そのとき、弟子たちは皆イエスを見捨てて逃げ去った。


 さて、イエスをつかまえた人たちは、大祭司カヤパのところにイエスを連れて行った。そこには律法学者、長老たちが集まっていた。 
 ペテロは遠くからイエスについて、大祭司の中庭まで行き、そのなりゆきを見とどけるために、中にはいって下役どもと一緒にすわっていた。 
 さて、祭司長たちと全議会とは、イエスを死刑にするため、イエスに不利な偽証を求めようとしていた。そこで多くの偽証者が出てきたが、証拠があがらなかった。しかし、最後にふたりの者が出てきて言った、
「この人は、わたしは神の宮を打ちこわし、三日の後に建てることができる、と言いました」
 すると、大祭司が立ち上がってイエスに言った、
「何も答えないのか。これらの人々があなたに対して不利な証言を申し立てているが、どうなのか」
 しかし、イエスは黙っておられた。そこで大祭司は言った、
「あなたは神の子キリストなのかどうか、生ける神に誓ってわれわれに答えよ」。
 イエスは彼に言われた、
「あなたの言うとおりである。しかし、わたしは言っておく。あなたがたは、間もなく、人の子が力ある者の右に座し、天の雲に乗って来るのを見るであろう」
 すると、大祭司はその衣を引き裂いて言った、
「彼は神を汚した。どうしてこれ以上、証人の必要があろう。あなたがたは今、暴言を聞いた。あなたがたの意見はどうか」。
 すると、彼らは答えて言った、
「彼は死に当るものだ」。
 それから、彼らはイエスの顔につばきをかけて、こぶしで打ち、またある人は手のひらでたたいて言った、 
「キリストよ、言いあててみよ、打ったのはだれか」

 ペテロは外で中庭にすわっていた。するとひとりの女中が彼のところにきて、
「あなたもあのガリラヤ人イエスと一緒だった」と言った。
 するとペテロは、みんなの前でそれを打ち消して言った、
「あなたが何を言っているのか、わからない」。 
 そう言って入口の方に出て行くと、ほかの女中が彼を見て、そこにいる人々にむかって、
「この人はナザレ人イエスと一緒だった」と言った。 
 そこで彼は再びそれを打ち消して、
「そんな人は知らない」と誓って言った。
 しばらくして、そこに立っていた人々が近寄ってきて、ペテロに言った、
「確かにあなたも彼らの仲間だ。言葉づかいであなたのことがわかる」。 
 彼は「その人のことは何も知らない」と言って、激しく誓いはじめた。
 するとすぐ鶏が鳴いた。
 ペテロは「鶏が鳴く前に、三度わたしを知らないと言うであろう」と言われたイエスの言葉を思い出し、外に出て激しく泣いた。


 夜が明けると、祭司長たち、民の長老たち一同は、イエスを殺そうとして協議をこらした上、イエスを縛って引き出し、ローマ帝国地方総督ピラトに渡した。
 そのとき、イエスを裏切ったユダは、イエスが罪に定められたのを見て後悔し、銀貨三十枚を祭司長、長老たちに返して言った、
「わたしは罪のない人の血を売るようなことをして、罪を犯しました」
 しかし彼らは言った、「それは、われわれの知ったことか。自分で始末するがよい」
 そこで、彼は銀貨を聖所に投げ込んで出て行き、首をつって死んだ。
 祭司長たちは、その銀貨を拾いあげて言った、
「これは血の代価だから、宮の金庫に入れるのはよくない」


 さて、イエスは総督の前に立たれた。すると総督はイエスに尋ねて言った、
「あなたがユダヤ人の王であるか」
 イエスは「そのとおりである」と言われた。 
 しかし、祭司長、長老たちが訴えている間、イエスはひと言もお答えにならなかった。するとピラトは言った、
「あんなにまで次々に、あなたに不利な証言を立てているのが、あなたには聞えないのか」。 
 しかし、総督が非常に不思議に思ったほどに、イエスは何を言われても、ひと言もお答えにならなかった。
 さて、祭のたびごとに、総督は群衆が願い出る囚人ひとりを、ゆるしてやる慣例になっていた。ときに、バラバという悪評高い囚人がいた。それで、彼らが集まったとき、ピラトは言った、
「おまえたちは、だれをゆるしてほしいのか。バラバか、それとも、キリストといわれるイエスか」
 彼らがイエスを引きわたしたのは、ねたみのためであることが、ピラトにはよくわかっていたからである。また、ピラトが裁判の席についていたとき、その妻が人を彼のもとにつかわして、
「あの義人には関係しないでください。わたしはきょう夢で、あの人のためにさんざん苦しみましたから」と言わせた。
 しかし、祭司長、長老たちは、バラバをゆるして、イエスを殺してもらうようにと、群衆を説き伏せた。総督は彼らにむかって言った、
「ふたりのうち、どちらをゆるしてほしいのか」。
 彼らは「バラバの方を」と言った。
 ピラトは言った、
「それではキリストといわれるイエスは、どうしたらよいか」
 彼らはいっせいに「十字架につけよ」と言った。
 しかし、ピラトは言った、
「あの人は、いったい、どんな悪事をしたのか」
 すると彼らはいっそう激しく叫んで、
「十字架につけよ」と言った。 
 ピラトは手のつけようがなく、かえって暴動になりそうなのを見て、水を取り、群衆の前で手を洗って言った、
「この人の血について、わたしには責任がない。おまえたちが自分で始末をするがよい」(ユダが言われた内容に似ている?)
 すると、民衆全体が答えて言った、
「その血の責任は、われわれとわれわれの子孫の上にかかってもよい」
 そこで、ピラトはバラバをゆるしてやり、イエスをむち打ったのち、十字架につけるために引きわたした。

 それから総督の兵士たちは、イエスを官邸に連れて行って、全部隊をイエスのまわりに集めた。
 そしてその上着をぬがせて、赤い外套を着せ、また、いばらで冠を編んでその頭にかぶらせ、右の手には葦の棒を持たせ、それからその前にひざまずき、嘲弄して、
「ユダヤ人の王、ばんざい」と言った。
 また、イエスにつばきをかけ、葦の棒を取りあげてその頭をたたいた。
 こうしてイエスを嘲弄したあげく、外套をはぎ取って元の上着を着せ、それから十字架につけるために引き出した。
 彼らが出て行くと、シモンという名のクレネ人に出会ったので、イエスの十字架を無理に負わせた。本人に体力が残ってなかったからだ。
 そして、ゴルゴタ、すなわち、されこうべの場、という所にきたとき、彼らは麻酔作用があるぶどう酒を飲ませようとしたが、イエスはそれをなめただけで、飲もうとされなかった。 
 彼らはイエスを十字架につけてから、くじを引いて、その着物を分け、そこにすわってイエスの番をしていた。そしてその頭の上の方に、
「これはユダヤ人の王イエス」と書いた罪状書きをかかげた。 
 同時に、ふたりの強盗がイエスと一緒に、ひとりは右に、ひとりは左に、十字架につけられた。
 そこを通りかかった者たちは、頭を振りながら、イエスをののしって言った、
「神殿を打ちこわして三日のうちに建てる者よ。もし神の子なら、自分を救え。そして十字架からおりてこい」
 祭司長たちも同じように、律法学者、長老たちと一緒になって、嘲弄して言った、
「他人を救ったが、自分自身を救うことができない。あれがイスラエルの王なのだ。いま十字架からおりてみよ。そうしたら信じよう。彼は神にたよっているが、神のおぼしめしがあれば、今、救ってもらうがよい。自分は神の子だと言っていたのだから」。
 一緒に十字架につけられた強盗どもまでも、同じようにイエスをののしった。

 さて、昼の十二時から地上の全面が暗くなって、三時に及んだ。
 そして三時ごろに、イエスは大声で叫んで、
「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」と言われた。
 それは「わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」という意味である。
 すると、そこに立っていたある人々が、これを聞いて言った、
「あれはエリヤを呼んでいるのだ」
 するとすぐ、彼らのうちのひとりが走り寄って、海綿を取り、それに麻酔作用があるぶどう酒を含ませて葦の棒につけ、イエスに飲ませようとした。 ほかの人々は言った、
「待て、エリヤが彼を救いに来るかどうか、見ていよう」。
 イエスはもう一度大声で叫んで、ついに息をひきとられた。 
 すると見よ、神殿の幕が上から下まで真二つに裂けた。また地震があり、岩が裂け、また墓が開け、眠っている多くの聖徒たちの死体が生き返った。
 そしてイエスの復活ののち、墓から出てきて、聖なる都にはいり、多くの人に現れた。 
 百卒長、および彼と一緒にイエスの番をしていた人々は、地震や、いろいろのできごとを見て非常に恐れ、
「まことに、この人は神の子であった」と言った。 




 さて、処刑から三日後に復活したイエスは、十一人の弟子たちと再会し、共に過ごした。
 彼は、可愛がっていた弟子、ぺテロを呼んで言う。
「ぺテロ、あなたは、私を愛しますか?」
「はい、主よ、愛します」
「私の子羊を飼いなさい」
 イエスは、ぺテロの答えに満足したような笑顔を見せると、再び聞いた。
「ぺテロ、あなたは、私を愛しますか?」
 ぺテロとしては、さっきと同じ質問をされ、疑問に思っていた。訝しげな顔をすると、恐る恐る答える。
「はい、主よ、愛します」
「私の羊を牧しなさい」
 やはり満足したような笑顔を見せ、三度目のデジャブ。
「ぺテロ、あなたは、私を愛しますか?」
 三度同じ質問をされ、流石に鈍いぺテロも気が付いた。目が霞み、師の顔がぼやける。
 心の底から沸き上がる感情に、胸が押し潰されそうだった。
「はい、主よ、愛します」
 絞り出すように答えるぺテロに満足して、イエスは許しを与えるように応えた。
「私の羊を飼いなさい」

 さて、十一人の弟子たちはガリラヤに行って、イエスが彼らに行くように命じられた山に登った。
 イエスは彼らに近づいてきて言われた、
「わたしは、天においても地においても、いっさいの権威を授けられた。それゆえに、あなたがたは行って、すべての国民を弟子として、父と子と聖霊との名によって、彼らにバプテスマを施し、あなたがたに命じておいたいっさいのことを守るように教えよ。見よ、わたしは世の終りまで、いつもあなたがたと共にいるのである」


   了

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